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らん豚女神と縛りプレイ  作者: ジェームズ・リッチマン
第二章 無知と未知への恐怖心
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福音を勝手に増やすな

「シローっ!」

「どわぼんッ」


 ものすごく重い何かが俺の腹部に落ちてきた衝撃によって、俺の身体は仰向けにくの字に折れ曲がった。

 無茶なV字のまま、しばらく硬直。数秒後、夏場のミミズのように、俺は床の上にへたりと沈んだ。


「シロ? まだ寝てる?」

「……」


 なにしやがる。そんな起こし方があるか。今眠りにつきそうだよ。

 言いたいことは色々あったが、一瞬の内に肺の空気が抜けたせいで、言葉が出てこない。


 寝起きと衝撃と酸欠でボーっとする頭で、俺は必死に意識を手放すまいと考えを巡らせ、その中で、夢で見た暗闇の世界のことを思い出した。

 こちらにゆっくりと迫り来る、胡座を組んだトカゲの姿も。


「っ!」

「おほっ!?」


 トカゲ。あの姿を思い出して、俺は衝動的に跳ね起きた。

 その際に馬乗りになったペトルの額をゴツンとやってしまったような気もするが、そのような些細な事など気にならないくらいの冷や汗と口の渇きが、心臓の激しい鼓動と共にやってきている。


 ……なんだ、あの恐ろしげな夢は。

 闇の中で身動きできず、音もなくこちらに近づいてくる、不気味なトカゲ人間。


 悪夢にしては、明晰夢にしては、やたらと存在感のあるビジョンと感覚だった。

 とても、ただの夢とは思えない。


「ヤツシロさん、ペ……クタルロトルさん、おはようございます!」

「おほー……」

「って、なんですかこの状態は!? ペクタルロトルさん!?」


 汗を拭っていると、いつの間にか部屋から出ていったらしいクローネによって、俺の寝起きはさらにカオスなものへ悪化していった。




「ヤツシロさん。昨日の出来事は史上初めての原神降臨であり、原神からの神託です」


 今日の朝食は、教会の食堂内で摂ることになった。

 何も塗られていない剥き出しの木材の机の上には、パサパサのパンと薄味のスープが置かれている。

 本来ならここは宣教師さんや教会の人々(教布信徒とも呼ぶらしい)が黙々と食事すべき場所だと思うのだが、他に誰もいないのをいいことにしてか、クローネのテンション高いおしゃべりは止まらない。


「何より……万神ヤォ。万物を司る神によって与えられた、救世の神託。これを果たさずして、我々は地上に生きる人の信徒といえましょうか?」

「クロ、うるちゃい」

「……」


 今にも演説が始まりそうなクローネのマシンガントークは、神様直々の一声によって中断された。

 正直、熱狂的な信者っぷりを見せて暴走するクローネは、ちょっと怖い。止まってくれてありがたかった。


「ま、まぁ……話は全て、目覚めた際にペクタルロトルさんから聞きましたから。全てを把握し、これからヤツシロさんたち二人がどうされるのかも、だいたいは聞いています。宝玉を探しに行かれるんですよね?」

「ああ。……どこにあるかは、知らないけどな」

「下に落ちちゃったのよー」


 落ちちゃった。つまり、この世界のどっかに堕ちてしまったと、ペトルは言う。

 随分と適当でアバウトな表現は多いが、ペトル本人がそう言っているのだから、信じてみるしか無い。

 それに、俺がこの世界でやることも、そのくらいだ。


 悪いモンスターを可能な限り駆逐して勇者王になるのも、現代的なハイテク知識を全解放して王様になるのも夢はあるが、現実的ではないし、ふとした拍子に死んでもおかしくない。

 できれば、ペトルの作った宝玉を見つけて、ちゃんとした力のある偉い神様に戻してやって、その力で元の世界なり何なりに帰りたいものである。

 総そう都合よく話が転がっていくかは、わからんけど。


「世界は広大ですよ。グロームーン大陸を探しまわるだけでも、かなりの年月がかかるかもしれません」

「……グロームーン大陸って?」

「我々が今いる、この陸地のことですよ……ああ、そうですね。地図があったほうが良いでしょうか」


 クローネは俺とペトルよりも先にパンを平らげて、“少し待っててください”と別の部屋へと消えていった。




「これがグロームーン大陸です。月のような形をしているでしょう。私達人間のほとんどは、こちら側の大陸やその他周辺の小島に住んでいます。多くの国も、集落も、全てこちらです」


 しばらくするとクローネが大きな古い革製の紙を抱えてやってきた。

 それを食堂の長いテーブルの上で広げると、そこにはこれまた古びた黒いインクで、大きな陸地が描かれている。


 三日月型の大陸。それに向かい合うようにして、小さな、歪に拡散したような、オドロオドロしい月の大陸が配置されていた。

 二つの月は、尖った二つの欠片の先を突き合わせたような位置関係にあり、その尖った場所からであれば、陸地から最短距離を航海するだけで、向こう側の大陸へと渡れそうだ。


「ちなみに、ここがバニモブ村で、ここが私達のいるメイルザムです」

「近ッ」


 クローネは地図上の、ほとんどずれてもいない二箇所を指さして、俺が今まで移動してきた道のりを表現してくれた。


 ……町と町の間隔でそれくらいだと、これから旅に出て世界を回り終える事には、何年か経っていてもおかしくはない広さである。

 いや、ずっと移動できるのであれば、それはそれで恵まれている。

 問題は、一番早いであろう移動手段である馬車が、金を食うということだ。

 絶え間なく馬車に乗って移動し、宝玉を探す旅。


 ……かなり大変だろうなぁ。

 何か、場所によって目的地を決めて動けたら良いんだが。


「グロームーンの反対側にあるのは、ニュームーン大陸。こちらは闇の神々や信徒が多くおり、非常に危険な土地です。国と呼べる組織もほとんどなく……率直に言えば、生きていける環境ではないでしょうね」


 ああ、ただでさえ普通の大陸でさえも探すのが大変だってのに、こっち側はもっと大変なのか。

 できればそっちの方は、探索しないまま帰りたいものだ。


「俺達はだいたい、グロームーン大陸の下側にいるんだな……」

「そうなりますね。近くには耕穣神の聖地、北へ進めば教布神の聖地と都がありますよ。そちらであれば、人も大勢います」


 地図の上では、メイルザムは非常に小さな町だった。

 俺はまだこの町の規模を把握していないが、それなりに様々なものが揃っているであろうことは、ちょっと外を歩いている時になんとなくわかる。

 しかし国のお膝元までいけば、その何倍もの規模の城下町が広がっているらしい。要は、首都。都会である。


「……クローネ。異世界から一人の男がやってきて、そいつがどこそこで世界を救う……なんて予言めいたお話とかって、ない?」

「ないです」


 ノーヒントか。そうか。


 ……じゃあ地道に、人の多い場所を目指して進むべきなのかもしれん。

 “宝玉見ませんでしたか”なんて聞いて意味があるとは思えないが、情報は多いほうが何かと便利だ。

 行き先があやふやな旅の最中で、無駄足を踏まずに済むこともあるかもしれないしね。




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