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ヘックス  作者: 直線T
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 川原を歩いている。時刻は夜の十二時、首都ではあるがじいさんばあさんばかりが住んでいるこの町では人っ子一人見かけるはずもなかった。暗く視界の悪い今でも長く続く川原の先にやはり人の姿は見受けられなかった。

 肌を滑る水滴を拭う。そうだこれは涙だ。拭った涙を見るとさっきの光景がフラッシュバックした。

 「どうして魔法が発動しないのって、つらさを押し殺して私は過ごしてきたの・・義母さんの小言だって耐えてきたの・・だってそれはあなたが魔法に関わることをしないって、そう誓ったから・・」

 両手で顔を抑えながら母はこれまでの苦悩をぶつけた。父は震える母の肩をやさしく抱き、どうすればよいのか困惑する息子に優しく頷いた。

 事の発端はまだ父の帰っていない午前中に起きた。風邪で学校を休んだ少年は買い物に出る母を見送った後に部屋で雑誌を読んでいた。もう良くなっている、テレビを見たいと言ってソファの上で寝ていた少年は毛布の下に雑誌を隠していたのだった。リビングと玄関前の廊下の間にはドアがある。そのためドアを開ける音はわずかに聞こえるものだった。忘れ物を取りに帰った母はドアの音を聞いた息子と目が合った。

 「どうして・・あなたは魔法に関わらないって・・でもなんでそれを・・・」まるで状況の整理できない母は疑問のみを口から吐き出していた。

 文章になっていない言葉を少年はよく理解していた。手元に開いていた雑誌には父の写真が載せられていた。

 「エイク、母さんは大丈夫だから自分の部屋に戻っていなさい」父にはそう言われたが居心地の悪いエイクは早足で外に出て行った。

 ドアを開けると肌を撫でる風を感じた。季節は冬で、半そでにジャージで出てきたエイクは体が震えた。一度出てきた家に戻るわけにもいかず、震える体をどうにか気合でふんばりを利かせて耐えながら歩きだした。ただただ誰ともすれ違うことのない道を孤独と歩いた。

 川原を中ほどまで歩いていくと涙は夜風が乾かしていた。川まで降りて顔を確認すると涙で目が腫れていた。

 (これじゃ泣いたってばれちゃうや・・・なんでこんなこと気にしてんだろ)

 ため息をつくと腰を下ろした。まだ始めのページすらまともに読んでいない新品の雑誌を見た。表紙にはかっこよく映る父の姿、目が慣れてきているとはいえ暗闇の中で雑誌に書かれている小さな文字は読めない。見出しとなんとなく褒められている父の紹介を流し読みした。ぺらぺらとめくっているとわずかに文章が見えた。『息子さんには魔力が遺伝してないようですが?』それを見てまた目頭が熱くなった。今度はこらえようと下唇をかみながら雑誌を閉じて脇に置いた。

 『お前には優秀な魔法使いの父と母の遺伝子が入っておる。きっと素晴らしい魔法使いになるよ』

 幼い頃は言葉通りの意味にしか捉えることが出来なかった自分はとてもはしゃいだ。しかし今となっては心臓を捕らえて苦しめる鎖だ。

 「魔法は好きか?」

 驚く元気の無かったエイクはうつむいたまま答えた。「僕は・・」

 声は続けた「嫌いか?」

 「・・嫌いじゃ・・ないです」

 「好きか?」

 「・・うん」

 「ならいい」

 自問自答をしているような気分だった。体の震えは止み、こらえていた涙はどこかへ行ってしまったようだった。顔を上げ、左右を見ても人の姿は無かった。閉じたはずの雑誌は先ほどのページで開かれたまま置いてあった。風はない。

 なんだか自分を追い詰めていた感情へ対抗するように感情がわいて来た。怒りに近いが憎悪はない、こんちくしょう!まるで漫画に出てくるような言葉を叫びたくなるようなそんな感情だった。

 「魔法が好きか・・か」足に力が入る。立ち上がって顔を上げた。「好きだ!僕は魔法が好きだ!父さんが憧れで、父さんみたいな魔法使いになりたいって思ってるんだ!」

 叫んだ後で、自身の本音に驚いて笑いがこみ上げてきた。

 (僕は父さんみたいな魔法使いになりたかったんだ)

 押し殺していつしか忘れてすらしまった感情を取り戻した。魔法使いになりたい、湧き出る感情で胸が焼かれてしまう。右手で胸の温度を感じた。右手を離すと、闇夜で分かりにくいが右手を何かが包んでいるのが見えた。

 「これ・・・」

 それは炎だった。深く深い紫色の炎が右手に宿っていた。手をすばやく下ろすと、炎が残像のように目に映った。手に宿る炎は次第に大きくなる、それは自身がそうしているのだと理解していた。恐れは無い。炎を川に放つ、バスケットボールほどもある炎の塊は川にぶつかると一瞬だけ大きくなり川の上で燃え広がっていた。

 雑誌を手に取り炎の明かりで見た。

 「ええ、確かに息子には魔法の力がありません」

 『だからこそ、私はそれでも息子の憧れの存在であれるような魔法使いでいたいのです』

 父の言葉が心臓の鎖を焼ききる炎となった。雑誌を閉じてエイクは家へと歩き出した。孤独と歩いた道をエイクは自らで照らして歩いた。

 ドアを開け、父と母を見た。「父さん母さん」心臓に手をあてると全身から魔力の炎が漏れた。「僕は魔術学校に行くよ」


 それから四ヵ月近くが過ぎた頃、エイクは桜並木を歩いていた。両脇で父と母が話していた。父も母も心から笑うようになっていた。鎖で縛られていたエイクは、自身が枷となって両親を苦しめていたのだ。二人は枷を解かれた。

 門の近くにくると周りがざわついているのが分かった。二人は魔法の世界では有名で、それは当然だった。エイクは門の前で立ち止まる。「父さん、母さん。今度は魔法じゃなくて、僕自身の力で二人を笑顔にしてみせるよ」

 二人が驚いていると、二人を人が囲みだした。親も子も関係なく二人のファンが集まりだしたのだ。「じゃあ後で!」照れくさくなって言い逃げする息子を二人は笑顔で見送った。

 入学式会場に着くと、会場には椅子が並べられていた。まだあまり人がいない。席に座る。渡された資料の中に部活動紹介が入っていた。

 (電戦部、ちょっと気になるな)

 一通り読み終わった後でぼーっとしていると、隣の話し声が聞こえた。

 「私魔力測定器の授業がほんと心配で・・・」

 「あー、たしかにあれは難しいって言うね」

 (ん?)

 あたりを見ると、最前列の前に技術科と書かれたプレートが見えた。赤面の顔でエイクは謝りながら狭い席の間を通って魔法科の席へと向かった。開始二分ほど前であったため急いで席に座る。後からもう一人が隣の席に座った。金髪をしているが不良という印象は受けなかった。ちゃらついているだけといったところか。

 (一般校での校則が少ないからって入学式に金髪とは・・なかなかだな)

 「いやー、まさか軽く事故って送れちゃうなんてね。いやはやもっと早めに予定を組むべきだったよね」笑顔で話しかける男にエイクは少し気おされた。「ねっ?」

 「えっ!?ああ、そうだね。はは、全くそうだよ。事故の野郎っつってね、はは」

 「うん?まぁいいや」エイクは驚いた表情のまま硬直した。「実はこの学校ゆるくてさ」

 (君もね)

 「今の席順が大まかなクラス分けになるらしいんだ。つまり最後尾の俺たちはC組ってわけだ。俺は『高木 俊-たかぎ しゅん-』これからよろしく頼むな」

 「俺は『雪乃 衛紅-ゆきの えいく-』こちらこそよろしく」

 二人は軽い握手をした。

 退屈な入学式の言葉を耳に入らなかった。歴史がそれなりにある学校ともなると体裁ばかり気にして刺激的な言葉は得られない。中学での校長先生の言葉もはじめのうちは真面目に聞いていたが、そのうち誰かの言葉を少し変えただけで自身の言葉じゃないように聞こえてから一切聞かなくなった。きっとこの言葉だって毎年言ってるんだろう、なんて思いながらぼーっとその時間をやり過ごした。

 入学式が終わると、高木の言葉通り後ろから六列が集められてC組となった。人数は35人。

 「俺は『安田 平助-やすだ へいすけ-』これから君たちの担任になる。へーちゃん先生ってよく言われるんで、あまり気を張らずに仲良くしてくれるとうれしいです」

 安田先生は眼鏡に白髪の先生だった。

 教室はC組。門を入って西に技術棟、東に魔法棟がある。一年生は二階にABC組の教室がある。クラス分けが席順であったため、席順もその通りだった。衛紅の後ろに俊が座っている。あたりを見ると真面目そうな人やそうでない人、顔が良い人やそうでない人、千差万別だった。魔法というものは本人の性質に関係ないのだと思った。


 「えー、入学後の説明はこれまでにして、そろそろ時間ですので魔力計測に移りたいと思います。身体計測はもう少し先に行います。魔力計測はあなたたちの魔法を見定めるもの、機械の中で魔法を使用し、魔力がどこから生まれ、どんな性質を持っているのかを調べます。ではいきましょう」

 入学式を行った体育館とは別に、同程度の大きさの施設がある。技術棟の裏にあるこの施設には技術科の生徒や先生、魔法科学研究者などが日夜活動している。施設内にはいくつかの機械と研究員が準備をしていた。

 C組男子は長い髪の綺麗な女性研究員に喜びを隠せないでいた。

 「次が雪乃であの美人ってことは俺は・・あかーん、酒好きそうなおっちゃんだー」

 「おーらボウズ、やさしくしてやっからさっさと来な」

 「ぐあああ」

 俊が悶えている姿を後目に衛紅は研究員の前に座った。何やらバインダーに挟んだ資料を見ているようだった。

 「お名前を」

 「雪乃です。雪乃衛紅」

 「雪乃くんね。えーっと、四ヶ月ほど前に魔法発現・・?遅いのね、事例がないかもしれない。魔法が発現してから何か身体的な変化はある?」

 「特に変わったことは・・」

 「そう、とりあえず機械の中に入ってくれる?こちらからマイクで指示をするから安心して」

 機械は人一人が余裕で入れるくらいの構造をしていた。横になるとゴツゴツしていて寝心地は最悪だった。

 「この中では魔力は吸収されるのである程度加減してくれれば何も問題はないわ。吸収された魔力と発動中のあなたの状態をレントゲンで収めて資料にするの。気楽にいきましょう。まずは魔力をゆっくりと出して」

 言われた通りに心臓に手を当て魔力をゆっくりと出した。薄紫色の光は細かく散りながらどこかへ消えていく。機械の中が暗いからなのか、まるで発現の日を思い出させる光景だった。

 「ではこれで検査を終わります。出て良いですよ」

 検査は意外にもあっさり終わった。機械を出ると研究員の女性は何食わぬ顔で紙に何やら書き込んでいた。

 「ありがとうございました」

 「はい。では次の方」

 施設の出口で俊が待っていた。

 「いやーおっさんに優しい言葉かけられるとなんとも言えない悲しい気持ちになるよなぁ。その点雪乃はいいよなぁ」

 「いやぁ、すごい鉄仮面だったよ」

 「まじで?・・・いや、ありかも」

 「・・・^^;」

 その日は何事もなく終わった。門で俊に別れを告げ、別で話を聞いていた両親と合流して帰った。


 「安田先生」声をかけたのは先ほどの研究員の女性だった。

 「柏木先生、どうかなさいましたか?」

 「これを」柏木は衛紅の資料を見せた。「彼にはいくつか不明な点があります」

 「見てる限りでは普通の生徒でしたよ」

 「彼の魔力の出所が分からないんです」

 「魔力とは人によって出所は異なり、一番出しやすいと感じる場所から出るものですよね?レントゲン写真を見ても写っていなかったんですか?」

 柏木は一枚の写真を見せた。人体を横から見た画像には心臓と、当てられた手の間から光があふれていた。

 「これは一体?」

 「人には魔力を引き出す予備動作はありません。それは先ほど先生が仰られていたように最も出しやすいと感じる場所から出るものだからです。しかし彼は心臓に手を当てるんです。それも正確には心臓と手の中間にある何もない空間から生まれています。彼にはきっと何かあります、資料は協会で詳しく調べてみますので」

 「ええ、私の方でも彼について詳しく調べてみます」

 柏木に別れを告げると、安田は自身の研究室へと走った。

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