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らん豚女神と縛りプレイ  作者: ジェームズ・リッチマン
第一章 彼の地に堕ちた信仰心
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退くことを覚えろ

■「大雷撃」スキルカード

・レアリティ☆☆☆

・天気を選ばず神の鉄槌。カードの絵柄を向けた先に巨大な雷を落とす。



 俺が発動させたカード状のアイテムは、そこに記述されていた通りの効果でもって、目の前に迫り来る蜂の群れを蹂躙した。

 炸裂した電撃は、そこに固まっていた十数匹を巻き込み、連中の焼け焦げた亡骸を辺りに散らかしている。


「おほーっ……」

「な、何です……今のカード……こんな威力のものなんて、私、知らない……」


 ……これが、カードってやつの力なのか。

 直感的に森で拾っておいた奴を使ってみたは良いが、これがずっと俺のポケットに入っていたのだから恐ろしい……。


 ……だが、使い方はわかった。


 手に持って、発動を宣言する。それだけでいい。

 すると、そのカードに書かれていたことが実際に起こるのだ。


 クローネはこれをスキルカードと言っていた。

 その名の通り、スキルを発動させるカードという意味だろう。

 手に持って宣言、ただそれだけで、カードのスキルを利用できる。


 これほど便利な道具が他にあるだろうか?


「あっ、いけない! 囲まれてる!?」

「おほー?」


 カードをぶっ放して感動している間に、ふと気がつけば、蜂は俺らを囲むように辺りに展開していた。

 距離はある。広く展開し、とりあえず囲っていったという包囲網だろう。

 しかしここを抜け出すには、かなり骨が折れそうだ。うかうかしていると、あっという間に包囲網が縮まり、袋叩きに遭ってしまう。


 だが、弱気になるな。諦めるのはまだ早い。

 今の俺には、ペトルがついているのだ。

 これしきのことで終わるような“感じ”じゃないぜ。 


「あった……!」


 素早く周囲を見回すと、落雷に撃たれて黒焦げになったシャンメロ達の遺骸の傍らに、一枚の真新しいカードが落ちていた。

 間違いない。このカードというものは、シャンメロのようなモンスターが落とし得るアイテムなのである。


 ならば森に落ちていたさっきのカードは、一角イノシシが気絶したため、その時に落ちたのだろうと予想するが、今はひとまず置いておこう。


 こちらを囲むシャンメロは、着々と近づいてくる。

 俺は、土の上に落ちていたカードを素早く拾い上げ、その絵柄に素早く目を走らせた。



■「オルタナティブ」スキルカード

・レアリティ☆☆

・差し迫る戦いに2つの選択肢。十秒間だけ使用できるスキルカードを2枚、ランダムに手元に呼び寄せる。カードオリジナルスキル。



 落ちていたカードの名は、『オルタナティブ』。絵柄は赤い髪の美女が二枚のカードを両手に持ち、それを小さく掲げているようなものだった。


 使用することで、手数が二枚に増える!

 考えていられる状況じゃない。とにかくやってしまえ!


「スキルカード『オルタナティブ』発動!」


 俺が発動を宣言すると、手元のカードは輝いて分裂し、二つの新たなカードへと変化した。

 その二つとは……!



■「レイ・ストライク」スキルカード

・レアリティ☆

・標的を撃ち抜く霊力の砲弾。術者が使用を宣言すると、カードの絵柄から霊力弾が射出される。


■「オルタナティブ」スキルカード

・レアリティ☆☆

・差し迫る戦いに2つの選択肢。10秒間だけ使用できるスキルカードを2枚、ランダムに手元に呼び寄せる。カードオリジナルスキル。



 なんかまた『オルタナティブ』来とるがな! ダブりってやつか!

 ええい、構わない! とにかく一枚はすぐに使えそうだ!


「スキルカード『レイ・ストライク』発動!」


 俺は手の中のカードの一枚を、一番近くのシャンメロに向け、発動を宣言。

 同時にカードから白く輝いた魔法の球体が射出され、それはバッティングセンターでもお目にかかれないほどの速度で宙を駆け、まっすぐシャンメロに直撃する。

 砲撃を一身に受けたシャンメロは外殻をぺしゃんこに凹ませて、勢い良く後方へと吹っ飛んでいった。


「よし! スキルカード『オルタナティブ』発動!」


 いいぞ、カード! めっちゃ強いじゃないか!

 まるで自分で魔法を使っているかのような気分になってくる!


「うひー! シロー! こっちにも来てるよー!」

「オッケー任せろ!」


 後ろにいるペトルの方にも、シャンメロが迫ってきたか!

 だが今ならまだ、『オルタナティブ』で増やした二枚のカードが残っている。これを使えば、向こうからくる連中も仕留められるはずだ。



■「トリプル・ダーツ」スキルカード

・レアリティ☆

・三回攻撃、一投ずつ。手元にダーツを出現させ、相手に投げて攻撃できる。命中すれば強い衝撃を与え、当たりどころが良いほどダーツが強く爆発する。カードオリジナルスキル。


■「エアー・ボム」スキルカード

・レアリティ☆

・いざという時に爆風の壁。カードの絵柄から空気の塊が弾け、前方に強い風が吹き起こる。遠距離攻撃なら消し飛ばし、軽い相手なら吹き飛ばせる。



 手元に新たに現れたカードは、二枚のスキルカード。

 ……初めて尽くしの戦いだけど、二人を守るなら直感的にやるしかない。


「スキルカード『トリプル・ダーツ』発動!」


 まずは一枚目。発動宣言と同時にカードが消えて、手の中に一本のダートが現れた。

 赤と黒のストライプ。どことなく“賭け”といった雰囲気のあるデザインだ。


「いっけぇ!」


 俺はそれを軽く指で握り込み、肘の動きだけで投げ放つ。

 ダーツは別に得意でもなんでもなかったが、投げ方くらいは知っている。


 ダートが飛び、まっすぐにシャンメロに突き刺さった。

 命中箇所は、丁度シャンメロの中心である胸の部分。的が書かれていたら、多分大当たりだ。


「おほー!?」

「きゃっ」


 刺さると同時に、ダートが弾けるように爆発する。

 大当たりによる威力のボーナスは、シャンメロの身体をバラバラにするには十分すぎるものであった。


「まだまだ!」


 一投を終えると、次は第二投だ。

 俺は手元にサービス良く現れてくれたダートを再び構え、次の三投目も素早く放ってゆく。


 爆散する巨大な昆虫の外殻。

 風に煽られ、不自由な飛行に動きを鈍らせる後続のシャンメロ達。


 奮闘すれば残りの数は、たったの三匹になっていた。


「スキルカード『エアー・ボム』発動!」


 シャンメロの至近距離で発動させた爆風を放つカードの力が、蜂の翅をへし折り、足を明後日の方向に捻じ曲げ、土の上を転がした。


 これで一匹始末完了。残るは二匹。


「す、すごい……! 信じられない……一枚のカードから、こんなに……!」


 俺の怒涛の反撃に、ついに最後のシャンメロ達も諦めたのだろう。

 残った二匹はこちらに襲いかかることはなく、元来た道をぶんぶん言いながら引き返してゆく。


「……ふう」


 周囲には、えぐれた土や、無残に地に落ちた巨大蜂の亡骸。


 かなり無茶をしたが……俺達は、勝ったのである。


「シロー!」


 俺が一息ついて、ひとまずジャージについた土を払っていると、死角からペトルのタックルが襲いかかってきた。

 重心を狙った正確な突撃。さすがの俺もかなりふらつくが、辛うじてその場に踏みとどまれた。


「シロ、一人で行くっていうから! 私、すっごく心配したんだよー!」

「いや、それはお前の事をな……」

「あやまってー!」

「ごめん、ごめんって……」


 タックルの次は、掴みかかって泣きわめいてきた。

 こっちもこっちで、かなり効く。ある意味、タックルよりも威力が高い。


 ……俺なら、一匹ずつ倒して、慎重にやっていけば、死ぬことはないだろうとは思っていたが……やっぱり、そう上手くはいかなかったな。

 ペトルの言う通り、無茶して一人で行くべきではなかったのだ。

 こういうのを、神様の言う通り、とでも言うのかねえ。言わないか。


「ヤツシロさん!」

「あ、クローネ。さっきは……」

「この馬鹿!」

「ぶぼっ」


 お次はクローネさんから何か来るのだろうかとおもいきや、彼女が差し出してきたのはまさかの全力ビンタであった。


「私はあれだけ駄目だと言ったのに! もしも私がここに来ていなければ、貴方は今頃死んでいたのですよ!?」


 クローネは両目に涙を浮かべていたが、その表情は真っ直ぐな怒りを俺にぶつけるために、強ばっていた。


「……ごめん」


 俺は頭を下げた。なんも言えない。

 彼女の言う通り、これは俺の勇み足だった。もっと焦らず忠告を聞いて、ペトルと一緒に屋内に避難していれば……少なくとも、命の危険はなかったかもしれないのだ。

 今俺がこうして生きているのは、確かに、クローネが助けてくれたからこそである。


「ごほん……でも、先ほどは……それはそれで、ありがとうございます」


 作ったような咳払いの後、クローネは小さな声で呟いた。


「蜂が来た時、貴方がスキルカードで助けてくれなければ……私やこのペトルさんも、危なかったですから」

「……どういたしまして。クローネ。本当にごめん」

「まぁ、もう良いです。こうして生きて、しかも……シャンメロの群れを、返り討ちにしてしまったのですから」


 それを言い終えて初めて、クローネは素の表情で俺に微笑んでくれた。

 緑色の髪に、青い瞳。ヴェールの中の彼女の笑顔は、とても清廉で、触れ難い美しさがある。


「……それにしても」


 クローネが辺りに散らばる蜂の死体を見回して、肩で息をつく。


「どうした? 何か問題でもあったのか」

「……いえ、何というか……こう、やたらと……カードが、ドロップしたものですねえ」

「……あ」


 彼女に言われて、その時俺も初めて気がついた。


 土の上には、シャンメロの大群が残していったカードらしきものが、あちこちに散らばっていたのである。



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