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らん豚女神と縛りプレイ  作者: ジェームズ・リッチマン
第二章 無知と未知への恐怖心
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転ばぬ先の杖をぶつけると相手が転ぶ

 時間は、朝。ダンジョン内では正確な時間がわからなかったが、やはり閉塞的な場所に篭っていると、感覚は狂うものらしい。

 てっきり、表に出てみれば夜になっているかと思ったのだが、まだまだ日が高くなるのはこれからのようである。


 チェスザムに戻った俺たちは、旅支度を終えて馬車を待っていた。

 ギンを助け出したのなら、この宿場町に身を置く必要も無いし、金銭的な余裕だって無い。いや、ギンを理由にするわけではないし、別に責めてるわけでもないんだけどさ。

 一泊休んでからーなんて余裕は無いということだ。


「ヤツシロさん。クローネさん。そしてペトルさん。本当にありがとうございました」


 遠方に馬車の影が見えた頃、ギンは今日何度目かもわからない礼を言い、頭を深々と下げた。


「皆さんがいなかったら、私はあのまま……土の上で、ただの虫に戻っていたかもしれません」

「信徒を導くのは宣教師の役目、気にすることはありません。大事なのは、ギンさんのこれからですよ」


 太陽を背にしたクローネが、神々しい微笑みを浮かべている。

 少なくとも彼女の持つ慈悲深さは、その隣で干し肉の短冊をもさもさと不満そうに食べている幸運の女神よりも上であるように思えた。


「ギン、これからは剣の扱いに気をつけろよ」

「はい! これからは絶対に、剣を手放しません。必ず、剣士になってみせます!」

「お、おお、剣士になるのか」

「ええ。ガシュカダル様はこんな私にも、二度目の機会をくださったのですから。だから今度は本気で、剣の道を進みたいんです」


 ギンの顔からは表情が読み取れない。

 だが信仰の剣を取り戻して人間味が増したからか、どこか彼女の目は、輝いているようにも見えた。


 もう、弱気でウジウジしていたギンはいない。

 彼女ならきっと、上手くやっていけるはずだ。


「じゃあな、ギン。元気でな」

「ギンさん、お達者で」

「ばいばーい!」


 俺たちは馬車に乗り込み、そしてすぐに出発した。

 遠ざかるギンの姿は、その黒い姿が点になって見えなくなるまでずっと、大きく手を振っていたように思う。


 長いようで短い冒険ではあったが、一緒にダンジョンを探索し、戦ってきた時間は嘘ではない。

 これからのギンの人生が平穏で、良いものであることを神様に祈っておこう。

 霊力を捧げることはできないが、あの情に篤そうなガシュカダルだったら、きっとこの願いも聞き届けてくれるはずである。


「青春だねぇ」


 走ってる馬にそう言われたのはシュール過ぎて、雰囲気としては台無しであったが。

 まぁ、別れた後だから良いんだけどさ。




「それにしても、カードは随分と減ってしまいましたね」

「ああ、これはちょっとまずいかもしれん」


 ペトルがすやすやと眠る馬車の中で、俺とクローネはこれからの旅路について話し合っていた。

 立ち寄った村で人助けをした。それは良い。後悔はない。しかし手持ちのカードが大きく変動したのは、現実として頭を悩ませるに十分な問題でもある。


 というのも、ダンジョン内の探索によって、スキルカードが大幅に消耗されてしまったのだ。



■「エクスチェンジ」スキルカード

・レアリティ☆

・一度だけ、手で触れたカロン硬貨を両替できる。細かくすることも、纏めることも可能。


■「光の祭壇」スキルカード

・レアリティ☆☆☆

・目の前に霊力で造られた簡易的な祭壇を生成する。



 こちらが所持スキルカード一覧になります。

 うん、攻撃どころの話ではない。両替とお祈りができるだけのスキルである。

 さすがの俺もこの二枚を持って白兵戦を挑む気にはなれない。


 この世界では、ギンのように闘四神と呼ばれる職業(ジョブ)的な神様を信仰することによって、闘いを手立てを得ることが殆どだ。

 しかし俺はそういった闘いの神様を信仰することができず、お祈りの対象はそこでよだれを垂らして爆睡してる幸運の女神様のみ。

 そんな中、唯一頼れるものといったら、この符神(ふしん)ミス・リヴンから授かったカードバインダーのみなのだが……。


「さ、さすがにこれでは、カードによる戦闘はできませんね」

「だよなー」


 足りないのはスキルカードばかりではない。

 手持ちのカードは、とにかく戦闘向きのものではなかった。



□「ワイルドスナック」アイテムカード

・レアリティ☆

・あらゆる生物が食べることのできる固形食料。

 食料は3個出現し、一個あたり一食分に相当する。


□「リトル・トーチ」アイテムカード

・レアリティ☆

・先端に火が付いた、匙程度の長さの棒を出現させる。



 時々剣とか盾となって実体化してくれるアイテムカードでさえこの有様だ。

 『ワイルドスナック』はただの食料だし、リトル・トーチに至ってはイラストに描かれているのはどう見てもただのマッチでしかない。

 都合よくカラカラに乾いたトレント的モンスターが相手であればこれで戦えなくもないのだろうが、放火する勇者が世界を救うなんてそんなの嫌過ぎる。一歩間違えれば山火事だ。いや、というかそもそもトレント的なモンスター前提で考えるのはやめよう。アホらしい。


「まぁ、『カルカロン・ギフトカード』で現金は手に入ったから、あながち大損したとも言えないんだけどな……」

「そうですね。おかげでホルツザムまでの旅費はなんとかなりそうです」


 金はある。

 ダンジョンで手に入れた、現金を恵んでもらうスキルカードのおかげで懐自体は温かい。

 しかしこのまま何者かの襲撃を受けたりだとか、そういうトラブルに見舞われた時、どうしてもこの手持ちカードでは心もとないのだ。



■「結晶虫ガラスホッパー」モンスターカード

・レアリティ☆


■「結晶虫ガラスホッパー」モンスターカード

・レアリティ☆


■「骨人スケルトロール」モンスターカード

・レアリティ☆


■「骨歩兵ボーンウォリアー」モンスターカード

・レアリティ☆☆


■「骨刀鎧虫スカルベガイダル」モンスターカード

・レアリティ☆☆☆



 スキルカードとアイテムカードはほとんどない。

 代わりに手に入ったのは、この大量のモンスターカードである。


 スキルカードを使って、倒してはカードを手に入れての闘いを繰り返したのだ。こうして使用できないモンスターカードがバインダー溜まっていくのは自然なことである。


 しかし、五枚か。

 ある程度バインダーに余裕があるとはいえ、これ以上増えても邪魔になるかもしれない。カードを増やす手立てが現時点であるわけではないのだが、バインダーの整理についても頭の隅に置いておく必要があるだろう。

 今俺達が目指しているホルツザムにはカードを売買する店があるらしいから、そこで売るのが一番だろうか。


「ヤツシロさん。モンスターカードが多いのであれば、コレクターレベルを上げてみてはどうでしょうか?」

「コレクターレベル……あー」


 そうか。カードバインダーには、レベルなんてものが設けられていたんだっけな。

 今の俺のバインダーは、コレクターレベル2。カードのポケット数は18枚だ。

 コレクターレベルを上げる事で、更にバインダーのページを1つ増やすことが出来る。


 増やす方法はただひとつ。

 特定のレアリティを持つモンスターカードをバインダーの指定のポケットに収納すれば良いのだ。


「えーっと……うわ、よくみたらこのバインダーの真ん中、横一列に赤くなってるのな」


 俺のバインダーの見開きの中央横一列、6つのポケットは、注意深く見るとほんのすこしだけ赤く色づいている。

 そしてそれを更に注視すると、それぞれのポケットには☆のマークが記されているようだった。


 左側のページには、☆1つのポケットが3つ。

 右側のページには、☆2つのポケットが2つと、☆3つのポケットが1つ。

 このマークが示す意味は、さすがの俺でもすぐにわかる。


「ヤツシロさんの手持ちのカードでは、ギリギリ一枚だけ足りないみたいですね」

「だな。あとは☆2のモンスターカードが一枚あれば、バインダーのレベルも上がるんだが」


 俺の手持ちは、

 レアリティ1が3枚。

 レアリティ2が1枚。

 レアリティ3が1枚だ。

 バインダーのレベルを上げるには、☆2のモンスターカードがあと1枚だけ必要になる。

 ☆2といえばゴブルトや、今持ってるボーンウォリアーなどがそれに該当するが……あまり素手で闘いたい相手ではないな。


「一応、剣と杖はあるから戦えないこともないんだけど……」


 馬車の床に投げ出したロングソードとモビーロッドに目をやる。

 “ヤツシロさんが手に入れたものだから”と、ギンジはスキル『霊力研磨』によって切れ味を直した上で俺にロングソードを返してくれたが、正直なところあまり気乗りはしない。

 いや、ロングソード自体は普通に使えるだろうし切れ味もあるから良いのだが、鞘が無いという致命的な欠点があるので、あまり持ち運びたくないのだ。

 ただでさえ俺の腰にはむき出しの『フライト・ダガー』がある。

 これ以上体に刃物をつけたら、さすがのこの世界でも不審者扱いをされかねない。

 だが手持ちのスキルカードが全くない現状では、文句も言っていられない。ロングソードは俺にとって唯一の武器であり、無からカードを生み出し得る唯一の攻撃手段とも言えた。カード集めが軌道に乗るまでは、しばらくむき出しロングソードを使わなければならないだろう。


「そういえば、モビーロッドに込められた魔法がまだ不明なままでしたね」

「ああ、杖ごとに魔法が違うんだっけ」

「ええ。発動は詠唱もいらず、発動を念じるだけで良いので、使ってみればすぐにわかるのですが……それだと使用回数が一回分無駄になってしまいますので」


 クローネは床の上のモビーロッドを拾い上げ、手をかざした。


「何が込められているのか、確認を……『聖別鑑定』」


 ロッドにかざした手が淡く輝きを放ち、しばらく続いてからフッと消える。

 なるほど、そういう使い方もあるのか。


「クローネ、何か解ったか?」

「ええ。杖に込められている力は、おそらく法神(ほうしん)アトラマハトラの初級攻撃魔法『エアー・ボム』でしょう。残り回数は7ですね」

「おー、『エアー・ボム』が7回使えるってことか」

「そうですね。使いやすい魔法が込められているようで、何よりです」


 見た目こそまっすぐな棒っぽい枝にいくつかの葉っぱが茂っているだけだが、効果だけ聞くと非常に強力だ。

 攻撃スキルを7回も使えるというのは素直に心強い。これさえあれば、どんな敵が湧いて出ても対処できるかもしれない。


 ……カードが無くて不安かなーとも思ったけど、案外どうにでもなるか?

 武器もあるし、そこまで捨てた状況でもないのかもしれん。ダンジョンでの探索は、結構有意義だったってことか。


「ところでクローネ、そのモビーロッドさ」

「はい、なんでしょうか」

「魔法を全部使って、杖だけになったとするだろ」

「はい」

「杖を相手に投げつけたら、魔法の効果って発動しないのかな」

「は?」

「いや、なんでもない。忘れてくれ」

「はぁ……」



『それは間違いなく7回のエアー・ボムを封じたモビーロッドでしょう。状態も良く、自然に劣化するにはかなりの時間がかかりそうですね』

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誤字などを発見した場合には、感想にて指摘してもらえるとありがたい。
章単位で書き上げた後は、その章内を整理するために話数が大幅に削除され圧縮されるので、注意すること。

ヾ( *・∀・)シ パタタタ…
― 新着の感想 ―
[一言] どれを鑑定する?それはエアー・ボムの杖[7]だと完全に判明した。 友人に勧められて読み始めました、更新止まってるみたいですけど再開待ってます
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