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らん豚女神と縛りプレイ  作者: ジェームズ・リッチマン
第一章 彼の地に堕ちた信仰心
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ルールとマナーを守って楽しく

 目を閉じて、念じる。

 半信半疑の精神統一であったが、俺の第六感が、目の前のコインが消滅した確信を掴んだ。

 どうやら、本当に霊界とやらに“繋がった”らしい。今まで一度も味わったことのない、未知の経験である。


 この状態で、お願いすればいいのだろうか。

 ……もともと図々しいお願いなのだし、勝手に言っちゃうか。


 ……もしもし神様、お忙しいようでなければ、どうか聞いてください。

 ちょっとお願いがあるんです。




『あら、お初の人間さんね。この私に何の用?』


 うわっ、なんか普通に女の人の声が聞こえてきた。


 思わず目を開け、集中を切らせてしまうところだったが、神様相手にワン切りはさすがに不味い。

 どうにか思い留まり、意を決してコミュニケーションを続けてみよう。


 ……ええと、符神ミス・リヴン様であらせられるのでございましょうか……。


『そうよー』


 ……あ、どうも。こんばんは。はじめまして。

 私、蘭鉢 八代と申します……。


『ねえ、さっさと用件言ってくれない? どうせバインダーでしょ? “ちょびっと信仰”するんでしょ?』


 うわっ、なんだこの人、めっちゃスれてるんだけど……。


 ええと……いや、はい。バインダーは欲しいんですけど……。


『はいはいバインダーバインダー。どいつもこいつも、結局バインダーだけよね。入れるのはカード数枚だものねー』


 どうしよう、なんか当初の予想とは別方向で怖いんだけど。

 抱いていた荘厳さが欠片も感じられないよ。行き遅れそうなOLみたいな感じがするよ。


『で、信仰するの? 主信仰でも拝一信仰でも歓迎するけど』


 あ、その、信仰するわけじゃないんですが……。


『は?』


 うわっ、今絶対ガン付けられた。

 神様にガンつけられた。超怖い。

 ええ、どう答えよう……!


 じ、実はお願いが! 信仰じゃなくてお願いがありまして!


『……へえ、お願い。過ぎたる願いの要求ってわけ?』


 はい。信仰ではなく、お願いをしたいんです。

 もちろん、試練でもなんでも受け入れますから……。


『良いわよ、過ぎたる願いの要求。久しくそういう信徒は居なかったから、良い暇潰しになりそうだわ。それで? このミス・リヴンに、異教徒がどんな願いを要求しようというのかしら』


 良い暇潰し。異教徒。

 ミス・リヴンから発せられる言葉は高圧的で、排他的だ。


 恐ろしいが、もう既に賽は投げられた。

 人生ゲームでは初手一回休みを頻発し、最終的に開拓地止まりで数十ターン一人遊びを繰り返すような運の無さではあるが、手にしたカードで戦うしかない。


『欲しいのはレアカード? 上位スキル? 好きなモノを言いなさいな。それ相応の試練を与えてあげる』


 ……バインダーをください。


『……ん?』


 バインダーをください。


『バインダー?』


 はい。バインダーです。

 カードバインダー。


『……ぷっ。え、何? わざわざバインダーが欲しいがために願いを要求してるわけ? 信仰じゃなくて?』


 はい、ちょっと……別の神様を拝一信仰しているので、色々な所で不便をしてるんです。


『あー、はいはい。なるほどねぇ。拝一信仰かぁ、それじゃあしょうがないわよねぇ』


 俺が正直に要求の理由を話すと、ミス・リヴンの雰囲気は一変した。

 それまで凄んでいたのが嘘のように霧散して、柔和な態度へ戻ったのである。


『良いわよ。むしろバインダーくらいなら、人間全てに持っていて欲しいくらいだもの。でないと、せっかく私が世界に散りばめたカード達が無駄になっちゃうしね』


 えっ、本当ですか! やったー!


『ええ。バインダーはあげるわ。ただし、タダというわけにはいかないけどね』


 ぬか喜びである。試練が無いと思うには早すぎた。


『そうねぇ……三日。あと三日だけ、あなたに猶予をあげる』


 三日?


『三日以内に、あなたのカードバインダーのコレクターレベルを2に上げること。それが、私があなたの願いに与える試練。この試練を乗り越えたら、特別にタダでバインダーを進呈してあげるわ』


 三日以内、コレクターレベル2。

 ……レベル上げ? 今更ゲーム的な用語の出現には驚かないが、コレクターレベルって一体なんだろう。


『もし期限以内にコレクターレベルを2に出来なかったなら、そのバインダーは没収よ。中身のカードごと、全部ね』


 ……言われていることの意味は、正直よくわからない。

 とにかく、バインダーのコレクターレベルとやらを上げればいいのだそうだ。

 三日に一つレベル上げ。それだけ聞くと非常に楽そうではあるが、はてさて、上手くいくかどうか……。


 ……上手くいくようにしなきゃいけないな。

 これは俺に与えられた、この世界で生きてゆくための試練だ。

 絶対にクリアしてやる。


『意気込みは……あるみたいね。ま、お金でもなんでも良いわ。とにかく条件を満たして、達成してみせることね』


 頑張ります。


『よしよしっ。頑張りなさいよ、若きカードコレクターっ!』




 最後にミス・リヴンからの激励を貰い、俺の精神はグンと引っ張られた。

 五体にリアルな感覚が戻り、全身を包む暖かな気配が失せ、霊界との通信が切れたのだと実感する。


 俺は自然に瞼を開いた。


「あ……」


 先ほどまで念を注いでいた祭壇の上には、一冊の赤い本が乗っている。

 ミス・リヴンが、先ほどの宣言通り、俺にカードバインダーを譲ってくれたのだ。


「やりましたね、カードバインダーが現れましたよ、ヤツシロさん」

「おほー、なんか出たー」


 ……いや、譲ってくれたわけじゃない。

 まだこれは、貸してもらっているだけだ。


 俺はあと三日以内に、コレクターレベルとやらを2にしなくてはならない。

 そのためには、まず……。


「……ごめんクローネ、もうちょっとだけ、付き合ってもらえないかな?」

「は?」


 専門用語を解読してくれる、親切な人が必要だ。




「なるほど、バインダーのコレクターレベルを2にしろと……」


 俺はとりあえず、ミス・リヴンから与えられた試練の内容をクローネに訊ねた。

 クローネは俺のカードバインダーを手にとって開き、中を開いて“ふむ”と一人納得したように頷いている。


「コレクターレベルってのは何なんだ? ミス・リヴンから言われたけど、意味がわからなくてさ」

「ああ……コレクターレベルというのは、ミス・リヴンが個人所有のカードバインダーに設定した、バインダーの性能のこと、でしょうかね」

「バインダーの性能?」


 ただカードを入れて取り出せるってだけの道具じゃなかったのか。


「見てもらえばわかりやすいかと思います。ヤツシロさんのバインダーのページを開いてみてください」

「俺のそれだよ」

「あっ、ごめんなさい。はい、これです」


 クローネは俺に、バインダーを開いて見せた。


 そこには片面、1ページ分だけに9枚分のカードを収めるスペースがあり、中央の横一列だけ、ちょっとだけ色が違い、薄い赤色になっていた。

 しかもそこには、数字まで書いてある。

 左から順番に、1、2、3、と。


「この中央の横一列に、レアリティがそれぞれ1から3のモンスターカードを収めていくんです。そうすることでここに収めたモンスターカードが消滅し、コレクターレベルが上がります」

「ほほー……消えるのか」

「コレクターレベルが上がると、更にもう片側の1ページにカードスロットが現れます。つまり、コレクターレベルが2になると、合計で18枚のカードを保管できるようになるわけです」


 おお、カードを入れる上限が増えるのか! それはなんか便利だな。


「シロ、その本見してー」

「おう。……壊すなよ?」

「ふふっ、神器はそう簡単には壊れませんよ」


 ……コレクターレベルを2に上げる。

 俺はそのために、指定されたレアリティのモンスターカードを入手しなければならない。


 今更、モンスターカードはどこで手に入れればいいんだろう? だなんて、懇切丁寧なチュートリアルじみた質問はしない。


 要は、狩るのだ。

 モンスターを狩って、カードを集めなければならないのである。



『というか、随分話の通じる異教徒だったわねー。ま、バインダー欲しがってるなら何だって良いけど』

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