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らん豚女神と縛りプレイ  作者: ジェームズ・リッチマン
第二章 無知と未知への恐怖心
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トイレは常に、自分で掃除したくなるくらい清潔に

「――いくぜ、亡者共」


 一枚のカードを取り出して、水平に構える。


 迫り来るは、巨大な骨の群れ。その数は三。

 どいつもこいつも、ただ殴るしか能の無い、雑魚共である。

 だがこいつらは皆、元々は何らかの生き物の魂や骨だったのだ。

 それを想えば――ま、少しくらいの哀れみも、抱かないでもないが……。


「――成仏させてやるよ」


 お前たちを始末するのが、この俺の仕事。


 悪く思うな。

 せめて、安らかに――散れ。


「発動、『レイ・スラッシュ』――」

「ウボ」

「ァ」

「ァアア」

「……他愛無い」


 俺が三体の隙間を通り抜ける頃には、全てが決していた。

 八つ裂きにされた巨大な人骨の群れはその場でガラガラと積み木のように崩れ、落ちる傍から灰になって消えてゆく。


 そう、これは俺が右手に宿した必殺技、『レイ・スラッシュ』による――。


「終わりましたね、お疲れ様です」

「スゴかったです」

「おほー」

「……うん、どういたしまして」


 反応がちょっと淡白すぎやしませんかね。

 人がせっかく無茶な動きで一度に三体も倒したっていうのに。


「デ、でもヤツシロさん。イマのはちょっと、アブないと思いマス。ちゃんと倒したのをカクニンしてから、次のマゾクと闘うべきですよ」

「そうですよ。いくら先ほどのスキルカードの効果時間が短いからといって、急ぐのは禁物です」

「あ、はい。すいません……」


 逆に怒られてしまった。

 十分予知できていたことではあるが、こう真正面から言われてしまうと心遣いが嬉しい反面、結構心にくる。いや、百パーセント俺の行動が軽率なだけなんだけどね。


「シロ」

「……ん?」

「めっ」

「……はい」


 と、調子に乗った一幕であったわけです。




 地下三階。出てくるモンスターは、もはやスケルトロールだけになってしまった。

 「サッカーやろうぜ! お前ボールな!」ができるスカルベ君は、もうここには一匹もいない。ただひたすらに、スケルトロールがのっそりと現れては、その都度連中を撃退するばかりだ。


 階層を降りる毎に強くなっている。それは体感としてもわかるし、間違いない。

 しかし、かといってここで新しいモンスターが出現するっていうわけでもなく、地下三階には本当にスケルトロール以外の姿が見られなかった。


 とは言うものの、俺達は別にレベリングをしに来たわけでもなければ、レアなドロップアイテムを求めに潜りに来たわけでもない。

 ここに来た理由は至極単純。ただ、最奥の剣を目指すためである。

 最速で地下を降り、出来ることなら強い敵と遭遇しない事こそが、一番なのだ。


 そのため、俺達はひとまずこの地下三階にて、休息をとることにした。

 もう何時間が経ったのだろう。薄暗いばかりの地下迷宮では、時間感覚が狂ってしまう。

 頼りになるものは疲労と空腹と眠気だけで、それらが限界に近づいたならば休むしかない。

 何より、ここは“まだ”スケルトロールしかいない地下三階なのだ。

 たっぷり時間を取って休める場所は、ここ以外にはなかったのである。




「闇払いの蝋燭に、闇払いの鈴。ひとまずこれらを通路側に仕掛けておけば、スケルトロールは入ってこないでしょう」

「……本当なら、バリケードでも築きたいところだけどな」

「資材がありませんからね。仕方ありません」


 俺たち四人は地下三階のとある突き当りの部屋にて、仮眠を取ることに決めた。

 いい加減歩き通しで疲れていたというのもあったのだが、何より同じ通路を延々と歩きながら、時折不意を突くように出現する魔物との交戦で、心が疲弊していたのである。

 俺達は確かにダンジョンを攻略しに来た冒険者と言えなくもないのだろうが、俺を含めた誰もがそんな柄ではない。クローネは奇跡的にも持ち前のスキルがここの敵に有用であるというだけで、それが無かったら苦戦を強いられていたに違いないのだ。


 慣れない行軍による疲労は、限界に達していた。


「しかし水が流れていて、何よりです。とりあえずここで、しっかり疲れを取ることにしましょう」

「そうだな。みんなもヘトヘトだろうし、ぐっすり朝になるくらいまで……ってのも、アリだな」


 そう、アリだけ……いや、なんでもない。


「ねえねえ。水、飲んでいい?」

「どうぞ。ダンジョンの水は、よほど生態系が乱れていない限りは純粋なものです。安心してお飲みください」

「おっほーっ!」


 それまでは一休みしてからのちょっとした給水がほとんどだったからか、ペトルは子犬のように水場に顔を突っ込んだ。

 せめて手で掬って飲めと言ってやりたかったが、まぁこういう時だし、許しておいてやろう。


「……では、私は少し……体を拭いてきますので」

「ああ、気をつけてな、クローネ」

「大丈夫です、蝋燭もありますから」


 クローネは手頃な大きさの蝋燭を手に、突き当りの部屋を出ていった。

 彼女がこれから何をしにいくかというと、まぁ……要するに、お花を積みにいったのである。人間なのだから、これはもう当然の現象だ、恥ずべきことではない。

 そう、俺みたいなフリーターでもアイドルでもシスターさんでも、人類は例外なくクソをするのだ。


 いくら飲んだ食ったしても排泄しないなんて、そんな生き物が実在するとしたら、それは……。


「ぷはー! ちべたい!」


 おそらく、神様か何かだろう。


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