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らん豚女神と縛りプレイ  作者: ジェームズ・リッチマン
第一章 彼の地に堕ちた信仰心
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金縛りから始まる月曜日はちょっと困る

 神様が現れ、そして去っていった。

 俺に、この世界での役割を伝えるために。

 まるで物語の始めの王様のように。


 ……できれば、最初の方で出てきて欲しかったけれども。


「うーん……うーん……」


 クローネは俺のベッドの上でうなされている。

 目の前に高貴な神様が現れたというのが、よほど精神に負荷を与えてしまったのだろう。


「クロ、私と一緒に寝るの?」

「うう、目の前に神が……」

「あれ? 起きてるの?」

「いや、寝てると思うぞ」


 ……まあ、どうなんだろう。

 世界の最高神がいきなり現れたのだ。普通は、クローネのような反応をするのが普通なのかもしれない。

 しかも彼女は聖職者だ。神を目の前にすることのインパクトの大きさは、俺にはとてもじゃないが、計り知れない。


 現実世界では、さほど熱心に神様を拝んだことがないからなぁ。

 この世界の神様を見ても、“すごい人がいる”くらいにしか思えなかった。

 むしろ町中を歩いていて、有名人を見てしまった時の驚きの方が大きいかも。




 だが、言い渡された事は、重大である。

 俺はこの、クローネと一緒のベッドに入ろうとする子供……真幸神ペクタルロトルを元の神々の世界に戻すため、宝玉を探す旅に出なくてはならないのだ。


「クロ、大丈夫?」

「うーん……」


 ……まさか、異世界に召喚されて、本当に何かを救ってくれなんて言われるとは。

 そういう流れになってしまったなら、仕方がない。勇者として、世界を救うしか無いだろう。


 いや、魔王とかドラゴンがいるかどうかは知らないけどね。

 ひょっとしたら適当な所に宝玉が落ちてて、案外それをひょいと拾ってすぐに役目が終わるかもしれない。


 ……だが、まぁ、今日はとりあえず。


「クロあったかーい」

「うう、まさかついに神々が、乱れた地上を見かねて審判を……」


 ……色々と疲れているし、寝てしまおう。


 当然、俺は床の上で。

 さすがに女神様とシスターさんに挟まれて眠れるほど、俺の理性は丈夫に出来てはおりません。





 ふと気がつけば、俺は夢の中にいた。

 全身が湿り気のない水の中にいるような、重だるいような、自由の利かない闇の空間。

 俺はそこにぽつんと漂っており、気ままには動けないものの、ふわふわとのんびり、流されていた。


 明晰夢だろうか。夢という感じはするのだが。

 しかし、明晰夢というものは結構自由に動けたり、早く覚めたりするものなのだが、これは一向に変化する兆しを見せてくれない。


 何も起こらず、何もできない。自分の頬を抓ってみても、変化は起きない。


 なんとなく、暇だ。

 俺はやるせないため息をつきながら、暗黒の中を寝そべるように、後頭部に両腕を回した。




 しばらくそうして、模様も濃淡もない真っ暗闇を眺めていると、その向こう側に何か、蠢くものが見えた。

 夢に変化が出てきた。そう気付いて俺が起き上がると、その蠢く小さな点は遠くにあり、だんだんとこちらへ近づきつつあるらしい。


『……なんだろう、あれ』


 俺はただ、じっと眺めている。

 すぐと、近づいてくるものが、はっきりとした姿となって見えてきた。




 それは、トカゲの顔をした、人であった。

 身体は人型。言うなれば、竜人。

 黒っぽい鱗に覆われた細い身体に、二本の長い腕と、長い足。そして、長い首。

 そんな姿で胡座を組み、ゆっくりとこちらに、音もなく近づいてくる。


 ……見れば見るほど、シュールな絵面だ。

 トカゲて。いや蛇かもわからないが。明らかに爬虫類ですというような生き物が、胡座を組みながら合掌し、スーッとこちらに近づいているのだ。

 こんなシュールな光景はもう、ハハッと笑うしかない。


 トカゲ人間はゆっくりとこちらに近づいてくる。

 顔がはっきりわかるほどにまで距離が縮まると、その目がギョロギョロと、あちこちに忙しく動いていることもわかった。


 それはまるで、何かを探しているかのように。


 一体何を探しているのだろうか。

 トカゲみたいな顔をしているし、まぁ、獲物でも探しているのかもしれないな。ネズミとか、カエルとか。


 俺はそんな脳天気なことを思い浮かべて、いや待てよと思い留まり、そして一気に寒気を覚えた。




 クローネがつい最近、俺に注意したことを思い出す。

 つい最近、クローネは俺に“その手はいけません”と注意したのだった。

 その時俺は神様を拝むために、俺の世界における、丁度“合掌”のようなポーズを取っていて……。


 それと同じポーズを取ったトカゲ人間が今、こちらに向かって近づいている。

 音もなく。声もなく。


 “闇”。

 俺は目の前からやってくる存在が何かを知らないが、とてつもなく危険なものであると判断した。


 こっちに来る。

 あの目は、俺を探しているのか。

 俺を探して、どうするつもりなんだ。


 俺は沼のようにドロドロした闇の中を、もがくように動く。

 どうにか、あの不気味なトカゲ人間にぶつからないように。こっちへ突き進んでくる奴に、接触する位置にいないように。


「動け、動け……!」


 だが、夢の闇では、身体が思うように動かせない。

 どうにも、前後も左右も変わっている気がしない。


 このままだと、俺は……。


『さあ、来い……』

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