竜神探闘④
「ちっ……挟撃されたか」
アディルは忌々しげな声を発する。
「でもいつの間に? まったく気配を感じなかったし索敵にも引っかかってないわ」
アディルの言葉にエリスが疑問を呈する。
「おそらくはあいつらが放った矢だ。あの矢に転移魔術の術式が組み込まれていたんだ」「だとしたらこの場ってまずいんじゃない?」
「いや、そうとばかりは言えない」
「どうして?」
「まだ包囲が完成したわけじゃないからな。逆に各個撃破してしまおう」
アディルが返答するとエリスは大きく頷くと符を懐から数枚取り出すと即座に式神を形成した。数は八体で全員が巨大な盾を掲げると矢を放っていた闇の竜人の前に立つ。
「少しは時間を稼げるはずよ」
エリスの言葉に全員が頷くとアリスとエスティルが背後に現れた闇の竜人達に向かって行く。
「私とエスティル、毒竜でやるわ。みんなは前の連中に対処して!!」
アリスは指示を飛ばしつつ背後の闇の竜人に斬りかかった。
(こちらも仕掛けてるし、いけるか……)
アディルはアリス達を信じて前面の闇の竜人を投石によって牽制する。
アリスとエスティルが毒竜を率いて背後に現れた闇の竜人達に斬りかかるまでに駒の男達の七人が斧槍によって肉片へと変わっていた。
闇ギルドの構成員である駒達は基本的に戦闘訓練を受けているわけではないのでほとんど抵抗する事も出来ずに一方的に狩られたのだ。
全滅しなかったのはアリスとエスティルが救援に動いたのが速かったからに他ならない。
エスティルは魔剣ヴォルディスを抜き放つと魔力を込め一気に放った。魔剣ヴォルディスは魔力を増幅する魔剣だ。その魔剣の力によって増幅された魔力の塊は凄まじい速度で闇の竜人へと向かう。
「な……」
闇の竜人の一人が驚愕の声を発するが、それを言い終わる前に闇の竜人の言葉はかき消される。
エスティルの放った魔力の塊を躱しきれなかった三人の闇の竜人は吹き飛ばされるとそのまま地面に叩きつけられた。
残りの闇の竜人は散会してかろうじて躱すことに成功したのだがそれは彼らが安全を確保したというわけではない。
散会した闇の竜人に対してアリスとエスティルは襲いかかったからだ。
闇の竜人は斧槍を振るってアリスとエスティルを迎え撃つが何よりもエスティルの魔力の塊を躱したばかりで陣形と体勢が崩れているところに二人が襲いかかったのだ。
エスティルの魔剣ヴォルディスが一閃し、闇の竜人の首が飛んだ。エスティルは首を飛ばされた闇の竜人が倒れ込むまでに次の相手に狙いを定める。
この絶好の機会を逃すほどエスティルは呑気ではない。再び魔剣ヴォルディスが一閃されると闇の竜人の一体は斧槍ごと両断され胸をザックリと斬り裂かれ血を撒き散らしながら斃れた。
アリスも同様に二体の闇の竜人を斬り伏せた。
「おのれぇぇぇ!!」
残った闇の竜人が咆哮するとアリスに襲いかかった。上段から振り下ろされた斧槍をアリスはスルリと受け流すとそのまま間合いを詰め、首を狙って斬撃を放った。
闇の竜人はアリスの斬撃を紙一重で何とか躱すことに成功するが、アリスはさらに間合いをつめると斬撃を立て続けて放つ。
アリスが闇の竜人の一体を圧倒している間に、もう一体をエスティルが、最後の一体を毒竜の六人が相手どることになった。
「アルメイス、レグスは右!! エインとジャルムは左に回り込めウルディーは援護してくれ」
ロジャールの指示に毒竜のメンバー達は即座に行動で応える。毒竜の六人はこんなところで死ぬつもりはさらさら無い。この戦いで功績をあげてアディル達に自由の身となる事を要求するつもりであったのだ。
もちろんアディル達にそれを応じる義務などないし、そのつもりも一切無いのだが毒竜とすれば一縷の望みにかけるしかなかったのだ。
「舐めるなよカス共が!!」
闇の竜人は猛々しく吠えると斧槍を振り回し毒竜に襲いかかった。
アルメイスとレグスは双剣を抜き放つと闇の竜人の斧槍の一撃をバックステップで躱した。
闇の竜人がアルメイスとレグスを狙った事で、反対側に回っていたエインとジャルムは背後から襲いかかる事にした。
エインとジャルムが背後から襲いかかるが闇の竜人は斧槍を回転させエインとジャルムに一撃を放った。
エインは双剣を交叉させて闇の竜人の斧槍の一撃を受け止める事に成功する。
亜エインが斧槍を受け止めた隙にジャルムが闇の竜人の懐に入り込み斬撃を放った。
ゴガァァァ!!
しかし、ジャルムの斬撃が闇の竜人の体に届く前に闇の竜人の前蹴りがジャルムの腹部に吸い込まれた。
ジャルムは鋼鉄製の前掛けをしていたのだが、闇の竜人の蹴りの威力を完全には遮ることは出来なかった。
凄まじい威力にジャルムの口から血が吐き出された。どうやら内臓が相当傷付いたようである。
「くそっ!!」
ロジャールが長剣を振るって闇の竜人に斬撃を放つ。闇の竜人は斧槍の柄で受けると下段蹴りを放ってきた。
ビシィィィィ!!
闇の竜人の蹴りがロジャールの膝に決まり、ロジャールはその場に膝をついた。今まで経験した事のない一撃にロジャールはつい膝をついてしまったのだ。
「ロジャール!!」
ウルディーがロジャールの名を叫ぶと懐のナイフを闇の竜人に投じた。闇の竜人はそれを苦も無く躱したが、僅かの時間を稼ぐ事に成功した。
その稼いだ時間のおかげでエイン、アルメイス、レグスが攻撃に転じ、ロジャールを救うことに成功したのだ。
エイン、アルメイス、レグスが闇の竜人に襲いかかり、闇の竜人は三人の攻撃の前に防戦一方になった。
(いける!!)
剣を杖代わりに仲間達の戦いを見ていたロジャールは勝利を確信する。このままいけば遠からず勝利を得ることは確実であった。そしてロジャールの予想通りエインの双剣の一本が闇の竜人の喉を斬り裂いたのだ。
「やった!!」
「よし!!」
「見たか!! 俺達だってやれるんだ!!」
|毒竜のメンバー達から喜びの声が発せられる。六人がどうだと言わんばかりにアリスとエスティルを見るとすでに二人は闇の竜人の二人を斬り伏せていた。
「やっと斃したわね」
「遅いわね。先が思いやられるわ」
アリスとエスティルの容赦のない言葉に毒竜達はうちひしがれた表情を浮かべた。
とりあえず挟撃の危機は去ったとみて良い。無事であった駒の男達が矢を集めており、転移してくればそのまま討ち取る事も可能なのだ。闇の竜人もバカではないのだから、タネの割れている手品をもう一度披露するとは思えない。
アリスとエスティルが仲間達が対処しているはずの闇の竜人達の方を見るとそこでは激しい戦いが繰り広げられていた。




