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三つ巴戦①

 翌朝、心地良い目覚めで全員が目を覚ますとアディル達は手早く朝食を済ませると野営を引き払い出発することになった。


 野営を引き払ったアディル達は転移装置のあるという“エルミズ”に向かって出発する。御者台にはアディルが座り、隣にはアリスが座った。ローテーションの結果であり、そこで揉める事はない。

 馬車の周囲には毒竜(ラステマ)が配置され、その後ろを二十人の男達が付き従っている。


 アディル達は何事も無く森の中を進み、昼食を終えて日が傾き始めた頃に森を出ることが出来た。ここまで何の問題も起きることなくこれたことはアディル達にとっては幸運であった。


「さて、森を抜けることが出来たけどこの草原地帯に魔物は出るのか?」


 アディルがアリスに尋ねる。問われたアリスは静かに首を横に振り口を開いた。


「ううん、竜神帝国では定期的に街道周辺の魔物を掃討しているはずだから大丈夫と思うわ」

「そうか。ちなみに竜神帝国にはどんな魔物が出るんだ?」

「ヴァトラス王国とそんなに大差ないわね。ゴブリン、オーク、オーガなどの魔物、昆虫系の魔物、魔獣系と色々よ」


 アリスの言葉にアディルは頷く。どことなく残念そうに見えたのは珍しい魔物と戦えるのではないかという期待があったからであろう。それを察したアリスは少し口元を緩ませた。


「なんだよ?」


 アディルは訝しがりながらアリスに言った。アディルはアリスが自分の内心を見抜いていることを察していたためやや気恥ずかしかったのだ。


「なんでもないわよ」


 “ニシシ”という笑い声を含んだようなアリスの返答にアディルは憮然とした表情を浮かべた。何やらアリスの掌の上で転がされているような感じになってしまったのだ。

 憮然としたアディルの表情を楽しんでいたアリスがふと真顔になった。そしてほぼ同時にアディルも同様に厳しい表情を浮かべた。


「アディル」

「ああ、わかってる」


 アリスが不快感を含んだ声をかけるとアディルも即座に返答する。自分達を何者かが追っている気配を察したのだ。馬車の中の仲間達も自分達を追っている気配に気づいたようで警戒した気配を発し始めた。


「ここで迎え撃とうと思うんだがどうだ?」

「長引かせるのも面倒だし、ここで迎え撃つ事には何の問題もないと思うわ」


 アディルの言葉にアリスは即座に了承の意を示した。アディルはニヤリと笑うと馬車を停める。


「どうやら敵のようだ。お前達は自分達の身を守れ、そして戦闘行為は出来るだけ避けろ」


 アディルの言葉に毒竜(ラステマ)のリーダーであるロジャールは訝しげな表情を浮かべた。何しろアディル達は自分達を捨て駒にすると断言したのに、この段階で戦闘を避けるような指示に戸惑いを隠すことが出来なかったのだ。

 そして、それが自分達に対する情から来ているわけではなく、アディル達が自分達に何かをさせるために今は消耗させないようにしているだけという事を察していたのだ。そのため、ロジャール達はアディル達の言葉にまったく心が穏やかになる事は無かったのである。


 アディルとアリスが御者台から降りると同時に馬車からヴェル達が降りてきた。


「とりあえず、先手を打つ事にするわね」


 エリスはそう言うと胸の前で手を出すと両手から黒い靄が発生し、それがエリスの胸の前で球体となっていく。


「こんなものね」


 エリスはそう言うと形成させた球体を前に放ると放られた球体は地面に転がった。地面に転がった球体からモコモコと靄が発生すると二十体程の黒い狼のような魔獣になった。

 発生した魔獣はエリスの式神である。エリスは式神を作成する際に符を媒介にしなくても形成できるようになるほどの腕前になっている。

 しかし、符を媒介としたものの方が戦闘力が高いため、エリスは強敵相手には符を媒介した式神で対処するのだ。

 作成された式神達は一斉に走り出した。向かう先は自分達が出てきた森の出口である。


「よし、お前らはさっきも言ったように出来るだけ戦闘に参加するな」


 アディルの言葉に男達は素直に従ってアディル達の後ろに陣取った。自分達に今後何をさせるつもりかはわからないが、それでも当面の危険をやり過ごす事が出来るというのは有り難かったのだ。


闇の竜人(イベルドラグール)か?」

「かもしれないわね。でも気になる連中がもう一つあるじゃない。私としてはそちらの方が気にかかるわね」

「エスティルの言う通りね。追跡者ってそれほど強さを感じないのよ」


 アリスの言葉に全員が頷いた。実際に自分達を追跡している連中は気配の消し方は中々巧みではあるが、戦闘力はそれほどではないという印象なのだ。


「みんな油断するなよ。弱い雰囲気を出す事でこちらを油断させようという魂胆かも知れないぞ」


 シュレイの言葉にアディル達も顔を引き締める。もちろん油断したつもりはないが、気を引き締める必要があるのも事実である。


「……ん……全滅ね」


 そこにエリスがため息混じりに言う。ここでいう全滅というのはエリスが放った式神達の事であろう。それが全滅したと言う事は相手はそれなりの戦闘力を有しているのは間違いない。


「エリスの式神をあっさりと全滅させるなんんて間違いなくそれなりの実力者というわけね」

闇の竜人(イベルドラグール)の可能性が高まったわね。それも昨夜斃した連中よりも上の奴等。じゃないとエリスの式神をこの短時間で全滅させるなんて不可能よ」


 ヴェルの言葉にアリスが即座に付け足す。


「それなら、なおさらここで始末するしかないな。いつ俺達の事がレグノール家に伝わるかわからんからな」

「そうね。でも、もう手遅れかもね」

「その時はその時さ」

「ふふ、そうよね。今仮定の話をしても仕方ないわよね。一つ一つ目の前の事をやっていけばいいのよ」


 アディルの言葉にアリスは顔を綻ばせる。予め全ての事に気を配るのは不可能であるし、結局の所出たとこ勝負になるのは仕方ないのだ。


「とりあえずエリスの式神を斃した連中はすぐにこちらに襲撃にくるから、それを迎え撃とう。そこで作戦なんだが、まずは相手には戦いではなく狩り(・・)であると勘違いしてもらおう」

「どうやるの?」


 アディルの意見にヴェルがすかさず尋ねてくる。この辺りのヴェルの反応は共通理解を促すのに非常に有益なのだ。ヴェル自身もその事を意識してやっている様子である。


「そこはエスティルに頼みたい事があるんだ」


 アディルはエスティルにそう言うとエスティルは嬉しそうに顔を綻ばせた。


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