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らん豚女神と縛りプレイ  作者: ジェームズ・リッチマン
第二章 無知と未知への恐怖心
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雨の日の読書は農民以外でも大丈夫

 その後、チェスザムにあるクローネの信仰する神様の祭壇を見て回った。

 が、他人の拝む神様だと他人面してもいられない。

 この世界では神様への信仰が全て、と言っても過言ではないのだ。

 出来る限り、見聞きした神様の名前は頭に叩き込んで、覚えてゆかねばなるまい。


 今日クローネが回った祭壇は、教布神エトラトジエ、慈聖神フルクシエル、光輝神ライカールの三柱だ。


 教布神エトラトジエは、神々への信仰を啓蒙する神。

 クローネのような宣教師が主信仰とする神様だ。


 慈聖神フルクシエルは、善を尊ぶ神。

 これは名前そのまま、人に優しくという考えをモットーにした神様らしい。


 そして光輝神ライカールは、光を司る神。

 この神様は上位神であり、暗神ザイニオルとは対を成す存在なのだという。

 ……夢の中で暗神と対峙した(かもしれない)俺としては、是非ともこの神様には頑張ってもらいたいと思っている。

 なんて、多分言ったらクローネに“人ごとではないですよ”とかいって怒られそうな気がする。


 それぞれの祭壇を回って祈り、各々に霊力を捧げる。

 今日はこの三柱だけということだが、クローネはこれらの他にもいくつかの神様を信仰しているらしいので、御利益に与るというのもなかなか簡単な話ではないことを思い知った。

 町にある祭壇と祭壇の距離が、わりと離れているということも大変だと思わせる要因の一つである。

 だがそれ以上に、霊力を捧げるということそれ事態も結構な負担になるようで、クローネが二度目、三度目と祭壇で祈る毎に、彼女の顔に浮かぶ疲労は目に見えて色濃くなっていった。


「クローネ、大丈夫か?」

「あ、はい。平気ですよ」


 声をかければ、気丈な返事が返ってくる。

 しかし根っこの部分は隠しきれておらず、常にハキハキする彼女にしては、随分と歯切れが悪いなと感じられた。


「今日はもう休んでおけよ。疲れたんだろ」

「ん……まぁ、霊力を捧げるのは安息日に二柱までというのが普通ですからね……それなりに、疲れてはいますけど」

「案内してくれてすごく助かったよ。今日はもう宿に入って休もうぜ」


 クローネはこれから俺のために、雑貨屋を紹介してくれる予定だったのだが、こうなれば予定は変更だ。

 地理や店を覚えることは大切だが、恩人であるクローネの体を粗末にすることは看過できない。


 俺はクローネの頭を黒いヴェール越しにぽんぽんと軽く叩き、笑いかける。


「……子供扱いはやめてくださいよ」 


 彼女はヴェールの下で口を尖らせながら、不満気に呟いた。

 しかしこのまま宿で休むことには異論もないらしいので、どうやら俺の気遣いは空回りでもなかったらしい。良かった良かった。


「ねえねえシロー、私の頭もたたいて?」

「ていっ」

「おほっ!?」


 ペトルの頭に軽いチョップをお見舞いしつつ、とりあえずは宿を取ることにした。

 今日は早いが、これで早めに休むとしよう。




 軽い夕食を食べ、宿の一室を取り、俺達は早めに宿に泊まる。

 特別何かした日というわけでもなかったのだが、馬車での移動はそれなりに疲れるものであるらしく、またほんの少し行ったペトルへの祈りもそこそこ心地よいまどろみとなって、案外早めに眠ることができた。


 もちろん、寝る前にクローネが見繕ってくれた大蝋燭を用意するのも忘れていない。

 この蝋燭に火をつけておけば厄祓いになるというのだから、最近悪夢にうなされがちな俺にとっては必須のアイテムである。

 そんな甲斐もあってか、この日の眠りは実に心地よいものだった。


 何の気兼ねもなく、ぐっすり眠って疲れを取った翌日というのは、実に心地の良いものである。




 ……翌日の、この雨を除けばだが。


「おほー……」

「……雨ですね」

「参ったな」


 目が覚めれば、薄明かりに染まり始めた景色は、雨に濡れている。

 まんべんなく広がる灰色の空は、これから多少待ったところで、晴れることはないと俺達に言っているようだった。


 雨が降ると、馬車が出ない。

 それはつまり、この宿場町に留まらなければならない事を示していた。


 これがただのRPGだったなら、宿屋に泊まりましたはい全回復ですはいフィールドに出ましょうとなるだろう。

 しかし食糧問題やコンティニューの効かない生身を抱えた俺達は、そこまで無謀に突き進んでゆけるほどの勇気を持っていないし、便利なシステムの上で生きているわけでもない。


 そもそも。長距離の旅で馬車が使えないというのは致命的だ。

 俺達は世界を股にかけて徒歩で移動する勇者とは違って、長旅でそれ相応に疲労し消耗する体を持っている。

 できれば一度も歩くことなく、首都までは全て馬車で済ませたいところだ。


「しばらく、宿に泊まりましょう。雨の日は部屋で本を読むのが一番ですよ」

「……ま、それもそうだな」

「本? どれどれ?」


 現在、俺達が稼いだ共通の資金の残りは、およそ350カロン。

 で、俺達がこの町に滞在するために必要なお金は、大体一日120カロンかそこらといったところである。

 少なく見積もって、ただチェスザムに滞在するだけでも3日が限界だ。

 馬車の費用を考えると、2日もいられるものではない。


 できれば、明日は晴れてほしい。いや、晴れてもらわないことには、旅そのものが危機的な状況に陥ってしまう。

 こんな中途半端な道中で文無しだなんて、異世界人としてはちょっと御免だ。

 クローネはいざとなれば実費を捻出してどうにかするくらいに考えているのだろうが、彼女におんぶに抱っこされ続けるのはそろそろ男として不味いと思う。

 この世界に天候の神様がいるのだとしたら、どうにか明日は晴れてくださいますよう、霊力を捧げたい気持ちである。


 止まない雨音。湿っぽい土の香り。外の世界には薄い靄がかかり、どんよりと沈んでいる。

 俺は内心に微かな焦燥を湛えながら、クローネが心を込めて聖書を音読し、ペトルが続けて復唱する微笑ましい、ぼんやりとした心地で聞いていた。




『我が信徒クローネ。貴女は人々のために良く働いておりますね。私はしっかり、貴女の優しさを見ていますよ』

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