裁きの雷
第六話です。
銀髪美少女の可愛さ楽しんでください。
朝比奈はサラッとなんでもないことのように言ったが、総合ランクSというのは紛れもなく“化け物”クラスである。
特に、力の大きさSSSランクはもはや軍事兵器をもしのぐ威力をはらんでいることを示している。
“雷の女帝”と呼ばれる朝比奈を筆頭に“五賢帝”のようなSランク能力者は一人で世界の軍事バランスに影響を与えうるとされている存在なので、まあSSS能力値を保有していることもあるのかもな、と頭では理解しているのだが、それでもやはり信じられない思いはぬぐえない。
こんな奴らがまだ朝比奈の他に四人もいると思うと空恐ろしい。
しかも、この学園のトップ、つまり序列一位はなんと、個々の能力値だけでなく総合SSSランクを誇るらしい。
世界に三人しか存在しないSSSランク能力者。
ドイツ、アメリカ、そして日本。
この三カ国にそれぞれ一人しか存在しない彼らは“到達者”や“シンギュラリティー”、“特異者”などと呼ばれる存在で、彼らはすべての能力値がSSSランク評価の者達である。
各国の秘密兵器であるため、彼らの情報は厳しく統制されほとんどが秘密にされているのだが、どうも一人はこの学園にいるらしい。
どんな奴がこの学園の、ひいては世界のトップに君臨しているのか大いに気になる。
そんな考えを頭の中で巡らせていると。
「おーい、竜崎君?起きてますか?」
椎名さんが俺の目の前で手をフリフリと振りながら呼びかけているのが目に入り、そこでようやく我に返った。
「お、起きてるぞ。」
「それなら良かったです。」
呆然としていたことに少し、恥ずかしさを覚えた俺は頭を後ろ手に掻きながら軽口を叩く。
「・・・・・・・朝比奈がそんなにスゴイ奴だったとは思いもしなかった。ただ、口のめちゃくちゃ悪い女だと思ってたぞ。」
俺のつぶやきを聞いていた朝比奈が言う。
「フフン、まああなたみたいなゲスで貧弱で幸薄そうな男とはDNAレベルで違うって事よ。」
両手を上げてヤレヤレというポーズを取る朝比奈。
ここまで人の神経を逆なでする人種も珍しいだろう。
俺はピクピクと怒りにこめかみを震わせていたが、椎名さんがまあまあと取りなしてくれているのでなんとか溜飲を下げる。
「ふぅー・・・まあ、お前がすごいことには納得した。しかし、俺はお前の力をこの目で見たわけではない。」
俺がきっぱりとそう告げると、朝比奈は整った口元を器用に片方だけ持ち上げてニヤリと笑う。
「へえ。この私の力を疑っているって訳?」
「ああ。俺は自分の目でみたことしか信じないからな。」
「なるほど・・・ならその趣味の悪いめがね越しにしっかりと見ておく事ね。」
フンと一つ鼻を鳴らし、鉄球へと向かう朝比奈。
だが、正直あまりにもあっさりと能力を見せてくれることになって俺は驚いた。
あと、俺の眼鏡そんなに趣味悪い?
結構気に入っていた眼鏡を思いっきりダメだしされたダメージを一人喰らっていると、椎名さんがクイッと眼鏡を押し上げて言う。
「始まります。」
彼女の視線を追うとそこには左手を前に掲げて瞑目する朝比奈の姿がある。
人差し指にはIDが嵌められているのが遠目にも分かる。
近藤や俺は中指にはめていたがそれは力の大きさに特化した付け方で、方向線をはっきりとさせるのには人差し指に嵌めるのが一番良いのだ。
そして、嵌められたIDも少し他の奴らとは違う。
銀のリングであることは変わりないのであるが、その真ん中には飴色の宝石が輝いている。
あの輝き、そして彼女の能力から考えるとあの宝石はあれしかないだろう・・・。
「あの宝石・・・琥珀か。」
「はい。よく気づきましたね、竜崎君。」
椎名さんが視線を朝比奈の方に向けたまま淡々と語る。
「琥珀。ご存じでしょうが、この宝石は装飾品であると同時に電磁気学の発展に貢献した偉大な宝石。なぜ偉大かというと紀元前七世紀の哲学者タレスによって琥珀の“帯電性”を発見されたことを契機に電磁気学は発展を遂げてきたからです。今ではその神聖な宝石である“琥珀”の帯電性を利用したIDが開発されています。」
「その開発されたIDがあの朝比奈が着けている指輪だって事か?」
「はい、そうです。なので、雷ちゃんのIDは琥珀の帯電性を利用し、力の大きさを増幅することができます。しかし、空気中の分子量を正確に操作しなくてはならなくなるので通常のIDよりも操作難度は数倍高くなります。なので、並の能力者ではかえって能力は落ちてしまいます。雷ちゃんの知識量、経験値、正確性。これらすべてがそろってようやくあのIDを用いることができるのです。」
椎名さんの口調は相変わらず単調だったが、朝比奈を見つめるそのまなざしには熱が帯びているように見える。
口元にはうっすらと笑みが浮かんでいた。
椎名さんの横顔を見ていた俺だったが、不意にパリパチッという何かがはじけるような音が耳に届き慌てて音のした方に顔を向けた。
青い稲妻が鉄球の周りを縦横無尽に駆け回る。
朝比奈の銀髪がフワリとたなびいたと思った時には、鉄球が浮き上がり彼女の伸ばされた左手のすぐ前で静止。
電撃が激しさを増す。
閃光が瞬く。
朝比奈の口元にはどう猛な笑みが浮かんでいる。
「あれが、帝都第一工科高等学校序列第二位。雷の女帝の“裁きの雷”です。」
次の瞬間には閃光が迸り俺の視界を真っ白に染め上げた。
閃光。
轟音。
衝撃。
次々と五感を揺さぶる強烈な刺激が去来。
まぶたを上げると、パチパチッと至るところが帯電し放電している。
「ふぅー・・・。」
細く息を吐いた朝比奈は肩口に掛かった銀髪を振り払う動作をして、俺に視線を向ける。
あれほどの大出力放電を行ったはずなのに、彼女には微塵も疲れた様子はなく、やはり彼女はどこまでも美しい朝比奈雷であった。
そんな俺の驚いた様子を見て彼女は勝気に笑う。
しかし、すぐにその笑みを収め手を後ろに組むと数歩俺に近寄ってきた。
「な、なんだよ・・・。」
俺が驚き冷めやらぬ様子で問うと、ニコッと無邪気に笑い、そして・・・。
「これからもよろしくね。りゅ、う、ざ、き。」
パチンと器用に片目をつむる朝比奈は、素直に可愛くて、トドメのウィンクを受けた俺は引きつった笑みを浮かべるしかないのであった・・・。
~しばらく後~
「おい朝比奈。」
「何?」
そう答えて彼女は振り返り、鬼の形相を浮かべる。
椎名さんとの会話に割り込んだのが気にいらなかったのだろう。
しかし、俺もさすがにこいつのこういう態度にはなれてきたので特に気にせず話し出す。
「なんでお前ら、朝はこの部屋から出てきたんだ?」
俺はそう言いつつ今し方通り過ぎようとしていた部屋を指さす。
すると、朝比奈はめんどくさそうに答える。
「ああ、それはね私たち生徒会役員だからよ。」
「生徒会?」
この学校に生徒会があったとは知らなかった。
しかし、初日から生徒会に入るなんてできるのであろうか?
そんな俺の疑問に図らずとも答える朝比奈。
「そ。私は入学試験の時に「是非とも生徒会に来てほしい」って言われちゃって、仕方なくね。でも、私に生徒会に入ることのメリットがなかったら入るのもばからしいし。で、そのときに条件として椎名も生徒会に入れてくれなきゃ入らないって言ったの。そしたら、特例で二人同時に入学時から生徒会として正式に迎え入れてくれるてくれたのよ。だから私たちは初日から生徒会役員なの。」
こともなげに朝比奈は言うがこれはそんな何でも無いことではなく、むしろ異常である。
しかし、彼女にそんな自覚は全くなさそうで、俺は思わず苦笑しながら言う。
「よくそんなの認めてくれたな。」
「まあ、それだけ私の力がすごいって事よ。」
フフンとどや顔で流し目を送る朝比奈。
しかし、椎名さんのことを抱きしめながらそんな顔されてもなんか緊張感に欠けてあんまりかっこよくないですよ、お嬢さん?
だが、口に出すと碌な事にならないと分かっているので言わない。
俺は一つ咳払いをして話を続ける。
「じゃあ、その生徒会って言うのは具体的には何をやっているんだ?」
俺の疑問に対して少し考えるそぶりを見せる朝比奈。
少しとんがった唇が可愛い。
チイ!クソどうでも良い情報が俺の頭にアップデートされちまった。
「うーん・・・まあ、私も細かくはまだ分かってはいないんだけど、学校運営や風紀の取り締まり、あとはこの学園都市全体での連携強化、だったと思うわよ。あとは、この学園都市における安全管理。そういえば、つい三日前に奇妙な殺人事件が立て続けに起きたらしくて、生徒会の先輩達がかり出されている、って言ってたわね。」
「おいおい。そんな事件、新聞にもネットにも載ってなかったぞ。」
「まあ、そうでしょうね。一応報道規制掛かっていたみたいだし。」
それを口に出してしまうのはいかがな者なんだろうか?
と思わないでもないが、詳細については一切分からないので、問題はないか・・・。
「なるほど。生徒会ってのは大変なんだな。」
「まあね。そんじゃ、あたし達はここだから。」
見ると知らない間に二号館に付いていたようだ。
電磁気学教室とプレートに書いてある。
「おう、そんじゃあまたな。」
「竜崎君またね。」
「ふん!」
椎名さんは手を振り、それに対して朝比奈は鼻を鳴らして教室に入っていく。
あいつと俺はいつかわかり合える日が来るのだろうか、と思わずにはいられない。
「はあ。」
俺はため息をつき、一号館へと歩を進めるのであった。
この間、近藤はずっと白目をむいて失神していたそうな。
~そのまたしばらく後~
俺は帰宅し、ソファーに腰掛けていた。
鞄から携帯電話を取りだし、ある人物に電話をかける。
「・・・・・・・・はい。」
数コールでその人物が電話に出た。
「あ、親父?」
「なんだ、理か。どうした?」
そう俺が電話していたのは親父。
どうしても今日の内に聞いておきたいことがあったのだ。
「いや、実は聞きたいことがあるんだけど。」
「おう、いいぞ。」
ふうー、という息を吐き出し音が聞こえるので親父はたばこを吸いながら電話しているらしい。
「三日前に起きたっていう連続殺人事件の事なんだけど。」
「おい、お前なんでそれ知ってんだ。一応機密事項ってことになってたんだが・・・。」
呆れたような口調が聞こえる。
俺も苦笑しながら答えた。
「いや、生徒会の奴がぽろっと口を滑らせて、知っちまったんだよ。」
「かあー・・・。なんとずさんな情報管理体制なんだ。まあ、いいんだけどよ。明日のニュースで報道されるからな。」
「え、そうなのか?」
「おう、そうだぞ。まあ多分だが生徒会の奴もそれを分かっててお前に教えたんだろ。」
絶対朝比奈はそこまで考えてない・・・。
「まあ、そういうことにしとこう。で、だ。その事件なにが不可解なんだ?」
「不可解とまでいったのか、そいつは。」
「いや、俺の予想だが。でも、ただの連続殺人であれば報道規制されているのはおかしい。であれば、まだ警察が何かを懸念していると睨んだんだが。」
そこまで聞いた親父が電話越しにスパーとたばこを吸う音が聞こえる。
少し考えた後に親父は言った。
「まあ、お前になら言っといても良いかもしれんな。将来のためにもなる。だが、電話だと危ない。明日、お前学校休みだよな?」
「ああ、土曜だし。」
「なら、学園都市駅前に十時に集合しよう。そこで話す。」
「分かった。“朝”の十時だな?」
「“夜”の十時のほうがいいか?」
「いや、朝で。」
「そんじゃあ、また明日朝十時に。」
「おう、お休み。」
「お休み。」
プツッと切れる電話。
俺はソファーにボフッともたれ、体の力を抜く。
「今日は怒濤の一日だったな・・・。」
そうつぶやいた俺は今日あった出来事を走馬燈のごとく思い返す。
飯室先生はめちゃくちゃだったな。
近藤はちょっと鬱陶しい奴だけど悪い奴ではなかったな。
椎名さんはまじめな子だったな。
いろいろな出来事に思い巡らしていると、まぶたが次第に重く垂れ下がってきた。
あらがいがたいまどろみへ落ちていく最後の瞬間。
俺が思い出したのは、朝比奈の無邪気なあの笑顔だった・・・。
では、また、次のお話でー