毒竜引き渡し①
ジルドから尋問が終わった事を聞いたアディル達アマテラスは、翌日早速、公文書保存局へと向かっていた。
「俺達七人と毒竜の六人の十三人で竜神帝国……少しばかり戦力としては足りなくないか?」
道すがらシュレイがアディルに尋ねると、アディルは返答する。
「ああ、もちろん毒竜はもしもの時のための時間稼ぎのコマにする。あいつらの今までやって来た事を考えればその扱いでも構わないだろう」
「まぁ、全部噂レベルだけど酷いものね」
アディルの言葉にヴェルが頷きながら返答すると他のメンバー達もまったく同意とばかりに頷いた。
「それでも一応、ルーヌスの皆さんの尋問の結果を聞いて噂が真実かどうかをとりあえず確かめよう」
「もし、噂ほど悪行を積んでいなかったらどうするつもりだ?」
「その時は俺達を殺しに来たという罪を償ってもらって駒として働いてもらおう」
「それって結局のところ同じじゃないのか?」
シュレイが呆れたかのように言うが、アディルはまったく動じた様子も無い。
「何を言う。前者は捨て駒で、後者は手駒だ。少しばかり意味合いが違うだろう?」
アディルはいけしゃあしゃあという表現そのものに返答する。アディルの言った論法は間違いなく人道主義者からすれば眉をひそめるような言葉であるが、アディルとすればそんなものに拘るつもりは一切無い。
自分達を殺そうとして向かってきたものに対して情けをかけるような甘い考えをアディルは有していない。アディルにとって毒竜の六人は自分だけでなく仲間達も、そして何の関係もないはずの宿屋のエルザム達もろとも殺害使用しようとしたのだ。
確かにエルザム達はルーヌスのメンバーである以上、関係ないとは言えないかも知れない。だがそれは結果論であり、もしアディル達が別の宿泊施設に宿泊していればその関係者達に被害が及ぶ事になった事だろう。
アディル達とすればこれだけで毒竜がどのような事をしてきたか推測するのに十分すぎるというものだ。
「呼び方は違うが都合良く使い潰すという事は変わらないな」
「いけないか?」
「いや、全然」
シュレイはさも当然という表情でアディルに答える。シュレイも二ヶ月間アディル達と行動を共にする事で何を優先すべきか自分なりに固まってきたらしい。シュレイが優先するのは仲間の命でありその他の者に対して優先度合いはかなり低くなっていたのだ。
「とりあえず毒竜を引き取ってから、竜神帝国に行くとしましょう」
エリスがそう言うと全員が頷く。結局の所、毒竜などアディル達にとって駒として使い潰す対象でしかないのだ。
「そうだな。やつらを引き取ったらさっそく準備に取りかかろう」
アディルはまったく容赦するつもりもなく言い放った。
* * *
公文書保存局に到着したアディル達は早速、中に入って要件を告げる。ただし、どこで誰が聞いているか分からないために単に“公文書を見せて欲しい”という内容の事を受付の方に告げるとそれだけで局長室に通される。
局長室に通されたアディル達アマテラスはそのまま局長室にある来客用のソファに着席を勧められると素直に従い全員が着席する。今日来ることは前もって伝えておいたために席も人数分用意されていた。
着席したアディル達の前に局長でありルーヌスの統括者であるアルダートが座ると職員の若い女性が紅茶を差し出した。全員に紅茶が行き渡ったところでアディルが要件を切り出した。
「ジグーム局長、今日は私達のために時間を取っていただいてありがとうございます」
アディルはアルダートにそう言って頭を下げると他のメンバー達も同様に頭を下げる。
「気にしないで良いよ。レムリス領での君達の活躍は聞いている。両殿下も君達を褒めてたよ。毒竜の連中には私達のメンバー達も幾人も殺されている。それを完全に撃破し、捕らえてくれた事で殺されたメンバー達も喜んでいることだろう」
アルダートの声にはアディル達への称賛の念が込められており、本心からの言葉であるようにアディル達には思われた。もちろんアルダートは諜報員の統括者として本心をさらけ出すような事はしていないだろうが、アディル達はアルダートに対して信頼を寄せていたのは事実である。
「そう言っていただけると嬉しいですよ。しかも、毒竜をこちらに引き渡してくれるというワガママを聞いていただき感謝の言葉もありません」
「いや、本来君達の功績を考えればこの程度の事はワガママには当たらないだろう。ただし……あの連中は私達ルーヌスにとって仇である事を忘れないで欲しい」
アルダートの言葉にアディル達は真剣な表情で頷く。仲間の仇を引き渡さねばならない事に対してやはり忸怩たる想いがあるのは当然であり、アディル達が情にほだされ逃がすような事をしないか釘を刺してきたのだ。
「大丈夫です。毒竜の連中には今後、安眠することは絶対にありませんよ。正当な手続きで刑罰を科された方が彼らにとって幸せであったと考える事になるでしょうね」
アディルの言葉にアルダートは少しだけ口元を緩ませる。アディルの言葉は一切の演技を感じる事は出来ないために、アルダートとすれば安心したところであった。アディル達がアルダートを信頼しているように、アルダートもまたアディル達を信頼していたのだ。
「そうか。それでは引き渡そう。こっちだ」
アルダートは顔を綻ばせて立ち上がるとアディル達も立ち上がりアルダートについて局長室を後にするのであった。




