ラストアタックを決めた者が正義
「『オルタナティブ』発動!」
「光輝神の清き閃きよ! 穢れし闇の眷属を追い払え! 『ホーリー・ライト』!」
俺がスキルカードを発動し、クローネが光のスキルを発動させる。
「イマだッ!」
それと同時に、ギンが再び剣を振り被った。
闇を払う光と共に突貫したのは正解だったようで、光に怯んだ相手の隙を完璧に突く形となっている。
上から下へ。大きな薪を一発で割るような、腰の入った振り下ろし攻撃。
光と同時に放たれたギンの渾身の斬撃は、スカルベ・ガイダルの腕の一本を見事に打ち払ってみせた。
怪物の甲高い悲鳴が狭い通路に反響し、スカルベガイダルがよろよろと後退する。
骨の体とはいえ、さすがに腕が一本持っていかれるのは堪えるようだ。
痛みやダメージに怯む。これはいい情報である。
「良いぞギン! そのまま明かりと同時に攻めろ!」
『ハイ!』
幸い、骨とはいえど相手の防御力はそう高くはない。剣が効くなら、大部分のスキル攻撃も通用するはずだ。
いける。
俺はそんな確信を抱きながら、オルタナティブで生成された二枚のカードに目をやった。
このままの勢いに乗って、スキルカードを叩き込んでやる!
■「スーパーインポーズ」スキルカード
・レアリティ☆
・発動対象を指定し、発動する。一定時間、対象の身体能力が上昇する。
■「ソウルコンフュ」スキルカード
・レアリティ☆☆
・カードの絵柄から混乱効果のある魔法弾を射出する。命中すると3秒間混乱する。
生成されたのは味方を強化するスキルカードに、相手を妨害するスキルカードだ。
良い引きだ。これがポケモンでも満点をやってもいいくらいだろう。
しかし『オルタナティブ』で生成されたスキルカードが実体を保つのはたったの十秒間だけ。考えず、さっさと使うに限る。
「『スーパーインポーズ』発動! ギンを強化しろ!」
「んッ……!? か、体がカルくなった!」
「ギン、そのまま行け! 『ソウルコンフュ』発動!」
ギンに『スーパーインポーズ』による強化を掛け、続けざまに『ソウルコンフュ』の光弾を発射する。
光弾に当たらなければ混乱効果を付与することはできないが、狭い通路とはいえ背の高い敵だ。頭部の付近を狙ってやれば、ギンを避けて命中させることは何ら難しくない。
俺の目論見通り、『ソウルコンフュ』の光弾はスカルベガイダルの胸部付近に命中した。
光が着弾すると同時にスカルベガイダルの動きに変調が現れ、後退の脚もピタリと止まる。
が、それは混乱の影響の一端に過ぎない。
相手に冷静な判断をさせないような効果が出ているのだろうが、かといって決して相手が動かなくなるわけではないのだ。
「ウワッ……!」
スカルベガイダルをその場に留めることは成功したが、今度は滅茶苦茶に腕を振るって攻撃をし始めた。
乱雑に振り回される三本の剣は軌道が読めないようで、ギンも攻めあぐねいているようだ。
しかし、ここで足踏みしている暇はない。
「光輝神の清き閃きよ! 穢れし闇の眷属を追い払え! 『ホーリー・ライト』!」
「ギン、攻めろ!」
「で、デモこれじゃ……!」
「今のお前には防御能力と身体能力が上がってるんだ! それが切れる前じゃないと、まともに戦えないぞ!」
「……!」
俺の言葉に、ギンがすぐに応戦体勢を整える。指示を飛ばせば、実行に移すのは早かった。
ギンは迫り来る骨刀をスケイルシールドで押さえ込みながら、強引に懐へと飛び込んでロングソードを振りかざす。
『スーパーインポーズ』によって強化されたギンの剣技であれば、スカルベガイダルの脆い骨を断ちきる事など造作も無い。
何度かの防御と何度かの攻撃によって、ギンはあっという間にスカルベガイダルの腕二本と、脚一本を断ってみせた。
軽い音を建てて地面に転がる骨の肢。
三秒の混乱が解けて正気に戻ったスカルベガイダルは、再びキィキィうるさい悲鳴を上げる。
残る脚は三本と、腕が一本のみ。
体勢がアンバランスになった上に、攻撃はたったの一つに減らされてしまった。こうなればいかに大柄な相手だろうと、そう安々とは動けまい。
「よくやった、ギン!」
「ハァ、ハァ……! ぼ、ボウギョと能力向上がトけたみたいです……!」
ギンの息は上がっていたが、同じくらい気分が高揚しているようでもあった。
自分の剣によって相手に深手を負わせたのだ。それなりの達成感もあったのだろう。
しかし、相手はまだ生きている。
これ以上退く様子は無いし、骨刀を構えている所を見るに、まだ諦めてもいないようだ。
対するギンは、左手に持っていたスケイルシールドの鱗が全て剥がれ落ち、一枚の装甲もなくなっている。
こっちもこっちで、攻防はタダではなかったのだろう。
「……タオしてやる」
ギンは残っていた盾の取っ手を放り捨て、左手でロングソードの刀身を撫でる。
「『霊力研磨』……!」
淡い光を帯びたギンの左手がロングソードを撫で、切れ味を失った刃が見る間に研ぎ澄まされてゆく。
それは刀装神ガシュカダルを主信仰することによって得られるスキル、『霊力研磨』。
霊力を消費することで戦闘用の刀剣を一瞬で研ぎ澄ませるという、武人のための能力だ。
ギンが攻撃力を回復したロングソードを構えると、向こうの怪物も準備は整ったと、金切り声を上げて威嚇する。
聞くだけでも鳥肌が立つような、恐ろしい声だ。しかし、真正面に立つギンは怯まない。
「はぁッ」
最上段に振り上げたロングソード。対するスカルベガイダルは、薙ぎ払うような大きい横振り。
息を飲む一瞬の斬撃。
地面に落ちたのは、スカルベガイダルの最後の腕だった。
「か、カった……?」
「まだです!」
「え」
相手の腕を全て削ぎ落とした事で一気に弛緩したギンだったが、それは早計である。
虫は、腕をもがれても動きを止めることはない。
脚さえ残っていれば、虫はいくらでも足掻き、抗うものなのだ。
「『サーチ・石化の眼差し』発動!」
鋭い鉤足がギンの頭上に掲げられたその瞬間、どうにか俺の放った光弾は間に合った。
三本脚だけになったスカルベガイダルは、そのうちの一本を掲げるという無茶な体勢のまま灰色の石へと変化し、動きを止める。
本来であれば一本の脚を思い切り振り下ろす算段だったのだろうが、後ろ側へ傾きかけた重心は、スカルベガイダルの体をそのまま仰向けに倒してしまった。
「剣士は最後まで油断したら駄目だぞ。ギン」
俺はそう言いながら、灰色の欠片を飛散させながら床に倒れたスカルベガイダルに手斧を放り投げる。
手斧はスカルベガイダルの本体の胸部にぶつかって、奴の胴体を粉々に粉砕した。
「……カった?」
ロングソードを下ろし、ギンが小さく零す。
石化の解けたスカルベガイダルは一瞬だけ骨の色合いに戻ったが、やはり胸部を破壊されたのは致命傷だったのか、端からサラサラと砂となって、崩壊してゆく。
「終わり、みたいですね」
その様子を見て、クローネは確認するように頷いた。
「……ぅおっと」
そして闘いの終了の確たる証拠は、最後の一撃を見舞った俺の手元にも飛び込んできたようだ。
■「骨刀鎧虫スカルベガイダル」モンスターカード
・レアリティ☆☆☆
・魔族指定の悪霊族。骨製の全身鎧を身にまとう、大きな蜘蛛の怪人。
主に地下やダンジョンに生息し、闇の眷属以外なら何でも襲う。
四本足で重い自重をゆっくりと運び、他の四本足で重い骨刀を自在に操る。
そしてそのカードは、俺の勘ではあるけれど、このダンジョン探索の終わりを示唆しているようでもあった。
「……ギン、良くやったな。最後はまぁ、ちょっと締まらなかったが」
「ギンさん、立派な闘いでしたよ」
「おほーっ! かっこよかった!」
俺たち三人がギンの肩やら背中を叩くと、ギンは恥ずかしそうに頭を掻いた。
小さな声で“ワタシだけじゃ”とか“ただ夢中で”とか聞こえてきたけども、彼女にとってはこれが初陣のようなものなのだ。
何も恥じることはないし謙遜することはない。
俺達はただ良くやったと、ギンを褒めてやった。
「……さ、サア、通路のサキに向かいましょう。オクには、もしかしたら、サイゴの宝箱があるかもしれマせん」
あ、褒めちぎろうとしたら抜けられた。
やれやれ、まぁ良いか。こういう場面で胸を張られてガハハと高笑いされても、それはそれで可愛げがないからな。
「そうですね。先程のスカルベガイダルは、おそらくこの地下五階で最も強い魔族だと思います。進んだ先には、信仰の剣があるのかもしれません」
「よーし、いこいこ!」
「あ、こらペトル。ギンも。一応危ないかもしれないから、そんなに急ぐなよ」
「やーだよっ!」
……全く。
結構手に汗握る闘いだったっていうのに、緊張が解けるのは随分早いんだな。
「ヤツシロさん」
「ん?」
小さく溜息を付いていると、隣のクローネが俺に微笑みかけていた。
「カードによるサポート、とても良かったですよ。お疲れ様でした」
「……クローネも、スキル使ってただろ。お互い様さ」
「ふふ。なんだかこうして強い魔族を相手に何度も戦っていると、私達って冒険する勇者みたいですね」
「はは……ああ、そうだな」
なるほど確かに、なんて体で俺は笑っていたが、はたと気付かされる。
そうだ、俺って勇者じゃなかったわ。
ただの運が良いだけのフリーターだったわ。
……なんとかこの闘いは乗り切れたが……はぁ。次からもこうして、ギリギリのところで上手く切り抜けられるのだろうか。
一安心すると同時に、今から心配になってくるな。
『ガミ~! 眷属を斃したのは誰ガミ~!』




