20:喧嘩
マー坊の振るう槍の攻撃力は当たればとんでもない一撃だ。俺の体力だけで考えれば間違いなく一撃で全部持っていかれる。
けどそれはあくまで体力だけで考えた場合だ。
『UtS:アルティメットカウンター』
タイミングよく攻撃を受け止めることでそのダメージを無効化する『AS:カウンター』をも超える究極じみたスキルの存在は大きい。多少のダメージは覚悟の上なんだがこのスキルのおかげでまるでダメージはない。
発動するためにタイミングよく受け止める必要がある。それを可能としているのが『白月』の存在。なぎ払いは基本得物を振るった勢いと刃で相手にダメージを与える攻撃の一種。やり方はいろいろあれど根本はそこに尽きる。勢いとはつまり衝撃。
受け止め体に流す衝撃を管理すれば使わなかった衝撃を回避に利用するのは容易い。
確かにマー坊の攻撃は重く早い。けど重く早くとも””視える””なら対処はいくらでもできる。さらに言えば””予想””もできる。目の動き、筋肉の伸縮、呼吸。その全てが次の動きを俺に教えてくれる。
十年近く培ってきた感覚がその全てを正確に捉える。
ランスでの突撃。穂先の刃を白羽取りの要領で拳にて挟み少し横へ逸らす。その時の衝撃で俺は逸らした方向とは逆へと体を飛ばす。
ダメージはスキルで、衝撃は白月で。それぞれ完全に無効化しているためこうして俺はマー坊とやり合えている。
さらに言えば装備のシリーズスキルとかいろいろあるんだがそれは別にいい。
「この感覚・・・低反発クッションに全力で飛び込んでる感覚だぞおい」
「気色悪い顔して俺見るな」
「仕方ねぇだろ・・・・・・マジでそうとしか言いようがない感覚なんだから」
「ちなみにこの感覚に覚えは?」
「はっ!!やっと思い出してきたところだよ!!一番好きなルートで流派だと嫌でも相手することになるからな!!」
「そうかよ!!ならこっちでも嫌な思い出と一緒に刻み込んどけや!!」
どうやらマー坊はカラクリに気づいたようだ。さっきまでの張り詰めた表情は純粋な楽しい時間を過ごす顔に変わっていた。
なぎ払いや突撃といった大きな攻撃から上段突きや振り下ろしなどの小ワザが効く攻撃に変わり始めた。
俺もただ受け止めるのではなく勝負を決めるために剣で打ち合い弾くような戦い方へと変えて下準備を始める。
「オイアーク!!」
「誰がオイアークだテメェ!!!俺はアールだ!!」
「知ってんよ!!一つ聞かせろや」
刃を交えながら笑うマー坊。それもかなり楽しそうな憎たらしいほどの笑顔だ。これは『戦闘狂』って言われても文句は言えないな。
「お前がクリアした『剣聖』での難易度は!?」
「リアルハード!!」
「「っ!!??」」
「ならクリアしたルートは!?」
「全部制覇で全部習得済み!!隠しルート込み!!」
「「っ!!??!!??」」
「バケモンかよお前っ!!?」
「戦闘狂に言われたかねーよ!!天匠流抜刀術『鏡雀』っ!!」
一瞬ひるんだ隙を見て鞘に収め一気に抜刀。2秒あれば鞘にねじ込める。武器が再生するのはさっき分かったからぶっ壊したとしても後で文句は言われないよな!!俺の武器は壊させないけどよ。
「んなぁ!?」
物には破壊点と呼ばれる外部の力を受け続けるとやがて耐えられなくなり、物が壊れる極限がある。その呼び方は応力だったり破壊強さだったり部門分野により様々だが存在している。
俺は確かに方天戟とランスの攻撃を受け止めて逸らし、回避のために飛んでいた。けどそれと同時に衝撃による歪みをそれらの武器に蓄積させていないとは一度も言っていない。
剣はそれらを与え続けた武器の中心めがけて放ち、命中した。鏡雀は通常時でも音速に届きうる抜刀術。その一撃は斬られた相手もそれに気づかないほどの速度と鋭さ。
それが武器めがけて放たれればどうなるか。特に既に相応のダメージを受けているならば尚更だ。
ランスは砕け地面に落ち、方天戟は真ん中からポッキリと折れた。武器を失いガラ空きになったその胴体とそこへ続く道。
逃すわけがない。鞘に添えていた左手を下げ大きく開く、今まで循環してきた衝撃を左手へと集中させる。
見えないものが見える。普通に聞けば恐ろしいものが見えるとか、頭が逝かれたのかと馬鹿にされるかの二択だ。この奥義は前者。ありえないことを起こす奥義。そもそも月光滅流がぶっ飛んでる流派なのでそこは気にしない。
ネコ科の動物が爪で相手を引き裂くように、俺の左手をマー坊に向かって横から振るう。その衝撃は風を切り、空間を裂く、衝撃は空気中の微弱な塵を纏うようにその姿を目の前に現す。
「月光滅流十二宮奥義『恋爪レオ』!!」
何よりも鋭く迫る三本の爪。それは相手の全てに恋焦がれる乙女がその全てを欲するように、立ちはだかる全てを壊し欲する物を狙う獅子のように。
衝撃が爪となりマー坊の防具を引き裂きながら、その体を抉りながら貫き引き裂く。
「―――――」
喉から股にかけて繋がる体を、巨大で鋭い三本の爪それぞれが喉、心臓、腹を抉り光の飛沫を撒き散らす。
体は背中の皮一つで繋がり原型は留めているがあくまで留めているだけ。声無く立ち尽くすマー坊の体力は全損した。
―――――プレイヤー『俺はマー坊』の戦闘不能により決闘終了。
―――――勝者『アール』
「いやー!!負けた負けた!!!こんなにはっきりプレイヤー相手で負けたのは久しぶりだわ!!」
「疑問と疑惑は解消できたか?」
「勿論!!これならそこの犬倒せるのも納得だ。ついでにお前が6年近く『剣聖物語』やってたのも納得したし、あの腕で平気そうな顔してたのも納得だわ。その精神力は全く理解はできないけど」
どうやら決闘終了後には決闘前の状態に戻るようでマー坊の装備も体力も元通りになっていた。多分俺はモードの都合でそうはならないと思うけど。
いろいろすっきりしてにこやかに笑うマー坊はいつもどおり俺の隣でガシガシと肩を組んで笑顔を浮かべている。
「まさかプラクロで『恋爪レオ』なんて見るとは思わんて!!しかもそれ受けるとか逆にレアじゃね?」
「受けたいなら六流派全部お見舞いしてやろうか?」
「いいや遠慮しとく。『リブラ』と『ヴェルゴ』だけは死んでもゴメンだ」
「ちなみにだけど『ドラゴニックエリシオン』行けるぞ俺」
「バケモンじゃねーか」
「十年分近い実戦経験と修行の成果だ。化物いうな」
「つまり現実でも似たようなことできるわけじゃねーか、それを一般的には化物って言うんだよ。こりゃ俺が現実で勝てるわけもねーや」
失礼な。現実ではせいぜい白月くらいしか使わん。しかも溜めずに全部地面にゆっくり流してるから周囲に影響はない。あ、天匠流の関係で刃物の使い方はかなりいい感じだぞ?特に魚さばく時。
「「アール!!」」
「うぉお!?」
ズンズンと音が聞こえてくるような歩きでリークレイレイの二人が寄ってきた。そのままの流れでペタペタと体中を触り何かを確かめるように見てきた。
「メス猫」
「ない。そっちは」
「うん、こっちも特にない。仕方ないね」
「「とりあえずゴリラメッタ刺しで妥協ね/しよう」」
「なんdゴベラッ!?!?」
違和感なく流れるように、さも当たり前のようにゴブリン相手に使おうとしていた自称投げナイフと投げ槍で全身をブスブスと刺し始めた二人。
ゴリラがバウンドしながらメッタ刺しにされている光景は中々にグロい。白い光がぴちゃぴちゃと跳ねてふたりの顔にかかるが気にする様子もなく、メッタ刺しを続けている・・・・そろそろ止めるか。
「ハイストップ。それ以上やるとリスポンするから終わりだ」
「「ケチ」」
「おっま・・っ!?止めんの遅く・・・・・何でもない」
異議ありと訴えかけるゴリラだが鋭く光るふたりの光なき眼球をみて言葉を引っ込めた。悪いゴリラ。少しは発散させないとこいつらが何しでかすか分からんから生贄になってもらった。
「理由はともかくとして次同じことやったら・・・わかってるよねゴリラ?」
「ねぇゴリラ。ゴリラの肉って売れると思う?試したかったら好きにしていいよ?」
「・・・・・・・ウっス」
敵に回したくない相手二人の前にゴリラことマー坊は素直に頷いた。
『クックック・・・・面白い』
黙って見ていたアホ犬の言葉が俺たち四人の中を静かに通り過ぎていった。元はといえば原因はこいつだがな。
考えた自分で言うのもおかしいですが、月光流は頭おかしい。




