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らん豚女神と縛りプレイ  作者: ジェームズ・リッチマン
第三章 討つは奴への猜疑心
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職安にはスーツを着て行かなくても良い

 ギルドというものは相変わらず男臭いが、利用者の姿も多いのでヒョロヒョロしているからといって絡まれることはない。

 むしろ「おい兄ちゃんヨォ」なんて絡み方をしようものならば、窓口が別室になっているならばともかく、立派にギルドの営業妨害である。

 この国においてギルドというものは、特別入りづらいということもないのであった。


 ……もちろん、女の子二人を引き連れているっていうのは、まぁ、あまり良い目で見られるわけではないのだが。

 足を掛けられたり新人イジメをされるわけでもないけれど、嫉妬やら訝しむような目線は、当然のように突き刺さってくる。


「とりあえず、ユナの行方を訊ねてみましょうか」

「聞いて、探してくれるのかな」

「難しくはないと思いますよ。ペクタルロトルさんに纏わるものを探すのであればともかく、特定の一人物を探す手段はいくらかありますので」


 そう言うとクローネは迷うことなく、ギルドの受付に向かって歩いて行った。

 勝手がわからないので、俺はクローネのうしろをひょこひょこついていく。


「もし」

「はい。いらっしゃいませ、宣教師様。どのようなご用件でしょう」

「ある特定の聖者の行方を知りたいのですが」

「聖者ですか。別室でお話を?」

「できれば」

「かしこまりました。後ろの方々も?」

「はい」


 二、三言葉を交わし合うと、すぐに別室で詳しく話す運びとなってしまった。

 そこに“なんで探してるの?”というような突っ込んだやり取りはない。個人を探しているので、プライバシーに配慮したのだろうか。


「ヤツシロさん、ペクタルロトルさん、こちらだそうです」

「あ、はい」

「おほ」


 まぁでも、きっとクローネの信用度が高いっていうのも多分になるのだろう。

 この世界における宣教師さんの立場って、どれだけ盤石なのだろうか。




 すぐ近くの別室に通されると、そこには長めのテーブルと複数のチェアが並んでいた。大人数でも会議できるような部屋であるが、内装はそればかりで他のものはない。あくまでも応接間といった感じである。

 一人のギルド員らしき女性がテーブルの向こう側に座り、反対側に俺達がついて、話は始まった。


「宣教師様は、聖者の方をお探しとのことですが……」

「できれば、直接お会いしたいと」

「聖者の方との面識はございますか」

「いえ、ありません」

「そうですか……では、聖者の方のお名前は」

「ユナ様です。風雅の剣聖ユナ」

「風雅の剣聖!」


 クローネがその名を言うと、ギルド員は少し驚いたように声量を上げた。


「剣聖の中の剣聖ではありませんか。……宣教師様です、その理由はあえてお聞きしませんが……あの御方は常に一つの場所に留まることがありません。人の文化圏で寝泊まりすることさえ希少です。各都市の通神つうしん信徒による情報網を使っても、そう簡単に行方を掴めるかどうか……」


 ギルド員の女性は難しい顔を作り、軽く首を傾げる。

 どうもユナという女性は有名ではあるが、なかなか掴みどころの無さそうな相手のようである。


 しかし、この世界であればテレパシーっぽい何かで直接声を届けることも難しくないのではなかろうか。


「あの、そのユナさんに直接呼びかけることってのはできないんですかね」


 俺が聞くと、ギルド員さんは更に表情の難色を強めた。


「難しいですね。通神(つうしん)ケノの恩恵を持ってしても、特定の人物に直接呼びかけることはできません。信徒同士であるか、ユナ様が通神の祝福を受けた紙を持っていれば連絡も可能ではあるのですが」

「あー……」


 どうも、神様の力を使ってもテレパシーは限定的なようだ。

 後で聞いた話ではあるが、ケノ様とやらの祝福を受けた白紙であれば、そこに書いた文字を別の紙面と同期することもできるらしい。

 ギルドの用紙などにはそれが用いられているが、個人で扱うには高いものだ。聖者であっても、連絡用の用紙を持つことはあまり無いのだという。


「……では、各街にユナ様宛の言伝を残していただけますでしょうか」

「それでしたら可能です。ただし、ユナ様がギルドに訪れれば、ということになりますが……」


 俺とクローネは一緒になって顔を見合わせた。

 “まぁ、消極的ではあるがそれでもやってみようか”という感じの顔である。


 ……ギルドを通してユナと連絡が取れるかどうかは微妙なところだが、やらないよりはマシであろう。

 俺とクローネはそのような言伝を依頼として、ギルドに正式に申請することにした。


 ただの伝言。ただのメッセージ。

 とはいえこんな世界のことである。たったそれだけであったとしても、支払いはなんと300カロンにもなったのであった。

 くそたけえ……。




「お金が欲しいですね」

「それにカードも集めないとな」

「おほー」


 ユナへの伝言のために金を払った後は、同じギルドの中で今度は仕事を探すことにした。

 急に金が減って心配だということもあるのだが、もとよりカード集めのためには多くのモンスターをぶち転がさなくてはならなかった。こうして討伐系の任務を探し漁るのも、ユナの捜索に並ぶ重要な主目的である。


 なにせ、今の俺のカードバインダーには攻撃系のスキルカードが一枚も入っていない。

 布で巻いたロングソードに一本のモビーロッドでは、ヤォが言っていたような敵に対処できるとは思えない。

 カード無しでは、敵対的な闇の剣士が一人現れるだけで全滅する可能性すらあった。


 しかしそんな虚弱な現状、討伐できる相手には限りがある。

 モビーロッドは7回分の“エアーボム”を使用できるが、他に武器らしい武器といえば俺が持つロングソードのみ。その程度ではとてもではないが、イノシシクラスのモンスターを相手にするのも少々恐ろしい。

 クローネの“ホーリーライト”を活かせるアンデッドのような相手がいればいるならば都合も良かったが、さすがにこんなに大きな都市ではアンデッドが内部や周囲に湧く要素もないらしく、討伐の対象としてはあまり姿が見られなかった。

 もっと言えば、近くにはダンジョンも存在しない。

 以前にお世話になったガラスホッパーの出没情報も載っていなかった。


「……さすがホルツザムですね。最近の警戒範囲の拡大もあって、手頃な仕事は全て片付けられているようです」

「うーむ……どれも距離の遠い仕事ばかりだよなぁ」


 そもそも討伐といっても、ここは王城さえ存在する巨大な首都だ。

 王のいる都市の周囲は俺達の手を借りるまでもなく、ほどほどに綺麗に掃除されているようであった。


 ……まずい。


 モンスターを討伐する仕事が……見つからない……。


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