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ヘックス  作者: 直線T
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6

 街を歩いていた。平日の休校日であるために人はあまりいない。

 「依然脱獄囚は見つかってはいません。吉沢さん、囚人の一人と思われる男が魔法学校日本校を襲った事件が話題になりましたが、彼らの目的はなんでしょうか?」

 「彼らは魔法とは関係なく生活してきており-」

 (テスター・・奴らの目的は二の次だ。また襲ってくるようなら対策を第一に考えなきゃ・・)

 河川敷まで歩いてきていた。腰を下ろした。

 「俺の少ない魔力で出来ること・・・」

 衛紅は焦っていた。依然自身の実力を掴めていないこと、他の生徒達との差、遠い父の背中に焦りを隠せないでいた。

 「どうすれば俺はあの日、佐野に助けられたような失態を犯さないで済む・・そうだ、魔族だ。魔族が現れれば俺だって実力を・・」言いかけて衛紅は我を疑った。

 「坂野先生、俺はあなたからもらった炎をどうすればいい・・」

 なんだかふらふらと自転車に乗る少女が通りかかった。赤の他人なのでそのまま寝そべって空を見ていた。するとガシャンという音とともに転げおち、川へと落っこちていった。

 「おいおい・・」

 駆け下りて少女を救い上げた。おそらく小学一年といったところで、あたりを見回しても親らしき影はなかった。

 「大丈夫?」

 「ありがとう!」

 ドクン、何かに胸を締め付けられるような感覚がした。

 「っつ・・、怪我は?」

 「大丈夫!」

 少女は思っていたよりも元気で、子供ってすごいなぁと感心した。

 「お父さんとかお母さんは?」

 「二人とも忙しくて・・」そう言ってぺこりと頭を下げた後、また自転車をこぎ始めた。

 幼い時だった。彼女と同じように両親が忙しい家庭のために一人で遊ぶことが多かった。もちろん朝や夜はかまってくれたために、無理は言わなかったし嫌いになるはずもなかった。しかしそれでも一人で遊ぶということへの抵抗もあり、遊びではなく特訓として自転車の練習を一人でしていた。人に見つかると家族に迷惑をかけるかもしれない、そう思って自分もここで練習していた。

 「ボウズ、生傷が痛々しくてたまんねぇや。ちょっと手伝ってやるから、ほれ、乗ってみ」

 そう声をかけたのは今の衛紅より少し年が上の青年だった。小さい頃の記憶で、もうどんな顔なのは覚えていない。それでも粗雑な言葉の裏にある優しさだけは感じ取れた。表に優しさの出る両親とは反対の青年に少しばかりの憧れを感じたのを覚えている。

 「危ないよ」ふらついて今にも倒れそうな自転車のかごを掴んだ。「俺が見とくからさ、練習しよう」

 「うん」少女は不思議そうに答えた。

 (男と違って単純じゃないな~)

 「うーっし」リアキャリアをつかんだ。「いくぞー」

 最初はゆっくり少女が感覚をつかめるように押した。

 「お兄ちゃん、まだだからね!まだだからね!」

 「ほいほい」

 段々と速くしていく。懸命に少女がこぐ。

 「もう、大丈夫ー!もう放していいよー!」

 そう言っている頃にはもう衛紅は手を放していた。

 「まだー?」

 そういいながら離れていく姿を見てうれしくなった。「もうとっくに放してるぞー、そろそろブレーキしなー」声をかけながら小走りで後を追った。

 「出来た!出来たよ!」

 「いやーまさか一回でいけちゃうなんてね、天才だよ」

 頭をポンポンと叩くと少女は疑いの無い笑顔で喜んだ。

 「ありがとう!」

 衛紅はハっとした。

 「うぬぼれるな雪乃衛紅」坂野先生の言葉が蘇った。「君は後悔と疑心の前に感謝という気持ちを抱くべきだ!」

 (そうだよ、答えはいつだってシンプルだ!ありがとうの言葉が聞きたいから人は人を助けるんだ。過ぎ去った時を顧みるのではなく、これから歩む未来を見つめて欲しいから、ごめんなさいじゃなくありがとうを聞きたいから人は人を助けるんだ!)

 「共に歩む仲間ばかり見ていて、躓く誰かを見ていなかった。倒すべき敵にばかり振るう拳を握って、助けを求める声に耳を傾けようとしなかったんだ・・・ほんと馬鹿な奴」

 「お兄ちゃん?大丈夫?」

 「なんでもないよ、ありがと」

 「どういたしまして!」

 こんなにも真っ直ぐに向き合えるなんて、衛紅は道を閉ざす大きな石にばかり気をとられ、手を取って助けあう仲間の存在に気づかなかった。答えはいつだってシンプルで、数え切れないほど多彩に広がっている。そこに答えなんてない。

 もう少女は帰る時間だった。慣れたように自転車に乗る。手を振って見送っていると前から男が歩いてきていた。視界に唐突に現れたために気づくことが出来なかった。少女は男性にぶつかった。

 「いたた・・・ごめんなさい」

 「すいませーん!」衛紅は駆け寄った。

 男は突然少女の首を掴んで持ち上げた。

 「う・・」

 (なんだ!?)

 衛紅は男の手をつかんだ。

 「はぁ・・はぁ・・あんた何してんだ」急いできたために腕に力が入らない。しかしそれにしても力が強すぎる。「放してくれ、まだ小さい子だ」

 男は不気味だった。まるで力も化け物で目もじっと少女を見るばかりでこちらには見向きもしない。様子がおかしい、誤解なら退学じゃ済まないが衛紅は右手に炎をともした。そして右手で男の腕を掴んだ。すると男の腕はボコボコと膨らみ、中から黒い新たな腕が見えた。鋼鉄のように硬く、そして相反する柔軟さをもっていた。

 「貴様・・」

 男は少女を投げ飛ばした。スピードとパワーからしてきっとただでは済まない。衛紅は手から少女が離れてすぐに炎で加速して少女の抱きかかえた。傷つかないようにやさしく抱き、代わりに衛紅の体は打撲と擦り傷で血だらけになっていた。

 「う・・」よろよろと立ち上がろうとする衛紅に、男はラリアットを食らわせた。「うぐっ!」幸い少女は下ろしていたが、衛紅は空中で一回転した。

 男は手ごたえをあまり感じずにいた。それもそのはずだった。ラリアット受ける首周りと、頭と地面の間に魔力の壁を作っていた。あり地獄のようにゆっくりと包み込む魔力の塊、そして衝撃を殺す脆く何層にも亘る魔力の壁、それらは神主に教わったものだった。

 「驚いたか?気が動転していた先ほどの俺と違う、と」衛紅は立ち上がった。「初めは確かに動転した。お前クラスの魔族に遭うのはもちろん初めてだからだ、イービル」

 男は顔の皮を剥いだ。中からは灰色の肌と無感情の目、禍々しい角を持った神話に登場する悪魔そのものの姿をする者が現れた。

 イービル、ランクEに属する魔族の一種。比較的発生率の高いフット、奇襲に特化した知能を持たないドラグレスと違い、人間ほどとは行かないが戦闘に特化した知能を持つイービルは数が少なく目撃情報も少ない。男を見て分かる通り、感情に乏しいことや寡黙であること以外に特徴といえる特徴はない。

 「俺はちゃんと燃えてる」衛紅は胸に手を当てた。炎がゆっくりと手を覆った。「燃やしてるのは俺の心じゃない、助けを求める人の心だ」

 イービルは素早く距離を詰めた。

 (イービルに知能はあるが恐れはない、目くらましは無意味か)

 拳を衛紅の顔に向けた。衛紅は炎を少量噴射して体をのけぞらせた。そのままかがんで足払いを狙った。しかしイービルは一見細身に見えながら、びくともしなかった。

 (スピードタイプかと思ったけど体重から察するにパワーも相当)

 イービルは衛紅の髪を掴んで素早く引き上げ、膝蹴りを顔面に食らわせた。魔力の塊で威力を殺していても強烈な痛みを感じた。

 「うぐっ・・」

 衛紅は髪を焼ききって距離をとった。

 (俺の炎は皮こそ消し去ったけど、中の皮膚は軽症も良いところだった・・)

 「少し考え方から行きましょう」頭に声が聞こえた。

 衛紅はニヤリと笑った。「エネルギーとは凝縮されるほど密度を増し、それは力と硬さを比例させます・・か。やっぱり授業は聞いとくもんだな!」

 衛紅は左手で右の拳を掴んだ。「よしっ!」両手に炎を灯す。

 イービルは、また素早く距離をつめた。左拳を振るう。衛紅は右手の噴射で方向転換をした。リチャージ前に使用できる炎はわずか、最小限の噴射によって衛紅のわき腹はわずかに削られた。

 「ぐっ」

 そのまま衛紅はイービルの体へと張り付き、手のひらに魔力を凝縮してイービルの額に当てた。肉が焼ける音、イービルがもがき苦しみ衛紅の背中を掻き抉る事もかまわずひたすらに顔を焼き続けた。イービルが膝から崩れ、仰向けに倒れるまで焼き続けた。

 「ガ・・・ギ・・ギ・・」

 断末魔が終わる頃には一掴みの消し炭と大男の細身の男の死体だけがそこにあった。

 ガシ・・ガシ・・確かに地面を踏みしめる足音と二メートルはあろうかという巨漢の悪魔、気絶する少女を抱える手を下ろし、衛紅は振り返った。

 「・・再点火だ」

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