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らん豚女神と縛りプレイ  作者: ジェームズ・リッチマン
第一章 彼の地に堕ちた信仰心
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信じる者は救われる

「この世界は神によって創られ、神によって支配されています。私達は神の意志の下で生かされている存在であり、神なくしては生きてゆけない存在なのです。ここまで、いいですか?」

「はい」


 当然のように疑問はあったけど、多分話が進まなくなってしまいそうだ。

 この世界の前提条件として、俺はシスターさんの言葉を飲み込んだ。


 神の世界。

 宗教家が言うと胡散臭いが、実際に居るとなると……話は違ってきそうだな。


「しかし神々も、我々下界の人間なくしては存在できません。何故なら、神々の住まう霊界は、我々下界の民の霊力によって成り立っているものだからです」

「霊力……」


 なんとまぁ、また胡散臭い単語が出てきたが。


「……あなた達、霊力も知らない?」

「あー……」

「知らないのね。ほんとどうやって生きてきたのだか……」


 なにそれ。指から弾が出そう。


「霊力とは、この下界に生きる私達が常に生み出し続けている、神秘の源のことです。私達の世界ではごく一部、生命のほんの僅かな波動によってのみ生み出されているに過ぎない力ではありますが、神々の住まう霊界のほとんどは、この霊力によって成り立っているのです」

「ほー……」

「霊力を神々に捧げることは、神に力を捧げることを意味します。神を信じ、神の力となる……それこそが、我々下界信徒の役目なのです」

「……なるほど、信仰することで神様を助けるのか」


 神様といったら、地上の人々を洪水で流したり、雷で懲らしめたり、かなりやんちゃで、人間がどう考えようと絶対的に揺るがないってイメージがあるけど……人が神の力になるというのは、ちょっと新鮮な感覚である。


「もちろん、神と一口に言っても、様々な神がいます。光を司る神、闇を司る神、優しさを司る神、教えを司る神、剣を司る神、魔法を司る神……」


 魔法。魔法あるんだ。今更驚かないけど。


「神を信仰することで、その神の司る力の恩恵を受けることができます。例えば剣を司る神、刀装神(とうそうしん)ガシュカダルを信仰すれば、神から一振りの剣を拝受できます」

「おおっ」


 神様から剣がもらえるのか。なんだかかっこいい。


「先ほど貴方が言っていた貨幣袋もその一つです。商神(しょうしん)カルカロンを信仰することでカルカロンの貨幣袋は下賜されますが、それはつまり、カルカロンに祈り、定期的に霊力を捧げることを意味しているのです」

「……え、っていうことは、シスターさん。その……そうなると、カルカロンっていう神様にしか祈れない?」


 神に祈って財布貰っておわり? なんて世知辛い世の中だ。


「まさか、そのようなことはありません。神々の中には、それひとつのみを信仰しなければならないという戒律を持つものもありますが、ほとんどの神々は、いくつも同時に信仰できますよ。我々に神を敬う気持ちがあれば良いのです。もちろん、我々が定期的に捧げる霊力にも限りがありますから、自然と限られてくるとは思いますが……」


 あ、信仰するだけなら色々な神様に浮気しても良いのか。結構寛容だ。

 色々な神々を信仰するって、どことなく日本的な感じがする。


「どのような神を信仰するかは自由です。信仰は何者にも強制されるものではありません。下界の信徒がそれぞれ、自らの意志で決めるのです」

「信仰の自由ってやつかぁ」

「まぁ、そういうところですね。これはどのような神にも破れない戒めですから、十分に考え、調べた上で決めるのが良いのでしょう」


 なるほど……。


 神に祈る。神に霊力を捧げる。神様からお礼の何かを貰う、と。

 ……ギブアンドテイク。この世界の信仰っていうのも、意外ときっちりしているな。

 まぁ、現代人もご利益がある神社仏閣にしかお参りなんかしないんだけども。


「……あの、シスターさん」

「その変な呼び方はやめてください。私の名前は、クローネです。宣教師クローネ。敬称もいりませんよ」


 俺が呼ぶと、クローネはシスターという言葉を否定した。

 なるほど。修道女ではなく、宣教師さんだったか。どうやら俺の世界での先入観は、とことん通用しないらしい。


「クローネ、この世で普通に生きていくためには、例えばどんな神様を信仰すればいいと思う?」

「……そうですね。さっきは私も厳しく言いましたが、実際に信仰することで得られる物やスキルなどは、貴重です。中にはカルカロンの貨幣袋のように、必須とされているものさえ存在します。なので……」


 クローネは顎に指を添えて、悩むように空を見上げた。

 目つきがキツいせいで、そんな何気ない仕草も、なんだか苛立っているように見えてしまう。


「やはり、商神(しょうしん)カルカロン。光輝神(こうきしん)ライカール。技神(ぎしん)ミス・キルン。そして、符神(ふしん)ミス・リヴン。これらは地上に生きる者として、最低限信仰しておくべきかと思いますよ」


 地上に生きる者、ときたか。また随分なスケールだな。


商神(しょうしん)カルカロンは先程も言いましたが、信仰することでカルカロンの貨幣袋を下賜されることが重要です。これは、カルカロンが生み出した硬貨であるカロン硬貨を際限なく入れることができ、いくら入れても重さはほとんど変わることがなく、持ち歩きにとても便利です」

「重さが変わらない?」

「袋の重さは信仰の度合いによりますけどね。また、何より、自分以外の者には硬貨袋からお金を抜き出すことができないということも重要です。ここは、一般的な普通の袋に入れるのとは段違いの性能と言えますね」

「おおお……財布自体が防犯機能までついているのか」


 キャッシュカードに防犯機能が一緒になっている。となれば、その財布を持たない手はないな。

 普通の袋に入れてジャラジャラ音を立てて持ち歩いていたら、盗難が恐ろしくてたまらなくなりそうだ。


光輝神(こうきしん)ライカールは、光や太陽を司る上位神です。闇を祓い、夜を照らす、とても頼もしい神ですね。実用的な話ですが、いざというときには闇の者達から身を守れますし、自らの信仰が闇に染まっていないことを証明できますので、信仰してるだけでも、様々な施設を利用する上で不便しませんね」

「ほお……」


 よくわからないが、偉くて凄くて正義な神様だってことはわかった。

 保険証みたいな物だろうか。


 キャッシュカードに保険証。……こんな所まで来ておきながら、連想する物がいちいちリアルだな、俺。


「そして、技神(ぎしん)ミス・キルン。技神もまた上位神であり、世界を構築する一角を成しています。貴方も、自分の頭の中に彼女の声が響いてきたことがあるでしょう? その声の主こそが、ミス・キルンなのです」


 誰。


「……ちょっと聞いたことないです」

「は」


 ごめんなさい、睨まれてもないものはないんです。


「……ええと、貴女。ペトル、さんでしたか」

「おほ?」


 今までリスの如く黙々とビスケットをかじっていたペトルは、クローネに声をかけられてようやく耳を傾けた。


「貴女は聞いたことがありませんか。自分の頭の中に、女性の声が聞こえてきたことが。例えば……スキルを取得しました、とか。そういうような」

「知らないわ?」


 相変わらずの即答である。

 クローネは信じられないというような顔をしていた。


「……信仰していなくとも、一度くらい聞いたことがあってもおかしくないのですが……まぁ、良いでしょう。技神(ぎしん)ミス・キルンを信仰すると、彼女からランダムに一つのスキルを拝受できます」

「スキル……」

「んー……様々なものがありますから、一から説明することは難しいですね。しかし、戴いて損をするようなスキルはありませんよ。どれも、我々下界の信徒の力となるものばかりです」


 スキル。技。技術。

 だが、クローネが工業的だったり事務的な意味のスキルを言っているわけではないということはわかる。

 技。それこそ、ファンタジックな魔法のことだと考えるのが自然か。


「あとは……」

「クローネちゃーん! 列が詰まってるから、手伝い戻ってきてー!」


 のこるひとつの神を説明しようとした時、石造りの神殿の方からおばちゃん宣教師の声が聞こえてきた。

 どうやら、あまりの多忙さに彼女を頼らざるを得なくなったようだ。


「……すみません、本当はもっと説明したいのですが」

「いやいや、助かったよ。ものすごく当たり前のことなのに、丁寧に教えてくれて、本当に助かった」

「そ、そうですか? でしたら、良かったです」


 クローネは申し訳なさそうにしていたが、忙しい時間を奪ったのは俺達だ。

 丁寧な説明で、……まぁ、非現実的なことばかりだったけど、すぐに飲み込めた。これはとてもラッキーなことである。


「少し前までは、このバニモブ村での宣教も、ここまで忙しくはなかったのですが……」


 最後に一言、独り事を言い残して、クローネは神殿の方へと駆けていった。

 彼女はまた行列の対応をするのだろう。


「……おーい、ペトル」

「ん?」


 すっかりビスケットをたいらげてしまったペトルの口元の食べかすを拭い取ってやり、俺は深く、息を入れ替えた。

 山林に囲まれた、大自然の空気。ここはもう、多分、地球ではない。


「もう一度、列に並びなおそう。どうやらそうしないことには、話が進まないらしい」

「はーい」


 長い列に並ぶのを嫌がるかと思ったが、ペトルは意外と好意的な返事を返してくれた。

 ちょっと変だけども、良い子である。



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