昼飯
第4話です。
楽しんでくれてたら嬉しいです!
ギャグっぽいお話が好きなのでこれからもこんな感じで頑張っていきます!
では、どうぞ!
飯室先生の授業を終え、教室に弛緩した空気が流れ出す。
皆銘々に好きな友達と集まって弁当を食べるのかと思いきや、初日ということもあってまだまだグループも出来ておらず、一人で食べているものも多い。
俺も彼らに倣って、鞄から弁当を取り出し、いざ実食!と今まさに箸を伸ばしたそのときだった。
「遅刻魔!いっしょに昼飯食べようぜ!」
という明るい声が聞こえ、見てみると先ほどの授業で多くの発言をしていた近藤と呼ばれる男であった。
気に入らない単語があったので、俺は眉間にしわを寄せて彼を睨み反論する。
「いや、遅刻魔じゃないから。今日はたまたましちゃっただけだから。」
「そうかそうか。とりあえず、ここいーか?」
「いや、まあ良いけど。」
「よっし、とりあえず、椅子持ってくるわ!」
俺が言いよどんでいることを良いことに、弁当を机に置き去りにして椅子を取りに戻る近藤。
なんという強引な奴なんだ・・・。
俺が唖然としている間に近藤は俺の机に椅子を付けて弁当を広げ出す。
「で・・・いったい何の用だよ、お前。」
「・・・・・・?」
おにぎりを口に頬張りながら不思議そうに首をかしげる近藤。
「いや、だから・・・なんで俺と飯食ってんの?」
「え?食いたいから。」
「理由になってねーし。」
俺が呆れつつそう言うと、口に残っていたおにぎりをゴクンと飲み込んで笑う。
「いやあ、なんつーか、ピピッと来たっつーのかな?なんか気になったんだよね俺、お前のこと。」
「遅刻魔だからか?」
「いやいや!違う違う。何というかもっと根っこに近い部分でさ。でさ俺たち、友達になろうぜ?」
「え・・・・・。」
「おい!嫌な顔すんなよ!!」
近藤がいかにも残念です、という顔をするので俺は思わず吹き出してしまった。
それを見た近藤は自らも笑みを浮かべて、俺に手を差し出す。
「俺は近藤一。よろしく!お前名前は?」
「俺は竜崎理だ。」
差し出された手を握ると、痛いくらいに握りしめられた。
本来、不快であるはずの痛み。
しかし、なぜかは分からないけどそれほど悪く無い気分だった。
「それにしても、お前賢いのな。さっきの授業ずっと退屈そうだったし。」
弁当に入った魚の小骨を箸で取ろうと苦戦している近藤が視線だけを俺に向けて言った。
「いや、まあ、一通りの勉強はしてきたから。」
俺が何気なく言った言葉に近藤は目を見開く。
「なっ!重力学の全部をか?」
「え・・・まあ。」
「特殊相対性理論も一般もか?」
「うん、やったぞ。量子力学も標準理論も一応押さえてはいるし、電磁気学もマクスウェルの方程式ぐらいなら使いこなせる。」
「おいおい・・・・・マジかよ・・・。」
あんぐりと口を開け呆然とする近藤は手に持っている箸から魚の身がポロポロとこぼれ落ちていることに気づきもしない。
「おい、俺の机!こぼれてる!」
「おお・・・スマンスマン!」
手刀を切りながら笑う近藤を睨め付ける。
俺の鋭い視線に戸惑っているのか、から笑いとともに頭を掻く近藤であったが切り替えるように明るい声で話し出す。
「いや、でもそれにしてもすげーよ。いくらこの高校が優秀だって言ってもそこまで勉強している奴は初めて見たよ。」
「そうか?まあ・・・俺の場合少し環境が特殊だったからな。」
「どんな?」
興味津々な様子で目を輝かせる近藤。
期待に満ちた視線に俺は若干の戸惑いを覚えた。
「残念ながら面白い話ではないぞ。」
「もったいぶらないで聞かせろよー。」
「おい、やめろ、突っつくな!」
「ほれほれー、ほれほれー。」
近藤がしきりに俺の肩を突っついてくるのでめちゃくちゃ鬱陶しい。
「うざ・・・。」
「おい、真顔でそれはきつい・・・。」
「お前がしつこいからだ。」
「う・・・・でも聞きたいしさ。」
ガタイの良い近藤がしおらしい態度でこちらを見てくるので、俺は大きくため息をついて話しだす。
「はあ・・・・まあ、言ってもいいがあんまり他言するなよ?」
「もちろん!」
グッとサムズアップしてくる近藤はどこか胡散臭いが、これ以上引っ張っても諦めなさそうなので仕方なく話し出す。
「実は俺の父が警察なんだよ。しかも、特殊犯罪対策課。」
「あー・・・・あの最近発足したとかなんとかってやつか?」
「そう。電磁気学の発達に伴って、当然その科学技術悪用のリスクも高まるだろ?そこで、発足したのがその特殊犯罪対策課、っていう部署なんだ。」
「ほほん、それで?なんでお前がそんなに賢くなったわけ?危ない薬とか?」
「違うわ!」
「じゃあ、なんで?」
「父の方針として、俺をその特殊犯罪対策課に入れたいみたいなんだよ。科学技術を応用した犯罪に対する抑止力としてな。実際、この学校からも複数人親父に引き抜かれてるし。」
「まあ、この学校の生徒ほど適役はいないわな。電磁力の知識も実践での立ち回りも序列の最高位の方々はピカイチだろうし。」
「まあ、そういうこと。」
ふーん、とつぶやく近藤は何かを思案していたが、ふいに二カッと俺に笑みを向けて言った。
「なんかお前すげーな!テストの時はよろしく!」
「おい、お前、俺を良いように使おうとか考えてないだろうな?」
「そ、そんなことカンガエテナイヨ。」
「よーし、今すぐ絶交だ。」
「あー!ウソウソ冗談だから。まあ、テスト勉強は手伝ってもらうかもだけど・・・・。」
「はあ・・・。」
俺は何度目かも知れないため息をついた。
だが、近藤は急にまじめな顔つきでこう言った。
「でも、お前のその感じだと重力が電磁気に負けてるなんて一つも考えてなさそうだな。」
「当たり前だろ。なんでそんな事を聞く?」
「いや、俺もさ、この電磁気を学ぶ奴の方が優れてて、重力を学ぶ奴は落ちこぼれだ。みたいな風習が嫌いでさ。そりゃ、確かに力の強さも理論の成熟も電磁気には敵わないかも知れないけど。でも、それだけで、負け犬の烙印を押されるのだけは絶対嫌なんだ。」
そう語る近藤の言葉は真剣みを帯びていた。
この学校の中でも、今近藤が語った差別意識のようなものは根深い。
制服の色が違う上、少人数。
しかも、電磁気が最強だという世間の認識は強固。
となれば、自ずと、重力学を学ぶ学士は負け犬だ、というイメージは拭いがたいものになってしまう。
一部の生徒などは露骨に蔑み、クリープ(地べたを這いずる者)などと呼んで侮蔑する者もいるそうだ。
まじめで実直な性格の近藤にはそれが耐えられないのであろう。
俺もそれには同感だ。
「俺もそれは嫌だな。」
「そうだよな、だから俺はここでめちゃくちゃ勉強して、実践を積んで電磁力のやつらよりも強くなるって決めてる。」
「そうか。」
だからこいつはさっきの授業でも一人意識が高かったんだな・・・。
こいつの自己中心的な押しつけがましさは苦手だが、こういう向上心を持っているところは好ましく思える。
たぶん、飯室先生もそこを気に入っているんだろうし。
しかし、こいつの言っている“負け犬の烙印”を払拭する、という目標はなかなかに厳しいものであると言わざるを得ない。
少なくとも学園内の序列"CR;Combatant Rank"で上位に食い込んでいかなくてはならないだろう。
それには筆記試験はもちろんのこと、学期末に開催される模擬戦で上位に入賞しなくてはならない。
電磁力に重力では勝ち目がないと言われており、実際、この学園創立以来重力学専攻の学生が優勝したことはただの一度もない。
もちろん、こいつもそれを分かって言っているのだろうから下手に水を差すようなことは言わないが・・・。
近藤は決意を固めるように一つ頷き、まっすぐな視線を俺に向けて言う。。
「だから、竜崎これからもよろしくな。」
あまりにもまっすぐなその目に俺は少し照れくさくて頭をポリポリと掻きつつ応えた。
「まあ、こちらこそよろしく。あ、でも勉強は自分でやれよ?」
「おい!一番お願いしたいところそこ!!」
こうして、俺と近藤の昼休みは過ぎ去っていったのであった。
いかがでしたか?
楽しんでくれてたら嬉しいです!
また次のお話で会いましょう!