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らん豚女神と縛りプレイ  作者: ジェームズ・リッチマン
第三章 討つは奴への猜疑心
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一神教に喧嘩売ってる作品だけどメリークリスマス

 さて。目的地もできたので、早速旅の始まりだ。

 ギルドには目ぼしい仕事もなかったし、風雅の剣聖ユナに宛てた言伝は頼んであるので、出立に気兼ねは無い。


 が、その前に旅支度だ。

 なにせこれからの旅路は、今までのものよりずっと長いのだという。道そのものは人もよく通るのだが、だからといって長大な距離が縮まってくれるわけでもない。

 本格的な旅に備え、俺もそれなりの装備を整えておく必要がある。




 度重なる戦闘や連続着用の末に、俺のジャージはついに限界を迎えようとしていた。

 現代が生んだそれなりの品質の化繊とはいえ、連日着用していれば穴が空く。現代の日常生活では、車や通りすがりに気を付けてさえいればほとんど傷つかないどころか汚れることもあまりなかったのだが……この消耗の早さが、過酷な異世界ってことなのだろうか。


「さて、これで俺も異世界男児って感じだな……」


 俺は今、ジャージにかわり、この世界における一般的な町民服を着用している。

 ほとんど染めていない草木色のシャツに、ズボン。あと上着。

 この期に及んでファッション性にこだわる必要など皆無だったので、身に付けるものは完全に実用性重視のものだ。

 防寒、防風と耐久性があればそれでいい。


 繊維の量産も現代ほど盛んではないのだろうし、服に関してはそれなりの出費を覚悟していた。

 ……のだが、「これに近いサイズのものが欲しい」と服屋に頼んだところ、俺のお古ジャージを手に取って見た男はなぜか興奮した様子で「これを譲ってもらえるならいくらでも」と、向こうから話を持ちかけてきた。

 現代化繊特有の軽さと柔らかさが、服屋のお気に召したのかもしれない。なるほど確かに考えてみれば、俺の使っていたジャージは汚いとはいえ、この世界に一着だけのものである。

 ならばこれ幸いと店で物々交換を果たし、俺はタダ同然で現地の服を手に入れたのであった。


「うん……悪く無いと思いますよ」

「おう、ありがとう」


 自分でも着飾っているつもりはないので、クローネから“似合っている”と言われなかったのは安心した。

 こういう時に欲しいのは百点満点ではなく、可もなく不可もなく程度の合格点なのだ。


「シロが白くなくなっちゃった……」

「白は汚れやすいからなぁ。勘弁しといてくれ、ペトル」

「お揃いが良かったのにー……」


 逆にペトルからの評価は低めである。理由は白くないから。無茶言うなや。

 ジャージだって白じゃなくて黒だったら、汚れを気にせずもうちょっと長く使えたかもしれないのだ。それを考えると、わざわざ新たに汚れの目立つ服を買う気にはなれない。


 あと、ジャージだからといってもペトルとお揃いだったというわけでもない。

 確かにペトルの着ている服も真っ白だが、こいつの着ているものは多分、神様専用の神秘的なものだ。

 その証拠に、ペトルはこれまでずっとキャミワンピ姿のまま一度も着替えていない。いや、着替えてないどころか身体を拭いてもいないし、多分俺の記憶が正しい限り一度もトイレにすら行っていない。なのに全く臭わないし、むしろ良い匂いまでするのだから、やはり結構でたらめな存在である。

 けどそこまで都合の良い身体を持っているなら、ついでに飯も必要ない身体になってほしかったのだが……そこらへんは言わないでおこう。




「一応、予備の油と重ね着用の衣類も買っておきますね」

「すまんな、相場がわからなくて。任せきりっていうか」

「いえ、これも必要なことですから」


 衣類の次は、旅に必要な物品の確保である。

 俺の所持金がカード錬金術で一気にドドンと増えたのと、クローネが教会から路銀を貰ったこともあり、金銭面では全くと言っても良いくらい心配がない。

 だが上手な買い物をするには、まだまだ俺の常識がこの世界に慣れていない。品物選びはクローネに任せ、こっちは荷物持ちに専念する他なかった。


「……しかし、水の心配をしなくても良いというのは……かなりありがたいですね」

「だな」


 ホルツザムの賑やかな市場の一角には、透明な丸いガラス玉らしきものを販売している露店がいくつか存在する。

 一見するとスピリチュアルが上昇しそうなお高い水晶のたたき売りのような店であるが、この水晶球のような品物は『アクアン石』と呼ばれるもので、中に綺麗な水が詰まっているという不思議なガラス玉なのだ。


「わーっ、綺麗ねー……」

「な。ずっしり重いし、本当に水晶玉みたいだ」


 旅には水が必須である。クローネも何リットルか入るほどの大きな革袋を持っているが、それに水を入れるとまぁとにかくずっしり重く、四六時中持ち運ぶのには結構難儀しそうであった。

 が、今の俺達には万神ヤォから下賜された『万霊の水差し』という神器がある。無限に水が湧き出るこの水差しさえあれば、飲み水どころか身体を流す余裕すらできてしまう。

 水を持ち運ばなくても良いというのは、それだけで何日もの野営を可能とする。背嚢に空きも出来るので、その分食料や携帯寝具を突っ込めるのがありがたかった。

 ヤォ様々である。


「ひんやりちべたい」

「おい、顔くっつけるな。すいません、すいません。すぐ拭きますんで……」

「ははは、構わんよ」

「一個だけ欲しいなぁ……」

「別のにしようなペトル、別のに」




 そういう流れで、旅準備は整った。

 あとは野を出て山を越えである。


「光輝神の聖地は、グロウムーン大陸の中央、欠けた部分から突き出た……この穂先のような形の島に存在します」

「おー」


 地図を指差すクローネが、俺達の現在地と目的地を指で示す。

 聖なる神々の聖地を擁するグロウムーン大陸と、その反対側に向き合うように存在する、悪しき神々のニュームーン大陸。

 目的地である光輝神の聖地は、地味にニュームーン大陸に近い位置に存在した。


「ニュームーン大陸に近いけど、大丈夫なのかね」

「光輝神の聖地は紛れも無く世界一安全な都市ですよ。心配ありません……と言いたいのですが」

「えっ」

「その道中、商神の聖地へと続く道に関していえば……正直、怪しいかもしれませんね」


 クローネの指が、ホルツザムと聖地を結ぶその中間に滑る。


「商神カルカロンの聖地は、多くの人や物が行き交う大都市です」

「なるほど。賑やかなだけに、危険もあるってことか」

「はい」


 ……ま、商神の聖地っていうくらいだし、商業都市みたいなもんなのだろう。

 物が動けば金が動く。金が動けばそれなりの……というわけだ。


「近年、闇の信徒が道中の馬車や旅人を襲う事件が多発しています。商神の聖地までは、念のために安全な方法で行きませんか?」

「ああ、隊商みたいなのがあればそれにくっついて行きたいな」

「そうですね、まさにそれが一番だと思います」

「決まりだな」


 少々の不安はあるが、大勢の人にくっついて行けばそれなりに安全な旅路となるだろう。

 馬車に乗って忙しなく移動するのも悪くないが、大勢の人にくっついて賑やかに旅をするのも悪くない。


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