ようこそエレクトロニックワールドへ!
第2話です。
学園都市の紹介がメインのお話になっています。
主人公やヒロインも出てくるのでお楽しみに!!
列車の発射を告げるアナウンスが駅のプラットフォームに流れているのを背中で聞きつつ俺はエスカレーターを上がった。
エスカレーターを登り切ると、一面ガラス張りになっていてちょうどプラットフォームを見下ろせるようになっている。
見下ろすと、俺を運んできたリニアがプラットフォームを出て加速しだしている最中だった。
あの鉄の塊が数分後には、時速505キロにまでなるのだから電磁力の力は改めてスゴイものだと思わざるを得ない。
しばらく、眼下の風景を眺めていた俺はきびすを返して、改札を通る。
この改札口は俺のポケットに入ったパスを自動スキャニングしているのでなにもかざしたり、入れたりしないで済むのは本当に便利なのだが時折、残高が足りず改札を通れないと、スマートに通ろうとしている分だけ余計に恥ずかしさが増すのは気のせいではなく誰しもが経験したことがあるのではなかろうか。
今も後ろでビビー!という警報音が鳴り、赤面しながら精算機へと向かう女の子が見えたが、彼女の気持ちを慮って俺はできるだけ見ていなかったような振りをしつつ、我が学園都市、通称電撃世界へと続く出口に向かうのであった。
この春から通うことになった俺の高校は帝都第一工科高等学校。
一応この日本帝国随一の優秀な生徒が集まるエリート校だと言われている。
更にこの近未来型学園都市は日本に四つしか存在しない政令指定の学園都市であり、学校や研究機関が所狭しと軒を連ねている。
人口は約百五十六万人。
そのうちの約三十二万人が学生だというのだから驚きだ。
東京以外の政令指定の学園都市である大阪や博多、仙台でもこの学生の多さには敵わないであろう。
更に、学生の数だけではなく、この学園都市は電撃世界の異名通り、電磁気学が突出して発達した最先端の街である。
空には宅配をする「宅配用ドローン」が飛び交い、道路を走るバスもリニアモーターを搭載しているため、空中を浮いている。
電磁気の世界などと聞き及んでいたため、もっと荒廃したすすやオイル臭い街並みなのかと思っていたが、乗り物も空中を浮いて走行するので路面をアスファルトで固める必要がなくなり、至る所が緑地化されなんとも見ていて気持ちの良い景観になっていた。
もちろん、エネルギーなどは化石燃料や原子力などを用いない、クリーンな自然エネルギーですべてまかなっており、そこかしこのビルの屋上に太陽光パネルが備え付けてあるし、遠くに見える丘の上には幾つもの風車が回っているのが見える。
しかし、エネルギーをまかなう上で最も貢献の大きかったのはやはり超伝導技術の確立であろう。
従来の送電線ではエネルギーを電流として運んでいる間のロスが大きく、多くのエネルギーが熱として放出され無駄になっていたのだが、常温に近い温度でも超伝導が可能な合金の合成成功に伴って、エネルギー効率はほぼ100パーセントになった。
そのおかげで、この学園都市全体で消費される膨大な電力量を自然エネルギーだけでまかなえるようになったので、本当に超電導様様である。
待っていた信号が赤から青に変わり、俺は横断歩道を渡り出す。
周囲には学生とおぼしき姿がたくさんあり、俺と同じ高校に通う生徒もちらほらと見られる。
ただ、俺の高校は少し特殊で、なんと制服が二種類存在する。
俺の右隣で楽しそうに談笑する男子三人組が着ている制服の色は黄色。
襟元や袖口は少しあせた灰色のような色味であまり派手になりすぎない、エリート校らしい確かな品を備えた制服だ。
胸元には青色の校章が輝き、新入生である一年生だと物語っていた。
しかし、そんな彼らの制服とは対照的に俺の制服は全身真っ黒。
袖口や襟元は彼ら同様灰色であるが、彼らの制服と比べるとどうしても地味で陰気で暗い印象に見えてしまう。
胸元に光る校章も彼らと同じはずなのだが、どこかくすんでいるように感じる。
では、同じ高校の同じ制服でどうしてここまで制服が異なるのか、というと実を言うとうちの高校は専攻している科目によって規定されている制服が異なっているのだ。
我が高校には電磁気学専攻と重力学専攻の生徒二種類がいる。
そのうち、電磁気学専攻は黄色の制服を、重力学専攻の生徒は黒色の制服を着なければならないと学校の規則で定められており、その人がどちらの色の制服を着ているかでその人が何を専攻しているのかが一目瞭然となっているのだった。
まあ、自分と同じクラス、学科の奴らを見つけ出すことはこの制服のおかげで俄然やりやすいのだが、それにしても、同じ高校なのだから統一してもいいのではないかと思わずにはいられない。
電磁気学が発達したこの電撃世界では、当たり前だが、電磁気学が最もポピュラーかつ最も崇高な学問として扱われており、当然生徒たちもその聖なる学問を学ぶべく電磁気学専攻の道を進む者が多く、重力学はマイナーな科目という扱いになっている。
だが、望めばこの電磁気学を全員が全員専攻できるのか、というと残念ながらそうではない。
この高校は学力テストおよび実戦形式の模擬訓練、それに加えて適正検査の三つが入学試験となっている。
前者二つはおおよその検討がつくであろう。
我が高校は高校と言いつつも軍に所属する戦闘員および技術士の訓練所でもあり、しかも軍事訓練施設としては飛び抜けて高い評価を受けている。
なので、ここの卒業生および在校生は戦場でも一線級の戦力として扱われるらしい。
まあ、学内の序列上位者は一人で一小隊の戦力と同等と言われるほどなので、納得といえば納得である。
なので、この学校に通うに当たって戦闘力を測る模擬訓練は欠かせないし、もちろん学力テストも必要であるのだが・・・。
では、適正検査とはなんぞや、というと、簡潔に述べれば、文字通り電磁気学と重力学のどちらに適正があるか、という検査である。
そして、この適正が無ければいくら熱意があっても電磁気学専攻にはなれない。
つまり、重力学専攻の生徒には電磁気学にたいする適性がなかったと言うことになる。
では、適性検査では何を基準に適性を計っているのであろうか。
それは、因子の有無である。
電磁力因子「フォトン」と重力因子「グラビトン」。
このうち、「フォトン」を保有している者が電磁気学専攻となり、「グラビトン」を保有している者が重力学専攻となるのである。
この因子は力を発現するために必須の条件であるので、「フォトン」因子を持っていない場合にはどれほど焦がれても、電磁力を扱うことはできないし、電磁気学専攻にもなれないのであった。
だが、ご安心を。
この学校の生徒数は約千五百人であるがそのうちの約90パーセントつまり、約千三百五十人が電磁気学を専攻していることからも分かるように、ほとんどの人に宿っているのがこの「フォトン」である。
なので、この適性検査で落ちる事って言うのはほとんどない。
偶然、立ち寄った神社でたまたま買ったおみくじが凶だったことぐらい希有なことなのだ。
そして、俺はその凶を運悪くも引いてしまっていた。
俺には「フォトン」因子の影も形もない。
あるのはただ「グラビトン」因子。
それだけだ。
まあ、運悪くそうなってしまったものは仕方ない。
気にせず、自分のやれることをやっていくだけだと割り切れれば良いのだが、多くの人にとってそれはなかなか難しいらしい。
今も俺の黒色の制服を見て、先ほどの三人組が意地悪そうに嗤い、ヒソヒソと声を潜めて楽しそうに会話している。
おおかた、話の内容に察しは付く。
もちろん、あまり気分の良い話ではないだろう。
悪意というのは言葉を用いずとも伝わるものだ。
俺は彼らの粘つくような視線を振り切るため、歩みを早めて残りの通学路を急いだ。
十分も歩くと校門の前へとたどり着いた。
校舎は見上げるほどに高く、優に50メートルはあるだろう。
四本の塔が連なったような、中世ヨーロッパを思わせる珍しい造りであった。
中に入ると、精緻でかつ美麗な彫刻が至る所に施されており、高く伸びる天井は見事なステンドグラスがあしらわれていた。
おそらく、何か宗教的な暗示が隠されているのであろうが、科学者である自分には何のことかサッパリ分からない。
だけど、そのステンドグラスには見る者すべてを惹きつける魅力を放っていた。
しばらく、俺は建物内をふらつきつつ、いろんなところを眺めて回っていたのだが、さすがに定刻も近づいてきたため、あらかじめ指定されていた教室へと向かおうとした。
だが・・・・。
「・・・・・やばい、迷った。」
俺の独り言は高い天井へと吸い込まれ、あたりは静寂に包まれる。
周りを見渡しても誰一人いない。
いや、一人だけいた。
「失礼しました。」
お辞儀をし、扉を閉める少女。
「・・・・・・?」
少女は俺が見ていることに気づいたのか、不思議そうに首を傾ける。
彼女は黒縁のめがねにおさげをした典型的なメガネっ娘であった。
髪の色は少し茶色っぽい黒色。
全体的に地味な容姿であるが、目鼻立ちや顔の均整は取れているのでおそらく美人であることがうかがえる。
――この子に教えてもらうしかない!
あまり時間もないので俺は駆け足で彼女に駆け寄った。
「すみません。道に迷っちゃって、重量学教室0101号室ってどこかわかりますか?」
「あ、重力学教室に行きたいんですね。それだったら一号館分かりますか?」
「分からないです・・・。」
少し困ったように彼女は言う。
「そっかあ、まあ分かってたらこんなところまで来ないですよね。だってここ四号館ですし。」
「はあ・・・四号館・・・。」
俺の頭の中には全く学校の地図が入っていないため、いまいち要領を得ない。
そんな俺の様子を見かねたのか、彼女は苦笑しつつ説明してくれる。
「この学校は四つの塔からできてるのは分かりますよね?」
「はい、さっき外から見たんで。」
「その四つの塔の左から順に一から四まで番号が振られてるんです。」
「なるほど・・・ってことは・・・。」
「そう、君は真反対に来ちゃってるっていうことです。」
「そんな・・・。」
「あ、ちなみにこの四号館は最高学年の三年生と生徒会の役員しか原則立ち入りは禁止されてるんですよ。」
「え!!そうなんですか!知らなかったです・・・。」
「あはは、そこの入り口に注意書きが書いてあるんですけど、一応。」
「え・・・。」
俺は彼女が指さす方向に目を向ける。
「あ、本当だ。書いてある“関係者以外立ち入り禁止”って。」
「まあ、初日ですし気にしないでいいですよたぶん。」
「すみません。」
「いえいえ。ってまあ、私も一年だから偉そうにはできないんですけどね。」
そう言って彼女は胸元に輝く青色の校章を俺に見せてくる。
もちろん制服は黄色だ。
「一応自己紹介しときます。私、電磁気学専攻の椎名文。よろしくです。」
「俺は竜崎理。よろしく。」
彼女が手を差し出してきたので、俺もためらわずにその手を握る。
いや、断じて美少女の手を握りたいとかそう言うんではないぞ。
ためらうと余計に恥ずかしいからってだけで、ほんと他意は無い。
ホントだぞ?
誰とも付かぬ人に言い訳していると、ガララ、と今椎名が出てきたばかりの扉が開く。
そこから出てきたのは紛れもない美少女であった。
しかも、銀髪・・・。
いや、白髪なのだが、艶やかに輝くその髪は銀髪にすら見えてしまう。
肌も抜けるように白く決めは細かい。
冬の澄んだ青空を思わせる碧眼が、大きなサファイアのように輝いている。
制服から伸びた手足はすらりと長く陶器のようになめらかだ。
俺はあまりにも突然の邂逅に息をすることすら忘れて彼女の美貌に見入ってしまっていた。
「あんた、何してんのよ~~!!!」
つんざくような声が俺の鼓膜を全力で震わせた。
そこでようやく俺の意識は戻り、声の主は今出てきた美少女の者であると認識できた。
当の銀髪碧眼の少女は顔を真っ赤にして俺に向かって犬歯をむき出しにしている。
なにをそんなに激怒しているのか、と頭をひねっていると更に怒りをはらませた声が俺の耳朶を叩いた。
「あんたに言ってんのよ!さっさとその手を離しなさい!」
「・・・・・・?」
手?
俺は言われたとおり自分の手がどうなっているかを見た。
――あ・・・・椎名の手握りっぱなしだったー・・・・。
「・・・・・!」
「あ・・・・。」
俺が慌てて手を離すと、椎名は小さく叫びをあげた。
すると、銀髪美少女はまるで俺から椎名を守ろうとでもするかのように、椎名をひったくり、両腕で堅く抱きしめる。
「うちの椎名に何してんのよ!この変態!」
「おい、俺は変態じゃねえ!道を聞いてただけだ。」
「でも、椎名の手握ってたじゃない!それだけで万死に値するわ!こんな腐れ男の手で触られて、もし椎名の柔肌に湿疹でも出たらどうしてくれんのよ!!」
「どんだけ汚いんだよ俺の手は。」
「汚いに決まってるでしょ?どうせトイレ行っても手洗わないタイプでしょ?その汚い顔に書いてあるわ。汚らわしい、恥を知りなさい!」
「めちゃくちゃ言うなこいつ・・・・。」
独断と偏見による明らかな名誉毀損であった。
つーか、なんで顔見ただけでトイレで手を洗わないタイプとか見分けられんだよ。
俺がほしいわその能力。
あと、トイレで手を洗わない奴はマジでキモい・・・。
俺は眉間にしわを寄せ、こめかみに青筋をばんばん浮かせて臨戦態勢に入っていたが。
「まあまあまあ。二人とも、落ち着いて。」
と、椎名が間を取り持ってくれたため、俺は少し頭が冷えた。
そんな俺に対して未だ怒り冷めやらずといった感じの銀髪野郎(美少女とは口が裂けても言わない)に椎名が丁寧に弁解した。
「・・・・・とまあ、そんなわけで竜崎君は悪くないんだよ、雷ちゃん。」
椎名の弁明が終わり、沈黙が横たわる。
雷ちゃんと呼ばれた銀髪野郎は瞑目し腕組みして、黙考していたが。
「・・・・・・考えた結果、やっぱり死刑ね!!」
「なんでだよ・・・。」
もはや怒りを通り越して呆れてしまうばかりだ。
つーか、手を握っただけでこの国における極刑をご所望とは。
ヒトラー閣下も驚きの独裁国家だぞ・・・。
この銀髪少女、椎名のこと好きすぎて頭おかしいんじゃねーの・・・?
そんな憎まれ口が頭をよぎるが、賢明かつ大人な俺はなんとかそれをこらえて聞いた。
「はあ・・・・もう何でも良いから道を教えてくれ。」
「あなたみたいな腐れ外道に教える道なんか無いわよ!」
「めちゃくちゃすぎる!」
フン!と鼻を鳴らした銀髪はきびすを返し、椎名を連れて歩き出す。
「おい!」
彼女達の背中に声をかけるがずんずん歩き去っていく銀髪。
なので俺はもう、道を聞くことは諦めた。
「おい!お前名前はなんて言うんだよ!銀髪!」
ぴくんと肩をふるわせた彼女は、かかとをうまく支点にして体をキュッと反転させて仁王立ちになった。
大きく息を吸い込み胸を膨らませたかと思うと、先ほどにも負けない大声で俺の耳をつんざいた。
「お前でも銀髪でもないわよ!私の名前は朝比奈雷!次、変なあだ名で呼んだら許さないんだから!!」
フン!とここらでも聞こえるほど大きく鼻を鳴らし、ずんずんと歩き去って行く朝比奈。
彼女の脇に抱えられた椎名がひらひらー、と手を振ったのが曲がり角の最後のところで見えて消えた。
シンと静まりかえった誰もいない廊下にぽつんと取り残された俺。
あまりにも衝撃的な邂逅に俺は呆然としてしまっていた。
キーンコーンカーンコーン。
始業の合図であるチャイムが鳴り響く。
・・・・ん?チャイム?
冷汗が頬を伝う。
俺は信じられない思いで時計を見るが無慈悲きわまりない時を告げていた。
乾いた諦観が俺の心を凪ぐ。
――・・・・・・・・・まじで?
「・・・・・・やべぇぇぇえええええ!!!!!!!」
芸術的な建築様式の粋を集めたかのような美しい廊下に、あまりにも似つかわしくない汚い男の汚い叫びがこだましたのだった・・・。
その後担当教官に三時間説教されたのは言うまでもない。
いかがでしたか?
楽しんでくれてたら嬉しいです!
次話で会いましょう!