90:奥義伝授
アールズブートキャンプ開始
いつもの岩場。いるのは俺とルーク、リークとギルファー。
状況が状況なら鏡雀の練習をさせるのだが、そうも言っていられなくなった訳だ。
イベントが進行し、ついにゴブリン達の侵攻が再開して、いつエーテリアが狙われるかわからない。
悠長に鏡雀を極めるために教えている時間がなくなったとも言える。継続して教えては行くが、今日からこちらで三日間、ログイン状態を維持したまま合宿を行う。
飲むと数時間の睡眠で、疲労が全回復する黄色いドリンクを買い込んでおり、寝る間も惜しんでこの三日に挑む。
「基礎の抜刀と素振りは今までどおり行う。ただ回数はどちらも一万回固定だ。俺も一緒にやるからタイミングを合わせてくれ」
「わかったけどバカ師匠。一つ質問」
「なんだ?」
「三日で技一つって言うけどそんなの出来るの?普通に考えて一般人には無理じゃない?」
「んなもん当然だ。一般人がたかが三日でできたら俺の立場がない」
「ちょぉ!?」
当然だろう。俺が長年寝る間も惜しんで開発して磨き上げた技だ。たかが三日で誰でも使えるように成られてたまるか。けど、”一般人”には無理なだけだ。
「”弟子のお前”なら出来る。スキルじゃない。武術としての剣ならお前になら出来るよ」
「っっっ!!!!う・・・うっさいばーか!!褒めたって嬉しくないやい!!」
「ルーク君照れてるね」
「うっさい!!」
これは素直にそう思う。全部は無理でも、この技なら今のルークになら使える。気配に敏感で、剣筋もある程度洗練されてきたルークなら間違いなく。
「とりあえずまずは素振りからだ。二人共俺に続いてやってくれ」
「わかったよ。よろしくねアール」
「さっさと始めてよバカ師匠!!」
二人が刀を構える。準備は良さそうだ。
「始めるぞ。1・・・2・・・3・・・4・・・5・・・・」
「9997・・・9998・・・9999・・・・10000・・・・素振り終わり。リークも現状でやめていいぞ」
「ハァハァハァ!!ペース速すぎだろバカ師匠!!!ハァハァ・・・・!!!!」
「ヒィヒィヒィ・・・・・!!!!」
文句垂れつつも、ギリギリ遅れずにやり遂げたルークと362回ほど遅れたリーク。悪いけどやり切るまで待ってやることはできない。
時間は今回有限だ。ハイペースだろうとやると決めたからには習得してもらう。
「あと三十秒で抜刀に入る。それまでに呼吸を整えろ」
「鬼師匠ガァァァァァ!!!!?!?!?!?!!?」
「10000・・・・・ふぅ・・抜刀終了だ。三分休憩しようか」
「「はぁはぁ・・・・・・」」
無事に終了。ルーク6382回、リーク3475回。まだまだだが回数をこなせばいつかはちゃんと出来るようになるだろう。
「ば・・・・バカ師匠の強さの秘密がわかった気がする・・・・ハァハァ・・・・」
「き・・・・奇遇だね・・・・・私も・・・・・・思ったよ・・・・・・」
リークに関してはギリギリだろう。技を教える上では問題なさそうだが、使えるかどうかは正直微妙だ。
ルークはなんとかなるだろう。あとは体力がちゃんと持つかどうかだ。
「ね・・・ねぇ師匠・・・・改めて質問・・・・」
おずおずと手を挙げるルーク。どうしたのか尋ねると少し戸惑いながらも口を開いた。
「前にも聞いたけど・・・・どうして僕に忍者を倒せって言うの?・・・バカ師匠ならこんなことしなくてもいい勝負できるでしょ?」
それは多分間違いない。あれから俺も結構色々やってきた。気配察知の修行に抜刀速度を上げるための腕の動きに、体の動きの研究。
ルークの修行の中でもいろいろと考えて実践し、試してきた。おそらくだが前よりも少しだけ強くなっているはずだ。
「そうだな・・・・忍者倒したお前の師匠なら、忍者よりも強いって確信を持って言えるから・・・・でもそれ以上にもう一つ理由があったからだな」
「やっぱり・・・・・何かあるんじゃん」
「まぁな。出来ちまったんだからしょうがないだろ?」
「・・・・・その理由って何?」
「お前の成長を形として見たくなったんだよ」
「そんなくだらな・・・・・・はぇ!?」
くだらないとは失礼なやつだ。お前のことなのに。聞いたルークは困惑しており、カメラでも探すようにあたりをキョロキョロし始める。
「ぼ・・・僕の成長っ!?いやなんで!?」
「言ったろ?お前に感謝してるって。正直プレイヤーの弟子って初めてで結構不安だったんだぞ?」
NPCには教えたことがあった。AI故に教えると面白いくらい吸収したし、出来なかった奴もいる。育成ゲームのようでそれはそれでいい経験だったし、それがあったから俺の奥義は存在している。
でも、今度は本当に生きている人に教えることになったんだ。仮想の存在としての人間じゃない。現実で本当に生きている人に教えるんだ。
NPCと同じではダメ。だけどちゃんと覚えてもらうにはどうしたらいいか。結構考えた末にあの修行に行き着いたわけだ。
「俺の修行にちゃんと付いてきて、やりきって、悪態ついても止めなかった。歪んだ精神鍛え直してやろうと思って始めたんだが、気づけばお前の成長を見るのが嬉しくなってきてな」
「っっっ!!!!」
「俺の跡を継げとはまだ言えないけど、俺の後ろについて来いって言いたくなったんだよ。それだけお前の心の強さに惚れ込んだ。だからルークが俺の獲物を倒すところが見たくなった。ある意味自分勝手な理由だよ」
弟子の成長がこんなにも嬉しいことだとは考えたことがなかった。だからその上を期待してしまうのだ。故に無理難題だと言われても仕方ない事をルークにやらせようとしている。
かなり自分勝手なやつだとは自覚している。
「これが今思ってる本当の理由だ。落胆したか?」
「う・・・うっざいばーが!!!ないでないがらあっぢむげ!!!」
そう言いながら真正面から抱きついてくるルーク。わんわん声を出しながら泣いており、これは三分では泣き止みそうにない。頑張っているし、少し長めの休憩を取ってもいいか。
とか思っていた。
だが、三分と少しすると、ルークは顔を歪ませてはいるが泣き止み、真正面から俺を見ている。これにはリークもギルファーも驚いていた。もちろん俺もだ。
「やい゛!!バカじじょう!!絶対に倒すから倒したら一つお願い聞けよ!!!聞かなかったら許さないからな!!!」
「わかった。可能な限りなんでも一つ言うこと聞いてやるよ」
「いったからな!!なんでもって言ったからな!!リーク姉ちゃんもアホ犬も聞いたよね!!」
「うん。聞いたよ。アールは言った。お願いを聞くって」
『この小僧、なかなか面白くなってきたではないか』
どんなお願いをされることやら。
「それじゃぁ約束もしたことだしお前に教える奥義を見せるよ」
「・・・・!!」
無言のまま力強く頷くルーク。
腰に携えた『真刀:戯』を抜き両手で持ち、刃を自分の左、ちょうど顔の横へ来るように構える。
足幅は肩幅の二倍に開き、重心は左足に。左膝を曲げて、右足は斜め前へと伸ばす。
「超越天匠流剣術『神斬雲雀』」
両手で構えていた刀を右手のみで振るい、体重は左から右足へ、大きく三日月を描くように刀を振るい、細かな重心の位置は空いた左手で調整する。風を切る音が岩場に響き、剣圧が周囲の砂を巻き上げる。
「・・・・・っ!!!」
「抜刀の動きを取り入れて上段から中段下目掛けてなぎ払う剣術。これが『神斬雲雀』。お前に覚えてもらう技だ」
俺が編み出した抜刀術の応用で放つ斬り払い、扇形に展開する敵を一網打尽にする剣術。そしてやり方次第ではカウンターを可能にする剣術。神斬雲雀。
この技が忍者ゴブリンを葬り、隠し玉である魔進瓶ドラゴニックエリシオンを打ち破る。俺がルークに授ける必殺の一撃だ。
予定変更。アール考案新奥義『超越天匠流剣術:神斬雲雀』伝授開始。
そして自分でやりながらほか二人の回数を別々に数えながらやっているアールの怪物具合。
ここから少し長文になるので興味なければすみません。
いろんな方々から感想いただいています。いつも楽しく読ませていただいたり、すごく勉強になるご意見ご指摘いただいて感謝しています。本当にありがとうございます。
実は感想にて『ルークをくれ』『ルーク可愛い』などの想定以上にルークに関する感想がありまして驚いていました。
そこでなんですが、『名前貸すのでルークと絡みたい!』て人いましたら活動報告にて名乗り出てくれませんか?いつものお礼としてお名前を借りて日常的な番外編を書いてみようかと思います。
活動報告自体は昨日のうちに投稿してますのでぜひ。
勿論、アールやリークと絡みたい!っていうのも大歓迎です。
初めての試みなので失敗するかもしれませんが、もしよければよろしくお願いします。
今日は二話投稿の日なのでまた17時に続きが投稿されます。




