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らん豚女神と縛りプレイ  作者: ジェームズ・リッチマン
第三章 討つは奴への猜疑心
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ワン切りってなんだか感じ悪い


 久々にゆっくりゆったりと晩飯を楽しみ、ブリキ桶いっぱいのお湯で身体を清め、とても清潔な寝床でぐっすりと眠った。

 馬車の揺れやらダンジョン攻略やらで身体が疲れきっていたので、ちょっと奮発して泊まった高級宿屋のベッドは実に快適であった。


 ここで欲をかいて言うなら、俺としては久々に甘い炭酸のジュースなんかが飲みたいけども、この世界で贅沢な飲み物といえば、何にしたって酒に行き着くのだそうな。甘いジュースといえば果物を絞って水で薄めまくったものくらいで、炭酸飲料は酒以外にはほとんどないという。

 酒も飲めないわけではないのだが、俺の場合は厄介な体質もあって、あまり好きなものではない。ほろ酔い状態でも、咄嗟の反応が鈍ってしまうのはいただけないのだ。


「……ぐえ」

「すぴすぴ……」


 喉の乾きの甘いものへと渇望で目を覚ますと、俺の腹の上ではペトルが丸くなって眠っていた。まるで猫のような図々しさだが、重さはさらにその数倍はあるだろう。

 こんな重いものを乗せたままで、俺もよく悪夢に魘されなかったものだ。いや、幸運の女神様が毛布の上で眠っていれば、悪夢なんて見るはずもないのだろうか。

 寝起きは少々苦しかったが、不思議と体調は悪くない。


 さて、体調が万全ならやることはひとつ。

 やっとホルツザムに着いたのだ。ペトルの宝玉探しを本格的に始めるとしよう。


「よーし起きろー」

「ぴー!?」


 俺は毛布ごとペトルを跳ね上げて、まずはそれを早朝の挨拶とした。




 俺たちは昨晩と同じ食堂で、昨日よりは質素な朝食を摂った。

 肉のない食事にペトルはぶーたれていたが、“わがままばかり言ってると黒パンだけにするぞ”と言ってやると、それからは静かにサンドイッチを齧っている。


「ホルツザムではやりたいことも多いから、早めに平らげちまおうな」

「はもはも……」

「ペクタルロトルさん、ゆっくりでも大丈夫ですからね。ちゃんと待ちますからね」

「うん」


 ……さて。昨日は旅を終えた疲れだとか、夕方で行動に限界があったので、ろくに行動はできなかった。

 しかし今日は、今朝から動ける。金にもそこそこ余裕はあるし、確固たる目的だって存在する。


 スープに浸した薄切りパンの6枚目を一口に飲み込む。

 そして自分のコップに水を足してから、俺は今後の予定について語ることにした。


「最終的には、ペトルの宝玉を見つけなきゃならない。けど、宝玉は神様の力をもってしても探し出せないもの……そうなんだよな? クローネ」

「はい。原神ですら探知できない力を持った宝玉ですからね。祭器神や教布神の力をもってしても、宝玉の在り処はわからないでしょう。そもそも……」

「神様ですら、ペトルを覚えてないもんな」

「……はい」


 この偏食気味な女神が作った宝玉というものが実に厄介なもので、どんなに優秀な神様の目を持ってしても、見つけ出すことができないのだという。

 その理由は未だに明らかとなっていないが、ヤォが言うには宝玉が“邪魔をしている”のだそうな。

 ヤォがペトルの身体に触れないということも、おそらくは宝玉のその特性が影響しているのだろう。


 しかし逆に言えば、ペトルの身体に触れることのできる俺達にはチャンスがある。ペトルに接触できるということは、少なくとも神様よりは宝玉に接触できる可能性が高いのだ。


 けれど、今度は人間である以上、人間以上の動きはできないものである。

 宝玉を探すのも自力でやらなくてはならないので、地道な聞き込みや調査が必要になるだろう。


「……そうなると、ペトルのことを知っていたユナって剣士が気になるな」

「ええ……この世界の誰も覚えていないペクタルロトルさんを、唯一知っている人物……もしかしると、何か宝玉について秘密を握っているのかもしれません」

「俺はユナを探したいと思う。宝玉自体を探すのもアリだと思うが、わかる所から攻めていった方が希望はあるんじゃないか」

「私もヤツシロさんと同意見です。もしも刀装神ガシュカダルの言葉が本当なら、剣聖ユナはこの世界で唯一、神であった頃のペクタルロトルさんを知る人ですからね」


 宝玉は目的。その前段階として、風雅の剣聖ユナを探し出す。

 この小目標に俺とクローネの間で異論はなく、二人の合意は旅の指針を決定付けた。

 が、一応この旅は三人である。ペトルにも聞いておくとしよう。


「なあペトル。これから剣聖のユナって人を探すんだが、お前はどう思う?」

「おほ?」


 おほ、だそうです。


「私、難しいことはよくわからないよ」


 なるほど。だ、そうです。

 というわけで、俺たちはユナを探すことに決めたのであった。




 クローネが教布神に啓示を求めても、聞き取れる情報には限りがある。

 ユナの近況を知ることはできるようだが、具体的にどこにいるのかといったことまではわからないようだ。


 なので、これ以上は神頼みはせず、人頼みで調べていくしかない。

 だが人頼みといってもなかなか馬鹿にできたものではない。このホルツザムのような巨大な都市ともなれば、人を探す事だって難しいことではないはずだ。

 幸い、相手はどこの馬の骨かも知れない人物ではなく、神から聖者に選ばれるほどの有名人である。もしも同じ都市内にいるのであれば、こちらが何も求めなくとも、ユナの噂は飛び込んでくるかもしれん。町中のガヤガヤと騒がしいおばちゃんたちを見ていると、そんな予感がひしひしと伝わってくる。


 しかし当然、そこまで受動的に動くつもりはない。おばちゃんの井戸端会議もあてにしていない。

 俺たちはユナの足跡を調べるために、積極的に情報網へと働きかけてゆくつもりだ。


 世界でも有名な剣豪。そして仰々しい二つ名。個人名を指しても伝わる人物なら、情報を扱っている場所で聞くのが一番だ。


「よし、じゃあひとまず、ここで調べるってことで」

「行きましょうか」

「おほー」


 そんなわけでは、俺達は汗臭い男どもが集まるギルドの扉を開いたのであった。



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