ずっとPSO2やってました
馬車を降りた俺達は、隊商の先発側がやけに騒がしいことに気付いた。
連なる馬車は全て停止しており、乗り込んでいた商人や護衛の人たちは外へ出て、騒ぎの中に混じっている。
「なにがあったのでしょうか」
「事故でも起きたのかね?」
それにしても、こんな大所帯の進行を止める程だ。
きっと只事ではないのだろう。
「ねえねえお馬さん、何があったの?」
「俺にもわからん。だが、ここまで進行を止めるトラブルというのも随分と珍しいことだ」
本当に何があったのだか。
俺とクローネは顔を見合わせ、互いにどうしたものかと首を傾げあった。
コヤンもまたこのような状況が珍しいのか、馬車の渋滞の先をチラチラと意識していた。
一応は護衛だ。何が起こったのか気にはなるが、その場を動くような勝手な真似はできない。
なので俺たちに詳しい話が回ってきたのは、渋滞の先から一人の若い男がやってきてからだった。
およそ隊商全体の停止から、十分後の事である。
「いやぁ参った。リブラ橋が完全にポッキリ逝ってやがる」
「ええっ!?」
やってきた男は、隊商の中程で果実を運んでいる商人らしい。
事は深刻なのか、唇を噛んで焦りを隠そうともしていない。彼が言うには、どうやらこの先で渡る予定だった橋が、倒壊しているのだとか。
「ええっ、リブラ橋が落ちてるって……じゃあどうやってカルロニアまで行くっていうのよ!?」
橋が落ちてる。そりゃ大変だ。増水で流されたんかな。
だがそうやって淡泊に事実を受け止めていたのは俺だけのようで、コヤンは随分と焦っているようだった。
「どうだろうな、おやっさんが言うには他にも橋はあるって話だが……まさかあんなに頑丈なリブラ橋が落ちるとはよ」
「あの、それってどんくらい大きな橋なんですか」
川の規模にもよるだろうが、あまりにデカいとそうそう近くに同じような橋はないだろう。
この世界の建築や治水の技術にもよるが、俺のいた現代ほどではないはずだ。
「橋は40メートルくらいだ。当然、川を渡るなんて真似はできん」
おっふ、結構しっかりした川じゃないか。
現代でさえそういくつも橋なんか架けないってのに、この世界じゃあ……どれだけ迂回することやら。
「一体何があったのですか? リブラ橋が落ちるなんて大事件、ホルツザムでは聞き及んでいませんが……アク川が氾濫したのでしょうか」
クローネが一歩前に出て、男に尋ねた。
「いや、氾濫とかじゃあない。……橋は、あれは、間違いなく何者かの手によって壊されていた」
「なっ……」
「嘘っ!?」
「嘘じゃない。直に目にすりゃわかると思うぜ。どうせ暫くはここで足踏みするんだ、行って見てくると良い」
男はそういうと、疲れたように両手をひらひらと振りながら去っていった。
……思えば、あの男の人は青果を扱っている商人だ。
旅程の大幅な変更というのは、あの人にとって大打撃だったのかもしれない。
いいや、あの人だけではない。きっとこの隊商にいる多くの人が、少なからず影響を被っているのだろう。
「……ペトル、どうする? 俺は橋を見に行きたいんだが、お前が行きたくないってんなら残るけど」
「おほ? シロが見たいなら、私も見たいわ」
「そうかそうか。じゃあ、見に行ってみるか」
橋の様子はクローネやコヤンも気になっていたらしく、とりあえず全員で一緒に向かうことにした。
「うわぁ」
川沿いは隊商から出てきた人々によって、軽く花火大会当日の土手みたいな賑わいになっていた。
だが、そうやって人々が集まっているのも納得である。
俺達が本来渡るはずだったその大きな石造の橋は、ものの見事に中ほどが決壊していたのだから。
「これはちょっと、俺の想像とかなり違う壊れ方だな」
「……同意見です。まさか、ここまで見事に破壊されているとは……人為的なもので間違いありません。一体誰がこのような事を!」
橋の様子を見て、クローネはぷんぷんと憤っていた。
俺も気持ちはわかる。目の前に広がる無残な橋の姿は、間違いなく誰かの故意によって引き起こされたであろうものなのだから。
「しっかし、どうやったらこんな壊れ方しちゃうのかしらね……法神の中位魔法くらいじゃ、ここまで見事に壊せないわよ…」
橋は、丁度中央の部分がごっそりと破壊されていた。
下の柱部分まで木っ端微塵に砕けているようで、水面ギリギリのところには支柱だったのであろう大きな石の円柱片がわずかに頭を出している。
石橋は巨大だった。生き残っているパーツを見れば、なるほど確かにこんな頑丈な橋が落ちるだなんて誰が想像できただろうか、といった感じである。
それに壊れ方も、見るからに“橋を爆破した”だとか“橋の上で勇者と魔王が闘った”みたいな破壊痕であり、根本から流されてポキッバリバリと崩れたようには見えない。
特大級の雷が偶然ここに落ちてきたならばありえなくもないだろうが、そんな不運に苛まれるのは俺くらいのものだ。橋は何者かの手によって壊されたと見ていいだろう。
この陰湿かつ大掛かりな悪行にクローネがご立腹なのも納得のいくことであった。
「おい、お前ら」
「あ、はい」
橋の様子を観察していると、俺達はマウント隊商のリーダーに呼びかけられた。
リーダーはこの事態にも表情を崩しておらず、焦っているようには見えない。それとも、既に落ち着いて打開策を考えついたのだろうか。
「俺たちはこれから進路を変え、最寄り村のジズリへと向かう。アク川沿いの小さな村だ。本来なら向こう岸に渡ってすぐの宿場町に泊まりたかったが……こんな状況だ、今夜はジズリで一泊し、明日隣の橋を使うことになるだろう」
隣の橋。それがとてつもなく遠くにあるというのは、なんとなくわかった。日程に大幅な変更が出るのも致し方無いだろう。
しかしその橋の近くにも村があるのであれば、何も問題はない。俺たちは別に明確に急ぎというほどでもないのだ。足の早い遅いがある商品を扱っている人たちと比べれば、この道中に対する気持ちは軽い。それは祭器を取り扱うコヤンにとってもあまり変わらないはずだ。
俺たちは予定通り商神の聖地につければ何も問題はない。
「今日の晩飯は、少し遅くなるだろう。……すまんが、警備には一層の力を入れておいてくれ」
「あ……うっす」
団長が俺を励ますように、優しく肩を叩いた。
がさつそうな見た目に似合わない、いたわるような叩き方である。
こうして俺たちを含むマウント隊商は、針路を川沿いのジズリ村へと向けた。




