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らん豚女神と縛りプレイ  作者: ジェームズ・リッチマン
第二章 無知と未知への恐怖心
55/119

安全マージンは難易度確認から

 光の世界から引き戻され、五感が現実ものへ収束してゆく感覚。

 吐くほどに不快ではないが、軽い車酔いになったようなその瞬間を通り過ぎると、俺の視界は神秘の光景から、現実の林の中へと戻っていた。


 途端、全身に襲い来る一般的な重力に、無防備な体がよろめく。


「シロー!」

「うおっと」


 あわや倒れるかといった寸前で、俺の体は飛びついてきたペトルの勢いによって偶然支えられた。

 いや……偶然というよりは、幸運にも、といった方が正しいのかもしれない。


「シロ、大丈夫? なんだか、苦しそうだった」

「ヤツシロさん、大丈夫ですか!?」


 俺の胴に抱きついたペトルが、心配そうな顔で見上げてくる。同じく、いつの間にかクローネも側にいて、俺の体調を伺っているようだった。

 ……俺の心が霊界(あっち)に行っている間、確かに神との会話という息苦しい思いはしたが、本体はそれほど余裕が無さそうだったのだろうか。

 体は正直……いや、この例え方はやめておこう。ここはカットで。


「いや、俺は大丈夫だよ。ありがとう。それよりも、ギンは……」


 俺は、目の前にあった光の祭壇が消えていることに気がついた。

 そして、祭壇があった場所にギンがこちらを向いて立っていることにも。


「ゴメンなさい……ワタシのせいで、メイキュウなんて……」

「……迷宮? ギンさん、どういうことですか?」

「おほ……?」


 どうやらギンは、俺とガシュカダルの間に交わされていたやり取りを聞いていたらしい。

 クローネとペトルは不思議そうな顔をして、口数少ない俺を見つめていた。




「迷宮に、信仰の剣が……!?」

「ゴメンなさい!」


 クローネが驚愕の表情で大きな声をあげると、その気迫を怒りと捉えたギンが光の速さで頭を下げた。

 いや、確かにクローネって真剣な顔するとちょっと怖いけどな。さすがにその反応は失礼だと思う。


 ……祈りを捧げた最中のことを話すと、ペトルはいつも通りよくわかっていないようであったが、クローネの反応はとても深刻そうなものが返ってきた。

 この世界に疎い俺ではあるが、それでも今回ガシュカダルから与えられた試練が大きいものだということは、重々承知している。クローネの驚愕や不安は、俺にもひしひしと伝わってきた。


 ダンジョン。モンスター。最深部。

 それを聞いただけで、俺にはなんとなーくではあるが、想像がつく。

 一応、全く未知の世界であるために、想像であまり多くを言うのもあれではあるが、できればミノタウロスとかドラゴンではなく、スケルトンとかスライム程度の規模のものであってほしい、とだけ言っておこう。


「ねえねえクロ、だんじょんって何?」

「……ダンジョンは、迷神(めいしん)ミミルドルスによって作られた、人や魔獣を惹き寄せる地下の迷路のことです。内部には宝物や、魔獣たちが好む環境が整っていますが……当然、人と魔獣は相容れないものですから、内部は非常に危険です」

「危ないの?」

「ええ、非常に。まぁ、光物や名声を求めて、内部へ潜る人も大勢いるので、賑わっているといえば、賑わってはいるのですが……」

「美味しいごはん……?」

「それは……すみません、ペクタルロトルさん。私もあまり、ダンジョンには詳しくないもので……わかりません」

「おほ……」


 ああ、やっぱりそういう風になってるのか。

 危険な迷宮。宝箱にモンスター。飴と鞭。実に恐ろしいものだ。落とし穴やトラバサミなんて罠もあるかもしれない。想像しただけで気が滅入る。


 だが勇者一行は、それでもダンジョンに潜らなければならない。

 なぜならそこに、手に入れなければならない宝物や、大切な武器が眠っているのだから。


 ……何より、俺がやると言った試練なのだ。

 今から怖気づくわけにはいかん。


「クローネ。俺はその迷宮に潜ってみようと思う」

「……ギンさんの命がかかっていますからね。危険はわかりきっていますが、それも致し方なしかと」


 俺は結構必死で止められることを想像していたのだが、俺の予想に反して、クローネはそれほど反対しなかった。

 やはり、ギンの人としての暮らしがかかっているというのが大きいのだろう。


「ですが、このチェスザムの近郊にあるというダンジョンについて、話を聞いてみないことには何とも言えません。町の近くにあるダンジョンであれば、さほど恐ろしい敵もいないでしょうけど、規模が大きいものだと危険な生物がいるかもしれませんから」

「危ないの?」

「どのみち、覚悟はしなければなりませんね」


 クローネは冷静だった。

 確かにそうだ。さすがに俺だって、好き好んでミノタウロスやドラゴンが徘徊するような迷宮に潜りたくはない。

 ペトルと一緒にいる幸運を加味しても全くもってクリアができないような場所では、さすがの俺でも……たとえギンの命がかかっていても、悪いが入ることはできない。命が惜しいと言えば、それまでのことではあるんだが……。


「……しかし、ダンジョンの深部で剣を手に入れろ、とは……刀装神ガシュカダルもまた、豪快な試練を与えてくれましたね……」

「……なんかごめんな」

「ゴメンなさい……」

「いいえ、これもまた、神のお導きでしょうから……」


 色々と思うことや考えるべきことはあったが、ひとまず俺たちは、件のダンジョンの規模を確認するため、チェスザムの顔役と会うことにした。

 絶望するのも、やる気を出すのも、クリアすべきダンジョンの難易度を確認してからのことである。



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