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らん豚女神と縛りプレイ  作者: ジェームズ・リッチマン
第二章 無知と未知への恐怖心
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日替わりランチで目当てのものがないと店を変えたくなる

 バッタ退治を終えた俺達はメイルザムのギルドに戻り、仕事が完了した旨を報告した。

 どういう仕組みなのか、今回も俺達の仕事ぶりはギルド側も把握していたようで、報酬を得るまでの手続きは非常に速やかに行われた。


 今回の仕事のために買い備えた衣料品などの準備費用を差し引けば、受け取った報酬は140カロン。

 前回のゴブルトが死闘を繰り広げた割には160カロンだったので、今日の仕事は非常に楽かつ、有意義なものであったと言えるだろう。

 何より、カードも沢山手に入った。カードは高額で取引できるそうなので、昨日とは一転して、なんかもうホクホクといった感じだ。


 運がいい。故にカードが出る。

 なんかもうこの世界は、運が良いだけでなんとかなるのではないだろうか。


 モンスターとか神様とか色々と不思議なものはいるけれども、運が良いというそれだけで全ての問題が解決できそうだと俺が錯覚するのも、無理はないことだ。


「~♪」


 ギルドから出て、さあいざ今日泊まる宿を探そうじゃないかと意気込んだところで、透き通った美しい音色が、隣から響いてきた。


「あら、良い音色ですね」


 それは、ペトルが適当に吹き鳴らす、透明なフルートの調であった。




 グラシア・フルート。

 直訳すると、優美なフルート。……といったところだろうか。

 確かにこれはその言葉の通りであり、カードから実体化した現物は、絵柄で見た時の美しさをそのまま抽出したかのようである。


 これは、ただ透明なフルート、というわけではない。

 継ぎ目のない本体は、光の加減によって、所々の光沢が虹色のように煌いている。

 この存在感は、プラスチックは当然として、ガラスでも再現は不可能だろう。


 そしてこの楽器の出す音色というものも、ペトルは全く適当に鳴らしているというのに、思わず聞き惚れてしまうほどに美しかった。

 結構大げさな賛辞かもしれないが、実際にそうなのである。


「……おっと、ペトル。あんまり大通りでそういうものを出すんじゃない」

「えー、そんなー」

「そんなーじゃない。見せびらかしてるみたいだろ」


 町の喧騒に似つかわない高貴な音に、道を往く人の注目が集まり始めていた。


 確かに、いい意味で注目を集めているのかもしれない。実際に綺麗な音だったしな。

 だがそれは、このグラシア・フルートが高級品であることの何よりの証明である。

 それを大々的に喧伝しながら町の通りを練り歩くのは、少々不用心というものだ。


 町の中はそこそこ治安が良いのかもしれないが、どこに手癖の悪い奴が潜んでいるかわからない。

 フルートを実体化させてしまったものはもう仕方ないことだが、そうなったらそうなったで、人目につかないようにしっかり管理する必要もあるだろう。


「これは、ヤツシロさんの言う通りですね。ペクタルロトルさん、我慢ですよ」

「はーい……」


 クローネに言われると、ペトルは渋々だが仕方なしといった感じで、フルートを小さなかばんの中に詰め込んだ。


 ……俺がいっても“そんなー”なのに、クローネだと言うことを聞くのって、なんだかちょっとアレですわ。うん。




 お金になるようなカードもあり、手持ちもまぁそこそこある。

 もはや金の心配は不要だろうということで、ついに俺とペトルは町の宿に泊まることになった。

 クローネは“教会でも大丈夫なんですよ”とは言ってくれるが、もう既に何度もお世話になっているし、これ以上は神様同伴とはいえ、俺のほうが忍びない。

 それに、この世界の宿がどんなものかというのも、現代人の感覚に染まっている俺からしてみれば、興味があるところだ。


 一体どれくらい出せば、どのくらいのランクのサービスを備えた宿に泊まれるのか。

 それを最寄りの町で知っておいて、損はないだろう。


「じゃあ、クローネは本当についてくるんだな?」

「もちろんです。教会でお話をつけたら、すぐにでも旅支度を整えますよ」


 いざ宿に泊まりましょうということになると、クローネの決断は思い切ったものになった。


 彼女はこのメイルザムの教会で寝泊まりをしている宣教師さんである。

 だから、彼女の家もほとんど教会のようなものなのだが、俺達が宿に泊まることを決めると、なんと彼女はそれについていくと言い出したのだ。

 自分の家が町にあるんだから、メイルザムにいる限りはそこで良いんじゃない。とは俺も言ったのだが、クローネは“神と共に歩みます”とかなんとか言って、一緒の宿に泊まると言って聞かなかった。


 で、今日から一緒の宿に泊まることになった。

 しかも、宿の同じ部屋に。


 ……いや、なんでそうなるのだろう。




「うちは一泊20カロンだ。ベッドは2つあるし、水場も近い。が、部屋やベッドを汚した場合には40カロンを払ってもらうことになっている」


 宿屋『メイルハンガー』の受付の前に立つと、頬杖をついた痩せた男は、こちらが何かを言う前にそう言い放った。

 ぶっきらぼうな物言いだが、その言葉には俺が求めていた大体全ての情報が詰まっていたので、逆に好感触である。


 けどおっさん、部屋やベッドを汚したらって、俺の後ろの二人を見て言ったよね。

 俺ら別にそういうんじゃないんで。はい。


「食事はありますか?」

「朝食だったら、別料金であるよ。一人12カロンだ。その場合、部屋じゃなくここで食ってもらうがね。ほれ」


 俺が訊くと、おっさんは入り口脇にあるテーブルを指さした。

 四人がけの小さなテーブルが2つ並んでいる。部屋を食べかすで汚さず、あそこでさっさと食いなさいってことなんだろう。


「朝食はともかく、良心的な宿屋だと思います」

「うん、まぁ、値段も手頃だし、ベッドも2つあるみたいだし。良いかもしれないな」


 主に俺の精神面で。ベッドひとつだったらさすがに床で寝ざるを得ない。


「ねえねえおじさん。ご飯ってどんなのあるの?」

「あ? 俺はおじさんって歳でも……ああ、メシは、本当に簡単なもんだ。腹が膨れるだけだと思っておけ。安いんだから、文句は言わせねーぞ」

「おほぉー……」

「嫌なら食うなってことだよ。んな顔すんじゃねえっ」

「ぴー!」


 ……結構ぶっきらぼうなおっさんだけど、結構良い人な感じがする。



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