323:剣聖と剣災
ようやく剣聖と剣災が出会います。
「はっはっは!! 仲良きことはいいことだ!! アール君も師匠であるマリアーデさんには頭が上がらないのだな!!」
「いだだだだだ!!?!? ニコニーコたすけてまじでしぬぅぅぅ!?!?!」
上がらないっつうか握りつぶされてるよ今現在っ!
「安心するが良い。ただの仕置だ。あと三十分くらいしたら止めてやろう」
「いたたぁぁぁぁい!!!」
「ふむ! しかしマリアーデさん! この場は私に免じてアールくんを開放してあげてくれないか! 少年少女諸君がどうしたらいいかわからなくなっているからね!!」
「ふむ・・・愛弟子に用事がある連中がいるならば今は止めてやろう」
「あがががが・・・・・・頭割れルゥ・・・」
いってぇ・・・やっと解放されたけどほんとにイテェよぉ。なんでマリアーデのアイアンクローこんなにも痛いんだよ。なんか『対弟子スキル』でも持ってるのかよ。まだ痛い。
「『ヒール』。回復魔法効いてるアール?」
「あぁ・・・気持ちちょっと痛くなくなった。サンキューリーク」
「えへへ・・・どういたしまして」
その優しさが一番染み渡るわぁ〜。
「師匠はいこれ。師匠でしょ? このアイテム設置してたの」
そういうルークの手には決闘前に設置したアイテムがあった。『ジョブ:魔法使い』が覚えるジョブスキル『フィールドクリア』の効果を内包した特別なアイテムだ。
上位の錬金術師のスキルでは、一部の魔法系ジョブが使うジョブスキルと同じ効果を持った特別なアイテムの制作ができる。作るためにはそのジョブスキルを持っていることと、『術式結晶』というアイテムが必要になる。
既に製作者は察したと思うがリークだ。俺、魔法系統は『星読み人』以外持ってないし。
それはともかく、『フィールドクリア』は製作可能な魔法効果の一つだ。その効果は文字通りフィールドに元々存在しなかったモノを消す。例えば炎系の攻撃で、あたり一面が焼け野原状態の時に『フィールドクリア』を使うと、炎が消える。
そんなもん水の魔法で消せばいじゃんと言われるかもしれないが、この『フィールドクリア』は炎だけではなく、元々存在しなかったあらゆるフィールドの異物を消去できるんだ。
今回で言えば俺とマー坊の血液肉片などが異物に当たる。だから決闘前に一定範囲にこのアイテムを設置しておけば、あたり一面真っ白で肉片だらけというショッキングな風景にはならないというわけだ。
ちなみにこの『フィールドクリア』。異物ならばなんでも消せるので物理的な罠に魔術陣によるトラップなんかも消せるため、対人戦闘においては結構需要が有る。
うちの店でも取り扱ってるのが、毎週必ず買いに来るPKとPKKがいる。なんか天使みたいな名前のやつと悪魔が主な客層だ。前に鉢合わせたときはなんかシュールだった。その後店を出てから殺りあったらしく、数時間後にまた買いに来た。
「ありがとうルーク・・・うっわ六つ置いといたのに効果残ってるの一つだけだし」
「あれだけドパドパ出てたらそうなるに決まってるじゃん」
「そうそう。ルークなんてアールが切られた時ものすごく泣きそうになってたよ?」
「なっ・・・・泣いてないやい!! バカ師匠! バーカバーカ!!」
俺何も言ってないのに・・・まぁうん。なんかすまん。そう思い頭に手を伸ばしたんだが、ヒョイっと音が聞こえるかのように避けられた。
「こんなところで恥ずかしいことしないでよバーカ!!」
「私は撫ぜられてもいいけどなぁ〜いいんだけどなぁ〜?」
「はいはい」
超笑顔で擦り寄ってきたので、空を切った手を、リークの方に持っていく。それなのに、ガシッと掴まれたと思えばそのまま引き寄せられた。
「いただきます」
「は?」
「ちょっ!!?」
引き寄せられてそのままかぷり、いやガブりだな。ちょっと強めに首筋をリークに噛まれた。犬歯が首筋に突き立てられて少し痛い。近くにいたルーク始めとする各々の空気が止まった。
「んぁ・・・ごちそうさまでした」
エロティックに吐息を漏らしながら離れたリークのエロさよ。口元はほんの少し赤みがかっており、噛まれた首筋に手を当てると少し血が出ていた。
「アール美味しいよ。これで傷の更新にもなったし私からのお仕置きはこれで許してあげる」
「お・・・おx「ずるいのじゃリーク!! 妾も師匠の血が飲みたいのじゃ!! 否飲む!!」うぉおっ!?いっで!!?」
狐は雑食だ。当然肉も食う。多分最近教えてた『月渡』で距離を詰めてきたギンはそのまま俺の腕をまくりあげるとガブりと噛み付いた。甘噛みとかじゃなくてそれはもう喰らうようにがぶりと。
「ジュルリ・・・ぉぁあ、温もりのあるこのドロドロ感・・・妾好みじゃぁ・・・」
「ちょっと発情狐。どさくさに紛れてアールの皮膚食べてるんじゃないわよ」
「あんなに血を見せられて、リークのこの光景を我慢できんかったのじゃ。許せ」
「全く、首じゃなくて腕だったし今回は許してあげる」
おいこら。そんなことより周り見ろ。全員ドン引きじゃねぇか。あのニコニーコですら笑顔が固まってピクピクしてんぞ。マリアーデは相変わらず面白そうにケタケタ笑ってるけど。
「おいこら女狐に発情狐!! あんたらアタシがいない間に何してくれてるのよ!!?」
レイレイが鬼の形相でやって来た。あかんこれ悪化する奴だ。
「「何って・・・ナニ???」」
「そこにエロさを醸し出すんじゃないわよ!! この場で二人まとめてあの世に送ってやるわよ!? いやそれは今いいわ。今はアールから離れなさいほら!シッシッ!」
なんと!? まさかのレイレイが冷静だというのか!? いやごめん。失礼なのはわかってるけどこういう時のレイレイは絶対便乗しようとするのが普通だったから。
渋々という表情を隠さずに、でも離れず、二人は膝立ちだった俺の両腕を抱えて立ち上がらせてくれた。
「何かあったのか?」
「勿論! 『転生者』に関しての情報たっぷり確保してきたわ。あと『剣災』って呼ばれてたあの新しい女に関してもね」
「聞こえていますよ?」
レイレイの後を追うようにやってきたのは昨日初対面を果たした『剣災』と呼ばれていた女。身長はレイレイより僅かに高いくらいだろうか。立ち振る舞いは無駄がなく、まさに武人といった感じ。
「聞こえるように言ったのよ。アールの新しい女になる可能性ある危険人物だもの」
「オイコラ」
「私寝取りに興味はありませんけど?」
「アンタも便乗せんでいい」
「備えはいくらあってもいいのよ」
「なるほど、英雄は色を好むとは昔から言いますからね」
好まねぇ・・・とは言い切れないってぇっ!!? ギン痛い!? 仕方ないだろ男だもん!! 誘惑されたら気にはなるって!!? 無言で足踏むのやめてくれない!?」
「おい銀狐、しばし落ち着け。話が進まん」
「むぅ・・・師匠の師匠に言われては仕方ないのじゃ・・・でも後で搾り取る」
「協力する」
「「・・・(グッ)」」
おいこら吸血組二人。無言で頷き合うんじゃない握手をするな。ヤらねぇからな? 絶対にヤらねぇからな? 真っ裸になるMODとか存在しないからな?
そんな中、マリアーデが俺と女の間に入り込むように陣取った。
「それで? 愛弟子に何か用か? 王国の剣聖」
「はい。挨拶をと思いまして。今後は色々と関わる機会も増えるでしょうから」
「言っておくが余も愛弟子も政治なぞには興味はないし、影響力もない。協力も助言もせんぞ」
あぁ、マリアーデ機嫌悪いなぁ。けど俺のせいだけじゃない気がする。それに言ってたけど『王国は好きじゃない』って言ってたしそれも関係あるのだろうか?
「手厳しいですね。四代目剣聖マリアーデ。聞いた話ではもう少しフレンドリーだと聞いていたのですが?」
「ふん、王国には愛想が尽きた。その王国が『七剣聖』などと巫山戯たモノを作ったのだ。余が王国を見限る理由としては十分であろう?」
「確かにそうですね。貴女にとって『剣聖』の名はそういうものなのですから」
「お前わかっていて余に話を振ったな?」
マリアーデの周辺の空気が重くなった。明らかな殺気。リークもギンも驚き、そして僅かに恐怖したのか身震いを起こしていた。
「マリアーデ落ち着けってば」
「・・・ちっ、それで? なんのようだ? 自己紹介ならば不要だ。当然愛弟子にもな。それが目的だったのならば去れ」
マリアーデがここまで露骨に嫌悪感を出すのは珍しい。と言うか俺が出会ってまもない頃のマリアーデに似てる。俺の時は嫌悪感ではなくめんどくさいから去れって感じだったけど。
「それもありましたがもう一つ用事がありまして。以前うちの馬鹿が五代目剣聖アールに迷惑を掛けたそうですのでその謝罪n「マリアーデ!!」」
咄嗟に体を動かし、マリアーデが剣を抜いた手を掴んだ。あと少し遅ければ首を切っていた。脅しじゃなくて本当に。
マリアーデ激怒。マリアーデが感情のままに振舞う姿はあるひとつの要因があるときのみ。




