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らん豚女神と縛りプレイ  作者: ジェームズ・リッチマン
第三章 討つは奴への猜疑心
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猫を食べるなんてとんでもない


「ヤツシロさん?」

「シロー?」


 二人が俺の名前を呼びかける中、俺の意識がはっきりと覚醒した。

 先程までカードの底なし沼の中をズブズブと落ちていたのだが、その息苦しさと圧迫感から突如として解放され、バインダーを開いた以前の体勢に戻っている。


 ここは宿の一室。

 どうやら俺はあのカードだらけの世界から、無事に元の場所へと送還されたようだ。

 ミス・リヴンに殺されることもなく、カードの海で溺れることもなかった。ありがたい限りである。


「……なるほどな」


 そして開きっぱなしのバインダーを見てみれば、ページが一枚増えていた。

 これまでは見開きの2ページしか存在しなかったなんちゃってカードアルバムが、1ページだけペラリと捲ることができるようになっている。

 ミス・リヴンとのいざこざはあったが、俺のカードバインダーはしっかり3ページに増えているようだ。


 これで、俺のバインダーの容量は27枚に増強された。

 現在のカードは8枚。これからカード不足に悩まされることはあれど、容量不足に悩むことはなくなるだろう。


「しっかり増えていますね、おめでとうございます」

「おめとー」

「ありがとう。二人のおかげでここまでこれたようなもんだな」


 俺がそう言うと、クローネは聖母のようなほほ笑みを浮かべて“私の助力がかえって足手まといになっていなければ”と謙遜する。

 恐れ多いことである。もし俺がクローネと出会っていなければ、おそらく俺はどこぞで勝手に野垂れ死んでいるか、どこぞの巨大な蜂に食い殺されているだろう。


 そしてそんな彼女と出会えた幸運は、その隣でニコニコしているペトル無しではあり得なかったはずだ。

 蜂との闘いで生き残れたのだって、きっとこいつの幸運無しではあり得ないし……いや、そもそも最初に遭遇した巨大なイノシシをどうにか振りきれたのだって、今にして思えば幸運あってのものだったとしか思えない。


「ありがとうなーペトルー」

「おほおほ……」


 ガシガシと頭を撫でてやると、ペトルは気持ちよさそうに目を細め、逆に頭をこちらに擦りつけてくる。まるで猫のようだ。


「コレクターレベルも上がったし、良いカードも手に入ったし、かなり順調……と言いたいところなんだけどな。実はちょっと問題が発生した」

「問題、ですか……?」

「ああ。まぁ、そこまで深刻ではないとは思うんだが、やることは増えた。そんな問題だ」


 首を傾げるクローネに、ナデナデが終わって物足りなそうなペトル。

 俺は二人に、おそらく霊界であろう場所で起こったミス・リヴンとのやりとりについて、最初から詳しく説明するのだった。




「なんでもありですね」


 そして説明が終わると、クローネから出てきたのは労いでも同情でもなく、呆れたような言葉である。

 まぁ、これまでの俺の境遇とか出来事からして、そう言いたくなるのはわかるんだけども。


「いや、でも割りと本気で死ぬかと思ったんだぞ。あのミス・リヴンは本当に怖かった」


 斬り殺されるとカードになってしまうとかいう『ビナ・サイズ』を有り得ない速度で振りまくってくるしな。

 『道理の歯車』が守ってくれなかったら即死だったわ。ちなみに『道理の歯車』は損耗した様子もなく、今も俺の首元にペンダントとしてかけられている。


「ミス・リヴンの姿を直接見て、その攻撃を受けて生き残る……そんなにデタラメな話は、神話でもほとんどありませんよ」

「クローネは信じるか?」

「……これまでのお付き合いもあるので、信じざるを得ないのが辛いところです」


 俺にとっては全てが未知の出会いや出来事だが、クローネにはこの世界の常識が備わっている。

 どうやら気軽に神と話したり交渉したりするような俺との旅は、彼女の常識を大きく崩すようなものであるらしい。

 気苦労をかけるな。申し訳ない。


「……しかし、光輝神の聖地ですか。神に身の潔白を証明しなければならないとは、少々難儀なことになりましたね」


 クローネはコップに水を注ぎながら、眉根を寄せる。


「光輝神の聖地ってのは遠いのかな?」

「いえ、さほど遠くはありません。地図上で見れば、ここからバニモブ村まで……」

「あ、そんなもんか」

「の距離の2倍くらいです」


 “さほど”とは一体。うごご。


「ですが聖地を結ぶ街道は整備されていますし、道中には商神カルカロンの聖地や、巨大な商業国家も存在します。旅程はこれまでよりも安全ですし、馬車も多く出ているでしょう」

「じゃあ、あまり難しい旅にはならない?」

「そうですね。光輝神の聖地を訪れる信徒は多いですから、過酷なものではないかと」

「ほほう」


 なんだ、だったらあまり緊張する必要もないか。

 ミス・リヴンからは期限の指定もされていなかったので、たとえ雨などで足踏みしたとしても焦る必要はない。


 これがもしも“一ヶ月以内に”とか“道中で闇の信徒を3人くらいぶっ飛ばせ”とかの条件付きだったら多分俺達は野垂れ死んでいただろう。

 ミス・リヴンか他の誰かさんかは知らないが、慈悲深い条件を提示してくれた人には感謝の祈りを捧げなくてはなるまい。

 あ、そうだ。後でペトルに霊力捧げなくちゃな。


「大変な目に遭われたようですが……目的地が出来たのは嬉しいことですね」

「ああ。直接ペトルの宝玉に結びつかなくても、神様の信頼を得られるなら充分に価値はある旅だ。どうせホルツザムに長居したところで、情報が得られるとは限らないしな」

「はい。剣聖のユナと出会えるかも定かではありませんしね」


 疑われるのは癪だが、神様に俺たちの旅の目的を……というか、身の潔白を知ってもらうのは、いざというときに役に立つ気がする。

 闇の信徒とかいう怖そうな連中がいる世界だ。心強い味方は多いに越したことはない。


「シロ、シロ! お祈り!」

「はいはい、今やりますよ」

「ふふ……では、私が祭壇を用意しますね」

「すまんな、いつも」

「いえいえ」


 光輝神ライカールの聖地へ。

 神様の猜疑心を晴らす旅が、もうそろそろ始まる。


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