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らん豚女神と縛りプレイ  作者: ジェームズ・リッチマン
第二章 無知と未知への恐怖心
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名乗ったら名乗り返すもの

 少しの休憩を終えたクローネが『光の祭壇』によって刀装神ガシュカダルの祭壇を作り出すと、ギンは一枚のカロン銅貨を手に、そこへ向かい合った。

 金色に輝く神秘の祭壇。

 表情筋などというものが全く存在しないためにギンの顔色は読めなかったが、胸の前でコインを握る彼女の手は、わずかに震えていた。


「ねえねえクロ。神とお話するのって、どういう感じなの?」

「ん? ペクタルロトルさんは人と交信したこと……は、ありませんよね。原神ですと」

「うん。よくわからないよ」


 祭壇から少し離れた場所では、ペトルとクローネが話している。

 クローネは相変わらず、ペトルに対しては非常に丁寧というか、お堅いようだ。


「……人間にとって、神が発する声の鮮明さは、信仰の深さに比例すると言われています。私は教布神エトラトジエを主信仰としていますが……しかし、それでもまだまだ神の声は遠く、微かなもの。全てを聞き取るのは難しですね」

「そうなの?」

「はい。……精進しなくてはなりません」

「おほー……」


 きっちりと受け答えして、反省点を思い出しては落ち込んで……。

 クローネは、真面目すぎて駄目になるタイプなのかもしれない。現代でいうところの、頑張りすぎて鬱になるタイプというか。失礼な憶測だけど。


「ガシュカダル様……オコってるのかな……」


 俺は少し離れた場所で会話する二人に聞き耳を立てていたが、それに紛れるようにしてギンが怯えるように呟いたのを、どうにか聞き逃さなかった。

 ギンはどうやら未だ、祭壇に硬貨を置くことを躊躇しているらしい。


「大丈夫だって。神様も話せばきっとわかって……」

「あッ」


 俺は、かるーく励ます感じで肩を叩いたのだ。

 しかしガチガチに緊張したギンは、ぽろりと手の中の貨幣を祭壇の上に落としてしまい……。


「あ、やべっ――」


 “これはいかん”とギンの肩から手を離す前に、俺の視界は眩い光に包まれてしまった。




「う……」


 真っ白な輝きの中に、俺は立っていた。

 しかし前に朝に体感したような夢の中の暗闇とは別物で、体が妙にリアルな感覚を持っているだとか、動きたくても動けないだとか、そういうものではなかった。

 どちらかといえば今の体はぼやけていて曖昧だが、ふわふわと自由に飛び回っているような、そんな状態にあるように思う。


 思い起こしてみれば、これは符神ミス・リヴンにお願いをした時と同じような感覚に近いかもしれない。

 そんなどうでもいい事を考えていると、真っ白な世界の空に、それよりもずっと眩しい銀色の煌めきが輝いた。


『俺は刀装神ガシュカダル。貴様は何者だ。名乗れ』


 そして、響き渡る荘厳な低い声。

 ドスの利いた、という表現がぴったり当てはまるような、鋭い威圧感の込められた言葉であった。


 刀装神ガシュカダル。まさか、向こうの方から先に名乗ってくるとは。

 そして、名前を問われたのであれば、答えなくてはなるまい。

 俺が自分の名前を口にしようとした、その時である。


『わ、ワタシはギンです。ガシュカダル様、ホンジツは、お言葉をイタダきたく祈らせていただきマシタ……』


 俺の一言目を遮るようにして、ギンの声が響く。

 辺りを見回すが、ギンはいない。彼女の声だけがこの世界にやってきて、こうして俺の耳に聞こえているのだろう。むしろ、ここに俺が居ることの方がおかしいのだろう。

 もしかして、コインが祭壇に落ちる瞬間にギンの体に触れていたから、俺もこうして二人の会話が届く場所にやってきてしまったのか……。


『言葉だと。ハッ、言葉なら前にもくれてやっただろう』

『宣教師サマの力をお借りシテ、信仰の剣をモっているのが、ガシュカダル様だとわかりました』

『前に伝えた』

『その……どうして剣を、ガシュカダル様がモっているのデショうか……ワタシは、それをキきたくて……』

『それも伝えた。言ったはずだ。片時も剣を離さず、常に振るえと』

『えと……ええと……』


 ギンの声と、ガシュカダルの声が交錯する。

 しかし二つの声は会話になっておらず、ガシュカダルの方はしっかり相手の声を聞き取れているようなのだが、ギンからの言葉は一方通行で、どうもガシュカダルの声が彼女に伝わっていないように窺える。


『俺の声が聞こえぬのは貴様の不信心が招いたこと。去るが良い』

『あ……アウ……』


 ……やばい、だめだ。なんかもう平行線のまますれ違っただけで会話が終わりそうだ。

 それではあまりにも不味すぎる。


「ま、待ってく……ださい!」


 俺は銀色に輝く空に向かって、声を張り上げた。

 すると空の煌めきが一瞬だけほの暗く陰り、またすぐに輝きを取り戻す。


『……貴様は何者だ。名乗れ』


 しばらく間を置いて、ガシュカダルの落ち着いた声が聞こえてきた。

 良かった。どうやら俺の言葉が神様に届いたらしい。


「俺の名前は蘭鉢 八代といいます」

『ランバチ、ヤツシロ……俺の信徒ではない』

「あ、その、俺はギンの友人で、どういうわけか祭壇で祈りを捧げるときに一緒に来てしまったみたいでして……」

『ほう』


 銀色の空が輝きを増し、どういうわけか、俺に向かって強く降り注いでくる。

 輝きは温かくもなければ、痛くも痒くもない。ただ少し眩しいだけのものである。

 けど、俺は不思議と、その輝きに照らされている間は、自分の心臓を掴まれているかのような気分になってしまう。なぜかは、わからないのだが。


『貴様、俺に待てと言ったな』

「……はい」

『何用だ。言ってみろ』


 なんだこの人超怖い。前に話したミス・リヴンは結構緩い感じだったけど、この神様は全くもって隙というものが存在しないように思えてくる。さすがは剣の神様だ。

 しかし、こうなってはもはや退くこともできない。正直に話してしまおう。


「……ギンの信仰の剣を、返してやってもらえませんか?」



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