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幕間③

「どうやら失敗したみたいだな」


 ロジャールが仲間のウルディーに言うと、ウルディーはニヤリと嗤う。


「ああ、しかし話が違うじゃねえか。アマテラスと一緒にいる連中はかなりの腕前だぜ」

「そうなのか?」 

「ああ、最初の術が這うどうしてから全滅するまでわずか十分足らずだ。情報によるとわずか十五、六人のはずだろ」

「確かに雑魚とは言え五十人を十五、六人で全滅させるのに十分は早いな」

「だろ? アマテラスとかいうガキだけじゃなく、そいつらも殺すしかないわけか」


 ウルディーの言葉に隠しきれない愉悦が浮かんでいる。ウルディーは弱者を嬲って殺す事を何よりも好む(たち)であり、それは毒竜(ラステマ)のメンバーの中でも飛び抜けた嗜虐性であった。


「まぁ、それは仕方ないがそちらの趣味にばかり気を取られるような事がないようにしろよ」


 ロジャールの呆れた様な言葉にウルディーはニヤリと嗤って返答する。


(まぁ仕事は仕事できちんとするから大丈夫とは思うが……)


 ロジャールは心の中で苦笑する。


「ところでエイン、ジャルムは?」


 ウルディーの質問にロジャールは即座に返答する。


「ああ、今レムリス侯爵家で面談中だ」

「面談?」

「ああ、御当主様とその奥方とな」

「今更何を面談してるんだ?」


 ロジャールの言葉にウルディーは首を傾げながら尋ねる。すでに仕事、報酬を受けている以上レムリス侯爵家の連中と話し合うことなど何もないはずである。


「ああ、一応念の為にターゲットのガキ共がだれかと行動を共にしている場合にはそいつらを消しても良いかという了解を取ることにしたんだ」

「なんでそんな事を?」

「ああ、場合によってはレムリス侯爵領の領民を巻き込むことも想定しておいてもらわないとなと思ってな」

「くっくく……流石にあんたは考え方が深いな」


 ロジャールの言葉にウルディーは意図を察すると小さく笑う。アマテラスは現在何者かの護衛任務についていると思われており、場合によっては護衛対象者も始末する事になる可能性がある。その際にレムリス侯爵家に責任を押しつけるために了承を得ようとしているのだ。

 

「貴族にとって領民は単なる道具だしな。レムリス侯爵家の領民を巻き込む事になる可能性も視野に入れることを意識付けることによってターゲットの同行者が大物である可能性から目を逸らさせようという魂胆だろ? 悪い奴だな」


 ウルディーの言葉にロジャールは人の悪い笑顔を浮かべる。


「それを即座に見抜くお前も相当な悪党だと思うぞ」

「そりゃわかるだろ。あんたとは何年の付き合いだと思ってるんだ?」

「それもそうだな」


 二人はそう言うと互いの顔を嗤いながら見る。


「二人して悪い顔してるな」


 そこにレグスが二人に声をかける。その傍らにはアルメイスもいた。


「おお、ご苦労さん。でどうだった?」


 ロジャールの言葉にレグスとアルメイスは肩をすくめて言う。


「ああ、相当な手練れだな。五十人もの野盗を始末しておきながら相手の死者はなかったようだ」

「確かか?」

「ああ、馬車の車輪の跡からの推測だが間違いないな」

「そうか……馬車に死体を積み込めばそれだけ重くなるがその気配はなかった。馬車の二台で人の行き来はあったみたいだがトータルで見れば重量に変化はなさそうだ」

「なるほどな……騎馬の方は?」

「それも同じだ」

「ふむ……しくじったな。それほどの手練れというのなら最初から戦いを見ておくべきだったな」


 ロジャールの言葉にアルメイスが頷く。


「ああ、たかがシルバークラスのガキと思ってたが、一緒にいる連中を考えれば厄介な相手かもしれんぞ」


 アルメイスの言葉に他の三人は納得した様に頷く。敵を過小評価しないのは生き残るために必須条件である。その辺りを勘違いした連中は長生きできないのは裏稼業に手を染めている者であれば常識である。


「気を引き締めることにするぞ。エインとジャルムが戻り次第、レムリス侯爵領へと向かう事にする」


 ロジャールの言葉に他の三人が訝しがるような視線をロジャールに向ける。


「どういうことだ? わざわざ侯爵領で始末するつもりか?」


 アルメイスの質問にロジャールは頷く。


「ああ、どうも同行者は厄介な連中らしいからな。レムリス侯爵家も巻き込むつもりで行こうじゃないか」


 ロジャールの言葉に三人は納得の表情を浮かべる。アマテラスの同行者がかなりの腕前の護衛を雇っている事から、かなりの大物が同行している可能性があるため念の為にレムリス侯爵家も巻き込んでしまおうという意図なのだ。


「よし、エインとジャルムが戻ってきたらそのままレムリス侯爵領へと向かうとしようじゃないか」


 ロジャールの言葉にまたしても三人は頷くのであった。



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