カガセオよりもカリギューラが欲しい
宿場町で一泊した明朝、俺達四人は最後尾の馬車に乗り込み、再び旅路を走り始めた。
今日の馬車はペトルを加えたコヤンと共同の四人乗りである。こうなると貨物が少々邪魔で座る場所が限られてくるが、スペースの狭さはペトルが我が物顔で俺の膝の上に座ることで解消された。
一時間後の俺のケツが心配である。
まぁ、少々手狭ではあるが、全員揃っている安心感というのは何物にも代え難いものだ。
このまま無事何事も無く、のほほんと現地まで到着できたらいいなと思う。
商神の聖地に行ったら、武器屋にすげー強い剣とか売ってるかもしれないし、店を見るのが楽しみだ。あくまで見るだけだけど。買うのは多分カードだけだ。
「ねえねえ、ところでペトルちゃんって、歳はいくつなの?」
のほほんとした旅路の最中、コヤンからその雰囲気にそぐわぬ言葉が飛び出した。
別に邪そうな思惑も感じられないし、全く変な質問ということもない。ごくごく自然で普通な、挨拶と何ら変わらないような質問だ。
しかしその質問に、どう答えたらいいものか。
俺とクローネは一瞬だけ目を合わせ、お互いにこれといった方便を持ち合わせていないことを示し合わせる。
「知らないわ」
「知らない?」
「うん」
答えたのはペトルだった。
適当に「14歳だよ。な、そうだよなペトル」とでも言っておきたかったのだが……ああ、また言い訳を考えなくちゃ。
「まぁ、こっちも色々と事情があるんだ。あまりペトルのことは詮索しないでやってくれ」
「……そう、わかったわ。まぁ、だいたい見た感じだものねー」
「おほおほ……」
コヤンがペトルの喉の下をわしゃわしゃと、猫にでもするように撫でる。
……まぁ、ペトルは見た目とはかなりかけ離れた年齢だと思うけどな、こいつ。
そもそも原神って年齢があるのだろうか……。
「そうだ、コヤン」
「ん? 何? ヤツシロ」
「コヤンは祭器売りなんだよな。良ければ、どんな物を売ってるのか見せてくれないか?」
昨日はそれどころではなかったが、コヤンは祭器売り。つまり、マジックアイテムを売り歩く商人だ。
彼女は無限インベントリになるバックパックも持っているので、中には相当な数のアイテムが入っているに違いない。何か道中で役立ちそうな物があるなら、是非とも購入しておきたいところだ。
幸い、金にはある程度の余裕がある。馬車の中でぼけーっとしているよりは、ここで先行投資しておくのも悪くはないだろう。
少々道中を共にする程度の間柄でまけてもらおうなんて甘い事は考えちゃいないが、コヤンの人柄としてこっちを完膚なきまでにぼったくろうということはないだろう。そういう意味では安心できる相手だ。
「えっ、何興味あるの? もちろん良いわよ! 気になるのがあったら、どんどん聞いて!」
商談となれば向こうも悪い顔をするはずもない。
コヤンは笑顔で頷くと、いそいそとバックパックの中身を馬車の中に広げていった。
「商人によっては良いものしか集めないってのもいるけど、私はそういうタイプじゃないわ。使いやすくて安いものを、とりあえず数多く揃えてるの」
どこか得意気に胸を張るコヤンの下には、足の踏み場もないほどの無数の祭器が散らばっていた。
日常的に使えそうなゴブレット、古びた金属製の皿、よくわからない文字の書かれたお札、小さな笏のようなもの……。
どれも年季が入り、確かにどこか神聖な雰囲気が感じられなくもない。しかし肝心のこれらの効能というか使い方が、俺にはいまいちわからなかった。
こうして一本のダガーを手に取って見ても、どうもただのダガーにしか見えない。しかし、これはこれで使いやすそうではある。
「おほー……?」
ペトルは神様なのだが、やはり彼女も俺と同じで祭器の価値がわからないようだ。
手のひらサイズの大きなメダルを色々な角度で眺めては、不思議そうな表情を浮かべている。
そして案の定メダルにかじりつきそうになったので、俺は全力で止めた。
「ふふっ。それは『魔導師のメダル』よ。そこ、その上の方に開いてる穴に紐を通して、首からかける装飾品なの。名前の通り、魔法使いの人が着用する祭器ね」
「あ、へえ。これネックレスなのか」
よく見れば確かに、端の方に二つの穴が開いている。
ここに紐を通すのか。なるほど。
「ヤツシロさん。それを首からかけていますと、日常的に外へ漏れ出る霊力を少しずつ吸い取って、ある程度貯めこんでくれるのです」
「ほー……なるほど。垂れ流してる分を貯金できるわけか」
霊力は生き物が放出している魂の力だ。それは常日頃から薄っすらと漏れでており、消耗しているのは何も祈りを捧げた時だけではない。
このアイテムは、そういった日常の無駄遣い分を有効活用してくれる働きがあるようだ。
……ペトルに捧げる霊力の足しになるなら、これを買うのも悪く無いだろうか。
クローネのスキルだって霊力を使うわけだし、悪くはないはずだ。
「ですけど、使い勝手は難しいのですよ。このメダルに蓄積される霊力は、祈りや一般的なスキルに使うことができないのです」
「えっ、なんで?」
クローネが苦笑すると、俺の視界の隅でコヤンも苦い顔をしてみせた。
できれば彼女の口から聞きたかったことかもしれない。
「このメダルに蓄積された時点で、霊力は厳密には自分のものではなくなります。誰のものでもない霊力へと変わるんです。そうなると、大抵のスキルでは扱えなくなるんですね」
「へー……じゃあ、これをつけてクローネが『ホーリー・ライト』を使っても?」
「メダルの霊力は消費されません。この手の祭器によって蓄積された霊力を運用できるのは、法神のスキル『霊力喚起』で自らのものとした時だけです。しかも、その霊力は法神の司る魔法系スキルにしか運用できません」
なるほど。
このアイテムは想像以上に魔導師専用の装備だったというわけか。
「あははは……ちなみに、こっちの指輪やサークレットも同じやつよ。魔導師専用の装飾品なの」
「あー……魔法は使えないから、ちょっと遠慮しておくよ」
「そっか。ああ、スキル使えないんだっけ? わかった、それじゃこっちは撤収しちゃうわね」
デザイン自体は悪くないが、使えない装備を身に着けていても仕方あるまい。
他の祭器は、そんな専用装備ばかりでなければ良いのだが……。




