17:決着 鋼牙ノ獣
鋼剣相手に戦える武器は手に入れた。今度は俺から仕掛ける。遠心力で簡単に柄を切り裂いてしまう即席斬鉄剣を『月黒』『白月』『月火』などの月光真流の技の動きを応用し刃をその空間に置くことで剣としての機能をかろうじて維持できている。
だからギルファーの刃を打ち合えるのは一度だけ。打ち合えば衝撃で刃は砕けてしまう。そこに隙を作り出せなければまた剣作りからやり直しだ。使い捨ての武器としてはとんでもない性能をしてるぜ。
『くっ・・・貴様っ!!』
「さっきまでの威勢はどうしたギルファー!!」
それがわからんギルファーではない。だが先程までの攻めの姿勢とは一転。回避重視の戦い方へと変えている。
なぜか?簡単だ。斬られればかなり痛いから。この状態になる前のギルファーが分身体を含む自分同士の衝突で傷つかなかったのは衝突時に全身の毛を一度柔らかくしているから。だがこの状態は違う。
一度変えてしまえばこの形態を解除しない限り体質は変えられない。そして例え刃であろうとも自分の体に付いているものだから外部から斬られれば痛い。
痛い程度でよけるとか弱くね?とか思うだろ?毛を引き抜かれながら痛覚を刺激されつつ表面の薄皮剥かれて血が滲む痛みを全身で味わうとわかっていながら、回避しない奴がいるなら俺は是非会ってみたい。
ちなみに俺はそれを身を持って味わったことがあるからもうゴメンだ。そんな痛み耐えられるはずもない。するとどうしても隙は出来てしまう。一瞬でも隙が出来ればそのまま押し負ける。それを感覚的に理解しているからこそ打ち合いすらせずに回避に専念している。
こいつはアホだがバカじゃない。一秒過ぎるごとに学習し、戦い方を変えていく。そして一度脅威と認識すればそれをさせない為の戦い方を考察して実行してくる。
さっきは使えた手も二度目はないということだ。だからこの剣は一度きり。だから俺も似たような条件での戦いだ。先程は虚をつけたから簡単に出来たが二度目はない。
さらに言えば刃を手に入れたとしても、剣にするための時間を奴がくれるわけがない。そして同時に
『舐めるな人間!!』
「舌で舐めてくるのは犬の方だろうがっ!!」
思考できるモンスターにパターンは存在しない。常に違う動き、応用、パターンを崩す動きなど人間と同じように考えて行動してくる。だから弱点は分かっていても攻略法なんて存在しない。
だからこそ一撃を決めるための隙を作るための隙を手繰り寄せてモノにしなければならない。それを相手も理解しているから簡単にはいかない。こうなれば先にどちらが音を上げ、隙を見せてしまうかの我慢比べとなる。
こちらが切りに行けば回避しその隙を突いてくる。ワザと大ぶりの攻撃で隙を作り誘い込んでくる。噛み付き攻撃をしてくると、回避を見越して背中の刃と下から飛ばされる刃が反撃の隙を潰してくる。
誘いに乗ったふりをして切りにいけばそれを察して攻撃を放棄して回避に移る。強敵も強敵だ。
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あぁ最高だ。最高に楽しいぞ。勝たせない、負けない。倒したい、倒されない。この駆け引きが最高だ。まさにゲームをしているって感じがたまらない。
「は・・・はは・・・・・ははは・・・・・・」
『グ・・・グフフ・・・・・・・フフフ・・・・』
お互いの口元が緩む。あぁわかるよ。お前もそうだったからな。強い奴がいれば戦いたいと思うのも、勝ちたいと思うのも同じだ。だが諦めろ。今度も俺が勝つ。お前には二度と負けてやらん。
「楽しいなぁおい!!ギルファー!!!」
『楽しいぞ人間!!我をもっと楽しませよ!!貴様が『剣聖』であるならばなぁ!!!!』
ゲームの中とは言え、剣聖と呼ばれた世界と同じように、戦いで生まれる何かが俺の体中を駆け巡り沸騰させてくれる。幻想でありながら現実。それこそがリアルハードモード最大の利点でもあると俺は思っている。
敗北=死
リトライなんてない世界で目の前に立ちはだかる強敵。負けることができない戦いを強いられる本物の死合、負けたくない戦いをこうして俺はまた味わっている。あぁそうとも。楽しい。楽しくて仕方がない。体中が悲鳴を上げてるのに楽しくて楽しくて仕方がない。
正直なところ、『リアルハードモード』をクリアした時、達成感とともにあったのはある種の虚無だったんだ。
おかしいだろ?達成感だけでいいはずなのに寝て起きたら少し寂しかった。あの感覚を一度知ってしまえばそう簡単には抜け出せない。楽しいことをずっとしていたい、すごく美味い飯を何度も食いたいと思うあの感覚だ。
『リアルハードモード』はそれを俺にくれた・・・いや、植えつけられた?ともかく!クリアして本当に良かった。出会えて本当に良かったと思う経験を俺にくれた存在だった。
だから正直に言えば『プラクロ』をやろうと二人に誘われなければ今度は一流派縛りで『アフターストーリー』クリアしようかとか考えてたくらいだ。
それで動画投稿とかしたら儲けられないかなとか一瞬考えたがすぐにやめた。俺には絶対に無理だし。
それはどうでもいい。
そんな俺が再び出会えた『プラクロ』での強敵。前よりも強く、思考し、強化された存在。心が震え立つ。歓喜が俺を駆け巡る。あぁ・・・たまらない。永遠にこの感覚が続けばいいのに。現実でも味わえたら・・・・・・
・・・・・・・・・危ない。落ち着け俺。トリップしてたぞ。そんなこと現実でやらかしたら全てのVRユーザーとスタッフに対する冒涜だ。
だからセーブ。落ち着こう。あくまでゲーム内での感情だけだ。現実にこの感情を持ち込むなよ剣聖・・・・・道場破り程度なら大丈夫か?・・・・ダメだって!!ニュースになるのは流石にマズイ!!
「だぁあああ!!!!!!!切り替えろや俺ぇぇぇえええ!!」
『っ!?』
切り替えるために叫んだ一瞬だった。ほんの僅かに止まった動きの先に、その光景を俺ははっきりと”視た”。まるで未来予知のように、必殺の隙の為の隙を作る方法を思いつく。こんな方法普通考えない。そもそも常人ならきっと使えるわけがない。
現実と同じ感覚である『エクストラモード』であるならば尚更だ。何度も言う。『エクストラモード』は現実と何も変わらない。五感であろうと、運動神経であろうと、例えスキルが発動しているとしても第六感であろうとも変わらない。痛みは何一つ現実のそれと変わらない。
「視えたぞテメェ!!!!!」
『っ!?___馬鹿か血迷ったか人間っ!!!』
俺が放つのは”全力の大ぶり”。そうなればどうなるか奴も理解していた。今の今までなんでも切れる刃が柄に保てていたのは『月光真流』の応用だ。だがそれも限界はある。一度に大きな衝撃や動きを同時に受けるのは特に無理だ。刃は柄から飛び出しその影響をモロに受けて剣は瓦解し吹き飛ぶ。
俺がやらかした攻撃は正にそれなのだ。剣を保つことを何も考えない全力の大ぶり。取り付けていた二本の刃は無作為に回転しながらやつに迫る。体の勢いを殺さず、残りの刃をすぐさま両手に投擲する。
普通に考えればこの行為は無駄である。この程度回避できないならギルファー相手にここまで苦戦はしていない。けど一つだけ考えあってやったことがある。
それはギルファーが上にしか回避できないような刃の投げ方をしたことだ。大ぶりで攻撃をしたとは言っても俺と奴との距離は長くない。だから投擲のタイミングさえ合わせればギルファーに俺が望む回避手段をさせることは案外簡単だ。
刃を投擲すれば後ろに飛ぶか横に逃げるしかない。でも横は潰し、後ろに逃げるのも出来ないような体勢の時に刃を投擲した。
『この程度避けられん訳が無かろうがっ!!』
「だろうな」
『なっ!?』
ギルファーが上へと回避した。既に迎撃用の刃は腹に作り始めていたが遅い。ギルファーの跳躍地点に俺はもう着いている。
『剣聖物語』最後の流派。一騎当千を得意とする流派。己の存在感を自由自在に操り戦場を意のままに支配することを掲げるこの流派こそ『桜華戦流』。
その剣聖ルート・魔剣聖ルート共通で基礎となる自身の存在感をコントロールする技術であり呼吸法『桜奏呼吸』。現実だとよくマジックなどで観客の認識を逸らせる技術『ミスディレクション』と呼ばれる技術に酷似した呼吸法『桜奏』。
詳細は今は省くがうまく使えば俺の存在を見失わせることは可能。あとはその隙に『月渡』で移動すればこのくらいは造作もない。
俺がこれを使わなかった理由。それは一度見られれば警戒されてしまうから。こんな危険な芸当を行うやつ相手にしていると認識させてしまえば二度と使えない。だから使うのは”必殺の為の一撃”を放つ瞬間しかない。
そもそも飛ばした刃はそのための布石。刃に意識を集中させる為の行動。けどそれだけじゃない。この程度では奴は即座に回避して反撃をしてくる。それこそ腹部からの刃で迎え撃つだろう。
俺が四本奪った刃を全て使ったことはわかっているし、新しい刃を与える代わりにこの場を乗り切れるなら安い買い物だと考える。俺でも同じだからな。
けど俺はまだ刃を”放った”だけで”捨てていない”
まだ刃は生きている。真っ直ぐ回転しながら進み、正面にいる相手を傷つけるために向かってくる。
そう、その進行方向にいる”俺”に向かって真っ直ぐと。
刃へ向けて突き出した両手へ吸い込まれるように俺の手のひらを抉るように深々と、奥へ奥へと貫き進み刺さっていく。その切れ味は落ちることなく、その速度を緩めることなく肘からその先端をのぞかせた。
肘から突き出た刃とともに血のエフェクト替わりの光がギルファーに向けて飛散する。
『この程度くらうと思・・・なにぃ!!?』
光の飛沫を切り裂いたギルファーが見て驚愕せざるを得なかった俺の姿。自分が生み出した刃だからこそ、その切れ味を誰よりも理解しているからこそ理解できなかったであろうその光景。
それは本来、回転の”衝撃”で肘を貫き綺麗に俺の腕を開くはずだった。手を貫き落ちていくはずのその刃が手のひらに少し見える程度を残し俺の両腕に残っている。
刃が俺の腕を貫くことなくまるで鞘に納まる刀のように。腕が鞘であると言わんばかりに綺麗に止まり収められている。
抜刀術は納刀されていなければ行えない。当たり前だ。それが抜刀術だから。難しいことじゃない。しかし逆を言えば”収められている”ならば”納刀”されていると捉えられる。
そこから剣を抜けば”抜刀”だ。
俺との距離は1mもない。逃げることは不可能、ギルファーはこの一撃を防御しなければ弱点にモロに受ける事になる。
二つの月光流を掛け合わせた奥義が『超越月光十二宮奥義』なら二つの天匠流を掛け合わせたこの抜刀術はこう名乗るのがふさわしい。
「超越天匠流奥義『血涙雀』!!」
先ほど使用した超越流派抜刀術『朧鏡雀』は衝撃をエンジンにして摩擦を超え、高速へと到達させた異なる二つの流派を超越し融合させたことで完成した抜刀術。
ならば『超越天匠流奥義:血涙雀』とは何か?それは『二つの天匠流』の垣根を越えて生み出した奥義。相手の血を潤滑油に、摩擦抵抗を減らすことで高速の剣を放つ『天匠流剣術:血眼雀』、それを己の血を使い、高速から光速へと至る為の抜刀術。
それこそが『超越天匠流奥義:血涙雀』
繰り出された抜刀術は、それを防ぐため交差された六つの刃を切り裂く。
『ゥオオオオオオオオ!!!!!!!!』
砕け散る刃と共にギルファーは悶絶する。その激痛からくる悶絶が決定的な隙を生む。それは時間にして一秒もないだろう。だがまだ宙に浮いている。その喉元が、決して見せぬと守ってきたはずの喉元が、俺の前にはっきりとむき出しになった。
「超越月光流十二宮奥義『堕天刑翔スコルテール』」
十二宮奥義『天翔サジット』と『刑束リブラ』、『堕天スコーピオ』の混成する『堕天刑翔スコルテール』
衝撃が三角柱のように弱点を貫き広げる凶悪な奥義が喉元に突き刺さり、時間にして一秒にも満たない中、一点に受ける衝撃が一面へと移り変わっていく。
衝撃は脳波を狂わせかき混ぜる。それも意識を消失させる衝撃の弾丸であり針。鎧通しの一撃が奴の喉元を貫いた。
『―――』
衝撃が声無き悲鳴を上げさせギルファーは白目をむいてその意識を消した。それは即ち、最終目的の眉間へと導く道を無防備にしていることである。
楽しい時間だったぜ?もし気が向いたらまた死合おうか。なぁギルファー?
「超越月光十二宮奥義『鋏波撃ピスケキャンサー』!!!」
全力を込めた震脚がその眉間を踏み砕きギルファーを地面へと叩きつけた。飛び散る血飛沫とともに、ギルファーの体が光となって消失した。
『プレイヤー名『アール』がクロニクルモンスター『鋼牙ノ獣』を撃破しました』
『鋼牙ノ獣撃破に伴い、プレイヤー名『アール』に『鋼牙狼ギルファー』が従者として同行します』
『鋼牙ノ獣撃破によって特定プレイヤーの持つ『AS:鋼牙の傷』が消滅します』
『従者『鋼牙狼ギルファー』によりプレイヤー名『アール』は『UtS:鋼』を習得』
『従者『鋼牙狼ギルファー』と会話することで『鋼牙ノ獣』と再戦することができるフリークエスト『鋼牙狼との死闘』に挑戦できます』
怪我なくとはいかなかったがギルファー撃破だ。番人もそうだったけど俺は強敵と戦うことを強いられてるのかねホント。
けど怪我の功名?ギルファーがプレイヤーに押し付けていた傷のスキルは無事に消せたようだ。これでこいつに悩まされていた悲しきプレイヤーたちが抱える憎しみも少しは消せただろうか?
ちょっと不安なのは従者って単語と『UtS:鋼』くらいか。あと挑んでくる奴は少ないかもしれないけど『フリークエスト』が間違いなく面倒事を呼び寄せそうだ。




