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らん豚女神と縛りプレイ  作者: ジェームズ・リッチマン
第二章 無知と未知への恐怖心
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蜘蛛の巣は止血剤にならなくもない

 ギンを先頭に、一歩一歩ゆっくりと前進する。

 歩みはゆっくり。そろりそろりと、慎重に。


 この一本道の先には、強大な敵がいるのだ。

 ボスが待ち受けているとわかっている道の途中では、緊張感ばかりが胃と肺の中にこみ上げてくる。


「ダイジョウブ、大丈夫……」


 自分に言い聞かせるようなギンの声が何度か響き、やがて、暗がりの向こう側から大きなシルエットが姿を現した。


 四本の骨の脚は、巨大な体をゆっくりと前方へ運び。

 余ったもう四本の脚は、それぞれに四本の大きな骨刀を構えている。

 それぞれの脚の中心部には、同じく骨で出来た邪悪な怪戦士の姿。


 その姿は、言い例えるならば、骨の蜘蛛。蜘蛛人間。

 このダンジョンの低層に現れた骨虫スカルベと似た関節を持っているようだが、その程度の共通点など似ているうちには入らない。

 サイズと威圧感が、まるで違う。


 まず、デカい。

 通路の幅いっぱいに広げた四本足は、それだけでもう、無視して向こう側へ逃げおおせるという作戦を頭から削除してしまえるほど、大きい。

 そして、構えられた四本の骨刀。横幅いっぱいに広げられた大きな四本足だけでも高圧的だというのに、奴はその上部にさえも、より巨大な骨の大剣でもって、圧迫感の強い空間を強欲に陣取っている。


 つまりは、四本足で四刀流。

 しかも、でかすぎてどこをどう攻撃したらなし崩せるのかもわからない。

 もしも奴の本体が弱点が、あの四本の骨刀の向こう側にある、古びた鎧を模したような骨製の上半身に存在するならば……この勝負、苦戦は避けられないだろう。


骨刀鎧虫(こっとうがいちゅう)スカルベ・ガイダルですね……ギンさん」

「ダイジョウブ」


 クローネが正面の怪物の名を呼び、次にギンの名を呼んで……彼女はすぐに、はっきりと答えた。

 大丈夫だと。剣を握って、確かな声で。


「……相手の動きは遅いですが、見ての通り武器は四本あります。気をつけて」

「はい」


 巨大な骨蜘蛛の怪人を目の前にしても、ギンは逃げようとしない。

 彼女の背中からは、これかた立ち向かおうという意識が感じられる。

 これならきっと、大丈夫そうだ。


「『守護霊のオーロラ』発動、ギンを守れ!」



■「守護霊のオーロラ」スキルカード

・レアリティ☆

・神秘のカーテンによる防御魔法。選択した対象の周囲に神聖な霊力のカーテンを貼り、一定時間またはある程度のダメージを防御し、和らげる。



 俺は手にしたスキルカードのうちの一枚を発動し、ギンに向けて効果を放つ。

 するとギンの周囲に、虹色のカーテンのような力場が現れた。

 カーテンはギンの周りを覆い込み、一定時間だけ防御能力を向上させる。


 ……あんな物騒な見た目の化け物が相手だ。とてもではないが、防御系のスキルカードを出し惜しみできる気はしなかった。

 そして多分もう一枚の『オルタナティブ』も、きっとすぐに切ることとなるだろう。


「コい、穢れた闇の虫メ!」


 ギンがスケイル・シールドを構えながら、相手を挑発する。

 するとスカルベ・ガイダルは喧嘩に乗ったのか、それともただ単に射程圏内に入ったのか、ギンに向けて二本の骨刀を振り下ろしてきた。

 動きこそ鈍重な、先人が見たなら思わず笑ってしまいそうな太刀筋であはある。

 しかしスカルベ・ガイダルの握る大きな骨刀は勢い良く振り降ろされると共に、安々と床の石を破壊してしまったではないか。


「クッ……」


 咄嗟に背後に跳んだギンの判断は、まったくもって正しかったと言える。

 今の攻撃は予備動作も丸見えで動きも鈍かったが、その分威力が高く、直撃していたなら、例え盾でガードしていたとしても、タダでは済まなかったに違いない。

 盾を離さなくとも、盾ごと地面に押し付けられてぺしゃんこになっていただろう。

 そんな光景を見たくはなかったので。ひとまずは何よりだ。


「ヤァッ!」


 相手の攻撃を回避したギンが、素早く前に踏み込んでロングソードを振るった。

 一見疾く鮮やかな横振りである。


「えっ、カタっ……!?」


 しかしロングソードの一撃はスカルベ・ガイダルの手首に当たったというのに、軽く骨を欠かせてやった程度のダメージしか与えていなかった。


「うわっ」


 衝撃の事実に打ちひしがれる間もなく、相手からの攻撃の第二波が来る。

 まだ振っていなかった、二本の骨刀による振り下ろし攻撃だ。


 ギンは次の攻撃もどうにか回避して、更に後退。

 そのギンに釣られる形で、俺達も危機感を抱きながら後ろに下がる。


 相手がいくら遅いとはいえ、四刀流の武器を使っている向こうはそうそう隙を見せてはくれないらしい。

 そしてこちらの攻撃は、軽いものでは大して相手に傷を与えることなく、弾かれて終わってしまう。


 ……剣だけでは不利だな。


「ヤツシロさん、私は光で応戦します」

「わかった。俺はなんとか……『オルタナティブ』にかけてみる」

「ぴー!」


 じりじりと下がってゆく前線。

 いきなり形勢不利だが、さて。俺たち後衛の攻撃が通じれば、逆転となるだろうか……。


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