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らん豚女神と縛りプレイ  作者: ジェームズ・リッチマン
第一章 彼の地に堕ちた信仰心
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ひかりのたまが無くてもまぁ勝てなくもない

「自分よりも力の強い神器を生み出してどうするのです。貴女は馬鹿ですか。ええ?」

「ぴいいい……」

「私は貴女と面識はありませんし、正直に言ってこんなお馬鹿な神を同じ原神と認めたくはありませんが、今の話を聞いて合点はいきました。あなたが原神で、そしてお馬鹿であることは間違いないようです」

「やーん、馬鹿って言わないでー……」

「黙らっしゃい!」

「ぴー!」


 ペトルの要領を得ない回想話が終わると、ヤォは顔に笑みを浮かべたまま、背中からは真っ黒なオーラを出して、ペトルを部屋の隅に追い込んでいた。

 なんかヤバい絵面であるが、仕方ない。

 あいつの話を聞いた後では、今ここで助け舟を出す気にはならなかった。



「貴女は勝手に原神よりも高位の神器を生み出し、その制御を誤り、霊界から堕ちてしまった。原神が堕ちるなど仮定にしたこともありませんが……その衝撃を考えれば、確かに、私達の記憶や認識さえ捻じ曲げる事も可能でしょうね」


 ヤォはペトルに放つ威圧をフッと消して、哀愁深い溜息をついた。

 中性的な美しさを持つ彼もしくは彼女の憂いは、こんな時に場違いではあるが、ものすごく絵になると思った。


「……本心では貴女の頬を抓り回してやりたいところですが、宝玉の影響があるのか、私は貴女に干渉できないようだ」

「おほ……?」


 部屋の隅に追い詰められたペトルにヤォは手を伸ばすが、その手は空を切る。

 まるでペトルがホログラムになったかのような、一見すると不気味な現象であった。


「げ、原神……原神が二柱……」


 隣のクローネは、なんかもうUFOとチュパカブラとビッグフットとネッシーを同時に目撃してしまったミステリー同好会の部長みたいな顔のまま、茫然自失と立ち尽くしている。

 俺はまだこの世界にきて日が浅く、驚きに耐性もあるので、どうにか理解はできるのだが。


「……ランバチ ヤツシロ、といいましたね」

「あ、はい」


 隣のクローネの様子を一目でダメだと察したか、原神のヤォは俺に向き合った。

 よくよく見てみれば、彼の瞳は右が黒く、左は白い。今更ながら、目の前に立っているのは人ならざる存在なのだと再認識させられてしまう。


「今のこの世界において、私達原神は四人であると言われていますが……それは間違いで、本来は彼女、ペクタルロトルを含めた五人なのです」

「……みたいですね」

「ですが、その事を誰も知らない。町行く人も、聖職者も、最高位の神であるこの私でさえも、ね」


 部屋の隅で縮こまっていたペトルがそろりそろりとベッドへ移動し、毛布の中に潜り込んでゆく。

 どうも、先ほど威圧を放っていたヤォが怖かったらしい。一連の間抜けな行動は、ヤォの背後で行われた。

 しかしヤォの正面に立っていた俺にはわかる。ヤォの目は、背後を動くペトルの動きを完全に捕捉し、しっかりと目で追っていたのだ。


「そして……私達原神は、ヤツシロさん。貴方の存在も知らなかった」

「ああ、俺は……」

「大丈夫ですよ、疑っているわけではありません。貴方がペクタルロトルの善き保護者であることは、分かっていますから」


 あ、神様公認で俺が保護者っすか。


「私達は彼女の宝玉によって、過去も記憶も改竄され、今現在でさえもペクタルロトルに対するいくつかの行動を阻害されています。おそらく私達の手では、彼女を元の次元に戻すことは叶わないでしょう」

「……まさか、宝玉の影響を受けていない俺に、代わりにやれっていうわけじゃ……?」

「はい、まさにその通りです」


 ヤォは男とも女とも断言できない中性的な表情で、妖しく微笑んだ。

 不思議な色っぽさがある。しかし、話の内容は全くそそらない。


「簡潔にまとめましょう。ペクタルロトルを導けるのは、ヤツシロさんだけです。なので、彼女をどうにか原神にまで戻してあげてください」

「ちょっと待ってください」

「はい」


 いやあのね、ドラゴンとか魔王を倒して世界に平和を取り戻せってんなら俺もわかるよ。わかりますよ。

 倒せば良いんだものな。わからなくもないよ。そういう流れはありきたりだし、無茶ではあるけど目的がはっきりしてるからさ。


「げ、原神に戻してやれと言われましても……全然わからないし……」


 でもね神様。さすがに神様をプロデュースしてくれって言われてもね、それはファンタジーに慣れ親しんだ俺の頭にもピンと来ないんですよ。


「そんなーっ! シロ、私をおうちに連れてってくれるって言ったのにー!」


 俺が辟易していると、毛布の中からペトルのむくれっ面がずぼりと飛び出てきた。

 つーか、いや、言ったけどな。お前を元いた場所に返してやるとはさ。

 けど普通、さすがに、神様だとは思わないだろうって。


 ペトルのレベルがぴこーんと上がってくれて、100になったら自動的にクリアになるっていうなら考えてやらないこともないけどもよ。


「確かに、決定的な方法はわかりません。ですが、ペクタルロトルを神の座に戻す……その方法が無いわけではないのですよ」

「……そうなんですか?」

「ええ。おそらく、ペクタルロトルの宝玉は今、彼女が欠けたことによる世界の綻びを、自らの力で繕っています。そのせいか、この世界は今、あちこちに綻びが生じている。貴方達人間も、その幽かな違和感を感じ取っているはずです」


 ヤォがベッドに顔を向けると、ペトルの顔は毛布の中にすぽっと隠れてしまった。


「宝玉には、原神と同等以上の力が宿っている。つまり早い話が、彼女が宝玉を手に入れれば、全ては解決するのです」

「……ペトルが宝玉を手に入れれば、力を取り戻す?」

「その通り」


 ……なるほど。ペトルが作った宝玉を探せ、ってことか。

 ドラゴン退治。魔王討伐。それらと比べたら、まだ一歩手前の難易度って感じに聞こえなくもないな。


「原理の海には、そういった異物は確認できず、目立った綻びも確認できません。あるとすればきっと、この地上のどこかに存在するはずです」

「それが、ペトルをちゃんとした神様に戻してやれる手段、ってことですか」

「お手数をおかけします」


 いや、謝られましてもね。

 まだ俺は“任せろ”とも何とも言ってないんですけど。


「……ねえねえヤォさん、宝玉見つけたら、私、お家帰れる?」

「ふふ、ええ、そうですね。きっと戻れるかと思いますよ。そしておそらく、ヤツシロさんもね」


 恐る恐る毛布から顔を出して訊ねるペトルに、どこか微笑ましそうな表情でヤォは答えた。


「じゃあ、探す!」


 その答えが、あるいは彼の微笑みが、良いものだったのだろう。

 ペトルは毛布から飛び出して、元気よく両手を挙げた。


「ねえシロ、一緒に探して?」

「……」

「お願い、シロ……」


 ……お手数おかけしますーとか。

 探すーとか。

 どいつもこいつも勝手なこと……結局探すのは、俺だっていうのに。


「わかったよ。探してやるから、そんな子犬みたいな顔すんなって」


 だがまぁ、乗りかかった泥舟である。

 幸いこういう面倒事も、前の世界では散々慣れている。

 むしろ目的が建設的な分、全然マシだ。


「おほーっ! シロ大好きー!」

「こら、飛びつくなって……!」


 神様どうこうは、まぁ良いさ。

 一人の迷子を、家まで届けてやるだけのこと。

 そんくらい無償で請け負ってやるのが、日本の模範的な大人ってもんでしょう。


「ありがとうございます、ヤツシロさん」


 じゃれつくペトルを引剥がそうと奮闘する俺に、ヤォさんは深々と頭を下げた。

 その姿は仄かに輝き、端の方から光となって崩れつつあるように見える。


「ヤォさん、その身体……」

「ああ、これは……なるほど。もうしばらくお話ができるかと思っていましたが、どうやら宝玉の力によって、強制退去となってしまったようですね」


 “厄介ですね”と、ヤォは冗談のように笑った。


「ヤォさん、消えちゃうのー!?」

「ええ、時間切れのようですから。まぁ、こちらも知りたいことや伝えたいことは済ませたので、問題ありません」


 ペトルは消えかかったヤォの手を取って、胸の前に抱き寄せた。

 だがそれで、ヤォの身体の消滅が終わるわけではない。


「それでは、一足先に原理の空へ戻っていますので。後で、ちゃんと戻ってくるのですよ、ペクタルロトル」

「……うんっ! すぐに行くからねっ!」


 そんなやりとりを最後に、ヤォはふわりと微笑んで、完全に光の粒になって消えていった。


 後に残されたのは、殺風景な教会の一室。一つの椅子に、ひとつのベッド。


「……やれやれ」


 そして、ひとつの最終目的。


 ペトルの宝玉を見つけ出す。

 どうやらそれが、この俺の異世界の旅における、最後のイベントとなりそうだ。


「……あっ、クロが気絶してる!」

「あ」



『ヤツシロ。クローネ。そしてペクタルロトル。……任せたは良いものの、少々不安ですね。何か、手助けが必要かもしれません』


『止むを得まい。現在の世界の法則が解れている以上、その修繕は目下最大の優先事項だ』


『空白に蠢かれては落ち着かんが、文字が途絶えるなどあってはならない』


『ヤォ。もう一度接触を図れ。面倒だ』


『ええ、そうしましょう。とはいえ、我々の力がどの程度まで干渉できるか……』


『それに関しては私に考えがある』


『ふむ。では、ヘスト。あなたの考えをお聞かせ願いましょうか。といっても、大体予想はついているのですが』



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