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少年は困っていました。
何故か、時間がいつもより長く感じられるのです。
いつもは、「ああ、自分はいつもより緊張しているんだなぁ。」と感じるくらいなのですが、今回はそうもいきません。それぐらいの問題なのです。
ほわんほわんと色々な考えが浮かんでは消えていくのですが、やはり問題は解決しそうにありません。
少年は自分がさっきまで小説を読んでいた静まり返った教室の壁にもたれかかりました。
少年は改めて自分がもたれかかっている白い壁とは反対側の壁にかかっている時計をとても、とっても緩慢な動きで見てみました。
少年は普通の速さで首をもとの状態に戻しながらため息をつきました。
やはり、そうなのです。
少年がこの問題に気づいてから、まだ1秒も経っていません。
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少年は自分の握っているぼろくなったカバーのついている本に視線を落とし、それをせわしなく動かしていました。表情筋は死んでいます。太っていて、体格はいいです。ついでにたらこ唇です。
読んでいる本はいわゆるラノベです。女子にばれたらスクールカーストがスードラぐらいに落ちるようなタイトルのラノベです。
少年はそれを、じーっと読んでいます。
周りは相当うるさいのですが、それでもじーっと読んでいます。
少年もさっきからうるさいなぁ、と感じていますが、注意も話しかけもしません。注意しても無駄だと解っているからです。話しかけないのは、話している内容に興味が無いからです。コミュ症だからとか言うオタッキーな理由では決してありません。決してそんなことはないのです。だから彼女やらなんやらがあばばばばばばば
少年はバカみたいな思考に脳が囚われて本を読むのが止まっていることに気付いたので、あわてて本を読み直しました。
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今日は死ぬのにはもってこいの日だ。
いや、名言を言いたかっただけとかじゃなく本当にそうなんだ。
うーん、俺の人生長かったなぁ。
ま、実時間では3日も経ってないわけですが。
本当に、本当に、長かったなぁ。
いやー、こんなの無ければいいのにな。というか神隠しも絶対これだろ。
次はあいつかぁ。
まぁ手紙も書いたし、大丈夫でしょ。
次の人はうまくいってほし
あ、
やべ。
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だいぶ経ちました。
すっかり熟読してしまって、700ページもあるのに中ほどまで読んでしまいました。
……あれ?
これはたかが休み時間です。そこまで本が読めるわけがありません。
後ろを見てみます。
そこには誰もいないはず――――
居ました。
全員がいました。
ある人は楽しそうに、本当に楽しそうに友達と笑い、ある人は人間関係など知らないといった風に勉強をし、ある人は学校という限られた時間を噛みしめるようにはしゃぎ、ある人は学校なんて早く終わってしまえと言った風でつまらなそうに過ごし、ある男女は目をキラキラさせて喋り、ある人は寝ています。そのほかにもいろんな人がいて、改めて無個性な人などいないと実感させられます。
ですが、異常なのです。
楽しそうに笑っている人は口をあけたまま動かず、勉強をしている人は少し嬉しそうに問題を解いているにもかかわらずシャーペンが動いておらず、はしゃいでいる人は走っている途中でその体制が止まっており、つまらなそうにしてる人はいつまで経っても表情が憮然な表情からかわりません。恋人同士だと思われる人たちも|唇を近づけたまま動かず、《教室で何やってんだ》あの人も―――あの人も―――あの人も―――あの人も―――あの人も―――あの人も―――あの人も―――
全員まったく動いていませんでした。
おそるおそる人をぺちぺち叩いてみても何も反応してきません。
全員の時が止まってしまったかのようです。
ゴクリ。
いやそんなことはしてはいけないそうだこの状態がどれくらい続くかわからないんだぞ考えろよそれくらいいや君にそんな性的嗜好があることは私も知っていますよええだからこそやってはいけないそうそんなのはエロゲで十分じゃないか考えろよドボケそうエロゲやった時の興奮がその時高まるじゃないか解ってないなもうだから君はダメなんだきみは じつに ばかだなぁ。
少年は耐えることができました。
さて、状況は把握できました。
どうやら時が止まっているらしく、あ~れ~でムフフなこともできてしまうような状態のようです。
つまり!
つまりは!
豚に真珠とはまさにこのこと。少年は手持無沙汰になってしまいました。
やることもないので時計を見てみました。
あれ?
秒針は、ほんの少しづつ動いていました。
本当によく見ないと解りませんが、ゆっくり、ゆっくり動いています。
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