1:始まりの終わり
(追記)5月20日大幅修正をいたしました。
これは、とある世界で起きた一つの物語。世界を滅ぼさんとした邪神との、長きに渡る戦い。人が、世界が、そして一人の剣士が生まれ、その生涯を綴った物語だ。
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一度目は過去の戦士たちが命をかけて封印した。二度目は俺の大切な幼馴染が命をかけて封印した。そして三度目。今日この瞬間。太古から続く邪神との因縁は終わりを迎える。それは奇しくも二度目の戦いの場所であり、幼馴染との大切な思い出が眠る場所。
『オォォオオオォオオォオオ・・・!!! ケンセィィィ・・・・!!』
「今度こそ、決着だ」
邪神の死と共に、世界を覆い尽くしていた闇は消え去り、取り戻した夜空には、世界の全てを包み込むような月夜の光が戦場を照らしていた。
戦場となった思い出の地は、その面影を残してはいなかったが、あの日、あの時俺と幼馴染が約束を交わした木だけは、今でもこうして力強く根付いていた。
体も剣もボロボロで立っているのがやっとの状態だが、まだ俺は生きている。二本の足でしっかりと地面に立っているのだ。
これを勝利と呼ばずなんというのだ。
――――当然だ。俺に勝ったお前が負けるわけがないだろう?
頬を撫ぜる風が死んだ幼馴染の声を運んできてくれた気がした。それだけじゃない。風は幼馴染の声だけでなく、一緒に戦った仲間たちの声も届けてくれたようだ。
仲間たちがこちらに向かって走ってきている。皆ボロボロだ。でも誰一人欠けず全員生きている。
仲間たちの抱擁が俺の疲れきった体に伝わり、みんなの声が、長かった戦いの終わりを教えてくれる。みんなボロボロで泣いている。そのくせに俺の心配ばっかりだ。少しは自分たちの心配もしてくれよ。これで本当のハッピーエンド。大団円ってやつだ。
「なぁ女神さま。そうだろ?」
夜空に浮かぶ綺麗な月が、頷くように、綺麗に光を放つ。
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剣聖物語-月が導く光と影
アフターエピソード『そして彼は世界を巡る』 完
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VRゲーム。ヴァーチャルリアリティ
。
今では常識となったそれは世界中を虜にしている。空想でしかなかった世界が、現実のように体験できる技術。いや、体験じゃない。これはもう異世界に飛び込んだと言ったほうがいいかもしれない。
VR最初期の頃は、家が一つ建つほど高価なデカいコンソールでもなければラグやメモリの関係で快適なゲーム環境にはならず、ゲームのクオリティ自体もそれほど高くないなど問題を抱え込んでおり大変だった。
だが科学の進歩はそれらを克服し、39800円ほどの金額で購入できるヘッドギア型のコンソールがあれば快適なゲーム環境と現実と何ら変わり無い世界に入ることができるようになった。
そんな時代に生まれ育ち、昨日も夜遅くまで俺こと藤宮励久はある一つのVRRPGにどっぷりとはまり込んでいた。
『剣聖物語―月が導く光と影』
それはVR登場初期のVR低迷期だった。VRの安全性に機能性、そして本体価格など様々な問題に直面しており、VRはこのまま廃れていくかと思われた。だがその絶望的状況を打開した一つの作品が世に放たれた。『エクスゼウス』と呼ばれている新ゲーム企業がその技術の全てを注ぎ込み完成させ、VRを救った奇跡の一作。
『剣聖物語―月が導く光と影』。
今までにない。真のVRRPGとして打ち出されたこの作品には、史上初の時間加速システムによる現実とは別の時間を体験できる夢の技術と、脳波を完全に読み取ることを可能にした新型VRシステム、通称『クロニクルシステム』を搭載した機器と共に世に解き放たれた神作。
作品自体も圧倒的スケールで描かれ、ゲームという名の世界の中で人々が文字通り生きていたんだ。データとして決められた動きではなく、人間と同じように自分で考え行動するAIが搭載されており、本物の人間が生きている世界を舞台に物語が描かれていく。それも主人公である自分を中心にして描かれていくのだ。
何よりも感動的だったのは自分の発言・行動・選択がそのままストーリーに反映されていくこと。選択肢や決められた結末ではなく、自分の言葉で、生きる人々と会話し、行動することで描かれる多数の物語。それらを紡ぎ、完結させて次へ進めていく。
この圧倒的スケールで描かれた『剣聖物語』は作品としても、VR技術としても世界中の人々を魅了した。この名作と新システムの普及、そして新技術が低迷期を迎えていたVRを一気に栄光の道へと押し上げたのだった。
現在では『剣聖物語』で使用された『クロニクルシステム』がほぼ全てのVR機器、そしてVR作品へ搭載されている。
その結果、VRプロゲーマーの誕生や、オリンピックなど世界的競技にeスポーツが追加されるなど目まぐるしい進化を遂げた。
VR発売初期、夢にまで見たVRが自分の手元に来る。その感動から発売日に店先に並び、お年玉と小遣い、手伝いで得た小遣いも全て使いVRを購入した中学生時代。
VR低迷期、廃れて欲しくないと必死に願いバイトで稼いだ金すべてをVRに注いでいた俺にとって、これは天からの授かり物だと思うほどの感動だった。
それほど『剣聖物語』に感謝してずっとやり込み続けていた。もちろん、他の作品もやらなかった訳じゃない。VRがもっと広まればいいと願った俺は数多くの作品を遊びつくした。
けど俺にとっては『剣聖物語』という作品を全クリするための小休憩位の気持ちでやっていた感は正直ある。申し訳ないけど。
そんな『剣聖物語』を発売当初から約5年間、時間加速があるのでゲーム内時間では約10年以上の年月をかけて漸く、昨日の夜に念願の『剣聖物語』の全ルート全難易度完全クリアを成し遂げたのだ。
この感動は俺以外には誰にもわからないだろう。本当に長かった。ありがとう剣聖物語。あなたに会えたことを俺は一生忘れない。
「おう励久、おはようさん。眠そうだけどまた遅くまで何かやってたのか?」
「ふぁ?オッス裕二、やっと『剣聖物語』クリアしたんだよ。マジでヤバイわあれ」
「やっとってお前・・何周したんだよ?」
「覚えてない。けどようやく満足した。もう『剣聖物語』マスター、いいや、五代目剣聖と呼んでもらっても構わない」
コイツは二階堂裕二。
幼馴染で現在大学生。家が隣だったことから始まったこの関係もこうして大学生になるまで続くことになるともう腐れ縁に近い。ちなみに元柔道部でガタイはデカイ。更に筋肉マッチョだ。リアルゴリラだな。
そんな幼馴染が後ろから覆いかぶさるよう肩を叩きながら朝の挨拶をしてくるわけだ。
「これが美女なら文句なしなんだけどな」
「聞こえてんぞおい」
「聞こえるように言ったんだよ。それよか手に持ってるコーヒーよこせ」
「俺の飲みかけだけど」
「気にすんの?」
「いやしねぇ。ほらよ」
言っとくが別に男色家ではないぞ?けど男友達なんてこんなもんだ。俺らがガサツなだけかもしれないけどな。
「でも励久の言うとおりなんだよな。俺もお前が女子なら付き合ってるわ」
「アホか。俺が女子だったらお前絶対に俺に近寄ってこねぇだろ」
ゲームに出会ってから今までずっとゲームをやってきたゲーム廃人に片足突っ込んでる俺だ。女子ウケはあんまり宜しくないし、男子からも下手したら引かれるレベルだと自負している。
顔は自他ともに認めるTHE普通よりかっこいい程度らしい。体つきはそれなりに自信はあるけど隣にゴリラがいるのでは目立たない。
逆にコイツはゴリラだが厳つくて怖モテって感じだ。しかも顔に似合わず手先は器用だし気も回る。毎年バレンタインには結構多くのチョコを貰っている。俺も義理で少し貰えてるがコイツはそれの比ではない。
「それこそアホか。お前だかモゴッ」
「それ以上いうんじゃねぇ。掲示板にまた書き込まれるじゃねぇか『ゴリラ×飼い主』って」
「それはゴメンだな。俺は女子と結婚するんだ。男はお断りだ」
「なら尚更気をつけろや。それにまた広がりでもしたら今度こそアイツが書き込み主をどうにかしかねん」
「アイツって私のこと?」
「うぉ!?」
「そ、お前のことだよ唯」
いつの間にか後ろに居たのは俺の彼女である『高山唯』だ。
THE大和撫子と言うべき其の容姿は街中でモデル事務所やアイドル事務所の人間に声をかけられるほどには綺麗だ。
廃人一歩手前の俺とモデルのような唯が付き合っているのにはある事情とかあるのだがそのへんはまぁいいだろう。機会があれば話すとしよう。
「高山おまえいつの間にいたんだよ」
「んっとね、励久が家で卵サンド食べながら家でてきた時からだよ?」
「声かけろよ励久に!」
「えへへ・・・だってね?眠そうな励久見てるのとーーっても良かったんだもん」
「いや怖いわ!!」
「あ、でもね?途中で励久に糞落とそうとしたカラスは追い払ったよ?励久褒めて」
「ありがと唯」
「あぁ・・・嬉しい。でもゴリラのコーヒー飲んだのはアウトかな?ゴリラ地獄に行く?コロッと行けるように手伝ってあげようか?あぁ答えは聞かないよ?だって決定事項だもん私の励久と間接キスしたんだよこれくらいは受け入れてね?受け入れろよ?これでまたあの変な噂流れるんだぜあの時書き込んだ奴も本当に始末しなくちゃいけないと思ったしゴリラも処理のためにどこかの崖に連れて行かないといけないね本当に苦労したんだよせっかく静まったのにまたあの騒ぎを起こそうとするとか馬鹿なの馬鹿だねゴリラだねこれはもう死ぬしかないよねうん死のうか?」
「唯、これは俺と裕二の友情の証だからセーフ」
「うん。励久がそう言うならセーフだね。ごめんねゴリラ。早とちりしちゃった」
「マジで命の危機を感じたわ」
唯は俗に言うヤンデレ? メンヘラ? まぁその辺のやつだ。これでも前よりも大分マシになってきている。
昔なら誰かと一緒に歩いてるだけで相手を始末出来るんじゃないかと思うくらいには目つきがやばかった。手に刃物を持ってたら即アウトである。
今ではある程度理性が働くが何か一線を越えると即アウト、表に出てくるので取り扱い注意である。まぁそこを含めて可愛いのだが。
「はにゃぁ・・・・可愛いって思ってくれてるの嬉しい」
ちなみに読心術も使えるようなので油断できないのが唯一の不安だ。とりあえず頭撫でとけば人に危害は加えないので撫でておこう。髪サラサラで気持ちいい。
「うん。これはもう飼い主だわ。外から見たら言うこと聞かない猫とかの飼い主だわ」
飼い主とは周りが俺のこと指す名前だ。裕二と唯がいつも近くにいて二人の制止役、もしくは同行者なのでいつの間にかそう言われるようになっていた。ちなみに
「ゴリラもたまにはいいこと言うね。バナナあるけど食べる?」
唯は満更でもないようだ。
「・・・・釈然としないけど貰えるものは貰う人間だから食うわ。毒とかないよな?」
「死ななければ毒ではないよね?」
「やっぱいらねぇ」
「じゃあ俺食いたい。流石に朝飯あれだと足りない。何入れたの?」
「いいよ。流石に何も入れてないよ?ムカついたから仕返ししたかっただけ」
「どうも。裕二ほら一口食う?」
うんうまい。普通のバナナだ。
「いや遠慮しとく。それより話の続きだけどよ? 励久、『剣聖物語』クリアして次やる奴決めてないなら「一緒に『プラクロ』やろう励久!」・・・いや俺のセリフ・・・・ってマジで?」
「おぉ、まさか唯から『プラクロ』の名前が聞けるとは思ってなかったぜ」
エクスゼウスは『剣聖物語』を発売してから、二作目となる作品を今まで一度も世に放っていなかった。だがそれが三か月前についに解き放たれたのだ。
『プラネットクロニクル』。
エクスゼウス待望の第二作目となるそれは、クロニクルシステムをさらに進化させた『第二世代クロニクルシステム』と呼ばれる新システムを搭載しており、さらに進化した物語を体感できるらしい。
さらに世間に合わせるように今回はVRMMORPGとして売り出しており、前作でも要望が高かったPVPや協力戦闘を可能にし、武器の制作から強化、進化、そして真k・・・じゃなかった。これは『剣聖』の要素だ。ともかく、そういう武器関係のこともプレイヤー自身の手で行い、自分だけのオリジナルを創れるようになっていると話題になっていたはずだ。
勿論やるつもりではいたが、丁度『剣聖物語』が佳境に入っていたのでこれをクリアするまでは他には手出しをしないと決めた為やっていなかったのだ。それにしても、だ。
「唯からゲームの話を聞くのもそうだけどまさかMMORPGとは想像できなかったな」
人付き合いが嫌い、メンドくさいと豪語していた唯から嫌でも人と関わるオンラインゲームの話題を聞くとは予想外だ。
「俺もビビった。しかも『プラクロ』だとは思わないわ・・・・俺と被ったのもビビる」
「むしろ励久に推めるゲームだよ? エクスゼウス作品以外ある訳ないでしょ? 励久ずぅぅぅっと、『剣聖物語』やってたみたいだし。それで励久、やろ?」
当然だ。言われるまでもなくとは言わないが、次は何をやるか考えていたところに、二人からのお誘いだ。やらない理由がない。それにエクスゼウスの新作だ。心が躍るぜ。
「もちろん。んじゃ帰りにショップ寄って・・。人気だから売り切れてr「そういうと思ってほれ。買ってきてあるぜ」・・・・・いくら?」
「いらねぇよ。これくらい俺のおごりだ」
ちなみにゲーム一本で大体2万円でお釣りが来るくらいだ。昔だと五千円くらいで買えたらしい。時代の進歩は決していい事ばかりではないようだ。
「むぅ・・・私が帰りに買ってあげようと思ってたのに・・ゴリラのアホ」
「へっこれでも金持ちだしな。それに今どこにも中古含めて置いてないぜ?」
「私の知り合いがやってる店に取り置き頼んどいたの無駄になったじゃないのよ・・・仕方ない。知り合いに送りつけよ」
コイツの実家はVRを応用した医学で特許を取っている病院を経営しておりこいつも医者の卵だったりする。まぁ卵が手術とか指名で頼まれるんだからとんでもない腕の持ち主だったりするんだが。
「んじゃありがたくもらうわ。サンキュ裕二」
「いいってことよ。んじゃ今日の夜に早速やろうぜ。最初の町にある噴水で待ち合わせにするか」
「私も参加するね。私の名前『リーク』って名前でやってるからよろしくね」
「は? 『リーク』? お前『リーク』あの『魔術女帝』のリークかっ!?」
「そうだよ?『戦闘狂』の『俺はマー坊』さん」
「やっ?!?なんで俺のアカウントしってんの!?」
「励久がやる可能性が高いゲームだよ?ある程度のリアル情報は握っておかないと励久に何かあったら大変でしょ?」
「おまそれ実家に知られたらやばいだろ!?完全に個人的なことだろ!?」
「大丈夫。お母さんに許可もらってから手伝ってもらったし」
「・・・・・励久、あとは任せた」
唯の家も相当やばい。簡潔に言うと敵に回すと安心して日本にいられなくなる程度にはやばい。銃持った黒服に追い回される程度にはやばい。
唯もこう見えて武道に通じているので強く、何でもいいので武器になるものを持たせるとゴリラ以上に強いので危険人物だったりする。
「唯、あんまりその手段で俺を守らないでね? 俺が許可したらその限りではないけど」
「わかったよ。励久がそう言うならそうするね」
「いやそういうことじゃねーよ。まぁ・・・いいのか?」
いいんだよ。




