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「魔法使いがこの世界にわずかしかいないことを説明できる人」
「ハイ」佐野が手を挙げた。「魔力を体内に有する者は少なく、一説によりますと最初の発見は一千年前ですがそれ以前に存在していたと言います。現在では生まれてくる子供の約7000分の1と言われています。増加傾向にはありますが全人口に比べれば魔法使いの比率は微々たる物と言えます」
先生は面倒くさそうに拍手をした。「はい、ありがとうございます。今の話の三分の一程度をテストで書けるようにしましょう」
いつも魔法基礎の授業の後は実習になる。今回は以前の実習と違い2マンセルとなっている。前回の実習を少し難易度を下げたものである。いつものように四人で実習室まで向かった。前回の結果を引きずっているのか、衛紅はなんだか落ち着いた気分でいた。内容も同じ、それがただ二人になっただけだ。先日、実物の魔族退治をしたことも影響していた。
「じゃあ俺と水野君、高木君と雪乃君ペアということで行こう。全く前回と同じチームで割ってくれとは相変わらず堕落しきっているな」
「でも俺は少し安心かも・・・前に上手く出来たからかな」
すると後ろから安田先生がやってきて佐野と衛紅の肩を掴んできた。
「よぉ、やけに自信ありげだな。」
「僕はそんな・・」
「ま、未来の即戦力となってくれるとおっさん達もありがたいんだがな」
四人に手を振った後、安田先生は自身の研究室に向かった。向かう途中、安田先生は不敵な笑みを浮かべた。
結果はひどいものだった。佐野・水野ペアは文句なしの一位、しかし衛紅・高木ペアは十六位というなんとも言えないスコアだった。二人の励ましや気にしていない高木の言葉も耳に入らなかった。入ってくるのはひそひそと聞こえる陰口のみだった。
「やっぱ佐野と水野がすごいんじゃん」
「雪乃の父さんってあの有名な?まじかよ・・」
「ただの凡人じゃん」
すべては幻聴だった。多少思っている人もいたかもしれないが、誰しも悪人ではない。自身のことで手一杯で他人をさげすむ時間はない。しかし当人には聞こえぬはずの声が聞こえていた。
「息子と恵子さんの血を引きながら魔法が発動しないはずはありません」決して手をあげることはなかったが、ただまっすぐに自身を非難する祖母の声を思い出した。「残念です」それから祖母は一度も衛紅の目を見ることは無かった。
衛紅は放課後図書館に向かった。魔法についての本を漁る。呪術や召還魔法、うさんくさいものが書かれている。
(だめだ・・古書を漁っても現代魔法のヒントは得られない・・)
衛紅は呆けていた。ただ呆然と虚空を見る。そこに高木が現れた。衛紅の横に座る。
「なぁよ、そう落ち込むなよ。平々凡々上等じゃねーか?むしろ悪くなかっただけ良しとしようや。俺たちあの二人の足かせじゃなかったんだぜ?きっちり役目をこなせて戦えてた、立派な兵士じゃんかよ」
「ただの子供ならね・・それも良いかもしれない。でも俺は二人の偉大な魔法使いの血を引いているんだ。今まで魔法が発現しなくて、だからきっと負い目を感じながらも楽な人生を得られたかもしれない。でも俺には魔法が発現した、ただの魔法使いじゃだめなんだ、父さんを追うって決めたんだから」
あの日の光景が浮かんだ。ショッピングモールで龍人に襲われたとき、佐野の冷静な判断のおかげで戦いに巻き込まれずにすんだ。生きながらえた。父と佐野の二人のおかげで生き残れた。尻尾を焼いたときだってもっと早く出来たし、そうすれば受け止めてもらうような失態を犯すことはなかった。
「今まで魔法から遠ざけられていたのだから、スタートダッシュが遅れていたのだから周りと劣るのはよく理解している。しかしそれを押しのけて父の名に恥じない魔法使いになるのが俺の夢なんだ!」
高木は衛紅の肩に手を置いた。そして笑った。
「その覚悟に付き合ってやるよ」
学校の裏にある山の中、そこには神社があった。
「ねぇなんで神社なんか・・」
「ここにはよ、なんでも魔法に詳しい神主がいるそうなんだよ」
(魔法使いの神主って・・)
鳥居をくぐる。境内を掃除している神主さんがいた。穏やかな表情で箒を掃いている。六十くらいの歳だろうか。背は曲がり、もともと低いのもあってすごく小さい印象を受けた。
「たのもー!」
(・・・)
「おやおや、若い人が来るなんて珍しいねぇ。お参りかい?」
「いえ、実は魔法について教えていただきたく」
(こんなこと言うのもなんだけど絶対知らないって・・)
「そうかいそうかい。まぁおあがりなさいな。お茶でも出そう」
「・・・え?」衛紅は真実であることに驚いて口をポカーンとあけた。
リビングまで案内された。小さなテーブルとテレビ。二人はお茶と菓子を出されるとお礼をした。普段からジャンクフードや体に悪そうな菓子ばかり食べていると、すごく心が洗われる気がした。お茶が温かい。
「ふむふむ」二人が強くなりたい経緯を聞いた。
「では君」神主は高木を見た。「このお茶を見ながら魔力を出してごらん」
高木は見せやすいように膝を立てて座った。左足に力を入れる。すると黄色の魔力はゆっくりと現れた。広く上空に向かうように消えていく。
「・・あれ?」疑問に思う高木を見ても衛紅はその理由が分からなかった。
「ふむふむ、では次に魔族を考えながらやってごらん」
「はい」
すると出された魔力は同様に黄色く、上空に上がっていくが、先ほどより広くない。わずかだが地面へと這うように消えていくものもある。そこでようやく衛紅は神主の言いたいことが理解できた。
「そう」神主は手を目の高さに上げた。すると緋色の光が手のひらの前に現れた。最初の高木の魔力と似た雰囲気を感じる。「魔力には性質がある」神主は手のひらで魔力をやさしく割いた。指の間を抜ける魔力は空気のようにやわらかい。
神主は手のひらを上に向けた。次に出された魔力はなんだか重たい感じがした。色も濃く、奥が見えない。動揺に指で割くと、まるで水のようにまとわりついた。
「感情を操作することが一番手っ取り早くてのう、それを自由に扱えればワイズマンにも近づくじゃろうて」
(粘度を変えることで手から放してもすぐには離散せず、且つ防御にも使える盾となる・・か。これが佐野の魔法の根源・・)
「魔力には適材適所がある。例えば散弾を相手が扱うのならば、面での威力は相当なものだが一発一発は大したものではなかろうて。となれば薄く広く魔力を広げる、そして硬いものに」神主の前に薄く広げられた魔力が現れた。「反対に一発の威力が高いということならば奥行きが必要になるじゃろう、しかし硬すぎれば魔力自体がはじかれる結果にもなろう」正方形の魔力の塊に指を入れた。まるであり地獄のように指がゆっくりと吸い込まれていく。「適度にやわらかくすることで力を殺すという手もある」
神主は二人を再び境内に案内した。
「さて、君はどんな魔法かな?」神主が衛紅を見た。衛紅は胸を手を当て、手に炎をともした。「ほう・・なんと珍しい魔力じゃ」
「一応放出できます」
「では君を後衛、もう一人の彼を前衛としよう。私を倒す連携をしてみなさい」
「じいさん攻撃するなんて気が引けるぜー」
高木の目の前に魔力の拳が現れ、顔面にパンチを食らった。「反撃をされたいのならワシはかまわんが?」
「なんか高ぶってきた!」
衛紅は炎の弾を作り出し、小さく分けながら様々な角度から飛ばした。しかしそれらすべてを分散した魔力の盾で封じられた。今度は一方向に集中して飛ばした。一枚の盾で先ほどよりも容易に防がれた。神主はにやりと笑って見せた。
(俺が隙を作って前衛の高木に決めさせたい・・しかしどれほどの魔力があるのか・・)
蹴りを入れてくる高木を分厚い正方形の魔力の盾で防いだ。
(炎の少年は基本的な使用のための魔力が少ないようじゃな。しかし充填に時間が掛かるだけで絶対値は底知れぬ。足の少年は使用魔力を自身で少なくしているのかな・・?)
「くっ!」
最大火力の炎を飛ばした。しかし同様に一枚の壁で破られる。
(考えろ・・どう活かす・・粘度をどう活かせば・・)
その瞬間、盾に炎がわずかに燃え移ったのが見えた。0コンマといったほどの短い間だったが確かに見えた。そのときドラグレス戦を思い出した。何もかもに必死で意識していなかったが、尻尾を断ち切ったのではなく焼ききったのだ。
(炎・・・そうだ、魔力に属性があるなんていう事例はほとんど聞いたことがない、でもほとんどないだけで可能性はある・・炎は僕のイメージじゃない、実際の炎なんだ。珍しいと言う言葉、可能性があるとしたらこれだ)
「高木!」
振り返って高木は頷いた。高木も何か思うところがあるようだった。
手の炎を小さく絞った。わずかな量だが粘度を変える。小さくも張り付くように、ガムのように。炎を飛ばした。炎は盾に防がれた。しかし壁を流れる雨水のように、それでいてゆっくりと魔力は盾を流れた。
「燃えろ!」
声に反応したように魔力は盾に燃え移った。元が小さいためにゆっくりとではあるが神主の魔力を炎で飲み込んでいる。
「馬鹿なっ!」
(特性が炎ならばっ!)
神主は魔力で炎を包み込んだ。酸素を失えば炎は消える。しかしその隙に高木が蹴りを入れた。正方形の盾に足が飲み込まれていく。
(まだ切れねーのなら!)
高木は力を入れた。すると足の魔力がパンのように膨らんで正方形の魔力を突き破った。サボテンのように針が飛び出している。それを防ぐ盾を用意せず、神主は危機一髪で反対に逃げ果せた。その瞬間、高木の影から現れた衛紅が最大魔力量で手に纏った炎を顔面に向けた。当たる直前にピタリと止める。
「ふむ、いい連携じゃ」
二人は魔力を消し、深々と頭を下げた。
「ありがとうございました!」
その後さわやかに帰ろうとしたが神主に捕まり、上京した息子への寂しさと送られてくる孫の写真自慢について三時間聞かされたのだった。