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反撃篇:エピローグ①

「今回の件は良くやってくれたな。アルト、ベアトリス」


レグレスは満足そうにアルトとベアトリスに言う。


「ありがとうございます」

「これ以上ない良い結果になりました」


 レグレスの言葉にアルトとベアトリスは満足そうに頷くと返答する。


「ふふふ、確かに今回の件でレムリス侯爵家の力を大分削ぐことに成功しましたね」


 ヴィクトリスも微笑みながら返答する。この辺りの反応は王族として当然の事である。有力貴族の没落は王族にとって都合が良いのだ。

 今回のレムリス侯爵家に下された沙汰は爵位二階級降格でレムリス家は子爵家となった。それに加え領地の方も三分の二が没収され、没収された領地は王家の直轄地となった。

 しかも、没収された土地の中には穀物地帯、交通の要地がありレムリス侯爵、いや子爵家は領地以上に経済の要所を王家に奪われた事になる。


「とりあえずレムリス家についてはこれで良いだろう」


 レグレスの言葉に三人は頷いた。


毒竜(ラステマ)は?」


 レグレスはその後に毒竜(ラステマ)について尋ねる。最凶の闇ギルドである毒竜(ラステマ)の動向はやはり気になるだろう。

 

「ただ今、ルーヌスの拷問……いえ、尋問中です」


 アルトはややわざとらしく言い間違えた。アルトの言葉にレグレスは苦笑する。


「そうか、これで毒竜(ラステマ)に関係した者達の情報が手に入るな」


 レグレスがニヤリと嗤う。毒竜(ラステマ)に依頼をした者には貴族、裕福な商家がいることは以前から掴んでいたのだが、今回はそれが物証として手に入った形だ。場合によってはレムリス家のように貴族の力を削ぐのに役立てる可能性もある。


「ええ、その後は“アマテラス”に毒竜(ラステマ)は引き渡される事になっています」


 アルトの次の言葉にレグレスは鋭い視線をアルトに向けた。


「どういうつもりだ? 毒竜(ラステマ)をそのアマテラスに引き渡すだと?」


 レグレスの言葉に応えたのはベアトリスだ。


「大丈夫ですよお父様。アディル達ならば毒竜(ラステマ)達を御しきるのではないでしょう」


 ベアトリスの言葉にレグレスだけでなくヴィクトリスまでも意味ありげな視線を向ける。


「ほう、妙にそのアディルという少年に肩入れしているな」

「ええ、ベアトリスはそのアディル君にご執心ね♪」

「え? な、何言ってるんですか!! お父様、お母様」


 両親の言葉にベアトリスは慌てたかのように顔を赤くした。


「俺もアディルとベアトリスはお似合いだと思うけどな」


 そこにアルトもからかうように言った。


「アルトまで何言ってるのよ。アディルにはいつも一緒にいるヴェル達がいるじゃない。勝ち目はないわ」


 ベアトリスの言葉に三人はニヤリと笑う。ベアトリスの言葉はアディルに気があることを暴露したことに等しい。そのことにベアトリスは気付いていないのだろう。いや、いつものベアトリスならば即座に自分の失言に気付いたのだろうが、動揺している現在はその事に気付いていなかったのだ。


「まぁ落ち着けよ。アディルはまだ誰とも付き合ってないだろ。お前にもチャンスはあるって」

「あるわけないじゃない。それに身分が違うから……」


 ベアトリスが少し寂しそうに言う。そのベアトリスの言葉をレグレスは諭すように言った。


「何を言っている? 王族が平民と結ばれないとは限らないぞ」

「でも……」


 レグレスの言葉にベアトリスは呆気にとられたように言う。常識から考えて王族であるベアトリスが平民のアディルと結ばれると言う事は不可能である。


「レムリス家は一日で侯爵から子爵になったな?」


 レグレスの言葉にベアトリスははっとした表情を浮かべるとレグレスを見やった。ベアトリスの視線に応えるようにレグレスは顔を綻ばせて頷いた。


「アディルという少年がもし叙勲に値する功績を立てないとは限らないだろう」

「あ……」

「そうね。現段階で政略的にあなたが婚姻を結ばなければならないような事態はヴァトラス王国にはないわ」


 ヴィクトリスの言葉にベアトリスは顔を輝かせた。ヴィクトリスの言葉は“時間を上げるからそこまでに何とかしろ”という意味に他ならない。


「しかし、お前いつからアディルに?」


 アルトは首を傾げながら尋ねる。仲は悪くないと思っていたが、アルトにしてみればまだ、そこまでの好意を持っているようには思っていなかったのだ。


「う~ん、さすがに恥ずかしいから言わないわよ」


 ベアトリスは顔を赤くしてふいとそっぽを向きながら言う。


「でもベアトリス、そのアディルという子を手に入れたければ王族の権力を使う事は許さないわよ」

「分かってます!!」


 ヴィクトリスの言葉にベアトリスが力強く答える。権力を使ってアディルを縛るのはベアトリスとすれば最もやりたくない事だったのだ。


「それにしても、そのアディルという少年には思いを寄せている少女がいるのだろう?」「はい、四人いますしその四人も美人揃いですよ」

「ふむ……強敵だが頑張れよ」

「はい♪」


 ベアトリスの返答に全員が微笑んだ。


「ところでそのアディルという少年は一体どんな少年だ?」


 レグレスはアルトとベアトリスの言葉からアディルに対して興味が出たのだ。


「え~と、剣術、体術、魔術も見たことの無いものばかりです。変わった形の剣を持っています」

「変わった剣?」

「はい、黒い刀身に反りのある片刃の剣です」

「……黒い反りのある剣?」


 レグレスが訝しがるようにアルトに尋ねるとアルトは不思議そうな表情を浮かべる。


「ヴィクトリス……年齢的にも……」

「はい、可能性は高いですね」


 レグレスの言葉にヴィクトリスも頷いた。

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