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らん豚女神と縛りプレイ  作者: ジェームズ・リッチマン
第一章 彼の地に堕ちた信仰心
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豚に人権はない

 ゴブルトがいたということは、群れを作る連中の縄張りの中に入ったということだろう。

 連中は種族的に、特別嗅覚が鋭いというわけでもないようだが、それでも野生の生き物だ。

 ここからは、無用はお喋りは慎むようにしなければならない。


 ゴブルトの足跡を辿り、獣道を歩く。

 何度も通っているのだろう。幽かな足跡そのものを見て追跡するのは困難であったが、落とされた枝葉や、何度も踏まれた下草や土などが、素人目にもわかりやすい目印となってくれる。

 おかげで、黙々と十分も歩いただけで目的の場所へと辿り着けた。




 ゴブルトのコロニー。

 それは、一本の大きな木を支柱として中央に据え、杭のような木材で辺りを囲い、上部を枝葉で覆っただけの、非常に簡素な、建造物とも言えない出来のものであった。

 大木を大黒柱とした建造物は、似たようなものをバニモブ村でも見たことがある。しかしそれと比べると、全くもって“なっていない”作りである。

 コロニーの隙間からは間抜けなことに、遠くからでも内部の様子が窺え、複数のゴブルトの姿が確認できた。

 あれで全てかどうかはわからないが、仕事の内容はコロニーの壊滅である。

 台風が来れば勝手に壊滅してくれそうに見えるが……俺がやっておけば、金になる。迷わず、さっさと蹴散らしてしまおう。


「ゴブルトも、中に居るようですね。あの規模なら、私が『エアー・ボム』を使うだけでも吹きとばせそうです」

「……さっきドロップした『レッサー・フレア』を使ったら、山火事にでもなるのかね」


 ゴブルトを倒した際に手に入れたスキルカード『レッサー・フレア』。

 カードには“程よい火力のブレス攻撃”と書かれているが、程よい火力って表現が曖昧過ぎてよくわからない。

 ミス・リヴンさん、もうちょっと明瞭に書いてくれませんかね。


「そのくらいのカードであれば、この湿った森ではそうそう火事なんて起きませんよ。炎と言っても、消し炭にできるほどではないのですから」


 俺は心配していたが、クローネから問題ないとのお言葉を頂いた。


「いざというときは、私が『エアー・ボム』で吹き消しますから」


 クローネがカードを持ちながら、ドヤ顔でそう言った。

 ……うん、まぁ、その風で火の勢いが煽られないことを祈ろうかな。


「じゃあ、いってみるか」

「やっちゃえやっちゃえー」


 好戦的なペトルの後押しもあり、俺はスキルカードを片手にコロニーへと近づいた。

 火炎放射の範囲がわからないので、できるだけ、可能な限りは近距離で使いたいのである。


「ゴゥッ……」


 なんて悠長な真似をしている間に、コロニー内部に潜んでいたゴブルトがこちらに気づいたようだ。

 あばら家の隙間から見えたのか、匂いや音を感じ取ったのかはわからない。

 だがどの道、もう遅い。こっちの攻撃は、一瞬で完了する。


「『レッサー・フレア』発動!」


 スキルカードの発動を宣言。それによって、カードからオレンジ色の火炎が勢い良く放射される。

 それはまさに火炎のブレスで、持つところを少しずらせば自分の手が大変なことになるほどの熱を帯びていた。若干、こうして火炎を吹き出すカードを構えているだけで結構辛い。


 枝のような柵と枝葉の天蓋で作られたコロニーはあっという間に炎に包まれ、内部からはゴブルトの叫び声が聞こえてきた。

 中のゴブルトは外で逃げようとするが、火炎に包まれた最中にあっては、出口もわからない。わりと頑丈に据えられた柵のせいもあって、ゴブルトは壁を突き破って炎から逃れることもできなかった。


「……やりすぎたかな……『サーチ・オルタナティブ』」


 手元で炎を吹き出し続ける『レッサー・フレア』が消滅すると、俺はすぐにバインダーから『オルタナティブ』を抜き取った。

 既に火炎地獄に包まれ、勝敗は決しているようなものだが、とりあえずは警戒しておくべきだろう。


「驚くほど、何も起きなかったですね」

「だな」

「燃えてるー」


 後ろからはクローネとペトルもやってきて、あっけなく燃え続けるゴブルトのコロニーの惨状を見つめている。

 クローネの言うとおり、炎はそのまま勢いを強め続けるということもなく、中央の大木を痛める前に消えつつあるようだ。

 山火事にはならないようで、安心だ。正直ゴブルト自体よりも、それだけが気がかりだった。


 やがてコロニーの外側を支える柵が崩落すると、目の前から二つの影が飛んできた。


「おっと」


 俺の手元を狙うように飛んできたのは、二枚のカードである。



■「蛮獣ゴブルト」モンスターカード

・レアリティ☆☆

・知性の低い魔獣指定の獣族。二足歩行の大きな犬の姿をしている。

 手に武器を持ち、人間に襲いかかってくる危険な生物。

 広く世界に繁栄し、主に爪神や卑神を信仰する傾向が強い。


□「ショート・ソード」アイテムカード

・レアリティ☆

・名前の通りの短い剣。切れ味は普通で、錆びるのも早い。使い捨て用。



 手に入ったのは、モンスターカードとアイテムカードの二枚。

 俺が期待していた通り、ゴブルトのモンスターカードもドロップしたようだ。


 レアリティは☆2つ。

 シャンメロの☆は1だから、あとは☆3つのモンスターカードを手に入れるだけで、俺の目標は達成だ。


「……なんか」

「ん?」


 クローネが細めでこちらを睨みつけている。


「ずるいです……」

「……そう、なのかな?」

「はい……」


 やっぱり、これってカードが出過ぎているのだろうか。

 俺、初見プレイなんでわからないっすね。


「……ともあれ、カードが手に入ったということは、コロニーのゴブルトが死んだということですね。まあ、あれだけ燃やされれば、生きているはずもないでしょう」

「一応、中の様子も見ておくべきか?」

「そうですね。生き残っていては害になりますから、絞めてしまいましょう」


 ゴブルト、マジで害虫扱いである。

 きっと死んだ後に埋められるなんてこともないんだろうなぁ。

 俺も面倒だからやらんけどさ。




 コロニーはすぐに鎮火され、内部を調べてみると、四体のゴブルトの死体があった。

 どれも生き残ってはおらず、息絶えている。もしも生き残りがいれば、トドメを刺してカードが出るかなとも思ったけれど、そういうチャンスは残っていなかったようだ。


「じゅあわ……」


 ゴブルトの死体が毛が燃えて酷い悪臭を放っていたが、肉自体は無駄に良い香りを立てていた。

 ペトルは死体の前で屈みこんで、さっきからじーっと眺めている。


「おい、食うなよ。腹壊すぞ」

「そんなー……」


 やっぱり食うつもりだったか。



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