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毒竜⑥

 アディルは一瞬で間合いを詰めるとロジャールに斬撃を放った。狙ったのは足だ。ロジャールはアディルの斬撃を後ろに跳んで躱した。それから着地してすぐに反撃に転ずる。


 ロジャールは長剣を抜き放つとアディルに上段斬りを放ってきた。アディルはそれを紙一重で避けると同時に天尽(あまつき)を振りかぶった。当然ロジャールの視線はアディルの天尽へと移る。


(マヌケが……)


 アディルは心の中でロジャールの迂闊さをせせら笑うとそのまま突進しロジャールに体当たりをした。


「ぐ……」


 次のアディルの攻撃は斬撃であると思い込んでいたロジャールはアディルの体当たりに対する反応が一瞬遅れてしまった。しかし、その一瞬の後れがアディルの体当たりを躱させなかったのだ。

 体当たりを受けたロジャールはそのまま一メートルほど宙を飛んだ。時間にして一秒にも満たない時間だが、アディルが次の攻撃を放つには十分すぎる時間である。アディルは天尽を容赦なく振るう。


 キィィィィン!!


 ロジャールは何とかアディルの斬撃を自らの長剣で受け止める事に成功した。


(……くっ、何という重い斬撃だ……)


 ロジャールはアディルの斬撃の重さに内心戦慄する。これほどの重さの斬撃を受けた事はロジャールは正直記憶になかった。アディルの斬撃は腕で降っているのではない。体全体で降っているのだ。

 それに対してロジャールの斬撃は背中の広背筋と腕力によるものであり、使う箇所が限定されている。体全体を使っているアディルと限定的な筋力を使用しているロジャールとでは根本的に斬撃の質が異なっているのだ。


「せぃ!!」


 アディルは受け止められた斬撃に構うことなく天尽を振り抜くとロジャールはさらに長い距離を飛ぶことになった。もちろんダメージがあるわけではないのであっさりと着地する事は間違いないだろう。

 だが、アディルの追撃が入るのは確実であると考えたロジャールはアディルから目を離す事なく追撃に備える。

 だが、ここでアディルはロジャールを狙うのではなく未だ回復していないジャルムを狙う。ジャルムは現在のジャルムにはアディルにはとても抗しきれない。アディルは掌をウルディーにかざし魔力の塊を放ち牽制するとジャルムの顔面に膝を蹴り込んだ。


アディルの膝がジャルムの顔面にめり込むとそのままジャルムは吹き飛んだ。ジャルムにとって今夜二度目の宙を舞うという経験だ。当然、受け身など取れるはずもなくそのまま地面に叩きつけられるという結果になった。


「ジャルム!!」

「このガキィィィィ!!」


 ロジャールとウルディーはほぼ同時に叫ぶ。その叫びはアディルへの怒りを含んでいるのは間違いないが、恐れの成分も同時に含まれているようにヴェルたちには感じられた。


「ウルディー、二人でやるぞ」

「ああ!!」


 ロジャールの言葉にウルディーが即座に答える。だが、それは悪手であることは間違いない。なぜなら二人に敵対するのはアディル一人ではない。ここにはアマテラスのメンバーが揃っているのだ。しかも、アンジェリナという魔術師もいることをロジャールとウルディーは完全に失念していた。


視線を外した瞬間にヴェルが魔矢(マジックアロー)、アンジェリナが炎矢(フレイムアロー)をほぼ同時にはなった。


(凄いわね、私とほぼ同時に魔術を展開しても威力制度が桁違いだわ)


ヴェルは心の中でアンジェリナの放つ炎矢(フレイムアロー)に対して称賛する。


(アンジェリナも私たちのチームに入ってくれないかしら、そのためにもシュレイは絶対に助けださないとね)


ヴェルのこの考えはアマテラスのメンバーの総意といっても良かっただろう。元々シュレイを助けるのは大前提であったのだが、ここにさらに上乗せされたと見て良いだろう。


 両者の放った魔術はロジャールとウルディーへ飛び、ロジャールとウルディーはそれぞれの矢をバックステップして躱した。下がったロジャールとウルディーに対し、アディルだけでなくエスティル、アリスが一気に斬り込んだ。


 アディル達三人は一気に間合いを詰めるとロジャールとウルディーに対して容赦なく厳しい攻撃を与えていく。


(くそ……防ぐのが精一杯だ)


 ロジャールは防御に徹することでアディル達三人の凄まじい斬撃を何とか凌ぎきろうと考えているようであるが、それは儚すぎる夢であると称して良いだろう。


「よ……っと」


 アディルはロジャールの剣を制するとそのまま踏み込み、ロジャールの胸部に肘を叩き込む。


「が……」


 ロジャールは吹き飛ばされはしなかったが動きが一瞬止まる。そこにエスティルの斬撃が放たれロジャールの左肩が斬り裂かれた。


「くそ……」


 ロジャールの口から苦痛と共に現状に対する危機が含まれた声が発せられる。


(このままいけるか……状況をひっくり返すには新手が来ない限り不可能だな。となると領軍が踏み込んでくる可能性があるな)


 アディルは現状を考えるとロジャールとウルディーはすでに詰んでいると考えざるを得ない。だが仮にも最凶と謳われる闇ギルド毒竜(ラステマ)がこのままで終わる事は無いという予感があるのも事実である。


「ウルディー!!」

「わかってる!! かかれ!!」


 ロジャールの言葉にウルディーは叫ぶと領軍の中から数人が抜剣しアディル達に斬りかかってくるのが見えた。


(まぁ……そう来るよな……だが陳腐な手を使うな……)


 アディルは心の中でため息をつきながら襲いかかってくる領軍を迎え撃つ事にする。襲いかかってくる領軍の人数はそれほど多くはないせいぜい十人程度だ。


「エスティル、アリス俺は領軍の連中をやるから、そっちのザコを任せて良いか?」

「うん」

「もちろんよ。この程度の連中なら私一人でも大丈夫よ」

「そいつは頼もしい」


 アディルの言葉にエスティルとアリスは即座に返答するとアディルはニヤリと笑うとそのまま向かってくる領軍に斬り込んでいく。


 襲いかかってくる領軍をアディルは次々と斬り伏せていく。だが、領軍の技量が大して事は無いという事でアディルはわざわざ命を取るほどではないと考えて十分に手加減をしていた。

 まずアディルは襲いかかる兵士の両太股を斬り裂き倒れた瞬間に容赦なく胸部を蹴飛ばした。蹴飛ばされた領軍の兵士は十メートルほどの距離を飛んで地面を転がる。手加減をしたと行ってもそれはアディル基準であり世間一般の基準では手加減とはとても呼べないレベルである。


(こいつらは……痛みを感じているようだな……あの時の連中よりも簡単だな。いや、違うな……こいつらは本命じゃない。本命は別にいると言う事だな)


 アディルはそう推測するとウルディー達の本命を探す。すると一人の騎士がこちらに凄まじい速度で斬り込んできてるのを発見する。


「な……」


 その騎士の顔を見たアディルは珍しく動揺した表情を浮かべた。斬り込んでくる騎士の顔をアディルは知っていたのだ。


「シュレイ……」


 それはアディル達が救いに来た少年のシュレイだった。

 

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