第4話 純白
「それじゃ、また明日な。」
雅が手を振る。僕らは別れて、それぞれの家に向かった。
…それにしても、折橋さんのことが…好きということを…他の人に言ってしまった。
今思うと、顔から火が出るほど恥ずかしい。顔が赤くなるのが、見ていなくても分かる。繰り返し、繰り返し恥ずかしさがこみ上げてくる。
だけど、雅が真剣に受け止めてくれて助かった。好きな人がいるなんて言ったら、あいつはもっと冷やかすんじゃないだろうかと思っていた。しかし、ちゃんと話を聞いてくれた。そういう所も、あいつが大人っぽく感じる理由なんだろうと思う。なんにしても、あいつが友達で良かった。
そして、夜になった。僕は食事と風呂を済ませ、部屋に戻った。明日も学校があるし、そろそろ寝るとするか。
布団に入り、静かに眼を閉じる。まぶたの裏側に、折橋さんの顔が浮かんでくる。白い肌。昼休みの時の優しい眼差し。普段は笑うこともほとんどないが、昼休みに二人で話す時はとても楽しそうに笑うんだ。きっと僕みたいなのを彼女の虜と言うのだろう。
僕は薄目を開けた。
「夢でも会いたい…。」
そう心の声をこぼすと、静かに眼を閉じた。
「…らぎくん。」
うーん。…何だ?
「柊くん、起きて。」
声がする?折橋さんの声?
僕は眼を開けた。すると、何とそこには折橋さんが立っている。
僕は声にならない声を出す。え…、え…?
折橋さんは、そっと笑った。
「あの…、折橋さん?」
折橋さんは僕の手をそっと両手で持った。そして自分の胸に引き寄せる。すごく柔らかい。
「え…、え…?」
僕は体中が熱くなる。全身が溶けてしまいそうだ。
それから、折橋さんは、服を静かに脱ぎ始めた。
「どうしたの…、え…。」
僕は眼をつぶろうとするが、力が入らない。
折橋さんは、全ての衣類を脱ぎ終わった。そして、僕の体をそっと抱いた。
体中が熱い。…だけど、こんなのだめだよ。
「キス…。しよ?」
そういうと、折橋さんは目を閉じて唇を寄せた。
そんな、だめだよ…。まだ、心の準備が…。まだ…。あ、あっあ…。
…そこで眼が覚めた。
何だ、今のは…。僕の夢だったのか…。
それにしても、こんな夢を見るということは、僕は折橋さんの事をそういう眼で見ているということ…?
いや、違う。僕が折橋さんのことを思う気持ちは、本気で清純なものなんだ。決して、嫌らしい気持ちで彼女のことを思ってなんかいない。
でも、折橋さんの裸は良かったな…。もう一度見たいような…。…って、いかんいかん。何を考えているんだ、僕は。
そして、そこで何だかパンツの中がヌルヌルした感じがすることに気づいた。…え、何だこれは。おそるおそる布団をまくり上げ、パジャマを下げた。
「あっ…。」
その次の日、いつものように学校へ行った。そしていつものように昼休みになった。
僕はいつものように折橋さんの隣に座った。だけど、横を向くことができない。
「柊くん…?」
「え…?」
「どうしたの?何だか、元気がないみたい。」
「そ、そんな事ないよ。大丈夫だよ」
そう言って、僕は折橋さんの方を見た。すると、昨日の彼女の姿が脳裏に浮かんだ。やめろ、そんな事を考えたらだめだ。
そんなことを考えながら、ズボンの中心部が膨らみそうになるのを、必死にこらえた。
どうしてこんな事になってしまったのだろう…。僕は純粋に話を楽しみたかったのに…。
その日の帰り道、雅を誘った。昨日のことを相談したかったのだ。だけど、なかなか言い出せずにいた。
そんな僕の様子を見て、雅が口を開いた。
「和馬、何か言いたいことがあるんじゃないのか?」
僕はドキッとした。
「え…、何で分かったの。」
「そんなの、顔を見れば分かるだろ。いいから早く話せよ。」
僕は恐る恐る昨日の夢、そしてその一連の出来事を話した。
「ぶわっはっは。」
雅は腹を抱えて笑い出した。覚悟をしていた事だが、顔から火が出るほど恥ずかしい。
「やめてくれよ、恥ずかしい事をしたというのは分かってるんだ。」
「悪い、悪い。そんな事があったのか。」
「…なあ、雅。僕って汚い人間なのかな…。」
「何が?」
「折橋さんのそんな夢を見るなんてさ…。」
雅は少し黙った。そして口を開いた。
「好きな子の裸を見たいとか、エッチしたいとかいうのは、俺らの年頃だったら普通の感情だ。別にお前だけじゃない。俺だって思うことはある。むしろもっと前から思っていた。」
「え、そうなのか?」
「ああ。だから、気に病むことはない。」
「だけど、…何というか折橋さんに申し訳ないというか…、彼女を汚してしまった気がして。」
「別に夢は夢だ。お前が悪いわけではない。」
そう言うと、雅はこちらを向いた。
「なあ、お前は折橋のことが好きなんだろ?だったら、自信を持て。お前がやらしい眼で折橋を見ているなんて、全然これっぽっちも俺は思っていない。」
「…そっか、ありがとう。なんか元気が出たよ。」
雅に話をして、本当に良かった。
「それにしても、そんなに好きなら、もう少し仲良くなることを考えないとな。」
「え…?」
「いつまでも、いっしょにご飯食べるだけの仲でいいのか?もっと…こうあるだろ。一緒に映画行きたいとか。」
「うーん、行ってみたいけど、それはハードルが高いような…。」
二人で、どうしたら折橋さんともう少し仲良くなれるか考えた。
「それならまた今度、折橋さんと2人で帰ろうと誘ってみようと思うんだ。」
「あー、いいじゃん。やってみろよ。」
「うん、そうする。」
折橋さんと、2人で帰る…。考えるだけで、少し恥ずかしいな。そういえば、どこに住んでいるかも知らない。折橋さんのことを少しは知った気でいたけれど、まだ全然彼女のことを知っていない。
もっと、彼女といたい。帰り道もいっしょにいたい。学校だけでなく、休みの日も一緒に遊びに行きたい。
もっと彼女のことを知りたい。何が好きなの?そして、僕のことは…どう思っているの?