15:クロニクルモンスター『鋼牙ノ獣』
僅か30秒程度。ちょっと話していれば過ぎてしまう時間だ。カップ麺にお湯を注ぐ。靴下を履く。日常の些細なことをするだけで過ぎるほんのわずかな時間。それだけで勝負は決した。
『鋼牙ノ獣』と戦闘に入り、リークが距離を取り魔法の詠唱に入る、マー坊が前衛で戦線を維持、レイレイが間に入りふたりのアシスト。
話さずとも自分の役割と理解し瞬時に動く姿は流石高レベルプレイヤーだと思った。
本気の武器であろう凄まじく覇気を漂わせる武器を持ち敵に向かう三人の姿は向かうところ敵なしの猛者の姿そのものだった。
最初こそ回避や防御といった行動をしていた『鋼牙ノ獣』だが、たった一度の攻撃だけでその全てを台無しにされた。
『鋼牙ノ獣』がその周囲に生み出した三本の剣。鋼の剣としか言いようがない美しく輝くそれが三人に向かって放たれただけで勝負は一気に傾いた。マー坊の持っていた槍は刃から切り刻まれ、レイレイは四肢を切り落とされて地面に叩きつけられ、リークは喉を切られて声帯を潰された。
其々の武器と動きを失った三人が向かう結末はたった一つ。その胸に剣が深々と刺さり光となって消えていった。
リスポーンは確か街かセーブポイントになっている泉のどちらかだから三人はきっとニルスフィアの街に飛ばされたに違いない。消える間際に見えた表情は悔しそうであり、驚愕していた。
『ふん。前よりやるので少々鋭くしただけで終わるとは・・・まだまだ弱い』
隠していた、いいや、出す必要を感じなかった実力を少し出してみればこの結果。それに落胆し、剣を毛に戻した『鋼牙ノ獣』。三人がいた場所を眺め興味を失ったようにこの場を去ろうとする。そしてついでとばかりに俺に向けて凶器の尾が振るわれた。
前動作なく突如薙ぎ払われる尻尾のなぎ払いをギリギリで回避、続けざまに来る連続叩きつけはその尻尾を衝撃なく殴ることで自分を吹き飛ばしさらに横に回避。
そうすると次に放たれたのは数歩横へ飛びその前足を軸に回転からの足払いなのでバク宙の要領でこれも回避。
「天匠流抜刀術『鏡雀』」
『ヌゥ?』
流石にこの程度の鏡雀では刃が通ることはない。だが表面に小さな傷は付けることができる。いつもなら鞘に戻すのだが刃を確認したかったので戻さずに刃の確認をする。
例えダイヤモンドであろうとも刃こぼれ無く切る自信はあるがそれでも一応確認する。刃は変わらず綺麗なままここに残っている。
「刃こぼれ無し」
『我に傷か・・・まさか貴様程度のレベルで我が戯れを避けるだけでなく我に傷をつけるとは』
戯れって可愛いものじゃないけどな。触れたら上と下に分離する尻尾でのふれ合いを人は戯れとは言わん。
ミンチにされてたまるか。足に触れたら切り傷だらけになるとか御免こうむる。というかいざ会ってこうして一閃当てただけだけど『剣聖』で初めて会ったときのこと思い出してきた。
バカみたいな強さのくせに煽るし、見下すのは当たり前、ダメージ受ければ形態変化して襲いかかってくるとかお前は悪の帝王か何かか。
『面白い。人間、名を名乗れ』
「黙れアホ犬。お前に名乗る名前なんてない。ついでにどっか散れ」
『アホ犬と我を呼ぶか、この我を・・・どうやら余程の命知らずのバカのようだな』
「アホ犬に馬鹿と言われたかねーよ」
『そうかそうか・・・・』
こいつのせいでトラブルばかり起こされた。本当に洒落にならないレベルのトラブルばかり。街中で憲兵に『飼い犬・・・犬?はしっかり管理してください』とか生暖かい目で言われたり、街中の食物を無銭飲食しまくって請求金額洒落にならず街の外での依頼も受けられずに一ヶ月以上街中でバイトする羽目になるとか二度とゴメンだ。
というか引継ぎさせろよ所持金。クリア時の所持金引き継ぎできたら余裕で払えたのにクソっ。
『その発言・・・後悔するが「あぁ!!思い出したら腹立ってきたぁ!!!」ヌグゥ!?』
「てめぇこの野郎!!街中で勝手に食物食うなって言ってるのにいつもいつも勝手に食いに行きやがって!!えぇ!!?」
ムカついてきた。いろいろ思い出してきたらスゲェ腹たってきた!!飼い犬とかならまだしも勝手についてきた上に起こした問題全部押し付けてくるアホ犬・・・!!!!
『ゴッ!!?』
「その度に俺が払う金額が洒落にならないんだぞコラ!!」
『グハァ!!??』
「首輪つけても勝手に斬りやがるしこの野郎!!少しはこっちの迷惑も考えろ!!『星波ピスケス』!!」
月光滅流十二宮奥義『星波ピスケス』
震脚を直接相手に叩き込むことで体全身を揺らし破壊する十二宮奥義。単純に踏みつけとしての側面もあるが、それ以上にこの奥義は表面と内部を同時に崩し破壊する。
簡単に言えば鎧と肉体を同時に壊す奥義。『鋼牙ノ獣』に効くかは正直わからなかったが『鋼牙狼ギルファー』にとってこの技は何よりも警戒すべき攻撃だった。
どれだけ表面が硬く鋭くても体内の筋肉や臓器、血は生物である以上変化させることができないのだから。
「超越月光十二宮奥義『鋏波撃ピスケキャンサー』!!」
『ギャバラバッ!!?この人間風情が・・・良くもこのわr「超越月光十二宮奥義『星波刑リブルピスケス』!!」ゴガァァ・・・!!!』
『星波ピスケス』を元にして溜が必要だが衝撃を斬撃に変える奥義『重腕キャンサード』を組み合わせ、一度の震脚で生み出せる振動を2倍し、更にそこから2乗した上で振動の刃を生み出す震脚『鋏波撃ピスケキャンサー』
脳信号を狂わせ相手の動きを止める『刑束リブラ』と『星波ピスケス』を組み合わせた奥義。脳信号を狂わせる振動を絶え間なく生み出す震脚『星波刑リブルピスケス』の二撃を交互に脳みそ目掛けてブチ込む。
『グガァアア!?!?!?!?!?!』
正直相手にする気はなかったが思い出したのと目の前でやられた三人の顔見て気が変わった。こいつ潰す!!
『調・・・子に・・・・乗るなっ!!!人間っ!!!!』
「チッ!!」
奥義を放つほんの僅かな隙に反撃に転じてきた『鋼牙ノ獣』。それを素直に受けてやるつもりはない。吹き飛ばされた勢いを吸収し、距離をとれば『鋼牙ノ獣』・・・・
もういいか、あえてこう呼ぼう。『鋼牙狼ギルファー』は先程とは打って変わり、周囲に分身を10体、さらに周囲に鋼の毛を先程も見せた鋼剣へ変化させ無数に展開し、本気となった戦闘形態。その第一段階へと姿を変えていた。
『久方ぶりだぞ・・・我が全力で相手をしなければと思ったのは『剣聖』を除けば初めてだ』
「あぁそうかよ。もう隠すつもりもないんだな。それよか分身二体くらい増えてるじゃねーか」
剣聖の『アフターストーリー』は、後の『剣聖』として語られた主人公のその後を描いていくシークレットモードだ。
その冒頭。初見で倒させる気がないギミック持ち鬼畜モンスター。速度・攻撃力・防御力。どれを取ってもラスボスよりも強いとしか思えない奴がいきなり最初の敵で現れる『鋼牙狼ギルファー』
”最初の敵”でだ。ボスじゃない。正しく最初の敵でだ。
こいつを倒さなければストーリーが進めないのでコイツだけで俺の一週間を持って行かれたあの懐かしくもムカつく日々。その再現ってか?
『Woooooooooooo!!!!』
咆哮とともに分身と鋼剣が一斉に迫る。それも全てとんでもない速度で迫ってくるものだから普通に考えれば予想可能回避不可能というやつだろう。
少し前に話したが『剣聖物語』にレベルの概念は存在しない。プレイヤーの体力は選択した流派によって変わり、その流派の熟練度に応じてHP上限が増えていく。
修行を行うことでスタミナが増え、熟練度を上げていく。そういう意味では熟練度がレベルといえばレベルだ。熟練度によって出来るようになること、見えるようになることはどんどん増えていく。
だがこれはあくまで通常モードでの話だ。リアルハードモードでは全く異なってくる。熟練度そのものの意味合いは何も変わらないのだが、通常モードと違いシステム的に上がったとしても自分への変化は全くない。
例えば、通常モードにて、レベル10で通常よりも高い威力が出る技が自然と使えるようになるとする。
リアルハードモードでは修行を重ね己で繰り出せるようにならなければ使えないし、使えるようになっても威力は自分の実力程度しか出ない。
技が形として使えるようになっても、威力まで同じとは限らないのだ。これこそがリアルハードモードにて最大の難所だった。
通常見えていた攻撃も、こっちでは全く見えない。それが当たり前。それが現実の限界だった。ならどうしたら見えるようになるか、どうしたら出来るようになるか。
答えは単純。
出来るようになるまで繰り返す。
見えるようになるまで見続ける
反復あるのみ。
その結果がリアルハードモードクリアという結果につながったわけだ。
「”視えて”るぞアホ犬!!」
鋼剣は刃に合わせて剣を振るい衝撃を吸収する『白月』で落とす。分身の攻撃も同じく『白月』で受けて『月光真流四ノ型:月渡』で回避。
『月渡』は体内の衝撃を一瞬だけ外にはじき出すことでクイックブーストのような感じで動く基本の技。弾き出した衝撃分は白月で即座に補充可能のこの状態ならば連続で使える。
視界は時速100キロ以上でねじれ回るレーンを走り回るジェットコースターに乗ってる気分だ。鍛えてなかったらこんなのすぐに酔う。
分身には体力が存在しておらず生み出すのも消すのも本体の自由自在だ。なので分身相手に攻撃するのは一部を除いて無意味。
衝撃を剣に乗せて迫る鋼剣を弾き、分身からの攻撃はひたすら受け流すか受け止めて吹き飛ばす。常に『白月』と『月渡』で動き回り、時々『月光剣ルナティック』で周囲を固める鋼剣を吹き飛ばす。
ちなみに、分身と本体の見分け方だが、正直乱戦になってからでは見分ける方法などない。けど分身を生み出す最初の瞬間だけは違う。奴は周囲に電磁波を引き起こし分身を生み出す。その電磁波を発生させることが出来るのは本体だけだ。だからずっと捉え続ければ見分ける必要はない。
「もちろん見つけた隙は分身だろうと逃さんがァな!!十二宮『天翔サジット』!!」
一点集中一撃必殺の月光滅流十二宮奥義『天翔サジット』はどんな状態でもノーモーションから決められる奥義。こいつが便利で”普通に剣聖やるなら”メジャーだったのは『サジット+他の奥義』がシステムアシストが可能にする連続奥義だったりするからな。
一番使いやすくて一番便利な技。それが『天翔サジット』。衝撃を矢のように放つ一撃の奥義。俺は剣ではなく拳を分身の喉の若干手前、目の真下くらいの位置目掛けてぶち込む。分身を含むコイツの弱点はこの位置への物理攻撃からの・・・・
「超越月光十二宮奥義『星脚アクエリアイシス』!!」
『ooooooooo!!!』
その真逆、眉間への打撃攻撃での頭蓋骨粉砕攻撃のみ!!それ以外だと硬すぎて攻撃は基本的に通らん!!骨肉を砕く感触が足を伝い、分身体は分散していく。まず一体目撃破!!
この分身を倒す唯一の手段。弱点である喉への一点集中打撃攻撃からの眉間狙いの頭蓋骨粉砕。こうして簡単に言っては見るがこれを瞬時に行いながら分身と鋼剣も警戒しないといけないから初見ではまず無理。
体が思考に追いつけない。もしくは思考に体が追いつかない。
俺?俺はほら、こいつ何回か『剣聖』で戦って倒してるから慣れだよ慣れ。そんなことより分身を残り5匹倒すか本体殴れば形態移行だから次ィ!!




