故郷は遠く、想いはいつか・・・
いろいろやらかした気がするけど、悔いはない(笑)
今日の仕事が終わり、私は帰る前に公園に寄ることにした。
公園内に足を踏み入れると、公園内を散策している人たちが何人かいた。
今日は3月31日だ。公園の桜の木は、もうすぐほころびそうなつぼみがいくつか見える。私は、つい手を伸ばして、桜のつぼみに触れようとした。
だけど、伸ばしたこの手に触れるものは、何もなかった。
フッと口元に皮肉気な笑みが浮かんだ。
ホログラフィーにより再現された公園の風景。ご丁寧にも、一日一日とつぼみが膨らんでいく様も再現されているここは、もちろん外ではない。それどころか建物の中でもなかった。
ここは宇宙船の中。
普段は多目的室となるこの部屋を、時々このように季節感あふれる情景を映しだすようにされていたのだ。
先ほど、仕事終わりといったが、何のことはない。この宇宙船を動かすに辺り、三交代でシフトが組まれていて、その自分の当番の時間が終っただけだった。
「ナオミ、ここにいたのか」
「あら、珍しいわね。ゲンキがここにくるなんて」
声を掛けてきた同じ時間帯の当番仲間の、ゲンキ ヒラセ に私は笑いかけた。
「別にいいだろ。それにしても毎度毎度律義に、3月31日まではつぼみのままにすることはないよな。地球に居た時は年によって開花の日が違っていたんだろ。なんで開花は4月1日なんだよ」
「仕方がないでしょう。プログラムはそう簡単に変えられないんだから。それにわかりやすくていいじゃない」
「だけどよ、なんかつまんねえよな」
桜のつぼみを見上げながら言う、数少ない同郷の名前を持つ男の横顔を私は見つめた。そして私は口を開いた。
「もう一度言うけど、仕方がないじゃない。ここは地球ではないし、コロニーでもないのよ。宇宙船の中なの。季節感を感じさせるために、この映像の提供をしてくれた、ネビュラ星の方々に感謝するしかないでしょう」
「わかっているさ。俺たち地球人が生き残れたのは、ネピュラ星人のおかげだっていうのはよ。……というか、ネビュラじゃなくてネピュラだろ」
「いやいや、ネビュラの正式名称は、ネイビュルアリステッドグルニアリアヌスでしょうが。あまりに長いことと、地球人には発音しにくいからと、短く呼ぶことを許してくれたんだから」
「待てよ、ナオミ イツキ。恩人の星の名前を間違えんなよ。ネイピュルアリスタニアグルエネオスマキスだろ」
「二人とも、違うだろ。ネイサンアルテキオスゲリニウムオコッテナイだろ」
「ちょっと、ちょっと。それも違うから。ネイデルアンセリウオコラスキガマンテンダロでしょ」
「それも違-う! お前ら失礼すぎ! いいか、耳の穴かっぽじって、よーく聞けよ。ネイチャンアリエナイクライカワイイネエーツキアッテクレーと、いうのが正しいんだ」
「いや、マジそれ、違うから」
「そうよそうよ。それだけはありえないんだから~。ネイデルランドハネバーランドジャナイが正しいんだって」
「……それも絶対ちがーう!」
私達の会話が聞こえたのか、この部屋にいた人たちが会話に加わってきた。そして、みんながみんな、違う名前を口にした。
私を置いてけぼりに恩人のネビュラ星人のフルネームについて、議論を始めたみんなを、呆れたように私は見つめた。
この事は何度もネビュラ星人から言われていた。もともと発声器官が違うから、正しい発音は我々地球人には出来ないということを。それにどういうわけか、私達の誰一人として、同じように名前を聞き取ることが出来ないでいた。なので、時々こうして言い合いが起こってしまうのだ。
だけど、これは本気で論争しているわけではないのを、みんなは知っている。我々地球人を助けてくれた異星人に対する親愛の気持ちの表れでもあるし、それに長い旅のお供というか、まあ、一種のフラストレーションの発散のためなのだ。
◇
私達が宇宙船にいる理由、それはもう数千年前に遡る。
我々地球人の先祖が初めて宇宙に飛び出してから500年ほど経った頃。この頃には、地球以外の惑星や、衛星にコロニーが作られて、太陽系全域を人類は居住区としていた。
火星や金星は、最初テラフォーミング化をしようとしたけど、それはかの星の気象に阻まれた。そこで人類は外界を遮断する大型コロニーを作り、そこで生活するようになったのだ。
これは先に地球の衛星である月にコロニーを作ることが出来たのが大きかった。それに小惑星帯でコロニー建設に役立つ物質を発見できたのも、コロニー建設に拍車をかけたのだろう。
そうして海王星の衛星にまでコロニーを作り上げ、いよいよ太陽系から銀河系中心部に向けて、進出しようとした矢先に事件は起こった。
よくある話なのだが、地球に住む人達は他のコロニーに対して、優位な立場を貫いていた。圧政を強いていたわけではなかったようだが、地球至上主義とでもいうのだろうか、とにかく他のコロニー生活者を下にみたがったのだ。
それに各コロニーに住む人々が反発しだした。
小説などでもよくある話だろう。だけど地球とコロニー間、そのうちに各コロニー間も険悪な状態へとなっていった。いつ戦争が起こってもおかしくない状態になった時に、最悪なことが起こった。
威嚇のためのはずだったミサイルを、太陽に向けて打ち込んだ馬鹿が現れたのだ。そのミサイルが太陽に到達した場合、太陽は核融合を活発化させ膨脹し、太陽系の惑星をすべて飲み込んでしまっただろう。
幸いといっていいのかわからないが、ミサイルは太陽に到達しなかった。いや、到達はしていた。だが巨大な紅炎が起こり……いや、太陽フレアのほうだったのかもしれない。
とにかく、太陽から伸びた炎の壁に阻まれて、ミサイルは爆発をした。
だが、この爆発によりコロニー及び地球は大ダメージを受けることになった。爆発は暴風となって地球や各コロニーに襲い掛かったという。太陽も表面が活性化して、巨大フレアがしばらくの間確認されたらしい。
本来なら私達の先祖である地球人は消滅していてもおかしくなかった。それを助けてくれたのが、先ほど名前を覚えることが出来ないといった、ネビュラ星人だった。彼らに助けられたのは、海王星の衛星のコロニーに暮らしていた人々だけだった。
ネビュラ星人が異常に気がついて太陽系にやって来た時には、天王星にまで爆風が到達していたらしい。
緊急事態ということで、彼らの力でコロニーごとネビュラ星系まで地球人類を運んでくれたそうだ。
そしてネビュラ星人の好意により、我々人類は地球型の大気を持った惑星に移住することが出来た。
落ち着いたところで、ネビュラ星人から何が起こったのかを知らされた海王星コロニーの人々。彼らは太陽から一番遠い惑星の衛星のコロニーにいたので、地球と他のコロニーの確執がそこまで深刻になっていたとは知らなかった。それから、太陽系の状況なども。
そしてネビュラ星人から、これからどうしたいのかを訊かれた。
人々は話し合い、いつか地球に戻りたいという結論に至った。
ネビュラ星人は、それなら地球人の手で銀河系まで戻るようにと、言ったそうだ。
これは意地悪でそう言ったわけではなかった。
ネビュラ星人は地球人類が宇宙に出てくるのを、ずっと見守り待っていたのだから。
彼らの話では、この広い宇宙で惑星を飛び出して他の銀河系に行ける力がある種族は、11種族しかないと言った。我々地球人が12番目の種族になるはずだと、思っていたそうだ。
現に地球から出て、他の惑星にコロニーを建設する技術力を持った。あと少しで、太陽系を飛び出すことが出来るところまで来ていたのだ。そうなったら彼らは地球人に接触を持つつもりでいたそうだ。
助けられた人々は、自分たちで銀河系を渡る宇宙船を作ろうと頑張った。理論は出来ていたけど、実現するにはいろいろと足りなかった。行き詰まることもあった。
それをネビュラ星人は見守っていた。彼らの技術を教えてもらえば、簡単にワープやら転移やらが出来るようになっただろう。
だけど『地球人が自分たちで外宇宙に行ける力をつけるのを待っていた』と言ってくれたネビュラ星人の、期待に応えたいという気持ちが強かったと、後世に伝えられている。
ネビュラ星人は学者肌の人種の様だった。寿命はとても長く1万年にも及ぶらしい。とにかく研究をするのが大好きな人種だった。地球とはかなり成分の違う大気の中で暮らしていた。
だから地球を見つけ、人類が巨大建築物(たぶんピラミッドのことではないかと思う)を作っていることが分かったことで、期待をしたようだ。
彼らは度々地球に来て、いろいろなものを採取していった。他にもいろいろなことを記録をしまくっていたみたいだ。
地球人に提供された惑星は、もともとは地球的環境の再現を研究するための惑星だった。だが、そのおかげで荒れた地球を元の生態系に戻すことが出来そうだった。
ネビュラ星人のフォローを受けながら我々は開発に勤しんでいた。だけど時々、ネビュラ星人に禁止されるものがあった。その中には、地球を人が住めない惑星にした、ミサイルの主要物質のこともあった。
あれは使い方を間違えれば、宇宙自体が無くなってしまうほどのものだったらしい。というか、そうなってもおかしくなかったと言われたそうだ。何かが足りなくて、爆発程度で済んだようだ。
◇
「ナオミ、一人だけ蚊帳の外になってんじゃねえよ」
私が今の宇宙船で旅をしていることについてや、太陽系で起こったことを思い出している間に、ネビュラ星人のフルネームについての論争は、ひとまず決着がついたようだ。みんなは笑いながら飲み物を手に持って穏やかに話していた。
ゲンキが私にボトルを差し出していた。それを受け取って、ベンチ(と重なった位置にある椅子)に腰を下ろした。
「ありがとう」
「いいけどよ」
お礼を言ったら、頬をポリポリと掻きながら、ゲンキも私の隣に座ってきた。
「で、何を考えていたんだ」
ゲンキがさりげない風を装って聞いてきた。どうやらこの数日の、私の様子がおかしいことに気がついていたようだ。
「何ってほどじゃないんだけど……今回の原因のことを思い出していたのよ」
「原因……か~。ええっと、もう5000年前だっけか?」
「ううん。5892年前よ」
「そんな細かいことまで、覚えてんなよ」
悪態をつくようなゲンキの態度に、私の口角が上がった。
「ゲンキこそ、アバウト過ぎでしょ」
私の言葉にゲンキは肩を竦めただけだった。しばらく沈黙が流れた。
気がつくと少し空の色が茜色になりかかっていた。他の人たちはこの部屋を出ていったようで、ゲンキと私の二人しかいなかった。
そのことに気がついた私は、ふうっと息を吐き出した。
「なあ、何に悩んでいるんだよ」
ゲンキの問いかけに、私は曖昧な笑みを口元に浮かべ、茜色に染まっていく空を見上げた。視界に入った枝に薄い桃色に染まる桜のつぼみが見えた。
「俺には言えないことか」
呟くようなゲンキの言葉が聞こえてきた。私はゆっくりと目を閉じて、すぐにまた目を開いた。ホログラフィーなのに、夕暮れ時の情景が見事に再現されている。雲がバラ色に染まり、光の残滓が雲を輝かせていた。それに地平線にあたる辺りはうっすらと闇が忍び寄ってくるのまでが再現されている。本当に無駄に細かいなと思う。
「ねえ、ゲンキはさ、どうして今回、志願したの」
「それは……一度地球をこの目で見るのもありかな、って、思ったんだ。……というか、そういうナオミはどうなんだよ」
ゲンキの適当な返答に、私は空に目を向けたまま笑った。
「私は……『ミドリシ』としての義務からよ。さっきさ、先人たちのことを思い出していたって、言ったでしょ。先人達は苦労をしながら、それでも代を重ねるにつれ、ネビュラ星人たちが持っている技術力に近づいていったじゃない。さすがに転移の理論や方法にまでは辿りつかなかったけど、それでも宇宙船で6カ月を掛ければネビュラ星系から地球まで辿り着けるまでにはなったでしょ。それに火山の爆発や地殻変動で荒れ果てた地球を、緑溢れる大地に変えたじゃない。今回の調査で地球が安定したことが分かれば、やっと私達は戻ることが出来るんだよ」
「そうだな。先祖の悲願ってやつが達成されるよな。……ナオミはそれが嫌なのか」
私は視線をゆっくりとゲンキへと向けた。彼は鋭い視線を私に向けていた。
やっと居住可能な状態に地球が戻ったとはいえ、何もない自然なままの地球で、一から文明を作り上げなければならない。今のネビュラ星系での快適な暮らしを捨てることに、不安を抱く人がかなりの人数いた。
それでも……。
それでも、遺伝子レベルの刷り込みなのか、地球に帰ることをみんなが望んでいる。
ゲンキの視線は、私が『地球に帰ることを望んでいない』とでも、疑ったものだろう。
「私も地球に帰るのは賛成よ。でも、でもね、いままで地球に送った植物たちが、ちゃんと根付いているかなんて、わからないじゃない。母も言っていたわ。祖父が植えた木々が暴風雨で、根元から倒れていたのを見たって。今回だって同じような状況かもしれないじゃない。このホログラフィーのような『桜』なんて、どこにもないのかもしれないじゃない」
母たちが地球に行ったのは今から20年ほど前。
ネビュラ星系から地球まで10年かからずに行けるようになるまで、地球人は地球のことに関われなかった。その間ネビュラ星人からの定期的な報告を聞くしかなかった日々。
そうして地球に行けるようになって、最初に地球の姿を見た人々は言葉を失くして見つめる事しかできなかったそうだ。
それが今から3000年ほど前。まるで原初の地球に戻ったみたいだと、見てきた者は言ったそうだ。火山は活性化したままで、地球の表面温度も南極や北極でさえ50度を超えていたとか。
そんな状態の地球に人が住めるわけはなかった。
でも、人類はあきらめなかった。地球を人類が住める星に戻そうといろいろと試みていった。そのおかげで氷河期張りの寒冷期が2000年続くことになったのも、地球の摂理がなせる業だったのか。
氷河期がゆるみ、やっと四季らしきものが感じられる気候になったところで、少しずつ植物を移植していった。
これがまた大変だったそうだ。自然の猛威に何度泣かされたことだろうか。
それが実を結び、明日にはこの船は地球へと到達する。
でも、私はまだ……。
唇をかみしめる私の頭に、ゲンキの大きな手が乗った。グリグリという感じに強めに撫でてくる。
「ナオミ、それこそ明日になればわかることだろ。バッカだな」
呆れを含んだ声で云われて、いつの間にか視線を落としていた私は、顔をあげてゲンキのことを見た。
「違うの。そうじゃないの。私は、このホログラフィーの元になった『ソメイヨシノ』を再現したかったの。江戸の時代から日本人が愛したっていう『桜』を」
そう、私は植物のエキスパートとしての『ミドリシ』として、『ソメイヨシノ』を作りだしたかった。『ソメイヨシノ』は種を残さない木だった。接ぎ木で増やしていったという。だから、こちらの星に『ソメイヨシノ』はなかった。接ぎ木をした若木を持ってきたそうだが、植えっぱなしにした結果、250年ほどで枯れてしまったそうだ。
先人たちも『ソメイヨシノ』を作り出そうとしたけど、どうしてもうまくいかなかったと、記録に残っている。
だから私は、自分が地球に行く日までに『ソメイヨシノ』を作ろうと躍起になっていた。でも、どうやってもうまくいかなかったのだ。
映像に残っている見事な並木道。ハラハラと花びらが散る様も美しかった。
あれを再現したかった。
「ほんと、バカだな。別に地球に帰る前に作り上げなくったっていいんだろ。地球に帰ってからゆっくり研究すればいいだけの話じゃねえか」
もう一度乱暴に私の頭を撫でてから、ゲンキは手を離し立ち上がった。
「大体そこまで『日本』に傾倒しなくったっていいだろ。お前も俺も名前は日本系だけど、今は人種なんて垣根は無くなっているんだしさ」
ゲンキの言いたいことは、言われなくても解っている。ネビュラ星人に助けられた地球人は100万人ほどだった。この頃でさえ混血は進み、純粋な人種は数えるくらいしか残されていなかったはずだ。
今はかろうじて名前の中にどこの人種だったのかが、わかるくらいだ。日本や中国で使われていた漢字は衰退してしまったし、言語は英語もどきに統一されてしまっている。
ゲンキが私に手を差し出して言った。
「ほら、そろそろ行かないと食事をくいっぱぐれるぞ」
「わかっているわよ」
私はゲンキの手をパチンと叩いて立ち上がった。
多目的室を出た私達は、廊下を急いで行きかう人々に驚いた。今の時間は就寝しているはずの人まで、起きていた。
「ガイセル、何があったんだ」
ゲンキが目の前を通り過ぎようとしたガイセルに声を掛けた。
「ゲンキ、なんだ、お前はまだ知らないのか。地球の近距離映像が見れんだよ」
そう言って足早に離れて行くガイセル。私はゲンキと顔を見合わせて頷くと、ガイセルを追って歩き出した。
着いた先はプレイルーム。そこの大型モニターに、青い惑星に近づいていく映像が映っていた。たぶんカメラを載せた無人探査機を、先行させたのだろう。
グングンと大きくなる青い惑星。白い雲の間から大陸が透けて見えた。そのまま大気圏に突入したのか、映像は雲を抜けて大陸へと近づいていく。
地殻変動で、地球には10個の大陸が出来ていた。そのうち2つの大陸は南極と北極にある。地殻変動前は北極に大陸はなかったから、これは大きな変化かもしれない。
そんなことを考えている間に探査機は一つの大陸に近づいていく。緑の山々の中に薄紅の部分がところどころあった。あれはもしかしたら、祖父や母が植えた山桜なのかもしれない。
「あっ……」
私は映ったものに小さな声をあげた。気がつくと身をひるがえし、プレイルームを後にした。
「おい、ナオミ」
ゲンキの声が追いかけてきた。それを背中に聞きながら、私は艦橋へ向けて走りだした。
シュウ
扉が開く音に、艦橋にいた人たちが振り向いた。本来なら音が出ないように出来るのだが、ここではわざと音がするようにしてあるそうだ。
「どうしたの、ナオミ」
「お、お願い。探査機を白っぽい花が咲いている木に近づけて欲しいの」
ミッシェルが訝しそうに聞いてきたのに、私は息を整えながら言った。
「白っぽい花の木? どれだろう」
ワン オーレン が、探査機を操作しながら聞いてきた。
「たぶん、いまから3分前くらいの位置にあると思うぜ」
私を追いかけてきたのか、ゲンキがオーレンに返事をした。しばし沈黙が落ちた。探査機のカメラの向きが変わり、戻って行くみたいだ。
「おっ!」
「わあ~」
「すごい!」
「綺麗ねえ」
モニターに大写しになったのは、淡いピンク色の花を咲かせたかなり大きな木だった。
「ソメイヨシノ……」
私の口から言葉が漏れた。あんなにも作りたくて作りたくて仕方がなかった花。でも、どうしても作れなかった花。
「あれが? 確かにホログラフィーの花と似ているように思うけど。だけど、そんなに簡単にできるもんなのか」
ゲンキが不思議そうに呟いた。
「きっと、地球だから出来たんだよ」
私の口からも言葉が滑り落ちた。
調べてみないことには確信は持てない。でもあれは『ソメイヨシノ』だと私は思う。
地球からの贈り物に私の口元には笑みが浮かんだのだった。