転売は計画的に
一枚300カロンのアンノウンカードを3つ。
合計で900カロンにもなる大口の買い物だが、クローネから咎めるような声は聞こえてこない。
むしろ彼女はこの買物を黙認するかのように、しれーっと視線を他所にやってすらいた。どこか後ろめたい表情を見るに、確実に俺の意図には気付いているのだろうが。
「アンノウンカードは、裏向きのまま一枚ずつ封印を解除していくのがマナーになる。何が当たったのかは、お客さんだけが見れるわけさ」
「ほほー、なるほど……じゃあペトル、そこにあるやつからとりあえず一枚取っていいぞ」
「おほー」
「そうだね。一枚ずつそっから選んで取ると良いよ」
ペトルはまず、一枚のアンノウンカードを無作為っぽく手に取って、裏向きのままカウンターに置いた。
ツミコさんはそのカードの中央に人差し指を置いて、何やら念じ始めている。
どうやら既に、アンノウンカードの開封は行われているようだ。
「いきなり3枚買うとは、豪勢だねぇ」
解除中、どこからかそんな声が聞こえてきた。
微笑ましい物を見るかのようなその声は、きっと俺の買い物を“無謀だ”とでも言っているのだろう。
……が、まぁ……どうなんだろうなぁ?
結果を見てのお楽しみですかねぇ……?
「符神の御業の賜よ、真名を喰らいて火を灯せ……『カードケア』」
大した時間も経たずに、そのスキルは発動した。
発動と同時に裏面を向けたカードがじわりと輝いて、その光もすぐに消え失せる。
どうやらこれで、『カードケア』は完了らしい。
「ほい、受け取りなさい」
「ありがとうございます」
「おほー」
なるほど、そしてカードはまずお客だけが先に見ても良いと。プライバシーもしっかりしてますな。
それじゃあ遠慮なく……さてさて、どんなカードが手に入っただろうか……。
□「ピュア・イリクサ」アイテムカード
・レアリティ☆☆☆☆
・あらゆる傷や病、欠損を修復する神秘の霊薬。
老いや死体までは直せないので注意。
……。
いや、まぁな。そりゃな。何かしら出てくるとは思ってたよ? それ狙ってアンノウンカードを買ったところあるしな。
けどこれ……“あらゆる傷や病、欠損を修復する神秘の霊薬”? いやこれ絶対高いに決まってるだろこれ。リアル完全回復の薬なんて絶対にやばいに決まってるだろこれ。
「おほ?」
「ヤツシロさん、どうでしょうか。何か当たりましたか」
「うーん……」
いや、“うーん”どころじゃないんだけどね。
レアリティは4つ。当然ながら超激レアだ。
当然である。レアリティ3の『大雷撃』ですらめっさ高価なのだ。レアリティ4の完全回復薬が高くないはずがない。
まして万病を治し部位欠損すら回復するなんて、こいつの売値が『大雷撃』の倍近くあろうとも全く不思議ではなかった。
「ふっふっふ、どうかね。良いカードは出たかい?」
いや、出ましたよツミコさん。あなた“まぁ最初はそんなもんだよ”みたいな顔してますけどね、当たり引いちゃいましたよ。
ただちょっとここでカードリストの買取価格を見回すとあからさますぎるので、それができないだけで……。
「……ペトル、もっかい選ぼうな?」
「おほーっ!」
ということで、俺は二枚目のカードを開封することにした。
『ピュア・イリクサ』について考えるのは後だ。ちょっとこれは扱いが面倒臭すぎる。
「まぁ、あまり深追いしないことだね?」
ご忠告ありがとうございます。
さすがにお店のご迷惑になる前にやめときますんで。はい。
なので、とりあえずは購入した三枚だけを。
■「レイ・エクスプロージョン」スキルカード
・レアリティ☆☆☆
・標的を爆砕する霊力の奔流。術者が使用を宣言すると、カードの絵柄から霊力の爆風が射出される。
二枚目は『レイ・エクスプロージョン』。これもまた初カードである。
そして念願の攻撃系スキルカード! しかしレアリティが3! 高そう!
絵柄を見た感じ、数人分をまるごと飲み込めそうな幅のすごくヤバそうなビームを発射するようなスキルのようだ。
名前からして、おそらく『レイ・ストライク』をそのままものすごく強くしたようなスキルなのだろう。
こいつを使えば多分、前にダンジョンで出会ったボスのスカルベ・ガイダルも一撃で倒せるんじゃねえかな……。
とはいえ、こいつの威力はどう見ても過剰だ。普段使いするにはあまりにも強すぎる。
「……なるほど」
とはクローネさんの一言だ。うん、確かに“なるほど”って感じだな。そう迂闊に派手なリアクションは取れない。その反応は正しい。
目線を泳がせて値段を確認してみると、このカードの買取り価格は2200カロンであるとのこと。
やっぱり攻撃系のスキルカードはくそ高いようである。レアリティ3はだいたい四桁越えだ。
……『ピュア・イリクサ』はちょっと売りたくないな。
というか、まずこれは存在自体がアカンような気がする。
今、ついでにレアリティ4のカードの価格も見回してみたのだが、そもそも店内に掲示されているものでレアリティ4のもの自体がほとんど見られなかった。
そこに『ピュア・イリクサ』の名前はなかったし、『グラシア・フルート』すらも確認できない。こいつらの値段ってどんくらいするんだろう。若干怖くて手が震えそうです。
……売るなら、この『レイ・エクスプロージョン』を売るべきだな。
手持ちの金ではあともう一枚だけアンノウンカードを購入できるけど、そこでもしもまたレアリティ4のカードを引当ててしまったら処理に困ってしまう。
手軽に売れるものから売っていかないと、金策は出来なさそうだ。
「……おっ、すごいぞクローネ、ペトル。このカード結構高いやつみたいだ」
「本当ですか?」
「いいかんじ?」
「ああ、やったな。こいつは大当たりだ」
自分でやっといてなんだけど、俺の演技が白々しすぎて笑っちゃいそう。
しかし俺達のリアクションは周囲の注目を集めるには十分だったようで、最初はどこか生暖かい視線を送ってきたコレクター達も、探るような目でこちらを伺っている。
「ほう、当たりかい? そいつは良かった……もしいらなければ、こっちで買い取るよ?」
そしてツミコさんも食いついてきた。話が早くて助かります。
「じゃあ、これを売りたいんですけど……」
「どれどれ……」
俺はたった今当たった『レイ・エクスプロージョン』を裏向きにしてカウンターへ差し出し、ツミコさんはそれを捲って見た。
見た時のツミコさんの表情は変わらない。ただ一言、“おお”とだけ零すのみ。さすが専門家だ。
ちなみに『ピュア・イリクサ』は既にバインダーの中に封印しておきました。
裸で持っておくには危険すぎるので。
「……良いカードだ。掲示されてる額面通りで買い取るが、それでいいかい?」
「はい。それでお願いします」
このやり取りだけで2200カロンゲット。あざっす。
これだけでもう1600カロンの黒字とか、ギャンブルにのめり込む人の気持ちが今生まれて初めて理解できたような気がする。
「あとできれば、アンノウンカードをもう3枚買いたいんですけど」
「ふふっ、強気だねぇ。じゃあ残りあと4枚引くってことだね?」
「いやー、なんか今日はいける気がして」
「はは。まぁ、止めはしないけどねぇ。まいどあり」
「よーし、ペトル。また選んでいいからなー」
「選ぶだけでいいのね?」
「そうだぞー」
後ろからクローネの強い視線が感じられないでもないが、これは必要経費とかいうやつである。
俺は悪くない。アンノウンカードとかいうシステムが悪いのだ。
『あら、凄いわね。良いもん出すじゃない。……あれ?』




