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らん豚女神と縛りプレイ  作者: ジェームズ・リッチマン
第二章 無知と未知への恐怖心
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陰口は自分に返ってくる

 まばゆい景色が掻き消えれば、そこは先程までいた地下の一室だ。

 ギンは床から抜き取った信仰の剣を大事そうに抱きしめて、クローネはそれを微笑ましそうに眺めている。

 ペトルはそんな二人を、また別の視点からニコニコと見つめているようだった。


 ……みんなには、俺とガシュカダルが交わした会話が聞こえていない。

 この様子だと、ギンの方も受け取ってはいないようだ。


 刀装神信仰の聖者、ユナ。虫族の女剣士。

 ……ペトルを信仰しようというこの人物について、気になることは多い。俺達が旅をする上では、間違いなく早急に調べなければならない人物であろう。


「ありがとうございます……ヤツシロさん、クローネさん、ペトルさん、ありがとうございます……!」

「良かったですね、ギンさん」


 しかし、今はこの空気だ。

 ギンが壁を乗り越えて目的を達成し、それが祝福されている。

 わざわざ今話すべきでもない重い空気を持ち込む必要もないだろう。


「ギン、おめでとう」

「はい!」


 ギンの口調は、それまでのカタコトじみたものとは違って、非常にハキハキしたものへと戻っている。

 虫っぽい無機質な訛りが消えて、完全に人間の少女のような、可憐な声だ。

 ガシュカダルに再び認められ、ギンは刀装神の信徒になったのである。


「……そうだ、ヤツシロさん」

「お、おう?」


 急にギンからはっきりした口調で声をかけられて、ちょっとビビる。


「まだ、最後の宝箱が残っていますよ」

「あ。そうか」


 言われてようやく気付いた。

 ギンの信仰の剣に気を取られて忘れていたが、このダンジョンにはちゃんとした宝箱もくっついているのだ。

 というか、ダンジョン最奥部の宝箱である。これがなくてはお話にならない。


「ヤツシロさん、開けてみてください」

「シロ、はやくはやく」

「……そうだな。さっさと開けちまうか」


 先を急かす皆に言われ、俺は石製の宝箱の蓋をグッと持ち上げ、向こう側にひっくり返した。


「……棒だな」


 重々しい石の宝箱に納められていたもの。それは、一本の棒。

 ロングソードの時と同じように、一本の棒が宝箱の底面に突き刺さっている。

 一瞬“また刀剣類か”とも思ったが、どうも底面際までずっと一直線にただの棒っぽいところを見るに、剣ではないらしい。

 むしろこれは杖か何か、そういったものに近いのだろう。


「ヤツシロさん、これはモビーロッドですよ」

「モビーロッド」

「はい。特定の呪文を唱えて振ることで、一定回数だけ呪文を打ち出すことのできる魔法の杖です」

「おー」


 魔法の杖。しかもMPいらず。なにそれ当たりじゃん。

 そう思って俺は、勢い良くこの杖を引き抜いた。


「おー……?」

「おほー……?」


 それは、俺の想像していたような先端に宝石がついているような杖ではなかった。

 引き抜いてみたそれは、杖というよりは、マジで棒である。

 最初から最後まで、多少の歪みはあるものの、それはまさに綺麗な棒に他ならなかった。

 申し訳程度に、先の方にはちらほらと計七枚の小さな青葉が慎ましく茂っているだけで、他は一直線の棒でしかない。

 まるで、そう。これは。


「えだ」


 枝である。

 枝でしかない。

 いや、むしろ、ひのきのぼうである。

 まさかダンジョンの最深部でひのきのぼうがお出迎えしてくれるとはな。

 そういえば俺は不幸だったな。ありがとうひのきのぼう。忘れかけてたよ。ハハッ。


「あの、ヤツシロさん。その表情で何を仰りたいのかはわかりますが、それは紛れも無く魔法の杖ですからね。効果を発動させる度に、先についた葉が一枚ずつ消費されてゆくのです。これでも立派な、耕穣神(こうじょうしん)モビーが生み出した神器なのですよ」

「な、なるほどな」


 見てくれはどうあれ、この杖は立派に魔法の杖らしい。クローネが狼狽えずにそう言ってくれているということは、間違いないのだろう。

一瞬、“最後の最後で棍棒かよ”と思ってしまったぜ。


 ……まぁ、最後にちょっと拍子抜けしかけてしまったが、最後の宝箱からお宝を回収したし、これで今回のダンジョン冒険は終わりである。

 失ったカードは結構洒落にならない枚数に及んでしまったが、ひとまずは当初の目的を達成できたのだし、これで良しということにしておこう。


「あとはこちらの壁際のレリーフに手をかざせば、自動的に地上へ戻れますよ」

「おー、便利だな」


 クローネが指し示す壁には、渦巻状の細やかなレリーフが刻まれていた。

 どこかトゲトゲしく、悍ましい紐。だがそれは中央部の紐の端をよく見てみれば、何かワームのような……そんな生物っぽいものであるようにも見える。


「おほー……きもちわるい」

「だな」


 巨大なヒルとか寄生虫みたいな意匠である。少なくとも、いい趣味はしていない。

 だがこれを使えば地上に出られるのであれば、まぁこの変な長い生き物には感謝しなくてはなるまい。


「私、知っています。これは迷神(めいしん)ミミルドルスのお姿なんですよね」

「おや、ギンさんよくご存知で。その通りです。地下ダンジョンは、このミミルドルスの蠕動によって掘られ、形作られているとも言われているのですよ」

「なるほど」


 やべー気持ち悪いって言っちゃったよ。

 これダンジョンの神様だったのかよ。内心でめっちゃグロいとかキモいとか思っちゃったんだけど。


「シロ、これさわるの? 私やだ」

「こらこらこら」


 ペトルの気持ちに賛同しといてなんだが、地上行きのトラップに触れる前にこれはまずい。

 触らぬ神に祟り無しだ。いや、触るんだけども。




 と、色々と心配した俺ではあったが、恐る恐るレリーフに触れると、特に問題らしい問題もなく、無事に地上の入り口前へと送還されたのであった。

 一言や二言くらいの無礼など、迷宮の神様は特に気にせず聞き流してくれたのかもしれない。




*ズルズル……*

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