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エネミーサイド

「おい・・・・。おい・・・大丈夫か?」


耳元で聞こえる大声と揺さぶられる体。


「おい、理!大丈夫か!」


「く・・・・。」


まぶたを上げるとそこには心配そうに俺を見つめる親父の顔があった。


「親父・・・・。」


「理、お前無茶しやがって!怪我は!?」


「大したことない・・・・痛っ!」


体を起こそうと地面に左腕を突くと、激痛が走り、俺は顔をしかめた。

すると、見かねた親父が俺に肩を貸しながら言う。


「ほら、つかまれ。」


俺は言われたとおりに身を預ける。


「行くぞ・・・・・。」


「ああ・・・。」


神代博士殺人事件の情報を得るために訪れた高エネルギー加速器研究機構。

しかし、実際には、情報を提供してくれるはずであった研究資料および職員は火の海に沈み、犯人とおぼしき女の確保にも失敗し返り討ちに遭っている。

結局、俺はなにも得られず、何も守れなかった。


「クソッ・・・・・。」


こうして、俺は満身創痍の体を引きずるようにしてその場を後にしたのだった・・・・。



心許ない暗緑色の光に照らされた暗闇。

そこに女はいた。


「・・・はあ!疲れたー。なーんで私ばっかりこんな働いてるわけー?あんた達ももっと働きなさいよ。」


女がキセルをくゆらせながら不満げにこう言い放つ。


すると、暗い影のなかからその言葉に応える者がある。


「俺たちには俺たちのやることがある。別にさぼっているわけではない。」


「そうですよー!私たちが仕事してないと思ったら大間違いなんですから!」


「私はもっと働きたいんですけど・・・・・。」


それぞれが思っていることはバラバラでまとまりがない。

女もそれを分かっているのか、はあ、と一つため息をつき頭を押さえる。

すると、更に奥。

黒々とした闇の中から声が降る。


「ご苦労だったな・・・・お前達。」


女はキセルから口を離し、闇に視線を向けた。


「計画はお前達のおかげで至極順調に来ている。あと少しだ。あと少しで、私たちの宿願が叶う。」


「ようやくね・・・・。」


女と残りの三人も首肯する気配。


沈黙が横たわるこの空間を低く重い重低音が響く。

闇は震え、じわりと広がる。

あたりの光を飲み込み浸食する。

まるで意思を持った生き物のように胎動する。


その闇の中心。

男の周りはいっそう濃い闇に包まれて姿も形もはっきりとしない。

だが、確かに男はニヤリと笑みを溢し、つぶやく。


「次が・・・・最後のピースだ。学園都市の終焉はすぐそこだ・・・・・。」


大きくはない声。

だけど、不思議と響き包み込むような声音だった。


「で?次はどこに行って何をすればいいわけ?」


女がけだるげに問う。

すると、男は苦笑を漏らしながら言う。


「せっかちな奴だな。」


「さっさと終わらすに超したことはないでしょ?それに、今日思わぬ出会いもあったし・・・・。」


「ほお・・・・婚期を逃した消費期限ぎりぎりのお前に出会いがあったのかそれは良かったな?」


「おい、喧嘩売ってんのかあんた!?違うわよ!私たちの計画に勘付きだしている連中がいるって事。」


「殺したのか・・・?」


確認するような口調。

対して、女は少し上機嫌に答える。


「いーえ。面白そうな坊やだったから殺してないわ。」


それを聞いた男は何かを察したようにつぶやいた。


「なるほど・・・・年下好きなのか。」


その言葉に、女はキッと鋭い視線を射る。


「あんたぶっ殺すわよ?」


「冗談だよ。許してくれ。」


凄みを帯びた真紅の瞳に睨まれても、男は全く動揺するそぶりすら見せない。


「しかし、本来であれば目撃者は皆殺しにする決まりであったはずだ。」


「あー、そうだっけ?忘れてたわ。」


男はそれほど気にはしていないらしく苦笑して答える。


「・・・・・まあいい。次で始末すれば許してやる。」


「あら、寛大なお方。でもまあ最初からそのつもりだったけど。」


「ならいいんだ。その程度ならば、計画に差し支えはない。むしろ順調に来すぎているぐらいなんだ。少しぐらいイレギュラーがないと面白くないだろう。すべてはゲームなんだからな・・・・。ま、お前が年下の男に惚れることは予想外だったがな。」


さも面白そうに言う男。

それに対して居心地悪そうに答える女。


「惚れてはいないわよ。」


「惚れてはね・・・?」


「ふん・・・・!」


完全にへそを曲げてしまった女に男は苦笑。

周りの仲間も苦笑を漏らしている。


だが、そのうちの一人の男は笑っている様子もなく、至ってまじめな口調で聞く。


「では、次の作戦決行はいつになるのですか?」


「お前はいつもまじめだな。」


「いえ。普通だと思います。ただ、ここの人は僕以外常識人がいないのでそう感じるのだと思います。」


「あんたナチュラルに腹立つのよね・・・・。」「マジそれ。」「ホントですよね。」


「・・・・?」


女の言葉に他の仲間も首肯。

しかし、当の本人は不思議そうに首をかしげるのみだ。

周りの反応の真意を理解することを諦め、闇の中に質問を投げかける。


「で、いつに?」


闇の中から答える声。


「知っているか?一週間後に何があるか?」


仲間達は一様に首をかしげ知らないというそぶりを見せるが、一人だけはさも当然のように答える。


「学園都市元帥サミットが大阪の学園都市で開かれます。」


暗闇の中で感心したように答える声。


「そうだ。」


「なに、その学園都市元帥サミットって?」


さほど興味もなさそうに聞く女に、一人が答える。


「四大学園都市、博多、大阪、東京、仙台。それぞれのトップである元帥が一つところに集まる会合だ。」


「へえ~。」


これまた興味なさそうにキセルに口を付けつつ言う。


更に続けて一人が言う。


「元帥が集まり会合する、ということは勿論そこには優秀な護衛がたくさん付き、学園都市のトップを守ろうとする。つまりだ。元帥が出て言った学園都市の防衛網は常よりも惰弱になる。今回の作戦はそこに付け入ろう。そういうことですね?」


闇の奥から苦笑する気配。


「やはりお前はまじめだな。私の意図をくみ取ることを怠らない。その通りだ。今お前が言ったように、学園都市は一週間後四年に一度のサミットで防衛網が緩む。本来、学園都市で犯罪を働く事はかなり難しい。先ほども言ったが、これまでがうまく行きすぎている。そして次の作戦ではさらに防衛網の強固な帝都第一高校を狙う。サミットの際には鬱陶しい生徒会の猛者たちも駆り出され手薄だ。そこを我々は衝く。」


「ほほーん。で?結局は何をするのよ?その一週間後にさ。」


じれったそうに聞くキセルの女。


男は女の言葉を受けて楽しそうに答えた。


「帝都第一工科高等学校一年のこの女生徒を拉致する。」


暗緑色の光を放つ大きなスクリーン映し出される女の生徒の顔。

黒縁の眼鏡に特徴的なお提げ。


そこに映っているのは、正真正銘、紛れもなく、椎名文であった。


「さあ、ラストダンスといこうか。」


こうして闇は本格的に蠢き出すのであった。

ブックマークなどありがとうございます!

ここからは少しラブコメ色も強くなっていくと思いますのでお楽しみに〜。

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