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らん豚女神と縛りプレイ  作者: ジェームズ・リッチマン
第一章 彼の地に堕ちた信仰心
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駅前の募金活動についてはよく調べること

「あ」


 お喋りするネタがつきたか、緊張感を覚えてきたか、しばらく無言で黙々と歩いていると、俺は前方の木陰に、不審な影を発見した。

 俺は後続の二人の動きを手で制し、沈黙するように合図を送る。


「……一体いる」


 二人は何事かわからず困惑していたが、ぼそりと小声で言うと、顔を引き締めた。……クローネだけ。

 ペトルはなんだか、宝物を見つけたようなものすごい笑顔である。


「静かにな」


 ペトルは顔をぶんぶんと上下に振ってくれた。

 ……彼女が静かにしてくれることを神様に祈っておこう。

 あ、駄目だ。俺こいつにしか祈れないんだった。

 ペトル様お願いします。静かにしててください。




 俺が発見したのは、ゴブルトだった。

 資料で見た通り、犬っぽいようなゴブリンっぽいような、不気味な姿である。

 そいつが何やら、樹木の根っこに向かって何度も何度も樹の枝を突き立てて、ほじくり返そうとしているのだろうか。夢中になって、そんなことをやっている。

 奴の背後を取っているということもあるが、ゴブルトはこちらに気づいた様子はない。土掘りに熱中していて、これっぽっちも警戒する様子も見られない。

 腰巻きの下から垂れ下がっている短い豚のようなしっぽも、楽しそうにぴこぴこと揺れていた。


 数は、一体。

 何度か周囲を見回してみたが、他にモンスターのいる様子は見られない。


「……『サーチ・レイ・ストライク』」


 俺は自分にしか聞こえないような小声でサーチを使い、バインダーを撫で、手元に『レイ・ストライク』を呼び寄せる。


 一体しかいないのであれば、これはチャンスだ。

 静かに一撃で倒すことができれば、仲間を呼ばれることなく、安全に対処ができるというものである。


 多分本職の人なんかは、ここであえて逃して巣へと帰し、奴らの寝床を特定した上で乗り込むのだろうが……ゴブルトのコロニーの規模がわかっていない以上、素人がその判断を下すのは非常に危険だ。

 俺は今、ここでやる。


「『レイ・ストライク』、発動」


 俺はカードの絵柄を遠くのゴブルトに差し向けて、発動を宣言した。

 同時にカードが輝き消えて、ひとつの光弾となって真っ直ぐ突き進んでゆく。


「ゴボッ」


 光弾はゴブルトの背後に直撃し、痩せた身体は反るように大きく折れ曲がった。

 短い悲鳴を最後に、その場にぺたりと倒れ、沈黙が訪れる。

 ゴブルトの背中には、大きくえぐれたような、焼けたような傷が残されていた。他の動物ではわからないが、あれは人間であれば致命傷だ。


「命中しましたね。お見事です」

「……運が悪いままだったら、絶対に当たってなかったな」

「? どういう意味です?」

「いや、なんでも……とりあえず、様子を見てみよう。もしかしたら、まだ生きてるかも……」


 俺はゴブルトの生死を確認するために、こそこそと歩き始めたのだが、


「うわっと!?」


 突然、ゴブルトのいた方向から高速で何かが飛来してきた。

 小さく、薄っぺらい何かである。

 俺は反射的に手を伸ばして、奇跡的なことに、それを見事にキャッチした。


「あ……」

「カード、みたいですね」


 それは、カードであった。

 なるほど、ゴブルトがドロップしたカードがこれなのか。

 『オート・コンプ』の効果で引き寄せられるっていうのは、もうそのまんま、カードがこっちに飛んでくる感じなんだなぁ。なんか想像以上に“飛んでくる”って感じでびっくりした。



■「レッサー・フレア」スキルカード

・レアリティ☆

・程よい火力のブレス攻撃。術者が使用を宣言すると、カードの絵柄から火炎が放射される。



 ゴブルトからドロップしたのは、攻撃系のスキルカード。

 カードの絵柄では、魔法使いらしきローブ姿の人間が杖を構え、そこから大きな炎を噴き出しているような感じだが……このイラストと同威力であるなら、なかなか頼もしい限りである。


「……カードがドロップしたということは、あのゴブルトは倒したということですね」

「って、ことになるな」

「というより、ヤツシロさん。カード出すぎじゃないですか。この前も沢山ドロップしてましたし……」


 まるでイカサマを責めるようなキツい目で、クローネが俺を睨んでくる。

 濡れ衣だ。俺は変なことはやってないぞ。


「まぁ、伊達に“真幸神”を拝一信仰してないってことだよ」

「……ペトルさんを……ペクタルロトルさんを信仰することによる恩恵が、これ、と?」

「おほー?」


 俺とクローネが本人に目を向けると、ペトルは笑顔で首を傾げていた。

 多分、彼女に聞いてもふわふわした答えしか返って来ないのだろう。


「まぁ、運が良いのは間違いないんだ。利用できるものは、利用しなくちゃな」


 強制縛りプレイでこの世界に放り込まれてしまったんだ。

 縛りなりの強みは、活かさないとな。




 ゴブルトは、やはり息絶えていた。

 背中から、背骨、肺、心臓……色々なものをやられている。これで生きているとしたら、多分そいつは闇属性か何かを持ってる類の奴だろう。


 このゴブルトは、どうやら木の根の間、その奥深くに生えていたキノコを取ろうとして、枝を何度もガシガシと突っ込んでいたようである。ちょっと目線を下げれば、木の真下にそれらしき物が見つかった。

 確かに少々奥まった場所にあるため、取りづらいだろうけども……長時間格闘するほどの価値があるものとは思えない。やっぱり、ゴブルトは知能が低いのか。


 吐血して無残に横たわっているゴブルトの遺体だが、クローネはなんでもないような顔で死体を眺めている。

 ペトルも怖がらないどころか、物言わぬゴブルトの耳を触って遊んですらいる。

 死体を前に特に表情を変えない美少女二人。変な光景。


「……二人共、こういうのは大丈夫なのか?」

「え? ああ……まぁ、ゴブルトですからね、見慣れてます。どこにでもいますから、別に珍しくないですよ。よく街道沿いに死体が落ちてることもありますし」

「まじか」


 馬車で走ってる途中にこの死体が落ちてるのか。

 なんか見たくないなぁ……やっぱ慣れか。


「ペトルは大丈夫か? あんまり動物が死ぬのって、見たくないんだろ?」

「え? これは魔獣だよ?」


 なにその価値観怖い。

 異教徒なら暴力を振るって良いみたいな言い方ものすごく怖い。


「魔獣のままだと幸せにはなれないから、一度やり直さなきゃ駄目なの」

「やり直す……? 来世ってことか? 随分と厳しいな」

「うん!」


 “うん”て……ちょっと無慈悲すぎないかね……こいつを殺したのは俺だけどさ。


「ペトルさんの言う通り、魔獣のほとんどは魂が穢れており、闇の眷属の一種として扱われています。幸せにはなれないというのは、あながち間違いでもありませんよ」

「そうなのか」

「ええ。死後の魂は霊界の果てへ向かい……霊力と霊魂の渦の中で浄化され、転生するのです。彼らに幸せというものがあるとするならば、きっとそこからしか無いのです」


 宣教師さんまでそう言うなら、本当にそうなのか。

 死ななきゃ救われない生き物。なんだか……哀れだな。


「うんうん、後はネリユがやってくれるから大丈夫よー」

「ん? ネリユって?」

「あ! シロ、これ見てこれ! 足跡ついてる!」


 俺が聞きなれない名詞に疑問符を浮かべると、ペトルは土の上に残されていた痕跡に気がついた。


「あっちまで続いてる! ……じゃあ、この犬さんは向こうから来たのね!」


 足跡を辿るように、まるで名探偵にでもなったかのような熱心さでペトルがそろりそろりと歩いてゆく。

 その先にはきっとバトルが待ち構えているであろうというのに、脳天気な奴だ。


「……ネリユロウタ」


 俺が呆れていると、隣のクローネがぽつりと呟いた。


環神(かんしん)ネリユロウタ……その神は、この世界のあらゆる霊力と魂、死と転生を司る原神……と、言われています。一説には、霊的な神秘の渦そのものであるとも」

「……」

「……まあ、それだけです。ペトルさんがはぐれてしまわないうちに、行きましょうか」

「ああ、そうだな」


 俺は探偵気取りのペトルの後を追い、クローネと共に歩き出した。



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