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らん豚女神と縛りプレイ  作者: ジェームズ・リッチマン
第三章 討つは奴への猜疑心
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肉系食料は隠し満腹値が高い

 この世界には、神様から気に入られることによって、スキルをプレゼントしてもらえることがある。

 クローネはたった先ほど祈りを捧げている時、慈聖神フルクシエルという神様からスキルをもらったのだという。


 しかし、先ほど響いた声はスキルを司る上位神、技神ミス・キルンによるもので、フルクシエルの声ではない。スキルをあげたのはフルクシエルだけど、ミス・キルンは連絡しただけ。

 なんだか変な御役目である。


「慈聖神フルクシエルは私の善行を見てくださったのです。ギンさんを助け、ヤツシロさんと共に旅をし……ええ、そうに違いありません。やはり私の旅に間違いはなかったのでしょう」


 うんうんと一人で頷きながら、クローネはテーブルに並んだいくつもの黒パンを頬張っている。

 先程から彼女はいかに神が偉大で慈悲深いものであるかと語っているか、向かいの席でポークソテーを齧っているペトルは少しも聞いちゃいないようだ。

 聞き役は自動的に俺である。まぁ、神様が神様の自慢話を聞くってのも変だし、普通の流れではあるのだが。


 今俺達がいるのは、ホルツザムにある大きな食堂付きの宿屋だ。

 ちょっと素朴なレストランのような内装には何人もの人がおり、夕食に舌鼓を打っている。


 俺達の同じように大荷物をテーブルの下に置いているような旅人風の者もいれば、小さなカバンだけを脇に置いて食事を摂る、高級スーツ風のいでたちの紳士も混じっている。

 様々な人が賑やかに食事を楽しんでいるが、その誰もがおそらくは、地元の住人ではないのだろう。ファミレスのような一角は、広い食堂を見回しても俺たちだけだった。


「かびきれなぃー……」

「ナイフ使え。何故両手にフォークを持った」

「ああ、ペクタルロトルさん。口元に汚れがついてますよ」


 お子様な雰囲気出しまくりのペトルを連れての旅は、最初のうちこそお守りをする気分ではあった。

 けどそれも、なんとなく今では慣れてきた。周りの視線があまり気にならなくなったのは、模範的空気を気にする日本人である俺なりの、そこそこの進歩と言えるだろう。


「で、クローネ。結局そのフルクシエルって神様からは、どんなスキルを貰ったんだよ」

「ああ、そうですね。有名なスキルで、『陽だまりの加護』というものなのですが……」


 ペトルの口元を吹いたナプキンを懐に仕舞い、クローネが語る姿勢を整えた。


「『陽だまりの加護』は、近くにいる一人を選んで発動するスキルです。慈聖神の輝きによってその方を包み込み、暖かな気配の中でゆっくりと傷を癒やす……よく治療にも使われるようなスキルですね」

「リジェネか」

「は?」

「いやなんでもない。便利そうだな、それ」

「ええ、とても便利ですよ。更に高度な治療スキルも存在しますが、怪我人の治療を行うスキルの中では、最もよく使われていると言っても良いでしょう」


 段々と回復する魔法、といった認識でいいのだろうか。霊力はMPのようなものだから、あながち間違ってもいないはずである。

 しかし回復魔法とは、また便利なものが出てきたものだ。これでいつ切り傷を負っても、捻挫しても、クローネに土下座をすれば治してもらえるようになったわけである。

 明らかに文明度の低いこの世界で、大きな怪我をせずにどうやって冒険を進めていこうかというのは、ずっと俺の中で悩みの種だったのだ。

 回復スキルが味方についてくれるのであれば、俺も腰に差したロングソードで多少の無茶ができるようになる。少なくとも悪いことはひとつもない。

 また俺の中で、クローネの偉大さがワンランク上がってしまった気がするぜ。


「しかし、私が気になるのはヤツシロさんの体質ですよ」

「え、俺?」

「はい。ペクタルロトルさんのこともありますし、ヤツシロさんにまつわる異常を軽視しがちですが……ギンさんの時もそうでしたけど、ヤツシロさんは神々の声を聞き取りやすい体質なのでしょうか」

「神々の声を聞き取りやすい、か……」


 思えば、俺はさっきのアナウンス風のお告げもそうだったが、ギンにひっついて迷い込んだガシュカダルの祈りの空間でも、相手の声を鮮明に聞き取れていた。

 その前の符神ミス・リヴンへの願い事の時だってそうだ。ちょっと早とちりしたスレた愚痴も聞き逃していない。


「そうだな……確かに、そうなのかもな。普通は信仰を深めないと、よく聞こえないものなんだろ?」

「ええ。信仰していない神ともなればなおさらのはずですから」

「じゃあ間違いないな。心当たりも多い」

「……羨ましい体質です」

「そうか?」

「そうですよ」


 クローネはやけ食いするかの如く、残った黒パンを口に詰め込んでゆく。

 それをまだ湯気の立つスープで強引に流し込むと、彼女はまるで酒を飲んだ後のような、気怠げな息を吐いた。


「神の声が聞こえる。それは実に素晴らしいことです。その力があれば、あらゆるお告げを正確に聞き取り、神の意志を確実に遂行できるのですから」

「ああ……」


 神の声がおぼろげにしか聞こえない信徒達だと、いざ神様からお告げを貰っても聞き取りが確かだったのか半信半疑で、キビキビと動けないことは多そうだな。


「でもクローネ、それさ。お告げとかって、信徒じゃないと駄目なんだろ」

「もちろんそうですが……」

「俺の神様はペトルだけだからなぁ」

「あ」


 お告げも何も、俺が信仰できる神様は横に座ってるこの金髪少女だけだ。

 神様は満足気にポークソテーを平らげて、先ほど拭かれたにも関わらずまた口元をソースで汚していやがった。


「おかわり!」


 そして神からお告げが発せられる。実に簡潔で、その上聞き取りやすい声であった。


「はいはい、おおせの通りに。金もあるし、たまには良いか」

「おほ!」

「ふふ、沢山食べていいですからね」

「おほーっ!」


 俺は神の声を鮮明に聞き取ることができる。

 だが現状、この力をどう有効活用していいものかがわからない。


 ……まぁ、後々有効利用できる方法も思いつくだろう。


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[気になる点] >>先程から彼女はいかに神が偉大で慈悲深いものであるかと語っているか、 →語っているが、 >>俺達の同じように大荷物をテーブルの下に置いているような旅人風の者もいれば、 →俺達と…
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