6:アールという男の戦い方
リアルハードモードの全貌が明らかになる
『剣聖物語―月が導く光と影』
このゲームで一番のポイントは世界を救う『剣聖ルート』と世界を壊す『魔剣聖ルート』それぞれで習得する流派だ。
それぞれのルートでは『天匠流』『桜華戦流』『月光流』の中からひとつ選び、その流派の正統後継者候補として立ちふさがる困難に立ち向かい、やがて世界の命運を担う存在になっていく。
そのスケールの大きさが人気を呼んでいる。ルートによって同じ流派でも全く違う戦い方をすることになるため最低でも6周は楽しめる。
その中でも最も人気が高かったのが『月光流』そして相対する二つの流派『月光真流』と『月光滅流』だった。
先程も言ったがそれぞれの流派には違う特徴があり、個性がある。通常、ゲームシステム的には一つの流派のみしか習得することはできず、システムアシストなしで覚えるには途方もない時間と労力、そして根気が必要だろう。
それ以前に、システムアシストが邪魔をして別流派の技を使うことすら危うい。その為プレイヤーは二周目以降、別のルートもしくは別の流派を選ぶ時、NewGame時にはスキル継承をすることはしない。
だが逆を言えばシステムアシストがなければ別ルートで別流派を使えるということ。それを可能にするのが全補正なし、アシストなしの鬼畜仕様の超絶高難易度『リアルハードモード』だ。
このモード開放条件はどのルートでもいいので、ラスボスから受けるダメージがHPの二割以下でクリアすること。
その条件でクリアした後に解放される『リアルハードモード』。この難易度でのみ、登場するすべての流派を自由自在に駆使することが出来る。
同時に、システムアシストなどの補正が一切受けられないため、ゲームというジャンルを越えた異世界トリップに近いものだった。
案の定、挑戦した多くのゲーマー達は、技の一つもまともに習得できず、修行の時点で血反吐を吐き、断念するものが続出した。
技の習得のための修行に入れば師範に死ぬほどボコられて、下手すれば修行で死んでしまうこともあり、当然の結果と言えば当然だった。
特に多くの、というか、大半の挑戦者の心をへし折ったのは、最初のボス的ポジションだった下級のドラゴンだろう。絶対に倒さなければならないのに、まともに戦うことすら出来ない。そんな相手なのだ。
俺も大勢のプレイヤーと同じように挑んだが、それはもう散々だった。まず勝てない。現実の人間では幻想生物には勝てないもんだと身を持って実感した。
殺されては文字通り生まれた瞬間、つまりゼロからやり直し。同じところまで進んでもまた殺されたら振り出しに戻る。
このモードを選ぶときに注意事項と最終確認と誓約書名とか厳重に書かされた挙句、最終確認だけで十分以上あっただけある。死への恐怖とか、トラウマとかを容赦なく突きつけてきたんだからな。
なんというか死ぬときの絶望感やばい。それ以上に痛みがやばい。目の前が真っ暗になって意識が消える感覚は現実で死んでしまうと思った。
どうやったらこの表現を味あわせることができるようになるんだよ運営!? なんて思った回数は数えていない。
正直何度止めようかと思ったかわからない。一応これ以外の難易度は全クリしたんだしやめても問題ないだろうと思った。
俺以外にも、俺よりもゲームが上手いプレイヤーたちが『リアルハードモード』に挑戦したけど、全員挫折し、諦めていった。俺もその一人になったとしても誰も責めたりはしないだろう。
それでも何度か繰り返し、ドラゴン相手に殺され続けて百を超えてから痛みよりも、絶望感よりも、ムカついた。何度死んだかわからないけど、ドラゴンにムカついた。
あの慢心しているように思えてくる面に殺意を覚えた。あの尻尾のなぎ払いを切り刻んでやりたい。殺された分を何倍にも返してやり、最後にざまあみろって言ってやりたいと強く思い始めた。
だからドラゴンにむやみに挑まず、今までの進行からルートを逸脱させた。この段階では会えない人に会うために、何度も死に続けた。ドラゴン討伐の依頼の有効期限が残り僅かになれば、会えずともその状態でドラゴンに挑み、敗北した。
なんどもなんどもその繰り返し。全ては先に進むために、後に師匠と呼ぶことになる人に会うために戦っては死にを繰り返した。
そして、ようやく師匠に出会い、弟子にして貰い、修行することで、ようやくあのクソトカゲ、もといドラゴンを撃破した。しかし、喜ぶ前に、現れて首をはねやがったライバルはマジで許さん。
ライバルのリアル理不尽にマジで怒り狂った。他の難易度だとここまで思ったことはないのに本当に現実というのは理不尽の塊だ。
だからまた師匠に会うために何度も繰り返し、技を磨き続けた。他難易度だと、同門となるNPCには馬鹿にされたり、心配されたりもした。それくらいストイックになっていたんだろう。
ここまで来ると死にゲーかなとか思うだろ?そんなことはない。
負ければ最初からやり直し。文字通り最初からだぞ? それを何度も繰り返した。気づけばドラゴンなんてもはや道中の敵A位の感覚でしかなくなった。ライバルこそ真のボスであった。
あいつ相手には腕が引きちぎれても満身創痍でも勝てばいい。相手の動きを一動作ですべて理解する。最適解を五個以上見つけ出して全部試して一番生き残れる方法を掴み取るために磨けるすべてを磨き続けた。
そしてそこからは楽しくなってきた。死ぬことへの恐怖は忘れず、されど死ぬことを恐れず立ち向かう。死を正しく認識して恐怖し、恐怖を我が物として操り戦場で戦う。
ある時から、傷付かない戦い方を師匠から学んだ。格上相手に勝利する為の技術を教え込まれた。世界最強の剣士たちが身に付けた技術をこの身を以て叩き込まれた。
『天匠流』の師匠から稽古をつけらた時、腕が何度も引きちぎれるかと思ったことか。そして、それを克服すべく、月光真流を磨くことになるとは思いもしなかった。
『桜華戦流』修得のために、現実で歌舞伎や演芸の映像を血眼になって見ていたのはちょっとした事故だった。一緒にいた唯に本気で泣かれて心配されたのは後にも先にもその時だけだったと思う。
『月光流』の修行は地獄と変わり無かった。猛スピードで突っ込んでくる猪やワイバーン相手に受けを取る練習を実戦で叩き込まれた。実際何度かそれで死んだ。
ここまで来ると、六周して六流派覚えるのではなく、一周で六流派覚えることが、クリアのための近道だと理解した。
だから師匠に頼み込み、地獄を覚悟で技術を磨き続けた。やがて師匠から全六流派の継承者として認められた時には、プレイ時間の表記は9999時間で上限に達していた。
『剣聖ルート』で師匠に教えを乞い、技術を磨き続け、『魔剣聖ルート』でひたすらに戦い続けた。二つのルートを『リアルハードモード』でクリアした後、真のエンディングへと向かうためのシークレットルート『真剣聖ルート』は本当にこの世の地獄だった。
今まで戦ったモンスター型のボスがすべて雑魚敵扱いで無限に湧き、ボスであった幼馴染兼好敵手はもう次元が違う強さを持っていた。
ラスボスである邪神はもう次元も宇宙も違った強さで何度やり直したかわからない。
けどその度に、死んでしまう可能性が高いのに、駆けつけてくれた各流派の継承者たち。身を呈して俺を救ってくれた大切な師匠。
そして最後まで共に戦ってくれた仲間たちと、最後の最後で二人揃って戦ってくれた幼馴染みの好敵手。
そんな彼らの思いに答えたい。必ず勝利を勝ち取りたいと、ゲーム以上の感情を俺は抱いていた。だからこそ、俺の技は師匠と同じ更なる次元へと足を踏み入れていた。
そして、真のラスボスである邪神を封印し、幼馴染みとの戦いに決着をつけ、新しい約束を交わし、ようやく俺は全ルート、全難易度でのクリアを成し遂げた。
その余韻に浸ろうと思っていた矢先、後日談となる『アフターストーリー』なる隠しシナリオの存在が現れたのはもう驚きも怒りも感じなく、『開発バカじゃねーのかっ!?』と褒めてしまった。間違ってないぞ褒めたんだから。
いいだろ? 『リアルハードモード』で真エンディング見れたんだからご褒美あってもよ? とか思っていたらそれがまさかこういう形で出されるとは思ってもみなかった。後日談をこんな形で作るとかこいつら馬鹿だと確信した。
そして現在。俺はあの世界で身に付け磨き上げた流派を持ってこの地に降り立った。見てるかよ『エクスゼウス』社員の皆様。あんた達が生み出した流派をこの世界に持ち込んだ俺というバカの姿。これから先俺がこのゲームをクリアするまで嫌ってほど見せてやるから覚悟してろよ?
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「月光真流一の型『白月』」
『白月』は、月光真流の基本となる技である。受けた攻撃を衝撃として捉えて受け止め、その全てを吸収してしまう技である。
何を言ってるのかわからない?ならわかりやすく言うと”衝撃を自由自在に操る月光流”その基本が白月。
森羅万象すべての動き、力には絶対に発生する衝撃や振動がある。それを自分の体を受け皿にして自由自在に吸収・放出・変更して戦う流派、それが『月光流』
ゴーレムの叩きつけるような拳を右手で掴むように受け止める。一見すればだ受け止めるだけで簡単そうに見えるだろう。当然そんな簡単なことじゃない。
受け止めた瞬間の体の動き、筋肉の縮小と膨張、力の向き、全部計算した上でタイミングよくきっちり受け止めないとプチっと潰れる。見た目ほど簡単じゃねーんだなこれが?
受け止めた衝撃はさっき戦ったやつよりも強かった。コイツの方がレベル的には高そうだ。
もちろんまともに受ければ地面陥没は免れない威力だ。しかし月光流、特に月光真流にとってこの程度の衝撃受けられて当たり前レベルの技能だ。
先ほど倒した奴と同じようにゴーレムは驚いたような様子はなかったが、明らかに動揺している。やっぱり高度なAI積んでるみたいだし金掛けてるよこのゲーム。
この絶好のチャンスを逃すほどバカじゃない。受けた衝撃は未だ体中を巡りその解放を今か今かと待ち望んでいる。この衝撃全てを載せた一撃をゴーレムの土手っ腹にブチ込むっ!
「月光真流奥義『水無月写鏡』」
『・・・・・・・!!?!?!??』
殴るための振りかぶりは必要ない。狙った場所に手を叩き込むだけでいいんだ。
ゴーレムも予想なんてできないだろう。その巨体がはるか後方へと吹き飛ぶなんてな。
籠手装備だと、手が傷付きにくいから気にせず攻撃を受けれるし、拳を叩き込めるから、本当に籠手がドロップしてくれて助かったよ。
それはさておき、かなりの速度で吹き飛びゴーレムは吹っ飛んだ方向にいた別のゴーレムに衝突した。
『・・・・・・!?』
ぶつけられたゴーレムにあまりダメージは無さそうだが、衝撃をもろに受けたゴーレムは為す術もなく、衝撃で身体を砕かれてそのまま、光の粒子となり消滅していった。
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クリスタルゴーレムを倒しました。
『AS:カウンター』『AS:見切り』『AS:ジャイアントキリング』が結合進化し、『UtS:月光流』になりました。
『装備:ほうき星のお守り』の残りダメージ無効回数が残り二回になりました。二回発動するとほうき星のお守りは消失します。
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ちょっと待て。なんじゃUtSって?それもそうだがそれ以上に月光流スキル名であるのかよ。これ見て確信したけど間違いなく『エクスゼウス』は全力で楽しんでるだろう。前作の流派をスキル名に持ってくるとかとんでもない奴らだ。
いやそれはまぁいいとして、このスキルは少なくとも間違いなくゲーム序盤で習得できるスキルじゃないのは分かる。絶対にやばいスキルだ。少なくともゲーム説明の項目ではUtSなんて項目なかったし。確認しておこう。
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『UtS:月光流』
効果Ⅰ:『流派:月光流』が使用可能になる。使える技は技の熟練状態により追加される。
効果Ⅱ:カウンター攻撃時の相手の防御力を無視した攻撃が可能になり、自身の攻撃力が上昇する。
効果Ⅲ:カウンター攻撃成功時、素早さが上昇する。
修得技:白月、水無月写鏡
・弱者が強者に勝つために、守りたいものを守るために過去の剣士が生み出し、磨き続けた一つの流派。その技は語り継がれ、ある師弟達によって新たなる進化を遂げることになった。
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やべぇ、スキルの説明だけじゃなくて流派の説明もあるし。ここの師弟って多分俺たちだよな?
それはともかく『ほうき星のお守り』くれたミールちゃんありがとう。あなたのおかげで命拾いしました。
そしてわかった。『月光流』ゴーレム相手だと無双だわこれ。防御無視攻撃とかこのあたりの敵はもう脅威じゃない。油断したらぶっ殺されそうだからもう気は抜かないが。取り敢えず3体目が向かってきてるし倒そう。
迫り来るゴーレムに再び『白月』の構えで迎え撃つ。するとどうだろう。さっきの戦いを見ていたのか、はたまた仲間が倒されたことで学習したようで、突撃してくることはせず、その場で止まり例のロケットパンチを飛ばしてきた。
確かに賢いだろう。近づかなければカウンターも関係ないからな。
しかし俺に逃げるという文字はない。遠距離相手には遠距離で対応するだけだ。
月光流には二つの流派がある。一つは今使っていた『月光真流』。基本相手から攻撃を受けてから反撃するという、カウンター特化の流派だ。
もう一つは『月光滅流』。こちらは特別な構えや型は存在しない。全て息をするように、呼吸をするように、ただ歩くように、日常行う動きを衝撃の元として使いその衝撃を何倍にもして動かすことで繰り出すため、此方から攻める流派だ。
頭おかしいだろこの流派? ありえない衝撃の使い方するし、衝撃を擬似物質化させるとかやばすぎだろ?
そして月光滅流には、『魔剣バーニングサン』という技がある。物理的な要素があればなんであろうと対応できるカウンター攻撃が出来る技だ。遠距離相手にカウンターとかまるで意味がわからんだろ?
常識的なことだが、基本的に力の方向は一直線だ。だから何も道具を使うことなく急に方向転換したりグニャリと曲げたりすることは不可能。
だがそれを不可能のまま可能にするのが『月光真流』『月光滅流』という流派。その真骨頂は『不可能を己のチカラで捻じ曲げる』ことにある。
あらゆる衝撃を形として認識し、身体に循環させることで自由自在に変化させる流派。それそこ月光流の真髄なのだ。本題に入ろう。
この二つの流派は根本が同じだ。だからこそ、この二つの流派は組み合わせることが出来る。それに正式名称はないが、俺と師匠は月光流を越えた月光流と言うことで『超越月光流』と呼んでいる。
「超越月光流壱式:白月剣ルナディアス」
発射されたロケットパンチは俺の土手っ腹めがけて飛んできている。それを俺は回避することなく両腕を開き、タイミングを会わせて、キーパーのように両腕を前に突き出した。
真正面から受けた衝撃が体を掻き毟る前に、白月の応用でその衝撃は体中に分散、そして循環する。徐々に噴射するロケットパンチは推力を失っていき、やがて力を全て飲まれ勢いを失った。ありえないことを今、目の前で起こしている。
『?!?!?!?!?!?!』
勢いを失った腕を持ち、ボールを投げるがごとく大きくぶん投げる。投げ放つ瞬間に衝撃を腕へと流しその力が爆発する。
衝撃という推進力を得て、息を吹き返したロケットパンチが今度は真の主であるゴーレムをぶち抜かんとせんと、空気を貫きながら真っ直ぐ進んでいく。
両腕を失っているゴーレムには受け止めることも、そしてその速度ゆえに回避することも叶わず、腹部に直撃し、大きな穴を空け、やがて光の粒子となり消えていく。
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クリスタルゴーレムを倒しました。
報酬:『光結晶』を入手しました。
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アイテム:光結晶
効果:一定時間『AS:HPリジェネ』の効果を得る。
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よし、この調子で攻略していこうか!
チートはチートでもリアルチートを十年以上の歳月をゲーム内でかけて習得した努力の化物でした




