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らん豚女神と縛りプレイ  作者: ジェームズ・リッチマン
第一章 彼の地に堕ちた信仰心
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田舎で出されたものは全て食べなくても良い

 シャンメロを倒している間に、沢山のカードが地面に落ちていた。

 どうやらこの世界の魔獣だか魔物だかは、死んだり気絶したりすると、その場にカードを落とすのだそうだ。


 俺達は蜂退治が一段落したということで、いそいそと蜂の遺骸の傍からカードを回収し始めた。

 ちょっとマヌケな姿であるが、実際のところこのカードは非常に有用だということが判明したので、草の根掻き分けてでも探す価値はあるだろう。簡単な仕事なので、ペトルにも手伝ってもらっている。


 このカードは、生き残る鍵だ。魔法も剣もまともに使えない俺に扱える、ほぼ唯一の武器なのだから。


「……いや」


 俺とペトルが集めたカードをクローネに見せてやると、彼女は眉を歪めて、声をひねり出した。


「いくらなんでも、多すぎませんか」

「そうなのか?」


 手元に残ったのは、七枚。

 中には戦いの最中に使ったようなカードもあれば、初めて見るカードも入っている。



■「レイ・ストライク」スキルカード

・レアリティ☆

・標的を撃ち抜く霊力の砲弾。術者が使用を宣言すると、カードの絵柄から霊力弾が射出される。


■「エアー・ボム」スキルカード

・レアリティ☆

・いざという時に爆風の壁。カードの絵柄から空気の塊が弾け、前方に強い風が吹き起こる。遠距離攻撃なら消し飛ばし、軽い相手なら吹き飛ばせる。


■「守護霊のオーロラ」スキルカード

・レアリティ☆

・神秘のカーテンによる防御魔法。選択した対象の周囲に神聖な霊力のカーテンを貼り、一定時間またはある程度のダメージを防御し、和らげる。


■「オルタナティブ」スキルカード

・レアリティ☆☆

・差し迫る戦いに2つの選択肢。10秒間だけ使用できるスキルカードを2枚、ランダムに手元に呼び寄せる。カードオリジナルスキル。


■「オート・コンプ」スキルカード

・レアリティ☆☆

・拾う手間無くらくらく回収。24時間だけ、自分がドロップしたカードを自動的に手元に引き寄せるようになる。


□「アイシング・キューブ」アイテムカード

・レアリティ☆

・ひんやり冷たい氷のブロック。50cm角の氷のキューブを出現させる。


■「鈍蜂シャンメロ」モンスターカード

・レアリティ☆

・知性のない魔獣指定の虫族。巨大な蜂のような姿をしている。

 強靭な翅は自身を魔力なしに浮かせているが、動きは非常に遅い。

 群れで近づかれると厄介だが、一匹毎の対処はあまり難しいものではない。



 以上が、今回の戦利品である。

 中にはさっきまで戦っていたシャンメロの姿が描かれたカードも入っていたので、ちょっと感動した。けど攻撃力は書いていない。


「いや、多いですよ。なんでそんなにカードがドロップするんですか……」

「そんなこと、言われてもなぁ」

「ねー」


 モンスター一匹あたりのドロップ率とかそういうの全く知らないので、こちらはなんとも言えない。

 カードなんてものの使い方自体も、つい今さっき知ったばかりだし。


「大抵、魔獣を十匹倒して一枚出れば良いというのが、カードというものです。それに、出るものはスキルカード、アイテムカード、モンスターカードと様々で……これほどスキルカードが集中してドロップすることなんて、ほとんどありませんよ」

「へえ、そいつはまたラッキーな……」


 うん? ラッキー?


「おほー」

「……お前か」

「おほ?」


 蜂から収集したカードを眺め、ご満悦なこの少女……ペトルこと、真幸神ペクタルロトル。

 こいつが俺の近くに居てくれたから、俺の運気が上昇し、カードのドロップ率が良くなったのでは……。


「とにかく、村に戻りましょうか。村人も、まだ屋内に避難したままですから」

「おお、それもそうだ」


 シャンメロとの戦いでジャージがちょいと汚れてしまったが、白ジャージだ。こんな洗濯もできるかどうかわからない世界では、その程度の事はすっぱり諦めた方が良さそうである。

 見てくれは気にせず、バニモブ村に帰るとしよう。激しい運動をしたら、疲れてしまった。


「シロー」

「ん?」

「手、繋ごう?」

「……おう」


 右手に神様。

 左手側にシスターさん。

 なんか、俺、何なんだろうなぁ。




 村に戻った。

 村は誰しもが家に篭もり、最初は蜂の別働隊にでも奇襲されて全滅したのかと思ったが、事の経緯を触れ回っていると、すぐに人々が外に出てきた。


 シャンメロの群れ、撃退。

 その話はすぐに広まって、成し遂げた俺には聞き取れないほどの感謝の言葉が浴びせられた。


「まさか、通りすがりの人が村を守ってくださるなんて……最近は村の雰囲気も悪かったけど、本当に助かったよぉ」

「兄ちゃん! 身体ぁ細いのに、なかなかやるじゃねえか!」


 実質、その季節の作物全てを守り切ったのだ。

 彼らにとって俺は、ちょっとした勇者なのである。


 ……剣も鎧も装備してない、ジャージ姿の俺だけど。

 それでも人々のための勇者になれたのなら、ちょっと嬉しいな。




 その日の夜はちょっとしたお祭りが催され、広場は村人たちが持ち寄った大鍋やら、沢山の料理やらで、いっぱいに埋め尽くされた。

 もしかして今日で全ての作物が失われてしまうのでは……という最悪の恐怖から解放され、タガでも外れてしまったのかもしれない。まぁ、蜂に食われるよりは、自分らで食べる方がずっとマシだよね。うん。


 広場の中央には大きな篝火と大鍋が配置され、それに程よく近い場所が、今回の主役たる俺の席である。

 大鍋からごそっと大量に掬われた野菜のスープは、原料がジャガイモらしいそれ以外はほとんど初めて食べるようなものばかりであったが、ごろごろしてて食いでのあるメシは、空きっ腹になかなか嬉しいものである。

 考えたら、この世界に来て食べたものといえば、村人から貰ったビスケットとキュウリだけだ。美味しく感じるのも当然か。


 ちなみに、俺と一緒にシャンメロ退治に参加した七人の村人剣士達だが、彼らは素直に逃げ帰ってきたことは白状したのだが、怪我が無いことをまずは何よりも喜ばれ、一緒にこの宴に参加している。

 青年たちは恥ずかしそうにしていたが、最初から村のためにと立ち上がった者ばかりだ。村人たちの輪の中に、楽しそうに加わっている。


 村中から集められたのか、沢山の篝台がそこらで焚かれ、広場から通りまで、あらゆる場所が昼のように照らされている。


 濃紺の空に、無数の星。

 揺れるオレンジ色の光源。素朴な人々の笑顔。


 俺は都会生まれの都会育ち。

 田舎というものは、全然知らないけど……こういうあったかさも、どこか、いいものだ。


「お隣、失礼します」

「あ、はい……って、クローネか」

「クローネでは不服ですか?」

「いやいや、嬉しいよ。どうぞどうぞ」

「……で、では失礼します」


 俺の隣に、クローネがそっと腰を下ろす。

 村人とは違う彼女の白い肌は、火の明かりに照らされて、はっきりと火の赤みが映っていた。

 彼女のいる教会は、ここから少し離れたメイルザムという町にあるらしい。

 ちょっとした都会育ちということもあるだろうし、身に付けるヴェールや仕事柄、陽に当たる事も少ないのだろう。


「ペトルちゃんは、どこへ?」

「ん。あいつなら、そこらへんの鍋をつまみ食いしに行ってるよ」

「あら……」


 この宴は、様々な鍋が持ち寄られ、それぞれの人々がそれぞれの味付けで料理を作っている。

 ペトルは味の違うそれらを食べ比べ、ふらふらと彷徨っているというわけだ。

 見た目に反して食い意地の張った奴である。


「あ、そうだ。クローネ。さっき、蜂を倒して手に入れたカードなんだけど……」

「?」

「ほら、これ」


 俺は、ポケットの中に入れていた『守護霊のカーテン』と『エアー・ボム』の二枚を彼女に渡した。


「この二枚、俺を助けるために使っちゃったんだよな。返すよ」

「い、いえ。そんな……高いものですよ」

「高いなら尚更だろ。もらっといてくれ」

「……わかりました。そういうことでしたら、受け取っておきましょう。このカードも、私にとってのお守りではありますからね」


 そう言うと、クローネはカードとは別の、何もない空中に手を伸ばし、


「……『バインダー・オープン』」


 虚空から、一冊のアルバムを出現させた。


「ちょちょちょ、クローネさん、それは……」

「え? それって……これは、ただのカードバインダーですが」

「カードバインダーって、何?」


 俺が尋ねると、彼女は小首を傾げて、すぐに“ああ!”といった顔に変わった。


「これは、符神(ふしん)ミス・リヴンを信仰することで下賜されるバインダーです。カードを保管できる、便利な物なのですよ。ほら、こうして」


 表紙が捲られ、ページが顕になる。

 そこには9枚分のカードをはめ込むための窪みがあった。


「バインダーにカードを入れておくと、カードを石化や消滅から守ってくれます。アイテムカードやスキルカードは扱いやすいので、多くの人が持っていますよ」


 彼女は窪んだ部分にカードを収め、保管してゆく。

 入れた瞬間にカードの縁部分がきらりと輝いて、ちょっと綺麗。


「……それ、俺持ってないんだけど……」

「持ってないって、信仰すれば……あっ」


 ここでようやく、彼女は俺が他の神を信仰出来ないことに気づいて、まずそうな顔をした。


「す、すみません。あ、ええと、ということはつまり……ヤツシロさん! 他のカードは!?」

「え? ああ、ポケットに入ってるけど……」

「すぐに出してください!」

「え? うん」


 俺は言われるままに五枚のカードを取り出して、クローネに手渡した。

 クローネはそれらを真剣な表情で受け取ると、慣れない手つきで自分のバインダーの空きに嵌めてゆく。


「なんでそこに?」

「カードはバインダー外に出しておくと、二十四時間で石化してしまうんです!」

「石化?」

「カード全体が灰色になり、使用不可能の状態に変わってしまうのです! 更に二十四時間が経過すると、今度は石化したカードは消滅する……つまり、カードはバインダー外で二日出したままにはしておけないのです」

「ええええええ」


 さすがの俺もええええである。


 せっかくこのカードを使って、どうにか自分の身を守れそうだと安心してたのに!


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