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らん豚女神と縛りプレイ  作者: ジェームズ・リッチマン
第一章 彼の地に堕ちた信仰心
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ツいてる奴でも墜ちることはある

 私は、ペクタルロトルっていう名前なの。

 いつも上のほうで、キラキラした場所をフワフワしてるわ。

 時々下の方をじーっと見たり、ちょっとだけ手を伸ばして、人間さんに“良い感じ”をあげたりするのが、いつもの楽しみ。


 キラキラした場所には人間さんは来てくれないけど、ヤォさん達が時々来てくれるから、寂しくはないよ。

 それに、私は人間さんのことは、ここからじーっと見てるだけでも良かったから。


 だけどここから見える人間さんは、たまーにとっても悲しそうな気持ちになっていたり、辛そうな気持ちになってたりする。

 私は人間さんを見るのは好きだけど、悲しそうな人間さんを見るのは、あまり好きじゃない。

 だから私は時々手を伸ばして、その人のために“良い感じ”をプレゼントしていたの。


 でもね、手を伸ばしてプレゼントしてるだけだと、悲しそうな人が多くて、間に合わなくて……だから。

 私は、自分の“良い感じ”をちょっとずつ、ひとつの石にぎゅーっと込めて、世界中の全てを“良い感じ”にする物を作ろうとしていたの。





 霊界の遥か上方、原理の空。

 そこは地上の人間が祈り、霊力を捧げたとしても決して届かないような、人知を超えた領域である。

 下位神はもちろん、世界のいくつかの法則を司る上位神でさえも踏み込めない、神聖なる高み。

 そこは、世界そのものとさえ言えるであろう、原神達が棲まう場所なのであった。


 下界の様子を見下ろすことができる、原理の海。

 その海は下界の霊力と魂の点描が無数に煌き。空は満点の星々に彩られている。

 上も下も、全てが星の輝きに満ちているかのような、神秘的な空間。

 その原理の海の上で、一人の少女が海中(地上)を覗きこんでいた。


『おほー……』


 元々、世界は五つの原神によって成り立っている。


 万神(まんしん)ヤォ。

 森羅万象、ありとあらゆるものを司る神。


 環神(かんしん)ネリユロウタ。

 この世の全ての霊力と魂を司る神。


 啓戒神(けいかいしん)ヘスト。

 根本的な法則と定めを司る神。


 周知神(しゅうちしん)プレイジオ。

 世界の情報と知識全てを記録し司る神。


 そして彼女の名は真幸神(しんこうしん)ペクタルロトル。

 この世の未来と希望を司る神。

 世界の成り立ちを司る、原神の一柱であった。


『……人間さん』


 彼女が覗きこんでいるのは、人間が暮らす地上の様子である。

 この原理の海では、地上のあらゆる様子を覗き見ることができる。今彼女が見つめているのはどこかの路上であるらしく、そこでは一人の女が、複数人の男に襲われている最中であった。


 全体的に白い装いの女は剣を握り立ち向かっているが、多勢に無勢。

 しかも光の薄い夜闇の中において、相手は全てが闇の神々を信仰する、闇の信徒である。

 一度に大勢の相手と戦える女の剣の腕前は素晴らしいものであったが、差は歴然であった。


『大丈夫、貴女は人間さんよ。私が守ってあげるわ』


 今にも男達の手によって葬られようとしていた女に、ペクタルロトルは手を伸ばした。

 彼女の手は原理の海を突き抜け、神秘的な力によってその長大なる距離や障害の一切を無視し、まっすぐ女の下へと届く。


『ほら、良い感じ』


 ペクタルロトルの輝かしい手が地上を照らし、女の握る長剣に触れると、戦況は一変した。

 輝く剣は周囲を取り囲む闇を祓い、強化された力は大勢の男たちを一気に劣勢へと追い込んだ。

 闘いはすぐさま決着し、闇の信徒達は地に倒れ、塵となって崩れてゆく。


『うふふ』


 闘いを終えた女は呆然と空を見上げ、膝をついて祈っていた。


 その祈りは、きっと原理の空まで届くことはないだろう。

 原神への祈りというものは、ほとんどの場合が無意味なものである。


 だがそれでも奇跡に感謝に祈る女に、ペクタルロトルは微笑み、“どういたしまして”と呟くのだった。


『うん……けど、もっと……みんなを幸せにしてあげたいなぁ……』


 ペクタルロトルは原理の海から顔を離し、胸にひとつの宝玉を抱きしめ、願いを込める。

 その宝玉は両手にも余るほどの大きさで、淡い黄金色の輝きを放っていた。


『一人ずつじゃなくて、もっとたくさん……』


 ペクタルロトルが宝玉を抱きしめ、力を注ぐ。

 その度に宝玉は輝きを増し、中へ力を圧縮し、貯めこんでゆく。


 この宝玉は、いつからかペクタルロトルが自らの力を込め続けてきた神器である。

 運命を司る真幸神の力を多く蓄えた宝玉は、その力を一気に解放することで、世界に多大な影響を及ぼすことが可能なものであった。


『もっと、もっと……』


 ペクタルロトルは地上に幸せをもたらすため、その宝玉に力を注ぎ続けていた。

 いつからこの作業を続けていたのか。それは誰にもわからない。


 百年かもしれないし、千年かもしれない。

 あるいは、もっと遥か昔から続けられていた行為なのかもしれない。


 だが、そんな途方も無い日課も、この日この時を境に、終わりを迎えた。


『わきゃっ!?』


 宝玉が突然光を発して、瞬いたのだ。

 一瞬だけではあるが、目が眩むような光に、ペクタルロトルの手は宝玉を離してしまった。


『あっ、あっ!? ま、待ってー!』


 幸い、原理の海の海面に落ちた宝玉は、割れてはいない。

 だが宝玉は投げ出された勢いでころころとゆっくりと転がり、ペクタルロトルから離れてゆく。


 彼女はひとりでに転がってゆく宝玉を、慌てて追いかけた。

 そして。


『おほ?』


 すぐ側までやってきたところで、宝玉は急に転がる進路を変え、ペクタルロトルの足元へやってきた。


 突然の挙動に、ペクタルロトルの身体は追いつかない。

 偶然か、あるいは必然か。彼女の足は宝玉を踏みしめていた。


『おほほ?』


 例えば、ボールの上に片足で乗ったならば、その人はどうなるだろう。


 正解は簡単だ。転ぶのである。


『おほーっ!?』


 ペクタルロトルは宝玉を踏んで転び、原理の海の海面に飛沫を上げ、突き抜け、下界へと堕ちていった。

 普通、原神は原理の海から下へと行くことはない。


 しかし、長年大きな力を込められ続け、瞬間的に彼女の力さえも上回ってしまった宝玉によって、その法則は捻じ曲げられてしまったのだ。


『そんなー!?』


 ペクタルロトルは叫びながら、途方も無い下へと堕ちてゆく。


 次元を越え、空間を越え、どこまでも、どこまでも……。




「わ」

「えっ」


 最終的な落下地点に人間がいたのは、果たして偶然だったのか、必然だったのか。

 彼女の幸運がそうさせたのか、彼の不幸がそうさせたのか。


 それはまだ、誰にもわからない。


『ふぎゃ!?』

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